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”女子高生”プロローグ


『一人ぼっちの通学路』

 見渡す限り、緑の一つも見当たらない、世界の果てまで続いているかのような砂漠。
 雲一つない空にぽっかりと浮かぶ太陽はジリジリと砂の表面を熱し、その表面温度は既に70℃を超えている。動くものは、暑さに強い虫がせいぜいの、死の世界だ。
 一匹のサソリが、カサカサと足早に動いていた。彼の向かう先は、朽ちた赤い鉄塔の真下にある、ぽつんと地面に開けられた、人が一人入れるほどの穴。
 そこには、作られた日陰に逃げ込むように、身体を丸めて眠る一人の少女がいた。髪は黒色のセミロングで、大きな目を閉じ、セーラー服を着た細身の体を抱え込むように眠る。見た目には10代後半程度のこの少女は、この過酷な環境下にあって、異常ともいえる肌の白さとハリを持っていた。
 サソリが、少女に向かって走る。サソリは元来小食だが、肉食だ。眠る獲物を自慢の毒で刺し殺すべく、サソリが少女の眼前まで迫り、その柔肌に剛直な棘を突き刺そうとしたその瞬間、
 少女は、握り拳による鉄槌で、サソリの胴体を平面に押しつぶした。
「うぐー……、うっさいなあ、もう……」
 少女は、寝ぼけながら眼をこすり、もぞもぞと身じろぎをした。ぼんやりした頭で、枕元で押しつぶされたサソリの死骸を視野に入れる。少女は、一瞬で驚愕の表情となり、頭を掻きむしった。
「ぴょ? ぴょぴょぴょー!? もうこんな時間! また遅刻しちゃうー!」
 サソリの傍に立てられた日時計を見た少女の絶叫が、誰もいない砂漠に響き渡った。

「うひょー! サソリサソリー☆」
 アチシは今日の朝ごはんを口にくわえながら、砂の地面を走るのであった!
 あ、このSSを読んでくれてるズッ友しょくんっ、おっはぴー☆(作者注:この読者に対する語り掛けはあくまでも古典的表現であり、『第4の壁突破』等の魔人能力、特殊能力とは一切関係がありません)アチシは、その辺にいる、取り立てて変わったところのない、ただのカワイイ女子高生!←自分でいっちゃう~?(みゃはは☆ミ)
 ただいま、連続遅刻記録更新中の、ミス眠り姫とはアチシのことなのだ! ほんともー、イヤんなっちゃう~! テヘヘ☆
 高校に入学してからずいぶん経つけど、アチシは相変わらず料理も洗濯もできないし、掃除もできないし、てか家事自体できないし、カワイイとこしか取り柄がない! まっ、そこもアチシのミリキと書いて魅力のひとつなんだけどね~フフフ~。
 なんでか、ずぅ~っと彼氏だってできない。いやいや! アチシのオメガネにかなう人がいないだけってのも、もちろんあるんだけどネ。ウン!
 ハァ~ア。どっかに、やさしくて強くて格好よくて、このまんまのアチシを受け入れてくれる、王子様みたいでメロりんLOVEでずっきゅんタイプなダーリン(はぁと)はいないかにぃ~(しょんぼり)。
 アチシは、いつでも夢見る少女なのだっ☆
 おっとっと~、とか言ってる合間に曲がり角はっけーん☆ 学校までは、ここを曲がって……。
 きき~っ☆ 甲高いブレーキ音。アチシに何かがすごいスピードで迫ってきた。

 クラウドの記憶は、ごみ溜めを漁っているところから始まる。
 親に捨てられた年端もいかぬ子どもが生き延びるためには、生ごみだろうと泥水だろうと口にして、飢えをしのぐしかなかった。少し体が大きくなり、足が速くなったら窃盗に手を染めた。更に体が大きくなり、青年と呼ばれるころには、殺人だろうと強盗だろうと厭わない、ひとかどの悪党になっていた。
 当然、クラウドは人々に恐れられ疎まれたが、クラウドには、自分が悪いという気持ちは一切なかった。当然だ。自分というクズの悪人を作ったのは、お前らなんだから。俺が生きている責任をお前たちは取るべきだ、と。
 クラウドには、世界に対する憎しみしかなかった。
「俺と組まないか」
 そんなクラウドに声をかけたのは、不敵な笑みを湛えたボギーという男だ。彼は飄々と、世界が憎いだけなら生きている意味なんてないだろ。お前の命、俺に預けろよ、と言い放った。
 クラウドは、ボギーを思い切りぶん殴った。今までも、クラウドと組みたいと言ってきた奴は腐るほどいた。しかし、クラウドを利用しようとしている奴しかいなかった。そう言う奴は、クラウドがひとつぶん殴れば尻尾を巻いて逃げていく。いつもそうだし、今回もそうだとクラウドは思っていた。
 しかし、ボギーは笑いながら殴り返してきた。予想外の反撃。しかも、なんとも楽しそうに。クラウドは一瞬戸惑ったが、拳を重ね会ううちにその楽しさは伝染し、お互いの顔がぼこぼこに腫れる頃には、肩を組み笑いあっていた。
 その日から、クラウドにとってボギーは、対等なケンカをした初めての友達となった。
 それからは、いつも二人で行動した。なるべく一般人には手を出さず、私服を肥やすブタ野郎の家を襲撃し、金や水を奪い取る。余ったそれらは、適当に街に振りまき、去っていく。まるで義賊のようなその行為は、世界を憎みながらも愛していたクラウドにとって、最高に痛快な行為だった。なによりボギーと、信頼する友人と共に暮らす毎日は、何よりも楽しかった。
 約10年間、ボギー&クラウドはそうやって生き延びて来た。彼らは今日もいつもように、愛車の火炎放射器付きBMWを駆り、子どもを馬車馬のように働かせるクズの館に襲撃を駆けようとしていた。
 今回の館はかなり巨大で、警備も相当な人数がいるはずだ。だが、二人ならば怖いことなど何もない。俺たちは最強の二人組なのだから。ボギーにも、クラウドにも、一切の恐れはなかった。これからも、いつまでも、こうして二人で生きていけると、信じて疑わなかった。
 まさか、交差点を突然飛び出してきた少女にぶつかりかけた瞬間、車があらぬ方向へと急旋回し、石壁にぶつかり、炎上するとは思わなかったのである。

「ボギー! 死ぬなボギー!」
 赤色のモヒカンを整え、背中に青龍刀を背負ったクラウドが、燃える車の中に取り残されたボギーが焼けていく姿を見て、絶叫する。燃える車の運転席に座ったボギーは、クラウドに向かって静かにサムズアップし、事切れた。
「ボ、ボギィー! うおあああああ!」
 クラウドの絶叫が誰もいない砂漠に響き渡った瞬間、車は轟音を唸らせ爆発し、巨大な火柱を立たせた。ボギーは粉みじんになって消えた。
「てめえええ! どどど、どうしてくれんだこらあーっ!」
 尻もちをつく少女は、怒号を上げるクラウドなどどこ吹く風で、両握り拳を顎につけるビーカブースタイルのような体勢で、ふりふりと上半身を左右に振る。
「ふみぃ……びっくりしたぁー☆ んもう、うら若き乙女♪がケガでもしたらどうすんのよ!」
「なんでしてねえんだよ、てめえはよぉー!」
 クラウドは、傷一つない少女に向かい絶叫した。見たこともない異形の衣服をまとい、平坦になったサソリを咥える少女に、クラウドはやるせない困惑と果てしない怒りがないまぜになる。しかしその一方、クラウドは己の胸中に、それらとは全く異なる胸の高鳴りを感じていた。
 なぜならば、ひらひらとした彼女の衣服の下から、純白の下着が見えていたからである。その白い下着への劣情は、強烈にクラウドを支配した。
 10年来の相棒であり、この世でただ一人の親友であるボギーが死んだことすら頭の隅に追いやられ、下着を凝視するクラウド。“女子高生”のかわいさは圧倒的だ。まして、“女子高生”のパンツともなれば、友人の死など地平線の彼方に霞むのは当然である。研ぎ澄まされたかわいさは、強さだ。
 クラウドの異様に熱を持つ視線に気づいた少女は、一瞬きょとんとした後、「うにゃにゃにゃしっしもぉ~☆」と奇声をあげながら、開かれたスカートを押さえた。
「うぅー……、見たなぁ~ヘンタイさんめ! この、アメリカ縦断エロスケスーパーウルトラクイズ!」
 もはや罵倒されているのかもわからない天元突破したボキャブラリーであるが、にも関わらず、当のクラウドは少女に「ヘンタイさん」と呼ばれたその一点を取り、えも言われぬ快感を感じていた。
(こ、こいつ! 意味が分からねえし、クソウゼえ。今すぐぶっ殺してやりたい衝動に駆られるが……。か、かわいい! 何故か知らんがかわいすぎる! これは、女子……高生? なんのことだかわからないが、女子高生という言葉が頭に浮かぶ! この女子高生から、神々しさすら感じてしまうぜぇーっ!)
 クラウドの心は完全に、尻もちをつき「ふみみぃ~ん」などと奇声を発しながら立ち上がる少女に奪われた。ボギーさようなら。達者でな。親友に別れを告げたクラウドのビキニパンツが、今世紀最大の盛り上がりを見せる。
 その盛り上がりに、お尻の辺りについた砂を払っていた少女が気づき、ピヤァ、と小さな悲鳴を上げた。目から星形がキラキラと飛ぶ。そのなんだかよくわからん奇怪な現象にも、なぜかクラウドの劣情は刺激された。というかもう、細かいことはどうでもよかった。とにかく、女子高生のパンツをもっと見たかった。
「ああー! もう辛抱たまらん! たまらんぞぉー!」
 目を血走らせたクラウドが、雄叫びを上げながら少女に走りこむ。少女は怯えて後ずさりをし、口にくわえたサソリの尻尾が揺れた。その怯えた表情にすら、クラウドの股間は怒張を増した。
 口端から涎を垂らしながら、クラウドが右手を少女の肩に当てた。このまま押し倒せば、後はお楽しみだ。“女子高生”のパンツに心を奪われたクラウドに、もはや義賊の矜持など一切ない。脳内には、目くるめくドピンク妄想が繰り広げられた。
 しかし、クラウドの淫猥な妄想は、現実のものとなることはなかった。
 ポキッ、という音が、クラウドの体内を伝わり、鼓膜に響いた。遅れて、激痛がやってくる。それは、少女の肩にかけた、右手からくるものだ。
 クラウドの右手小指が、本来曲がるべきではない方向に曲がっていた。
 茫然とするクラウドの、次いで股間部に異物感が走る。少女に抱き着くように接近していたクラウドの股間には、容赦なく少女の右膝が突き刺さり、クラウドの股間に付随する黄金2つともが潰れたのだ。
「う……うぐわぁーっ!」
 吐き気を催すほどの激痛。思わず飛びのき、転げまわるクラウドを、少女はじっと見据えていた。先ほどまでと同じく、サソリを咥えたまま怯えた表情でいるにも関わらず、左手と右ひざはクラウドの返り血で濡れていた。その迷いない行動は、怯えた少女のそれではない。
「な、なんなんだてめえはよぉー!」
 クラウドが、右手で股間を押さえながらも、残った左手で背負っていた青龍刀を抜き、女に大上段に斬りかかった。しかし、少女はクラウドに向かって素早くステップインし、刀を振り下ろそうとしたクラウドの二の腕を押さえ、その挙動を無効化する。瞬間、ローファーの硬質なつま先が、クラウドの左脛を強打した。ばきっ、と骨にひびが入る音が響いた。
 クラウドがその苦痛に反応する暇すら与えず、少女の左手親指と人差し指が、クラウドの眼窩に抉りこまれる。ぶちゅっと、眼球がつぶれる音。そのまま少女は眼窩ごと鼻骨を掴み、体を捌きながらひねり落とすように投げ、地面に転がした。
「あぎゃあーっ! あががががあー!」
 頭蓋骨を引きずり出されるような痛みに、クラウドは声にならない悲鳴を上げた。目と睾丸を潰され、右手の小指と左脚の骨を折られ、のたうち回るクラウドを、少女は息を切らしながら見下ろす。冷汗をかき、心臓はその鼓動を速めている。しかし、その目だけは冷たく、虫のように転がるクラウドを観察していた。
 クラウドが蚊の鳴くような声を出しながら身じろぎすらしなくなったころ、少女は不意にその目に生気を取り戻し、その場を駆けだした。
「ヒッ、ヒィ~ン! 誰かたしゅけてぇ~! へるぶみーだよぉ~☆」
 クラウドは、知る由もない。彼女が使った技術こそは、女子高生流痴漢撃退術。超接近戦において、相手の武力を無効化することを念頭に置いた護身術であることを。
 それが、この世界において失われた、伝説の格闘術だということを。

「ふみぃ……、激ヤバこわリズムだったよぉ……」
 ザクザクと砂に足を取られながら歩くアチシ。心臓はバクバクドッキンコ☆だし、怖くてウヒョーでふみぃ~んでテンションサゲサゲー↓↓↓。
 もう、なんなのよー! 角を曲がった時に男の人とぶつかるなんて、少女マンガじゃよくあるシチュエーションでしょー。イケメンの王子様が出てくるところジャン。なんでよりによって、ビキニパンツにモヒカンのヘンタイさんが出てきちゃうのよぉ~! 危ミ~! ホント、張王(ちゃお)に載ってた付録の護身術やっといてよかった系だったよぉ……。
「ほんとにアチシ、ダメな男の人(の眼窩)に(指が)引っかかっちゃうんだなぁ……」
 ぽろろんっ♪ とナミダが出てきちゃう。だって、女の子だもん☆ミ そもそも、アチシが最近巡り合った男の人には、ろくな人がいない! ガスボンベ背負って口から火を吹き集落を焼き尽くす大デブちゃんとか、人を虫ケラのように踏みつぶすのが趣味の身長5メートルを超える巨大なモアイ顔とか、まず顔面からムリぽよ~↓↓↓
 学校に行くだけなのに、なんでこんなことになっちゃうんだろうな~。アッチシ~、フッシギ~でしっかたっなしぃ~♪
 そもそもー? 学校の場所をよくわかっていないってのもー? DAI☆MON☆DAI~?ま、そこもアチシのカーワーイーイとこっ☆ だったりするんだけどにぃ~。
 てか、アチシ、いつになったら学校につくんだろうなぁ~。
 てか、学校って、どこなんだろうな~。
 アチシは、どこに向かっていて、なにをしているんだろうな~……。
 ぽくっぽくっぽくっ……チーン! アチシ、ちょ~っとおバカリズムな感じだから、よくわかんにゃ~いニャン☆ とりあえず、前に進むしかないのだっ! だってぇ、アチシはぁ、女☆子☆高☆生☆なんだからぁ、高校に行かないといけないしぃ~。
「よぉ~っし! 今日も元気に、いってみよぉ~!」
 んん~っとぉ、あれがとちょーさんで、あの海がとーきょーわんちゃんだから、がっこーしゃまはあっちかにゃん?
 アチシは、サソリの胴をかみ砕いて、また希望崎学園に向かって歩き出したのであった! ちゃんちゃん♪

 時は、今から1万年後の世界。
 人類の発展と戦争、劇的な環境変化により、文明は何度も滅亡を繰り返した。日本もまた、公害や環境破壊による大気汚染。千葉県の消滅。地殻変動による大災害などを超え、気候が狂い、夏以外の季節がなくなった。完全に砂漠化した東京を、それでもなおたくましく生きる人類は、お互いがお互いから奪い合い、殺し合い、助け合いながら、この荒野の世界を生き延びて来た。
 その中で彼女は、“かわいい女子高生になる”という魔人能力を持つが故、1万年もの間かわいい女子高生として存在し続けた。
 国籍不詳。年齢も不詳。もはや自身の名前すら判然としない。1万年の研鑽により、車を投げ飛ばすほど研ぎ澄まされた護身術を武器に、生き延び続ける“女子高生”。
 彼女は、学校という概念が消えたこの世界においても、“女子高生”として朝に起床し、“女子高生”として学校に向かい、“女子高生”として眠る。
 いずれ高校で巻き起こる、青春の1ページを夢に見ながら。