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噴流煙プロローグ


「ひー、終わったらぁあ~~~~」


 夕暮れ時小さな木造一軒家の居間にて、禿頭の男、魔人噴流 煙は一仕事を終え「あ~~ツ」と立ちながら背を伸ばす。

 外の赤みを仄かに帯びた薄暗さに対し室内を照らす頼りの明かりは、ちゃぶ台に置かれたライトスタンドの電光1つ。天井にはちゃんと電灯がついているのだが、噴流が作業を行うときは雰囲気を醸し出す為だとかでなるべく使わないようにしている。

シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 噴流は腰を下ろし、マッチを使って咥えた煙草に火をつける。そしてゆっくり煙草を吸い、煙が鼻孔辺りにまで上ってきてから鼻から静かに出す。
作業終わりの一服は、やはり最高である。

 彼の眼前、ちゃぶ台の上には大量の自家製タバコが山積みになって置かれていた。その数、500本。
普通の一高校生にとって無縁なその光景は、自家製タバコで生計を立てているニコチン中毒魔人の彼にとっては最早見慣れたものである。

 いつもと違うのはそれらのタバコが全て、先端が横長でそこに5つの穴がついた特殊機構のパイプに5本一組で挿し込まれていること。

 パイプにはフィルター機構がない。「煙草に含まれる成分を一度に大量に吸収すること」に特化した――――「商売用」にではなく、自身の身を守るための「戦闘用」に使う代物だからだ。


シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――




 噴流の特殊能力「らき☆すと」によって生み出される大量の猛毒ヘドロは、能力を使うまで吸ってきた煙草の種類によってその威力が大きく異なってくる。

 彼がそのことに気付いたのは2カ月前、本来の能力の効果である「体内に蓄積された喫煙による毒素の一斉除去」を目的に定期的に訪れる近所の公園の底なし沼でのことである。

 後日彼は、親愛なる友人である謎のメキシコ人、ティアモさんと共に「らき☆すと」の戦闘面での応用をより発展させるためのオリジナルタバコの製作に励んだ。
そうした結果、能力強化専用特製タバコ「コラジェ・デ・リモーネ」が完成したのが今から1ヵ月前の出来事である。




シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 それから噴流は毎日、コツコツとそれらの「生産と消費」に勤しんだ。魔人としての渡世が普通の人間としてのソレよりも異色な危険に満ち溢れているものであることに対し、いつでも強化された能力を使えることを配慮した上での彼なりの行動であった。


シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 そしてその行動は、功を成すこととなってしまった。

 昨夜見た無色透明の奇妙な夢。白みがかった意識の中、そこで突き付けられたあまりにも突飛な戦いの布告。
眠りから目覚めた時、その内容が全て「今日起こりうる紛れもない事実ということ」を認識していることに対し、暫くの間唖然するしかなかった。


シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 この日1日、噴流は家に籠り準備に取り掛かった。
既に作り終わっていた360本の「コラージェ・デ・リモーネ」では物足りないと思い、急遽140本を更に作成。そしてそれら全てをパイプに挿し込み、さらにそれらを防水・防湿・防火機能完備の特注のショルダーケースに収納するまでの作業が今しがた終わったところであったのだ。

 既に外はすっかり暗くなっていた。噴流は腕時計を覗く。時間は21時を切っていた。

 感覚的に「近付いている」ことに気付いた噴流は、希望崎学園の制服に身を包み、ケースのベルトを腰に取り付ける。


シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 身支度を整えてから6本目のタバコに火をつける。


 ――今際の一服、といったところだろうか。


 一本吸うごとに繰り返している冗談ではあるが、先程から灰皿に灰を落とし損ねているぐらい内心から震え怯えているので笑わせてくれない。

 しかし、これだけは言える。




「戦いの前の一服は、最高だなぁ」




 震えを抑え、煙草の火を灰皿の上で潰す。戦いに無事生き残ったあと、現実の世界に帰ってきた直後に焼け死んでそのままお陀仏するのは勘弁したいから。

 サングラスを掛けてから噴流は、座椅子に背中を任せてゆっくりと瞼を閉じた――――