四人戦SSその4


 * * * * * * * * * * * * * * * * * 







0.

 曇りなき青一色が君臨する空の下、広大な地上では数え切れない程のオフィスビルたちが草木のようにひしめき立ち並ぶ。
それらの中でも一際高いオフィスビルの屋上に、一人の少女と一人の男が彼方の光景を眺めていた。

 少女は日の光で体内が透かして見えてしまうようなほどの白い肌の細い肢体の持ち主で、腰辺りまで長く伸びた煌びやかな黒髪を風で揺らしていた。
しかし神秘的な雰囲気に満ちた容姿の反面、着ている服は土や埃ですっかり汚れてしまった紺の薄布でできた着物一枚だけ。
身体のあちこちも着物を汚している物と同じ物で煤けてしまっており、何も履いていない足はより一層それらでまみれ、近くで見ると貧しさが全面的に押し出された出で立ちをしていた。

 一方の男も土埃で白く汚れ左の袖元が大きく破れた学生服を身に付け、片方のレンズが割れてしまっている丸型サングラスを掛けているという一見するとみすぼらしい恰好をしていた。
しかし、こちらは貧しいというより今しがた何らかの災害に遭ったかのような壮絶さが垣間見えるものであり、
実際に手には擦り傷がいくつも走り、頬には痣ができ、特徴的な禿頭では石か何かをぶつけたのか流血が起きており、右側頭部から顎にまで赤い幕が垂れていた。

 見比べるとまるで時代感と生きている時間が違うように感じるこの2人が見るのは同じ場所、およそ300メートル先の地点。
そこでは1つの人影と青く輝く発行体が、辺りに天変地異の如き大破壊をもたらしながら交差し駆け巡り、徐々に2人のいるビルにまで近づいていた。
絶え間なく鳴る衝撃音と破壊音が、果てしない摩天楼群の静寂にうねりをもたらしている。


ボゥ・・・・ジィーーーー・・・・――――カシカシカシカシャッ

ボゥ・・・・ジィーーーー・・・・――――カシカシカシカシャッ

ボゥ・・・・ジィーーーー・・・・――――カシカシカシカシャッ

ボゥ・・・・ジィーーーー・・・・――――カシカシカシカシャッ


 突如、男は腰に取り付けられたショルダーケースの射出口から5本のタバコが挿し込まれた奇妙な形をしたフィルタ―を4本ずつ取り出し、それらを一度に全て一気に吸う。
そして僅かに残った先端を、同じ本数で新しく取り出したフィルターのタバコにそれぞれ合わせ火を移しまた一気に吸う。
この一連の動作を恐るべきスピードで繰り返し始めた。男の顔は、瞬く間に凄まじい量の煙で隠れてしまう。

 その様子を端から見ていた少女が声を掛ける。

「おじさん」
「・・・・・・なんらぁ」
「あそこでいまみんなが戦ってるんだよね?」
「そうだなぁ・・・・・・」
「みんながおじさんみたいに血をながしながら戦ってるんだよね?」
「だろうなぁ・・・・・・」
「おじさんはいかないの?」
「・・・・・・・・・・・・おれは」

 40本のフィルター、160本の煙草をちょうど吸い終わった男が、手を止めて頭を前後にふらつかせながら少女の問いに答えようとする。
男がここに来てから3回目のこの問答は、彼が最後の答えに詰まってしまうせいで終わることなく繰り返されていた。


シュッ、チッ
ボゥ・・・・ジジ・・・・――――


 しばらく男が空を見上げてから、少女の方に体を向かせる。そして、懐から先程まで吸っていたものとは別の煙草を1本取り出し、マッチで火を点け咥える。

「嬢ちゃん・・・・・・」

 口の片端を吊り上げ、魔人・噴流 煙は会話の堂々巡りを打開する為、新しい答えを煙を吹きながら出す。




「俺のことは、『おにいちゃん』って呼んでくれねえかぁ?」




 一瞬、2人の間の時間が止まる。それを打ち破るかのように前方でビルが一棟、轟音を撒き散らしながら崩壊した。








 * * * * * * * * * * * * * * * *  







1.

 噴流 煙が目覚めた場所は、とあるビルの屋上であった。
数度深呼吸し間を置いてから縮こまっていた思考を瞬時に脳内に巡らせ、早速行動を開始する。

 「夢の戦い」――――
多くの人間を時代と土地を無視して巻き込み繰り広げられる、おふざけが過ぎる傍迷惑な戦い。少なくとも噴流はそう思っていた。
しかし、勝者に与えられる「好きな夢を好きなだけ見られる」という褒賞は人によっては、いや多くの人にとってはできれば欲しい物なんだろうということも、彼は解っていた。
故に、相手の中にはそれを必死に狙いに来る人間もいるだろう。
しかも自分が参加した戦いでは、3(4)人の対戦相手が待ち構えている。全員がまともに話を聞いてくれるということは、限りなく低い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・よし」

 しばらく屋上から周囲の景色を見て回り、とある場所を見つけることができた噴流は、ショルダーケースから5本の煙草が挿し込まれた特殊機構のフィルターを一本取り出す。
そしてそれを咥えて火を点けてから、自分がいるビルを後にした。






 * * * * * * * * * * * * * * * *  






2.

 魔人・菱川 結希は走っていた。
車が走ることのない車道の真ん中を、左右にそびえ立つ多くのビルを視界の端に掻き消すかのように激しく、息を荒げ、首をあちこちに動かしながらひたすら突っ走っていた。

 「夢の戦い」が開始し菱川が目を覚ました地点は、背後に「立入禁止」と書かれた横断幕が貼り巡らされた場外ギリギリの場所であった。
彼女の中では「自主退場」という選択肢はないので最初はそこから離れるために軽く走っている程度であった。
しかし、しばらくするとある種の焦燥感のような、心の奥で力みが生まれ、走る速度が次第に早くなり意識の均衡も激しく揺れ動いてしまっていた。

 とどのつまり、菱川は「戦い」という物の真髄が何なのか、解らずじまいのまま参加してしまったのだ。
菱川 結希は己の魔人としての特殊能力、『アムネジアエンジン』を以て日頃人助けに貢献していた。
しかし、どの人助けも強大な敵意を相手にしたり、「死」などの最悪の未来が絶対的なものとして潜んでいる程度のものではなかったのだ。

 しかし、今回彼女が参加することになってしまった「夢の戦い」には、当然勝敗を決める為の相手が存在する。
自分が絶対に負けられない理由があるように、対戦相手にも同様の重さのものがある筈だ。
自分が全力で挑まなければならないように、対戦相手も手段を問わず戦う筈だ。
そこまでは菱川も解っていた。ただ、自身と相手の意思がぶつかった際に待ち受けている激動と、その末の未来を明確に想定できることができなかった。

 当然である。彼女はたとえ魔人なれど、キャンパスライフを謳歌するただの麗らかな女学生に過ぎないのだから。
彼女の他にも立派な学生が2人、今回の戦いに参加しているのだが、
それぞれ「偶然巻き込まれ難なく生還した」、「自分磨き」という理由で一度は死線を乗り越えた人間であるため比較対象としては些か理不尽さが残る存在である。

 走り始めてから数分後、菱川は魔人特有の身体能力もあってかあっという間に向こう側の場外付近まで走り切ってしまった。
走っている間、誰かからの接触を想定して警戒していたものの、結局そのようなことはなかった。
彼女は立ち止まり安堵感が混じった息を一杯吐き出し、不足している酸素を鼻から思いっきり取り込んだ。

 不意に、菱川の左目が視界の隅でちらついた人影を捉える。
背筋を思わず伸ばす。額から流れている疲労からなるものとは別の汗が、新たに湧き出し始め呼吸も再び乱れ始める。

 菱川が意を決して左側を向いた先、ビルとビルの間に出来た薄暗い路地に噴流が立っていた。
噴流は「あ。」と短い声を出した後、丸いフレームのサングラスの奥で眉毛を上げて笑顔を作り、煙草を咥えながら両手を上げた。

「あの・・・・・・、誰でしょうか・・・・・・?」
「噴流、煙だ。アンタと同じ『参加者』だよ」
「噴流・・・・・・・・あっ」

 「無色の夢」を見た際、ルールや対戦空間などの情報と一緒に認識した「対戦相手の名前」の中で覚えのある名前が出てきたことにより、菱川は緊張の糸を適度に緩めることができた。

「よかったらさ、アンタの名前が知りたいんだけど」
「・・・・あっ、菱川です!・・・・菱川、結希ですっ」
「菱川さん、よかったら俺のちょっとした交渉に耳を貸してくれねえか?悪いモンじゃあ絶対ないからさ」
「・・・・?」

 噴流はそう言うと背中を向け、路地の奥へと歩を進めた。歩道との突き当り付近まで歩いた後、そのまま後ろを向いた状態で止まってしまう。
菱川は困惑しながらも、噴流に自身への敵意が少なくともないと判断したのかゆっくりと路地へと入っていった。

「ありがとよ」

 菱川の気配を読み、噴流が振り向く。

「それで、話ってなんでしょうか?」
「あ、その前に。俺に対して敬語なんて使わなくていいからさ、しばらく力抜いて話を聞いてくれよ」
「・・・・・・うん」
「よし。えーとな、当たり前の事を単刀直入に言うが、アンタ、『勝ちたい』だろ?」
「えっ、だってそれは――――」
「あーうんッ、当たり前だよなッ。ゴメン。馬鹿なこと聞いてしまってよ。でもそれなら話が早えェ。アンタに協力させてくれ」

 少し間を置いてから、菱川が驚きの声で反応する。

「えっ!どういうこと!?」
「そのまんまよ、他意はねぇ。ただよ、少なくとも『アンタからの攻撃で俺の身が危険に晒されることだけは勘弁したい』。コレが条件よ」
「勝ちたくないの?」
「勝ちたくないっつーか、そもそも参加して得するものなんてなにもないんだよねオレは。
とっとと安全に現実世界に帰りたいんだけど、まあお節介っつーの?なにぶん性分でね。
最初に会った対戦相手に協力してみてもいいかなーと思ったワケよ」
「・・・・・・・・」
「あー、怪しいって思ってんなら今スグあそこの場外に飛び込んでもいい。どちらにせよ損はない話だと思うぜ?」
「うーん・・・・・・・・・・・・・・」

 噴流の考えは、つまり彼の言う通りであった。
この戦いの勝利に一切の興味も抱かず、嫌々参加することになった彼は一刻も早く現実世界への帰還を唯々望んでいるに過ぎなかった。
たとえ悪夢による地獄が待ち受けていようとも、死亡の危険性を孕んでいる戦いに嬉々として身を乗り出したくはなかった。
しかし、自分一人がそのまま自主退場できるほど戦いは甘いものではないと考えていた彼は、
せめて序盤における安全は確保しようと場外へ隠れながら慎重に進みつつ、対戦相手に発見された場合は手早く交渉に持ち込むという作戦を考案した。

 噴流と菱川が今いる狭い路地は、噴流が交渉時において万が一応戦せざるを得ない状況になったとき、自身の立場をある程度有利にする為にさりげなく用意した要素であった。

 彼の特殊能力『らき☆すと』は、体内の喫煙成分を何千倍にも濃縮しそれらを大量のヘドロへと変えて口から吐き出す体内ケア能力である。
吐き出されたヘドロを生物が浴びてしまうと、たちまち数種類の身体的異常を同時に発症し、最悪死に至ってしまう。
但しそれはあくまで、ヘドロを浴びてしまった場合の話。場所やタイミングによっては、ヘドロは簡単に易々と躱すことができる。
ましてや魔人相手だと、驚異的な身体能力を以て避けられながら間合いを詰められ撲殺は不可避である。
噴流は身体能力自体は魔人のソレだが、喧嘩の実力自体は小学生にも劣るものであった。回避された後の肉弾的応戦は絶望的。
なので、相手が自身の能力を把握していないという点を踏まえ「一方向」という地の利を活かしたヘドロ攻撃に、噴流は勝負の全てを賭けていた。

「分かった。乗る」
「へええっ!いいのか!?」
「なにぃ・・・・?その反応?」

 本当のところ噴流は交渉を隙を見て逃げるための建前としか踏んでおらず、相手の答えなんて関係なかった。
しかし相手が「YES」と実際に言った現状その消極さが災いし、隙を生み出してしまい思い切って逃げることは叶わなくなってしまった。

 一方の菱川は、当初の内心の狼狽えが噴流との会話によって少し晴れていくのを感じた。
試合序盤でまさか、自分にほぼ一方的に有利な話が相手から持ち込まれるとは思ってもみなかった。
何より混戦必至の四人戦において対戦相手1人が丸々味方に付くのは、大きなアドバンテージそのものだからだ。

「で、本当に協力してくれるの?」

 それでも懐疑の念を崩そうとはしない菱川の眼差しに気圧されて、噴流は結局「も、モチロンおつけいヨ」と返事してしまうのであった。

「ふー・・・・・・・・」

 とりあえず対戦相手の協力を物にすることができた上に、『アムネジアエンジン』の燃料の温存も兼ねることができた菱川は一呼吸つく。
そんな彼女の様子を見て、噴流が先程から思っていたことを言う。

「アンタ、大丈夫か?」
「えっ」
「だいぶ緊張しているみてぇだナ。や、当然ちゃあ当然の事なんだけど」
「うん・・・・・・・・。今は、大丈夫」

 しかし、絶え間なく額から汗を流し続け目の動きが落ち着いていない菱川の様子は、少なくとも噴流にとっては尋常ならざるものでしかなかった。
本当なら戦いを望んでいないが、その先にある褒賞の為に必死になっている。
そんな印象を受けた噴流は、思いの根が似通った彼女に対し心の内で同情していた。

 しばらくし、菱川が次の行動に移る前にもう1つの疑問を噴流に投げ掛けた。

「ねえ、キミも魔人なら見せてよ。能力」
「ん?ああそうだな。まあー・・・・しょうがねえわな」

 喫煙すれば喫煙するほどより強力な効果を発揮する能力、『らき☆すと』。
協力者の頼みとはいえ1ヶ月分の蓄積効果を何もない所で発散するのは何とももったいないと思ってしまう。
しかし渋ってしまえば、かえって怪しまれる。仕方なく噴流は、能力お披露目の為に路地に出ようとした。
瞬間――――――――――――――――




バッッゴオォーーーーーーーーン!!!!!!!!!




 落雷の如き破壊音が鳴り響き、それに続くかのように凄まじい衝撃と爆風が炸裂した!

「!!!!????ウワァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 なんの対応もできないまま爆風によって後方に飛ばされ、ガードレールにぶつかってしまう菱川。痛みに耐えながら立ち上がり、元いた路地を見る。
土煙が立ち込める中、路地があった場所は左右に建てられていたビルの残骸で見事に埋もれてしまっていた。
さっきまで話していた噴流は?彼はどうなったのだ?怒涛の展開により、菱川の緊張は一気に臨界点にまで上昇していた。
そして視界が晴れ渡る頃、彼女の前方に降ってきたモノの正体が現れ始める。

 菱川は最初に180センチの長身プロモーションをもつ彼女を優に超す、2メートルはあるだろう巨大な人影を見た。
噴流、ではない。彼はどう見てもせいぜい175センチ程度しかなかった。
次に彼女は、重厚な輝きと重厚感を持つ黒い装甲らしきものが土煙から覗いたのを見た。
しかし、すぐにソレは驚異的な発達を成した褐色の人間の腕部だということを知る。黒人だ。
長く纏めたドレットヘアーと見事な顎鬚を生やした掘りの深い顔。さながらルネサンス時代の彫刻を想起させる。
膨張した筋肉によって身体に描かれた文様のように張り伸びた白のワイシャツと、色素がすっかり抜け落ちた青のジーンズから土埃を払いながらゆっくりと男は近づいてきた。

「hellow! Big girl.」

 参戦者の1人、ヤマノコ。その彼女の守護神である魔人・ヘヴィ・アイアンは、眩く輝く白い歯を剥き出して今しがた行った大破壊を背に快活に笑う。

「さあ闘いだ。用意は、いいか?」






 * * * * * * * * * * * * * * * * 







3.

「ん?」

 魔人・白鳥沢 ガバ子は、ふと足を止める。
「夢の戦い」開始後、彼女は特に急ぐ様子もなく人っ子一人いない街の中で律儀に右側歩道の内側をしばらく歩いていた。

「この匂いは・・・・」

 背後からそよぐ風に乗せられてやって来た、微かなタバコの煙の匂いを感知する白鳥沢。
タバコは美容・健康という乙女の二大元素を傷付ける天敵のような存在。思わず眉間に皺を寄せてしまい、頭に被っていた熊の毛皮を引っ張り口元を隠す。
同時に、この無機質な空間にいよいよ他の人間の気配を察知したことによって、彼女は闘気を身体から滲ませいつでも応戦できるように意識を整える。

 そしてしばらくした後、


バッッゴオォーーーーーーーーン!!!!!!!!!


 匂いがやってきた時と同じ方向から、強烈な破壊音が鳴り響いた。

「遂に、始まりおったか・・・・」

 煙が昇る場所へ辻風の如く疾駆で向かう白鳥沢。
途中、前方のビルの壁をそのまま走りながら登り切り、その勢いを利用し天高く飛翔。
開戦地点の全貌を上空から見る。そこでは、ビル2棟の上半分が無残に破壊されていた。

 白鳥沢の身体が降下を始めた頃、右方向の通りから今度は小さいながらも絶え間なく連続で破壊音が炸裂する。
戦いは既に繰り広げられていた!

 空中で身体をひねり頭を戦場の方向に下げ、体育座りのような体勢になる白鳥沢。そして、

「ムゥン!」

 足を勢いよく伸ばした直後、伸ばした先の空中にまるで踏切台があったかのように衝撃が発生!人型ミサイルと化した白鳥沢!
そして、彼女の着弾地点にはアイアンと菱川の姿が!!

 アイアンの猛攻の数々を、必死に躱し走る菱川。彼女の身体は青白く発光していた。

 開戦直後、咄嗟に『アムネジアエンジン』の三速目を解放したにも関わらず、目の前の黒鉄の巨人に反撃できる機会を菱川は未だ見出せずにいた。
如何に超人的身体強化を発現しても、菱川は護身術の1つもまともに習ったことのない乙女に過ぎない。戦闘における身の動かし方は平凡人並みのソレである。
対してアイアンは、『時空を駆ける能力』によって様々な戦場に赴き、その時代その場所で覇をもたらした戦闘術の数々を身に沁み込ませてあらゆる猛者との闘いで勝利を勝ち取ってきた百戦錬磨の鬼!
この戦いの勝敗は、最初からアイアン側に偏ってしまっているのも当然である!

 しかし!両者の間に轟音と共に落下してきた第三者の介入により、この一方的なパワーバランスは絶妙なトライアングルへと変貌することになる。

「グハハハッ!白鳥沢 ガバ子じゃあッッ!!大の男(おのこ)が女子を痛めつけるとは、感心せんのう!!」

 『人類の到達点』と謳われし女子高生魔人・白鳥沢 ガバ子ッ!!
菱川を穿つ為に突き出されたヘヴィの腕を片手で引っ掴み、そのまま彼を自身が先程までいた上空に向かって投げ飛ばした!






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






4.

 菱川、ヘヴィ、白鳥沢の三者の戦いを彼らから離れたビルの屋上から眺めるのは、先のビル崩壊に巻き込まれた筈の魔人・噴流 煙。
彼はヘヴィ襲来時に歩道から半身を出していたこともあり、負傷はしたものの瓦礫の山に埋もれる事態を何とか回避することができていた。

 では何故、彼は無事に生還できたにも関わらず、そのまま自主退場せずに3人の激闘を見続けているのか。
理由は簡単。彼が菱川との協力関係を結局捨てることができない程のお人好しであるからだ。
菱川と対面した時、彼女から並々と伝わってきた緊張感に不安と同情心を感じそれらを見過ごすことができず、少しでも約束を守ろうと動くことにしたのだ。
そして案の定菱川は、まともに戦闘に付いてきていない、しがみつくのがやっとのような様子であった。

 ビルの屋上と屋上の間を跳びつつ、様子を窺い続けてから十数分が経つ。
現状、菱川と突然姿を現した白鳥に対し、黒人が応戦し全員が少しづつ前方に動いているところを確認できている。
しかしあまりにも素早いその攻防劇は、最早噴流の動体視力を以てしてはそれ以上の情報が分からないぐらいに激化していた。

 このままでは現状を打破できないとは思っていても、噴流はあの激戦地帯に近付けずにいた。
下手に接近してしまえば余波によってミンチと化すのは確実。『らき☆すと』を発動しようにも、菱川にも被害が及ぶ可能性がある。

 行動に思い悩む中、噴流は戦いにとある変化が生じていることに気付く。
魔人2人を相手に立ち回っていた黒人の動きが、まるで前方に菱川と白鳥沢をこれ以上進ませないように防ごうとするものとなり、明らかに速度が鈍っていた。

 噴流はふと、「無色の夢」で知った相手の名前を思い出す。
あの黒人を外見だけで判断してしまえば「ヤマノコ」のお供の「ヘヴィ・アイアン」であることには違いないハズ。
だとすると彼のパートナーは一体何処に?

 3人がいる場所からさらに先の地点に視点をずらす。この空間一帯を展望しやすそうな高いビルを見つけ、もしやと思いその屋上に目を凝らす。
するとそこで、柵にしがみつく小さい人影を見つけることに成功した。

「そうとなりゃ・・・・」

 戦いに直接参加できないのなら、現状の大本を司る存在を忍んで叩く。
そう決めた噴流は、ビルの屋上から別の屋上へと跳び渡り迅速に目的地のビルに向かった。




 しばらくし、噴流は難なく少女・ヤマノコと出会い、彼女と慎重に話をしつつ少女の腹の内を探ろうと試みる。
しかし、彼女が何の変哲もない人間の女の子であることと、彼女の境遇を知ったことで抵抗を覚えてしまい、再び冒頭の傍観に移行せざるを得なくなってしまったのだ。

 噴流 煙は、お人好しだった。






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






5.

 本格的に戦闘が始まる数分前。

「わーすごい。四角いおしろがいっぱいたっているよ!」
「良かったなリル・ガール。こんな景色が見れるのは多分最初で最後だぜ!」
「そーなの?」「ああ」
「だが、その『多分』を覆すことができる方法があるんだぜ。知ってるか?」
「へびぃのおじさん!」
「Oh!正解だぜ!全く、分かってきたじゃねえか!そうさ、俺とオレの筋肉に任せておけばお前は好きな時に好きなだけ好きな夢を見れるようになるんだ!」
「うん、しってる!・・・・・・・・・・・・でも、おじさんと他の人たちがたたかって傷付くのは、イヤだよ」
「心配するな。俺が頑張れば他の連中を殺さずに現実世界に帰すことくらいはできる。お前はココにいるだけでいい。ちと殺風景だから暇になりそうだがな」
「ううん。わたし、ずっとおじさんのこと見てるから大丈夫だよ」
「そうか、ありがとよ。・・・・・・・・おっと、さっそく見つけたぜ」
「おじさん・・・・」
「心配するなって」「・・・・・・・・うん」
「じゃあ行ってくるぜ」「いってらっしゃい」

 高さおよそ80メートルはあるであろうビルの屋上から、ヘヴィ・アイアンはヤマノコの視線を受けながら大きく飛翔した――――――――






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






6.

 噴流が目標のビルを目指してから数分後。菱川はいよいよ、本格的に追い詰められつつあった。
アイアンの動きに突如鈍りが生じ、それを機に白鳥沢と共に反撃を繰り返しているが決定打を与えられずにいた。
そしてそんな中、いよいよ『アムネジアエンジン』の効果時間が終了しようとしていたのだ。

 残る手段は、最終段階のオーバードライブの解放。しかし、仮に解放しても圧倒的な力を持つ目の前の黒人にどれほどの対抗力を発揮できるか。
さらに3速目までの解放により、噴流との邂逅までを燃料として消費してしまった彼女は、更なる記憶の燃焼がどれほどのものかも懸念していた。

 オーバードライブを解放するための機会が今までになかったせいで、肝心の頼みの綱が未知数なことによって彼女は決断を思い留まらせてしまっていた。

 しかし、そんな菱川の意思に関係なく転機は突然訪れる。
3人が戦っている地点からはるか先のビルに、学生服の男が入っていくところを偶然目撃した菱川。
他の2人はそのことに気付いていない。もしかしたら、あれが今回の戦いに参加した最後の対戦相手なのかもしれない。
だけどなんであの場所に?ここら一帯の景色を眺めるのに、ちょうどいい高さのビルであることは分かる。
高みの見物をしながら同士討ちを狙っているのであろうか?
自然と彼女の視線が屋上に移った直後。彼女の油断を突いて、アイアンの拳が襲い掛かる!

「キャアッ!」

 咄嗟にガードを行うも、衝撃により後方のビルに衝突する菱川。
外壁をぶち抜き、そこから途中に設けられていた受付カウンターにぶつかり止まる。
今までにない、まともに受けてしまった一撃。何とか立てるものの、膝は激しく震え、心臓の鼓動は怯えによって激しく動悸していた。
今の攻撃により、菱川の精神は肉体以上に損傷した。しかし、

「・・・・見つ、けたッ!」

 彼女は捉えていた。あのビルの屋上に佇む少女の人影。
黒人の不自然な動きの鈍りに合点がいった。彼は自分たちから護っていたのだ、あの少女を!
この戦いに決着をつけるための活路が見出せた以上、恐怖を振り払い全力で走り切る他選択の余地は、ない。
だけど「今の自分」では、それはとても叶わない。

 深い呼吸を一度行った後、両手を膝に当て震えを抑える。この戦いを速攻で制し、終わらせ、勝つために、菱川は決意する。

 せめて、記憶が残っている内にと、勝利の糸口に導いてくれた学生服の男に感謝の念を。今まで援護してくれていた白鳥沢に謝罪の思いを。
そして、現実世界で自身を待つかけがえのない友の姿を脳裏で抱きながら、菱川は最後の力を解放した。





「オーバー、ドライブ――――――――」






 * * * * * * * * * * * * * * * * 







7.

 白鳥沢とアイアンは、同時に菱川が吹き飛ばされたビルの方向からただならぬ気配を感じ、動きを止める。
すると、ビルの穴の奥から青白い光が1つ見えた。

「オイオイ。加減したとは言っても、まだ頑張るのか・・・・」

 思わず、アイアンが呟く。

 そして、先程よりもより強い輝きを帯びたボロボロな姿の菱川が、ビルから出てくる。彼女は白鳥沢とアイアンをきょとんとした目で少し見てから、一棟のビルの屋上に視界を移す。
それにより全てを察したアイアンが咄嗟に菱川を取り押さえるべく飛び出すが、彼女は驚くべきスピードでそれを回避し、ビルに向かって疾走した。

「クソッ!」

 アイアンが菱川を追う。白鳥沢も事態の急変に気付き、2人の後ろを走る。

 何とか菱川の背後に付いたアイアンが、再度菱川に手を伸ばす。しかし、菱川が大きく跳躍したことによりまた空を掴んでしまう。
続いて跳ぼうとした彼の目の前に巨大な影が現れる。白鳥沢だ。彼女はアイアンの頭を掴み、思いっきり地面に叩きつけた。

「フンッ!」
「グオッ!」

 それから白鳥沢は、ビルに飛び移った菱川を追いかける。
彼女が全力で走っても菱川に追いつくことはできずにおり、なんとか声を掛ける。

「オヌシ、急に早くなってどうしたんじゃあ!」
「あのビルの屋上に行かなくちゃならないんです!」
「ほう!あのビルにこの戦いの攻略法が見えたのか!?」
「すいません、分からないんです!
いま、どうしてこうなっているのかも、アナタのことも全部覚えていないんです!!だけど、行かなきゃならないんです!!」
「ヌウ!?」

 菱川の突発的な身体能力の向上に白鳥沢は驚きつつ、彼女の様子の異変に疑問を感じる。
もしや記憶を代償とする強化系能力の使い手かと、考察している中、

「グリズリー・ガール。悪いな、しばらく眠っていてくれ」

 彼女の虚を突いて、アイアンが彼女の背後に現れる。それに対して白鳥沢は、振り向くことなく腰を使って上半身ごと腕を素早く後ろに回す。
アイアンはソレを素早く避け、前方に回り込み強烈な前蹴りを数発放つ。

「ヌオオッ!?」

 為す術なくそれらの蹴りを胴体の急所に全て受け、地平線の彼方にまで吹き飛ばされる白鳥沢。
アイアンは彼女に目をくれることなく、菱川をすぐさま追う。

 一部始終を見ていた菱川は迫りくる黒人に恐怖し、ビルに向かう足を更に早める。
菱川が走るビルに向かってアイアンが渾身のタックルをかます。

「ハッソォォォォッッ!!」

 ビルが傾きバランスを崩す菱川。そのまま崩れ落ちるビルの壁を蹴り上げ、更なる高度へと跳ぶ。
それに合わせるように、彼女の傍までアイアンが跳躍し接近してきた。

「ひっ」

 菱川は、伸びてきたアイアンの手を何とか躱し、勢いをつけて降下。
着陸してから2人は、互いの全力を以てして駆け回った。
地面にはクレーターがいくつも形成され、2人が飛び移ったビルは次々とその身を大きく抉り落とされていく。
特撮映画顔負けの破壊を配りながら繰り広げられる競争劇!その舞台に立つ2人が魔人であることを踏まえても、あまりにも現実離れした驚愕的光景であった。

 菱川は、鬼気迫るアイアンの様子に狼狽えるのが見て取れるものの、素早さはアイアンを大きく凌駕していた。アイアンの体術を次々と躱しながら、着実にビルへと接近していく。

「やめてください!どうして、どうして邪魔するんですかッ!!」
「話すからどうか足を止めてくれ、ビッグ・ガール!」
「それは無理です!覚えていないけど、どうしても行かなきゃならないんです!あのビルの屋上の女の子に会わなきゃならないんです!!」

 菱川はオーバードライブの解放により、先の戦闘を含めてアイアン攻略に関する記憶を燃料として消費していた。
ただ「目的地のビルにいる少女と対面しなければならない」という記憶だけが、菱川を突き動かし必死にさせていた。

「ビッグ・ガール!頼む、止まってくれ!キミは一体、どういう夢を望んでこの戦いに挑んでいるんだ!?」
「ゆめ・・・・?たたかい・・・・?」

 アイアンの咄嗟の言葉に戸惑う菱川。
彼の言葉の真意が理解できない。自身が今このような事態に巻き込まれていることに何か関係しているのか?

 菱川は、先程の戦いに関する記憶は疎か「無色の夢」を見てからの一切合切の記憶すらも失っていたのだ。

「ビッグ・ガールッ!オレは、あの娘を勝たせてやりたいんだ!!
オレがソレを望んでいるように、キミが望むものはなんなんだ!有り余る程に見たい夢はなんなんだ!!」
「・・・・・・・・訳の分からないことッ、言わないでください!!」

 「夢」。今や彼女がそれで想起できるものは、希望ではなく、彼女の精神を蝕む「悪夢」だけ。
回避に徹していた菱川が突如、声を荒げアイアンにタックルをかます。そして彼の胴体に腕を回し、そのまま押し走る。
足を地面から離してしまっていたアイアンは、そのまま菱川と共に後方のビルに衝突。壁や備品を次々と破壊し、そのままビルを貫通してしまう!

 全ての衝撃を背中で受けてしまい、吐血するアイアン。薄れかかった視界に、自分たちが通過したビルが崩れ落ちる様子が映る。
思わず攻撃を行ってしまった菱川は、タックルのスピードを殺し、アイアンを担いだまま車道へと出る。

「こんなことしてしまって、ごめんなさい・・・・。
        • 私、記憶がないんです。どうしてここにいるかも、なんで戦っているかも」

 菱川が謝罪する。

「でも、だからといってさっきまでの私を裏切ることは出来ないんです。
自分が何かをしようとしていたことを、私は何とか全うしたいんです。
『夢』が関係しているのなら、『夢』で苦しんでいる自分を助けてあげたいんです。
あの女の子を傷付けるようなことはしません。だから、しばらくここでじっとしていてください」

 そう言って彼をを下ろそうとした時、

「記憶が、ないのか?・・・・・・なら、どうかそのままのキミで帰ってくれ」 

 今度はアイアンが、菱川の背中から彼女の胴体に両腕を回す。そして地面を勢いよく踏み込み、その力を利用して強引に彼女を頭上に投げ飛ばした。
菱川は、縦に回転しながら高く上っていく。

「ワ、アアアーーーーッ!!」


ドスッ


 姿勢制御がうまくできない菱川の腹部に、タイミングを見計らって跳んで来たアイアンの拳がめり込む。
一瞬の強烈な痛みを覚えた後、菱川は悲鳴を上げることもなく意識を失った。
身体の輝きが、見る見るうちに消えていく。

 空中で菱川を掴み、降下したアイアンはその場で彼女を地面に寝かせる。
すると突然、菱川の身体が今度は淡い白色に光に包まれる。
そして、半身から無数のガラス片のようなものとなり、空中に浮いたと思ったら、途中で形残らず消えていく。

 「夢の戦い」における敗者が、最期を迎える瞬間であった。

 穏やかな表情で眠る菱川の顔を見つめるアイアン。
意識がある頃は緊張により終始強張っていた彼女のソレと比較すると、驚く程に安堵していることが窺えた。

「すまないな、ビッグ・ガール。俺がもっと早くケリを着けていたらよかったんだ。
キミは、戦うべき人間じゃないし、夢で苦しんでいるのなら、それにはちゃんと現実世界で向き合うべきなんだ」

 十数秒後、菱川の身体は全て光の欠片となり、完全にこの世界から消え去った。
消える直前、菱川の閉じられた目から一筋、涙が流れ顔を伝っていった。
それを見たアイアンは、菱川が無事に悪夢に打ち勝てるよう目を伏せ願った――――――――






『菱川 結城、脱落――――――――』






 * * * * * * * * * * * * * * * * 





8.

「な?!菱川が負けちまったよオイ!」

 ヤマノコと共に菱川とアイアンの戦いを見ていた噴流。
今隣にいる少女に手を出すことができない以上、能力の威力を底上げて援護の準備をすることしか、彼は思いつけなかった。

 しかし、菱川がこの戦場から脱落したことによって、遂に噴流は助太刀を果たすことができなくなってしまった。
大量に吸った煙草によるリラックス効果が一気に吹き飛んでしまう。
こうなってはいよいよこの戦いに残る意義は無くに等しくなり、一刻も早い自主退場が望ましいものとなった。

 しかし、噴流は帰らなかった。自身の傍にいるあの少女にそれならどうしてもと、聞きたいことがあったのだ。

「嬢ちゃん・・・・・・」
「なあに?おじ、おにいちゃんっ」
「嬢ちゃんは、この戦いに勝ちたいかい?」
「・・・・・・・・・・・・わたしがきめていいのかな?
おにいちゃんやへびぃのおじさんや消えたおねえさんみたいに傷ついてないのに、みんなみたいに苦しんでいないのに、ほんとうに決めていいのかな?」
「おおと、聞き方が悪かったな。今のはナシ。・・・・じゃあよ、嬢ちゃんは見たい夢があるかい?」

 噴流はせめて、相手のこの戦いに対する意思を確認したかった。
しかし、その問いに対して心配そうにさらなる疑問で返すヤマノコ。噴流は慌てて自身が言った言葉を訂正する。

 会話の後、地上から何かと何かが激しくぶつかる音が鳴り響いた。どうやら新たなる戦いが始まったらしい。
開戦の様子を気にしながらも、ヤマノコは噴流の問いに答えようとする。

「うんっ。えっとね・・・・、みんなが辛いものや悲しいもので泣いたり怒ったりしない笑顔がいっぱいの日を、たくさん見たいなぁ。
・・・・あっ、あとこの四角い城の中でいっぱい遊ぶ夢!・・・・・・でも」
「?」

 ヤマノコが視線を落とし、少しの間黙り込む。そして再び噴流を曇りなき眼で見上げる。

「でも、どんなにたくさん見たい夢を見れてもみんなの辛いものや悲しいものは本当にはなくならない。
それがいちばん嫌なことだよ。だから夢なんて見なくてもいいから、生きたいな。
生きていればきっと、わたしでも辛いものや悲しいものをなくすためにできることがあるはずだから」

 少女の秘めたる願いの1つに触れることができた噴流は、煙草の味を噛みしめながら思わず笑う。

「そうか・・・・・・。そうだよな・・・・・・」
「お兄ちゃんは見たい夢があるの?わたしができることはある?」
「できること、か・・・・・・・・」

 しばらくの沈黙。答えが浮かび上がる前に、地上から先程の衝突音よりも更に大きいソレが鳴り響いた。2人は慌てて下を見る。

 摩天楼に静寂が再び帰ってくる。あの超常的激戦が終わりを迎えた何よりの合図だった。
勝敗の行方を覗き見た噴流が、後ろに下がり背を向ける。

「さて、この戦いからはもうホントにトンズラこきたかったがよ・・・・・・・・、嬢ちゃんのせいで野暮用ができちまったぜ」

 ヤマノコの視線を背に受けながら、噴流は右手の人差し指と中指を伸ばし、それを口の奥深くに忍ばせた・・・・・・・・







 * * * * * * * * * * * * * * * *






9.

 菱川が光の欠片となりこの空間から消え去ったのを確認した後、アイアンはヤマノコがいるビルに直接続く道路にまで戻り、もう1人の対戦者を待つ。
しばらくし、車道の向こう側からただならぬ闘気を察知。次の戦いにすぐさま移行するために肉体と意識のシンクロの再調整を計る。

「オイオイ筋肉、怯えてどうすんだ。リル・ガールを守るんだ。そうだろう・・・・・・?」

 ヘヴィの額から冷汗が1つ、彼の顔を撫でるように伝っていき、そのまま顎鬚に吸収された。その瞬間――――――――

「・・・・・・・ァァァァアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」

 前方から空気をつんざく雄叫びを上げながら、とてつもない速度で低空飛行しにやってくる巨大な影。
魔人・白鳥沢 ガバ子が赤いオーラを纏いながら、そのままアイアンに激突!!

「ヌ、ガアアアッ!!!!」

 白鳥沢の熱いタックルを極限にまで身体を硬化させて受け止めるアイアン。彼の足元に新たなクレーターが形成される。
しかし、衝突エネルギーは収まることを知らず!クレーターの規模は徐々に拡大し、他のクレーターを次々と巻き込んでいく!

「ハッッッッ、スゥオオオオオォォォォッッッッ!!!!!」

 無呼吸による筋肉の膨張を利用した、渾身のパワーを放出し白鳥沢を弾き飛ばす!!
褐色の肌からでもわかる程アイアンの顔は赤く染まり、ワイシャツは燃え尽きて曝け出された胸からは煙が出ていた。

 アイアンのおよそ7メートル前方で、見事な回転着地をする白鳥沢。両者は、今できた10メートルに及ぶクレーターの中で対峙した。
彼女の全身の筋肉は、今やヘヴィのソレを上回る程に肥大し、くまなく這い広がる血管からは遠目でも視認できる程に血液がもの凄いスピードで全身を走っていた。

 先の対戦の時と、明らかに様子が違っていた。

「フウゥ~~~~ッ。・・・・・・久々に、滾ってきたわ」

 顔を上げる白鳥沢。首筋からの血管が、両頬でひび割れの様に浮き出ている。
口の端からは呼吸に合わせて煙が噴き出され、大きく見開かれた両眼は雷光を散らし発していた。

「あの時以来じゃあ・・・・。札幌での自分磨きの旅で迎えた猛獣たちとの死闘の日々、恋焦がれること以外でドキドキしたのは・・・・。
まさか、再びやってくるとは、のぅ・・・・」
「Hey,グリズリー・ガール.せっかく話し相手が目の前にいるっていうのに、連れないじゃないか。思い出話は・・・・・・」


ドンッ


「俺の胸で語りな」

 胸を大きく叩くアイアン。吹き上げていた煙が綺麗に消し飛んだ。

「グハハハハハッ!!やはりいい男じゃのう、オヌシは!!強く、逞しい!そして包容力もある!!GP(ガバ子ポイント)3点じゃあッ!!」

 更に筋肉が膨張していく白鳥沢。その様相はまるで、強者によって彩られた戦いの味に歓ぶ闘神そのもの。

「そういえば、あの女子はどうしたんじゃあ?」
「心配はいらねえよ。穏便に現実世界に帰したよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・嘘は、言ってないようじゃのう。
グハハ、よくやった。あの女子にこれ以上の戦いは、無用だと思っておったんじゃあ。
悪夢に苛まれど、無事に現実世界に帰るのが一番いいのじゃ」

 最早、殴り合いによる長期の攻防戦は不要。
全力で振り絞られた一撃によって勝敗が決まるまでに、事態は仕上がっていた。
その事を悟り両者は、会話の後静かに構えを取る。




 ――――空気が揺れ、地鳴りが聞こえる。クレーター内の小石や破片が宙に浮く。2人の闘気がぶつかり周囲に異変をもたらしていた。
時間が凍結したかのような、長い永いと思える間が、数十秒流れる。そして、闘気が両極に一気に吸い寄せられ、一瞬の完全なる沈黙が生じた直後、


ダゴオォォォォォォンッッッッ!!!!


 空間を叩き破るような強烈な衝撃音が鳴り、爆風が吹き荒れる。刹那、アイアンと白鳥沢の両者は、互いに接近し己の渾身の一撃を放っていた。

 アイアンの拳は、白鳥沢の腹部に当てられていた。
一方の白鳥沢の拳は、前屈みになっているアイアンの頭上で既に振りかぶった形で静止していた。

 空を切ったのかと思われた白鳥沢の一撃。
しかし、アイアンの脇腹には赤黒い大きな痣ができ、彼の口からは菱川との戦いよりも多量のどろりとした血反吐が零れ落ちていた。
小さく呻き声を上げ、片膝を地面に付けるアイアン。それと同時に勢いよく血を噴き出し、荒く呼吸を行い始める。

 白鳥沢の身体はそのままの姿勢で固まったまま、見る見るうちに元のサイズへと戻っていく。両眼を覆っていた雷光は既に消え、まっすぐ前方を見据える瞳が見えていた。

「オヌシ、そういえば名前は?」

 白鳥沢が、静かに尋ねる。

「・・・・・・ヘヴィ、アイアン」
「ワシとしたことが、危うく相手の名前を聞くのを忘れるところじゃった。
アイアン、キサマ敢えて腹部にワシの一撃を受けに行って腹に攻撃をしたろう。何故じゃあ?」
「フッ・・・・。レディーの顔に傷を付けるのは・・・・、男としてやっちゃあいけないこと、だからな・・・・・・」
「グハハハ。やっぱりキサマはイイ男じゃあ・・・・。GP、さらに、1点・・・・」

 その言葉の直後、白鳥沢の上半身が軽くよろめいたと思うと、彼女の全身が菱川の時と同じ様に光に包まれる。

「どうせなら、合コンの席で向き合いたかったが、のう。無念じゃが、ワシはそろそろ退こうとするか・・・・・・」
「そうか・・・・・・。じゃあな、シラトリザワ。ホント強かったぜ、アンタ」
「グッハッハッハッハ・・・・・・・・さらば、じゃ、ぁ・・・・・・・・・・」

 糸が切れたように腕を力なく下ろし、白鳥沢は身体のバランスを崩してゆっくりと、後ろに倒れる。
光の欠片を花びらのように散らしながら、白鳥沢は倒れ切る前に完全に消滅した。







『白鳥沢 ガバ子、敗退―――――――――』






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






10.

 菱川、白鳥沢との連戦はアイアンの体力を確実に、大幅に削り落としていた。
如何に極限にまで昇華された筋肉をもつ猛者といえど、驚異的な強化系能力をもつ魔人たちの猛攻によって受けたダメージは尋常ならざるものであった。

(屋上から飛んだ時みたいに、今度は地上から飛んできてあの娘を驚かすとするか・・・・・・)

 そう思い、ヘヴィはある程度身体の状態が回復した後、ヤマノコがいるビルの屋上を見上げる。
しかし、柵にしがみついて見下ろしていたはずのヤマノコの姿が消えている。

胸騒ぎを覚えたアイアンは、足に力を込めて地面を踏み抜き、近くのビルの屋上に一気に跳ぶ。
それから次々と別のビルの屋上をジャンプで登り、必要な高さにまできたら目標の屋上に向かって大きく跳んだ。
90メートル以上の高度にまで身を躍らせた彼は、前方を見下ろす。

「!!?」

 そこに広がっていた光景は、アイアンが予想だにしないものであったと同時に、最悪の展開を思い描かせるようなものであった。
屋上の地面にはおびただしい量の黒い液体が、扇を描くように撒き散らされていた。ヘドロはボコボコと泡を立てて強烈な臭気を放っていた。
噴流 煙の魔人能力『らき☆すと』による猛毒ヘドロである。

 ヤマノコの姿がそこから完全に消えていることを確認したアイアンは、急いで着地。彼の鼻孔に、タール特有の刺激臭が突き刺さってくる。
出入り口のドアが開いていることに気付いた彼はすぐさま駆ける。

――――まさか、リル・ガールの存在がバレていとは!

 そうヘヴィは、この時まで噴流の存在を感知していなかった。
開戦当初、車道を走る菱川を最初に発見し追跡していただけで、奇襲時においての彼女と噴流のやり取りは全く知らなかったのだ。

 ちなみに奇襲の方はというと菱川を直接仕留める為に行ったものではなく、あくまで彼女の戦意を喪失させることだけを目的にして計算された行為に過ぎなかった。
(結果的にかえって彼女の感情を高ぶらせ戦闘に移行することになってしまったが。)

 奇襲後の戦闘の激化によって3人目の対戦相手の存在を考慮出来なったことを、今更ながら悔やむアイアン。
『EFB』の効力がいまだ健在であることを確かめる。ヤマノコが何とか生存している証だった。
しかしどのような状況に置かれているかまでは把握できない以上、やはり自力で早急に合流しないと安心はできない。
階段をひとっ跳びで一気に降り、階ごとにフロアを全て見て回る。

 そして4階層分まで下りた時、廊下に何者かが待ち受けていた。

「んよう、ムキムキジャマイカン。・・・・そっから来たかぁ」

 噴流だ。
タバコを吹かしながら不敵に笑う禿頭の男に対し、アイアンは湧き上がる激情を抑えつつ問う。

「女の子は。どこだ?」
「大丈夫だぜ、今ン所はな」

 チラリと後方に目をやる噴流。アイアンは噴流の動作に気を付けながら間合いをどんどん詰めていく。
一方でその間も噴流は、優雅に煙草を楽しんでいるだけであった。

「よっしゃ、来い」

 2人の距離がおよそ10メートルまでになった時、噴流はいつでも能力を発動できるように右手の人差し指と中指を口の中に挿し込む。

 アイアンは肩の力を抜き両腕を垂れ下げ、足の指に力を込める。そして膝を素早く曲げた瞬間、低空姿勢からの高速移動を敢行!機を探る時間はもはや無駄であった!
対して噴流はタイミングを逃すことなく『らき☆すと』を発動!大量の猛毒ヘドロを口から前方広範囲に噴出させる!しかし――――――――


ミシッ


 ヘドロが吐き出される寸前に、既にその巨体を噴流の懐にまで潜り込ませていたアイアンは、噴流の腹部に思い一撃を沈み込ませていた。
噴流の内部全身に波紋が走り、目が見開かれる。吐き出されるヘドロに吐血が交じり合い、次第にその量と勢いを落としていく。
最後はアイアンの背中に少量かかったところで、噴出は完全に終わった。

「マッソォォォーーーーッ!」

 相手にめり込ませた拳に更なる力を込め、アイアンは噴流を吹き飛ばす!連戦にって負傷した男のモノとはとても思えない、抜群の速度からの圧倒的威力の一撃。

 20メートル先の廊下の突き当りに設けられた喫煙室まで吹き飛ばされる噴流。ガラスを破り、そのまま壁に全身を強く打つ。
衝撃でサングラスは何処かに飛んで行ってしまい、破損したショルダーケースからは大量の煙草が散乱し喫煙室の床の一部を埋め尽くした。

「グバァッ!」

 今度はヘドロ交じりの吐血をする噴流。大きく割れた壁に背中を任せゆっくりとずり落ち、そのまま床に腰を下ろす形で静止した。

「へびぃおじさん!」
「・・・・!?リル・ガール!!」

 すると突然、アイアンが思っていたところと全く違う場所、彼が噴流との間合いを詰めた際に通り過ぎていた応接室からヤマノコがひょっこりと姿を現した。
アイアンは驚いたものの、すぐに歓喜の笑顔を浮かび上がらせて勢いよく走ってきたヤマノコを抱き上げた。

「Yo,リル・ガール。無事だったか・・・・・・」
「おかえりなさい」「ああ、ただいま」
「えへへ。おにいちゃんの言う通りだね。おじさん、ビックリしたっ」
「?」

 アイアンの顎鬚に頬を擦らせながらヤマノコは笑う。
アイアンは彼女の言ったことを理解できずにいたが、少女の喜ぶ顔を見て次第に自分も笑い、心身にようやく落ち着きを戻すことができた。

 2人のそんな様子を見ていた噴流は、やっとの思いで懐から取り出した煙草を咥え、火を点けてから笑みを浮かべる。
そして吸おうと思った瞬間、彼の意識は途切れてしまった――――――――






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






11.

 噴流は、ヤマノコの目の前で突如『らき☆すと』を発動し、屋上にヘドロを撒き散らした。

「おにいちゃん、病気なの・・・・?」

 その強烈な光景を目にし怯えてしまったヤマノコは、心配そうに言った。
白鳥沢とアイアンの戦いに決着が付いたことを確認した後の事であった。

 しばらくしてからヘドロを吐き終わった噴流が、ヤマノコに向き直り笑顔で言う。

「嬢ちゃんの友達を迎える為の準備さ。別に大丈夫だぜ」
「じゅんび?」
「ああ、そうだ。あのジャマイカンをビックリさせてお祝いするために、少し手伝ってくれねえか?」
「なにをすればいいの?」
「話が早いね。・・・・なに、カンタンよ。ただお嬢ちゃんにはしばらく隠れてほしいだけさ」

 こうして噴流はヤマノコをビルの暫く下りた先の階層で適当に選んだ部屋に隠れさせた。その際、彼女にアイアンの存在を察知してもしばらくは出ないことを口添える。
その後、自身はアイアンとの遭遇を狙い廊下に待機した。




 ――――噴流は、この戦いにおいて優柔不断な立ち回りをしてしまった事の情けなさにケジメをつける為、最後の戦いには参加することを決意した。


 そのことに対しての恐怖は、もちろんあった。しかし、彼が現実世界でそうしているように、ここでもまた煙草を吹かし気分を落ち着かせ対峙の時を待った。

 この行動の結果として望むのは「ヤマノコの勝利」。そして、「自身の戦闘による敗北」。
現実世界に希望を抱き生きることを望む少女に、噴流は心を打たれた。ただそれだけであった。

 そして、彼女を無事に現実世界に戻そうと考えた一方で、敢えて「戦闘による敗北」を選んだのは、
全身全霊を以てアイアンに挑んだ菱川 結希に対して自分も全力でアイアンに挑むという形で何の手助けもできなかったことを償いたいと思ったから。


 ただ、それだけであった・・・・・・・・






 * * * * * * * * * * * * * * * * 






12.

「Hey,生きているか?」

 突然聞こえた声に、噴流は目を覚ます。身体中が痛い。喉の奥から血の香り漂ってくる。

「タタタタァ・・・・」
「すまねえな兄ちゃん。まさかリル・ガールを隠れさせてオレにわざわざ戦いを挑んでいたなんて、さすがにわからなかったぜ」

 どうやらヤマノコから事情を聞いたらしいアイアンは、申し訳なそうな表情で噴流の瞳を覗いていた。
よく見ると、彼の全身からはおびただしい量の汗が噴き出ており、呼吸は若干乱れ、分かりづらいが顔色は土気色を帯びてしまっている。

 噴流は、屋上で『らき☆すと』を発動しておいて本当によかったと思った。
煙草4本分の効力のヘドロを僅かに浴びせただけでも、屈強なジャマイカンの身体を害するのに十分な威力を持っていたのだ。
もし初動の「コレジェ・デ・リモーネ」によって強化されたヘドロを使っていたら、自分にとって最悪の結果になっていただろう。

「いいんだ・・・・・・。最後の最後でやりたかったことを、したまでさ」

 噴流の命に限界に近付いていた。既に指先に力が入らないぐらい全身が麻痺し、意識は綱一本の上で立っているように辛うじて存在していた。

「早くこの戦いを終わらせなきゃな」

 噴流を死なせまいとアイアンは立ち上がり、「夢の戦い」の首謀者に向けて急いで閉幕するよう要求しようとした。
しかし、慌てて噴流は声を出しそれを止めさせる。

「ちょっ、げフ!ちょっと待ってくれッ」
「どうしたんだ?死んじまうぞ」
「1つ・・・・頼みてえことが、あんだ・・・・」

 噴流が見た先には、アイアンの背後に立ち噴流を見つめる少女・ヤマノコの姿があった。

「嬢ちゃん・・・・」
「おにいちゃん、なあに?」
「煙草、咥えさせてくれぇ・・・・・」

 噴流は視線で手元に転がる、先程まで咥えていた煙草を指す。
ヤマノコは用心深くソレを拾い、噴流の口に運ぶ。
アイアンとの戦いで肺は激しく損傷し、もはやまともに吸うことは出来なかったが、噴流はそれでもゆっくりと呼吸に合わせて煙草を吸った。
血の味が混じった、噴流が初めて味わう煙草の味。戦いの後の一服の味を噴流は、ほんの少し楽しむくことができた。

(戦いの後の一服は、最高だな・・・・)

 不意に、アイアンが噴流の視線にまで身体を下げて言う。

「にいちゃん、名前は?」
「噴流・・・・煙・・・・」
「フクリュウ、別れの挨拶ついでにせめてオレの筋肉を触っていけ」

 そういうとアイアンは、噴流の腕を掴み傷だらけの大胸筋に触らせた。
噴流の掌から熱い体温と共に、力強い鼓動が伝わってくる。そして、それらを抑えるかのように厚く硬い筋肉の感触。

「・・・・へっへへへ」

 毒に蝕まれても尚、火を大きく灯し続けるアイアンの生命力の片鱗を感じた噴流は、思わず笑う。
このジャマイカンは、やっぱり強かった。とても敵う相手じゃなかった。

 噴流の全身が白く発光する。彼にもまた、敗者としてこの戦いから消える時が来たのだ。

「じゃあな、フクリュウ。願わくば、どうか悪夢に負けないことを願うぜ」
「・・・・ありがとよ」

 噴流の足から順に、身体が光の欠片となって宙に飛び消えていく。
首まで消えた時、噴流はアイアンと顔を並べて心配そうに彼を見るヤマノコに別れを言う。

「・・・・嬢ちゃん、じゃあな」
「うん・・・・。死なないでね、おにいちゃん」
「ああ。・・・・・・・・頑張れよ」
「・・・・うん!おにいちゃんも頑張ってねっ!」

 言いたいことはまだあった筈だが、まあいい。
ヤマノコは手を振る。それに応えるように噴流は煙草を顎を使って上下に揺らす。


そして、最後の最後まで誰かの為に残っておいて良かったと、微笑み、完全に消滅したのであった――――――――






『噴流 煙、敗退――――――――』
『四人戦、終了。勝者、ヤマノコ――――――――』






―――― 完 ――――
最終更新:2016年03月27日 20:18