言葉としてのサイエンスコミュニケーション

  英語のscience communicationという表現を日本に輸入するにあたって、様々な言葉が用いられてきた。サイエンスコミュニケーション、という単に直接カタカナにしただけのものから、サイエンスを科学、あるいは科学技術としたものがある。また、英語のscience communicationが広い概念範囲を持つ、いわば集合名詞であったのに対して、日本における多分野の研究者たちは、それぞれ、自らの主張を織り交ぜて、独自の造語を生み出す努力もしてきた。

(ほかに、scientific communicationやscholarly communicationという英語の訳語に、「科学コミュニケーション」があてられることもある。情報学などの分野では、研究情報が流通・蓄積・組織化・利用などされるシステム全体を指す言葉である。現在は、これらの訳語は「学術コミュニケーション」で統一されつつある状況のようだ。「サイエンスコミュニケーション」と「学術コミュニケーション」については、別途述べる。)

 

 Science Commnicationについて、日本において著述や事業が増えてきたのは、2000年以降と言えるが、それから3年間程度の間に、多数の言葉が登場した。当時、政策的に、当該分野に関するいくつかの調査研究事業が推進された背景*1)から、新規の予算を獲得するには、新しい言葉をもって行うという慣習も影響している面もある。1997年ころ、黒田玲子氏(東京大学)は、「インタープリターの重要性」について、朝日新聞紙上で論説している。2001年の日本科学未来館開館時に、展示場でのコミュニケーション要員にこの呼称があてられている。また、もともと、ネイチャーガイドをインタープリターと呼びならわすことは数十年以上前からある。

  2003年に渡辺政隆らによって文部科学省科学技術政策研究所から出された報告書*2)の影響力からか、「科学コミュニケーション」を一種の総称として用いられるようになってきたが、日本において政策的に「科学技術」という言葉が好んで用いられた背景もあり、「科学技術コミュニケーション」という言葉も現在も同程度用いられている。

現実問題として、両者の指し示す中身に大きな違いはない。

 

以下に、現在用いられている主な呼称と、それを用いている主な機関を記す。

 

-科学コミュニケーション/科学コミュニケーター

     主な機関: 文部科学省、日本科学未来館

-サイエンスコミュニケーション/サイエンスコミュニケーター

  主な機関: JT生命誌研究館

-科学技術コミュニケーション/科学技術コミュニケーター

  主な機関: 科学技術振興機構国立科学博物館北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット

-科学技術インタープリテーション/科学技術インタープリター

  主な機関: 東京大学科学技術インタープリター養成プログラム

-サイエンスメディエーション/サイエンスメディエーター

  主な機関: けいはんな文化学術協会

 

サイエンスメディエーターについて優れた報告書をまとめた「けいはんな文化学術協会」を中心とした方々のその後のサイエンスコミュニケーションの世界での活躍が見えてこない。個人的な不勉強かも知れないが。

 

*1) 科学技術振興調整費など

*2) 渡辺政隆, 今井寛.「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」, 文部科学省科学技術政策研究所, 2003

 

 

 

 

 

最終更新:2008年11月10日 21:31