ディラックは1928年にディラック方程式を基礎方程式とする(特殊)相対論的量子力学を見出したが、負のエネルギーの状態が現れるという問題があった。1930年に負のエネルギーの状態すべてがディラック粒子で満たされているとするディラックの海の概念によりその問題を解決した。ディラックの海の空孔は正のエネルギーを持ち、反粒子に対応する。
ディラック方程式は、負の確率密度は生じず、スピンの概念が自然に出てくるが、依然として負のエネルギー解の問題が残った。これを解決するためにディラックは先にあるように空孔理論(Hole theory)を考案した。ディラックは当初この空孔による粒子を陽子と考えたが、それは後に陽電子であることが指摘された(ヘルマン・ワイル、ロベルト・オッペンハイマーによる)。
デヴィッド・アンダーソンによる陽電子の発見(1932年)により、この空孔理論は現実の現象を説明する優れた理論であったが、その後、リチャード・P・ファインマン等により拡張、解釈の見直しが図られ(相対論的な場の量子論)、真空での負エネルギーの電子の海(ディラックの海→空孔理論)を考えなくとも、電子-陽電子の問題を扱うことができるようになった(詳しくは量子電磁力学を参照せよ)。