2ページ目

1 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 00:51:45.67 ID:YAdftdzl0.net
北海道、自宅の玄関前。

さやや母「さや~どこ行くの?」

さやや「ダンスの練習!」

靴紐を結ぶさやや。

母「またAKB?いい加減にしなさい。
そんな暇あるなら牛の世話……」

さやや「終わった、宿題も、掃除も全部やったよ」

母「そう……」

さやや「じゃ、行くね」

立ち上がり、玄関の戸に手をかける。

母「夕飯までには帰ってきなさい」

さやや「うん!」

さややを見送った後、玄関に佇む母。
寂しそうな目で戸を見つめる。
そんな母の肩に後ろから手を置く父。

父「落ちたら紗矢も諦めるよ」

母「……だといいけど」

父「あのくらいの齢の子は、一度は憧れるもんさ」

母「そういうものかしら……。
東京なんて、遠すぎるわよ。
私たちには…遠すぎる…」

2 :47の素敵な(北海道)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 01:53:21.40 ID:c8JXsJ4K0.net
スレ落ちてたんだな

3 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 02:16:14.76 ID:YAdftdzl0.net
公民館の外。夜。
入口のガラスドアに自分の姿を映し、
イヤホンを付けて踊るさやや。
月の光と、夜空の星の光が、
スポットライトのように彼女を照らす。
ふと、腕時計を見るさやや。

さやや「あっ、もう帰らなきゃ」

イヤホンを外す。

さやや「どうだった?私のダンス」

振り返るさやや。
一匹のキタキツネがちょこんと座っている。

さやや「ゴン、おいで」

ゴン、と名付けられたキタキツネが、
さややのほうへと歩いていく。

さやや「いい子だね」

ゴンの頭を撫でるさやや。

さやや「何か番犬みたいだね、違うか、番狐?」

ゴンの尻尾がゆらゆらと揺れる。

さやや「明日ね。私、東京に行くの。
AKBのオーディション受けるんだ。
三次審査だよ、凄いでしょ?」

ゴンは視線を落とし、さややの周りをゆっくりと歩く。

さやや「内緒だよ、学校の皆にも言ってないんだから」

足を止め、顔を上げるゴン。
さややを見て、大きな声で鳴く。

さやや「応援してくれるの?ありがと」

しゃがみこんでゴンの頬に手を添える。
ゴンの顔を、じっと見つめる。

さやや「私が小さい頃からずっと、
こうやって……ゴンは、私の味方でいてくれたもんね」

6 :47の素敵な(中部地方)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 08:25:50.64 ID:XpRdEz380.net
三次審査に受かるといいな、わくわく

7 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 08:33:37.57 ID:4eUwlBLsO.net
さややがジャカルタに行くのかとオモタ

9 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 09:15:01.47 ID:4eUwlBLsO.net
さやや「ゴンは私の味方だよね?」

ゴン「たぬきの言葉はわからねぇ」

11 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 10:07:44.83 ID:Fx4B3t430.net
ゴンに微笑みかけるさやや。
ゴンは、さややの胸元へとスッと
身を寄せる。
まるで、甘えているように。

さやや「私のファン、第一号だよ」

ゴンを抱きしめる。

さやや「大好き」

ゴンは嬉しそうに、尻尾を振った。

さやや「帰ろっか」

ゴンは元気よく走り出す。
一度足を止め、さややのほうへと振り向く。

さやや「待ってよ!置いてかないで!」

さややが隣に並ぶと、
ゴンはゆっくりと歩きだした。
2人は、真っ直ぐに伸びた道を歩く。

――5月13日、東京。夕。
オーディション会場。
最終審査を終えた少女たちが出てくる。
その殆どが泣いている。
親の姿を見て、また涙を流す。
夢を掴むことができなかった哀しみの
声が、会場に響き渡る。
不安そうに娘の姿を探すさややの母。
そして、父。

母「いた?」

父「いないなぁ」

母「……受かったのかしら?」

父「……まさか」

父の目に、不合格になった少女たちの
姿が映った。
辛そうに目を背け、視線を落とす父。

父「見てられないな……」

母「泣かないでよ」

父「……分かってる」

母はつま先を立て、ぞろぞろと出てくる少女達の中から、
娘の姿をまた探す。

母「いた!」

父「泣いてるか?」

母「分からない、下向いてるから」

12 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 10:41:20.67 ID:Fx4B3t430.net
さややがゆっくりと歩いてくる。
ふと立ち止まる。

父「さや……!」

父の声が待合室に響く。
気付いたさややは顔を上げる。
ゆっくりとした足どりで、父と母のほうへと歩む。
涙は流れていない。

母「……どうだった?」

無理に微笑むさやや。

さやや「……落ちちゃった」

父と母は互いに顔を合わせた後、
視線をまた娘に戻す。
娘の顔から少しずつ、笑顔が消えてゆく。

さやや「……ごめんね」

母「何で謝るの……」

さやや「…一緒に来てくれたのに…」

父「……いいんだ」

父は娘の頭にそっと手を置く。
さややの頬に涙が伝う。
ツゥーと零れ落ちた涙。

父「帰ろう、北海道に。ゴンも待ってるよ」

父の胸に飛び込むさやや。

わんわんと声をあげて泣いた――。

14 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 10:50:51.78 ID:4eUwlBLsO.net
ゴン「メンバーに入れずに無念だと思いますけど、その分、俺が頑張ってきますから」

さやや「私は三浦カズか」

15 :47の素敵な(関西・北陸)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 11:06:07.84 ID:AZdT3Q4jO.net
GW昨日まで仕事だったから保守出来んかったすまんな
続き待ってたぞワッフルワッフル

16 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 11:26:52.21 ID:Fx4B3t430.net

>>15

ええんやで(笑顔)

20 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 11:56:39.79 ID:Fx4B3t430.net
翌日、自宅前・夜。

車から降りる両親とさやや。
玄関前には、祖母とゴンがいる。

祖母「おかえり」

さやや「おばあちゃん!ただいま!」

笑顔を見せるさやや。
祖母は少し目を丸くした後、
にっこりと微笑みかける。
さややはゴンの頭を撫でる。
孫の背中をじっと見つめる祖母。

さやや「ちょっと散歩行ってくるね」

祖母「こっだら遅くにか?」

さやや「大丈夫!ゴンがいるから!」

さややとゴンは父と母の横を通り過ぎる。

母「すぐ帰ってきなさいよ」

さやや「うん!」

さややとゴンの姿が、草原のほうへと消える。
とぼとぼと父と母に歩み寄る祖母。

祖母「……無理してんべ、さや」

父「ずっとあの調子だよ」

母「さやが会場で泣いた時、どうしていいか分からなかったわよ」

父「もうたくさんだ」

祖母「……何がだ?」

父「あんな顔はもう見たくない」

母「……そうね」

祖母「まぁ、いい経験になったんじゃねぇか」

21 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 13:32:34.68 ID:4eUwlBLsO.net
さやや「ゴン…私がちょっと東京に行ってる間にふっくらしてない?」

ゴン「そ、そうかな?あ…でも残念だったな」

さやや「また挑戦できるかな」

ゴン「もちろんだよ!ゴンゴン、ゴンゴン、がんばるゴン!」

さやや「…おかしいと思った!あなたゴンじゃなくて、のんでしょ!」

のん「しまった!ついうっかり…兼任解かれてヒマだったもんで」

さやや「もう、信じられない!1000円ちょーだい!」

のん「そ、そういうお前はムーミン!?」

たぬき1号「ムーミンちゃうわ」

22 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 13:36:04.57 ID:Fx4B3t430.net
父「正直さ、落ちたって聞いた時…
俺はホッとしたんだ……。
“これで、さやと離れなくて済む”ってさ」

母「……私だってそうよ」

父「普通の人生がいい……。
それがよく分かったよ。
さやも、分かってくれるといいんだけど……」

父の目に、小さな三輪車が映った。
幼き日の娘の姿と一緒に。

真っ直ぐ伸びる道を歩くさややとゴン。
ほんの少し顔を上げて、
満天の星空に視線を送るさやや。

さやや「全然違うね……東京の空と」

ゴンはさややの歩幅に合わせて、
ゆっくりと歩いている。

さやや「……オーディションにさ、
小嶋真子ちゃん、って子がいたんだけどね。
笑顔がすっごいキラキラしてた。
一緒に、踊りたかったなぁ……」

ゴンがふと立ち止まった。
いつもダンスの練習をしていた公民館の前だ。

さやや「………?」

ゴンは公民館のほうに顔を向けると、
寂しそうな声で鳴いた。

さやや「もういいんだよ、練習しなくても」

ゴンはじっとさややの顔を見つめる。
困った顔をするさやや。
踵を返し、その場から去ろうとする。
ゴンがさややの歩みを止めるように、
道を塞ぎ、じっと見ている。

さやや「もういいの、帰ろう」

ゴンは動こうとしない。
何かを訴えるように、見据えてくる。

さやや「……私の夢は終わったの」

ゴンはさややのズボンの裾を噛み、
引っ張っている。
公民館のほうへと顔を向けるゴン。
切ない目をするさややは、
静かにしゃがみこみ、
ゴンと同じ視線の高さで話しかける。

さやや「東京ってね、すっごく遠いの。行くのにお金だってかかる。
あれが、最後のチャンスだったの。
だから……私は………」

23 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 13:37:43.51 ID:4eUwlBLsO.net
 >>21 うっかり【保守♪】をつけるの忘れたスマソ

続き期待してます♪

26 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 17:00:25.74 ID:Fx4B3t430.net
ゴンは裾から口を放すと、心の道に迷うさややの顔を見て鳴いた。

さやや「私は……」

ゴンが公民館の敷地にある一本の
桜の木の前へと歩いていく。
寝そべるようにしゃがみ、
太い尻尾をくるりと巻いたゴン。
さややがガラスドアの前でダンスの練習をする時は、
ゴンは決まって、その桜の木の下で待っている。
ゴンに見守られながら、
この場所で練習してきたこれまでの日々が、目に浮かぶ。

さやや「まだ……」

目に涙を浮かべている。

さやや「……諦めたくない」

前へと足を踏み出すさやや。
ゴンはその姿をじっと見ている。
いつものように。

さやや「…また応援してくれる?」

ガラスドアの前に立つさやや。
ゴンは鳴いて応えた。
さややは涙をゴシゴシと拭う。

さやや「……聴いて、ゴン」

歌を口ずさむさやや。
ひょこっと顔を上げるゴン。
押し花のような決心を抱えたさやや
は、満天の星空の下、
一匹のファンのために歌を歌った。
それは、AKB48の「桜の木になろう」という歌だった。

27 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 17:04:54.01 ID:Fx4B3t430.net
それから、さややとゴンは、
これまで通り公民館に通い続ける。
ガラスドアの前で、踊るさやや。
桜の木の下で、それを見守るゴン。
ひたすら、次のチャンスを待ち続ける。
そして、1年が過ぎた。

2013年、8月13日。
自宅の台所。

さやや「お母さん!」

母「どうしたの?そんな大声出して」

母は包丁で野菜を切っている。
娘に背を向けたまま。
トントン、と野菜を切る音が続く。

さやや「“ドラフト候補生”だって!!AKBのオーディションだよ!」

トントンという音が止まる。
手を止める母。

母「……そう」

さやや「受けてもいい?」

母の背中を見つめるさやや。

母「……ダメよ」

さやや「……なんで?なんでダメなの?」

母「分かってるでしょ。
東京に行くのにどれだけのお金がかかると思ってるの?
そんな余裕……ないわよ」

さやや「お金なら返す!働いてちゃんと返すから!!」

母「……ダメなものはダメよ」

さやや「……私、諦めたくない。
アイドルに……なりたい」

母「……大人になりなさい」

トントン、野菜を切る音がまた続く。

さやや「大人になるって…なに?
夢を忘れることなの?
私……違うと思う……。
そんなの……絶対違う」

母「……」

さやや「ごめんなさい…」

母「……」

母「これ、置いとくね……」

28 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 18:43:47.25 ID:Fx4B3t430.net
さややはそう言って、台所から去っていく。
振り返る母。
娘の影を切なそうに見つめる。
机に置かれた紙を手に取る。
『AKB48 ドラフト候補生 募集』
オーディションの概要が書かれた
紙に、目を通す母。
祖母が台所に入ってくる。
祖母の手にも同じ紙がある。

祖母「あたしのとこにも来たよ」

母「おばあちゃんは何て言ったの?」

祖母「そりゃあ反対したさ」

母「私……間違ってるのかしら」

祖母「……どうだかわかんね。
けど、ありゃあ簡単には諦めねぇさ。
さやは、根性ある子だ」

母「なにそれ、自分だって反対したくせに。
さやを応援してるみたいな言い方じゃない」

祖母「そりゃあ応援してるに決まってるさ。
可愛い孫だ。
いつだって応援してる」

母「じゃあ、何で反対したのよ」

祖母「……1年前、東京から帰って来た時のあんた達の顔。
あれ思い出したら、
簡単には“いいよ”なんて言えねぇさ。
親の気持ちは…よく分かってるつもりだ」

母「……」

祖母「まぁ、さやとあんた達の我慢比べだな」

祖母は笑いながら台所から去る。
祖母の影を見送った後、
再び紙に目をやる母。

母「……もう見たくないのよ…。
さやの…あんな顔……」

母の瞼の裏には、1年前、
オーディションに落ちた時の娘の姿が映っている。
あの時、わんわんと泣いた娘の顔が、
目に浮かんでいた―――。

それから毎日、さややは母に、
オーディションを受けたいと訴え続ける。
頑なに拒み続ける母。
何度も何度も懇願するさやや。
刻々と、受付の締切日が近付いてくる。
時間だけが過ぎていく。

―――締切日の4日前。

31 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/05(火) 20:04:46.78 ID:Fx4B3t430.net
公民館。夕。

ガラスドアの前で踊るさやや。
両膝に手をついて、「はぁはぁ」と
肩で息をする。
首にかけたタオルで汗を拭う。
ガラスドアに映る自分の姿を、
じっと見据えるさやや。

さやや「もう、間に合わないかも…。
……今回はダメだったけれど、
次のオーディションの時には、皆を説得する。諦めない。
だから、心配しなくていいよ。
私は………大丈夫」

さややは後ろを振り返る。

さやや「……あれ?」

桜の木の下にいたはずの、ゴンの姿がない。

さやや「……先に帰ったのかな」

自宅前、同時刻。

牛の世話を終えた母が、
玄関の戸に手をかける。
すると、ズボンの裾が何かに引っ張られる。

母「……?」

足もとを見ると、ゴンが裾を咥えている。

母「ゴン、どうしたの?」

縁側にいた祖母が、それに気付いた。

祖母「“こっちに来い”って言ってんじゃねぇか?」

母「……私に?」

祖母「……行ってあげなさい」

母「分かったわよ……」

裾から口を放したゴン。
一度、祖母のほうへ顔を向ける。
祖母はゴンを見て、小さく頷く。
ゴンは祖母に太い尻尾を向けると、
道のほうへと歩いていく。
ゴンの後をついていく母。

祖母「……」

道に出たゴンは、立ち止まり、
後ろを振り返る。
遠くから、祖母を見つめるゴン。
月の光がぽぅーとゴンを照らす。

祖母「……優しい狐だ」

33 :47の素敵な(庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 00:28:17.62 ID:/rb0SECq0.net
ゴンちゃん、駆除されないようにな
文豪さん、頼むからゴンの身の上に悲劇的な展開が降りかかるのは避けてね

34 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 00:49:00.07 ID:45xz/EE20.net
ゴンはまた前を向くと、
戸惑う母をどこかへと導く。
真っ直ぐに伸びた道を歩く母。
そして、ゴン。

母「……分かってるのよ」

ゴンは振り返らずに、
ただ静かに歩いている。

母「あなたが私をどこに連れて行こうとしてるのか……」

歩み続けるゴン、太い尻尾を
ゆらゆらと振る。

母「ゴン、あなたには感謝してるの。
あなたがいてくれたから、
さやは寂しがることはなかった。
小さい頃からずっと……
一緒にいてくれたから。
これからも、あの子の味方でいてあげてね」

ゴンがふと立ち止まる。
顔を上げ、母を見つめている。
小さな声で鳴くと、また歩き出す。
しばらくして、公民館が見えてくる。

母「私ね。さやが踊ってるとこ……
一度も見たことがないのよ。
いいえ……見ようとしなかった。
……どうしてか分かる?」

ゴンは公民館の敷地に入っていく。
道の上で、立ち止まる母。

母「怖いのよ、あの子が遠くに行ってしまいそうで」

母の目に、娘の姿が映る。
ガラスドアの前で踊る娘の姿。
月の光が、スポットライトのように、
娘を差している。

母「綺麗……」

桜の木の下に戻ったゴン。
地面に寝そべり、太い尻尾をくるりと巻く。
ふと、後ろを振り返るさやや。
ゴンの姿に気付く。

さやや「あれ……?先に帰ったのかと思った」

ゴンのもとへと歩むさやや。
母の姿に気付く。

さやや「お母さん……どうして」

35 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 00:52:14.13 ID:45xz/EE20.net
優しく微笑む母。

母「ご飯よ。家に帰りましょう」

さやや「……うん」

ゴンに視線を送る母。
ゴンがひょこっと顔を上げ、
母に視線を送る。
ゴンに微笑みかける母。

さやや「……なに、どうしたの?」

母「…なんでもないわよ」

母はそう言って笑う。
帰り道、真っ直ぐ伸びた道を歩くさややと母、そしてゴン。

母「……ご飯食べたら、履歴書書きなさい」

さやや「…え?」

母「オーディション、受けるんでしょ」

さやや「いいの?」

母「……2人だけの秘密よ」

さやや「秘密?」

母「お父さん、反対してるから。
もし書類審査が受かって、
東京に行くことになったら……
話せばいいわ。
その時は、私も一緒に説得する」

さやや「お母さん……」

足を止めたさややが微笑む。
さややの足もとにいるゴン。

さやや「ありがとう」

母は、そんな2人の姿を見て、
優しい笑みを浮かべている。
前を向いて、また歩き出すさややとゴン。

母「あの子を守ってね…ゴン」

1週間後、一次審査合格の通知が届く。
二次審査の面接は東京で行う。
9月15日が、面接の日。
母と一緒に、さややは父を説得しようとする。
だが、東京に行く許可を貰えぬまま、
日々が過ぎていく。

36 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 02:34:54.49 ID:45xz/EE20.net
9月13日、自宅。夜。

父「ダメだって言ってるだろ」

さやや「お願い!東京に行かせて!」

父「諦めなさい」

さやや「……やだ、諦めない」

父「そんなに家を出たいのか?」

さやや「……そんなこと言ってないじゃん」

涙ぐむさやや。
父はテーブルに置かれた、
オーディションの概要が書かれた
紙を手に取る。

父「受かったら、そうなるんだ。
お前は東京で暮らすことになる。
けれど、未成年のお前にまだそんな力はない。
母さんも一緒に住むことになるだろう。
そうなった時の母さんの気持ち、
考えたことあるか?故郷を離れる母さんの気持ちだ」

さやや「………なら、私1人で……」

視線を母に向ける。
さややは戸惑いの色を浮かべている。

母「そういうわけにはいかないわよ。
あなたは学生だもの。
事務所の人だって、許さないわよ」

さやや「………お父さんとおばあちゃんは?一緒に東京で……」

父「………俺は北海道が好きだし、仕事だってある。
だからこの町を離れるわけにはいかない。
おばあちゃんだってそうだ。
東京で、新しい生活を始めるなんて無理だ」

父が険しい顔をする。
俯くさやや。
テレビを見ていた祖母がお茶を啜る。

祖母「あたしのことは気にしなくていい。
さやのやりたいようにやれ。
それが、1番だ」

父「……かぁさん」

37 :47の素敵な(やわらか銀行)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 03:38:36.50 ID:FVc5+gYa0.net
感動した
さややにこんな過去があったなんて知らなかった
もっと好きになった

41 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 10:29:08.13 ID:gAF0WbtgO.net
【保守♪】

たぬき1号「ねえ、聞いた?とうとうお下劣って言われるようになったわよ」

のん「大百科?」

たぬき1号「それはキテレツだわな」

のん「どういう意味なの?」

たぬき1号「お下品ってこと」

のん「まあ自給自足だよね」

たぬき1号「それを言うなら事業所得でしょ」

【おいおい…自業自得だろ♪】

42 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 11:20:17.52 ID:WEL0Ddoq0.net
父は困った顔をして祖母の背を見つめる。
振り向く祖母。
気持ちよさそうに眠るゴンの身体を
そっと撫でる。

祖母「いずれ、女は生まれた家を出るんだ。
それが、少し早くなっただけのことさ。
そう思えば、ええ」

さやや「……おばあちゃん」

祖母「何も心配しなくていいさ。
なぁに、ばあちゃんは元気だ。
家のことも、牛の世話も、ばあちゃんに任せなさい」

母は、そう言った祖母に微笑みかける。
祖母の隣で、さややが泣いている。
祖母が孫の頭を「よしよし」と撫でる。
視線を父に送る母。

母「あなた、さやの踊ってるとこ…
見たことある?
とっても、キラキラしてるのよ。
私ね、その姿を見た時…思ったの。
“もったいない”って」

父「……」

母「もっと、たくさんの人に……
この子が踊る姿を見てほしい。
私……そう思ったのよ」

父「……知ってるよ」

母「え?」

父はゴンに視線を送ると、
また母へと顔を向ける。

父「一度、見たことがある。
まるで、違う世界の人間のように思えた。
俺達の手の届かない…。
ひょっとしたら、この子は、
“そっち側”の人間なのかもしれない。
俺だって、そう思ったよ……」

母「……なら、行かせてあげればいいじゃない」

父「…1年前のオーディションの時、
さやが泣いただろ?
AKBに入ったら、あの時よりも、 もっと大変なことが待ってる。
泣いても、そこで終わりじゃない。
さらに、ツラいことが待ってる。
そんな大変な思いしなくても、
いいじゃないか……。
娘にそんな思いさせなくても…」

43 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 11:52:23.66 ID:WEL0Ddoq0.net
俯いた父の目は、ほんの少しだけ、
潤んでいるように見える。
泣いていたさややが顔をあげる。

さやや「大丈夫だよ……私、大丈夫」

父「……」

さやや「私は…そんなに弱くない。
お父さんの子供だもん」

父「………さや」

さややは祖母とゴンに顔を向ける。
次に、母。そして、父。
涙を拭い、強い眼差しをする。

さやや「きっと、たくさん心配かけちゃうのかもしれない。
寂しい思いをさせるのかもしれない。
すごく、自分勝手なことを言ってるのも分かってる。
それでも、それでも……お願い。
私を、東京に行かせて……」

涙で震えたその声は、父の胸によく響いた。

さやや「私の夢は、アイドルになることだから」

真っ直ぐな目。娘の強い眼差しから、
ふと視線を逸らす父。
父の目に、棚に飾られた1枚の写真が映った。
娘が中学に入学した時に撮った家族写真だ。
また娘のほうへと顔を向ける父。

父「……父さんも強くならなきゃな。
………叶うといいな、夢」

言葉の意味を察したさやや。
祖母、そして母に視線を送る。
母は娘の肩に手を置く。
嬉しそうに笑う娘の顔を見て、
母も穏やかな笑みを浮かべる。
父に視線を送るさやや。

さやや「……ありがとう、お父さん」

父「きっと受かるよ、さやなら。
お前は、大地に力強く咲く……
そう、人に幸せを与える、
まるで向日葵のような子だから」

母も、祖母も、涙を流している。
優しい笑みを浮かべる父。

父「だから……お前はアイドルに向いてる」

さやは、泣きながら微笑んだ。
まるで雨が上がった後の、
晴れ渡る空の下で咲く、
そう、向日葵のように笑った―――。

45 :47の素敵な(チベット自治区)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 15:32:13.26 ID:oSYElMkG0.net

>>43

恐縮ですが
さややの実家までゆきりんとぱるるが指名挨拶に行くところを書き上げていただけないでしょうか
出来ればおじいちゃんもw

こちらが参考になればと思いますので張ります
http://awabi.2ch.net/test/read.cgi/akb/1384585310/

47 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 16:38:26.87 ID:S3gHIxie0.net
家族の後押しを得たさややは、
二次審査、三次審査と順調に勝ち進んでいく。
夢への切符を手にし、ドラフト候補生となる。
待っていたのは、多忙な毎日。
朝早くに家を出て、レッスンに参加し、夜遅くに帰る。
レッスンがある度に、母が付き添う
わけにも、1人でホテルに泊まらせる
わけにもいかない。

『見ていて可哀想になった』

北海道から東京に通う娘の姿に、
母はそう胸を痛めた。

ゴンと公民館に行く余裕もありはしない。

砂のように流れる時間。

夢に近付けば近付くほど、
それは、家族との別れの時間が迫ってくることを意味する。
ドラフト会議、2日前――――。

11月8日。夕。
自宅前。

母「…今でも信じられない。
この子が、ステージに立つなんて」

父「……な?だから言っただろ。
さやには才能があるって」

祖母「ったく親バカだね~」

母「もうっ、反対してたくせに」

母はそう言って笑う。
微笑む父は、娘の頭にポンっと、
手を置いた。

父「気をつけてな」

さやや「うん」

さややは不思議そうに、
辺りをきょろきょろと見渡す。

さやや「……あれ?ゴンは?」

祖母「………」

さやや「いつも見送りに来てくれるのに」

48 :47の素敵な(関東・甲信越)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 18:13:40.26 ID:gAF0WbtgO.net
【保守♪】

たぬき1号「ゴンちゃんどこに行ったのかしら」

たぬき2号「さややはもう大丈夫と考えて次の仕事へ行ったのかも」

たぬき1号「次の仕事って?」

たぬき2号「日産の経営立て直し」

たぬき1号「それはゴーンだわな」

【続き期待してます♪】

49 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 19:48:08.50 ID:S3gHIxie0.net
祖母「………」

さやや「ちょっとゴンのところに行ってくるね」

母と父が顔を合わせる。
寂しそうな目。
娘の影を目で追う。

自宅の庭、ゴンの小屋。

小屋の外、毛布の上で寝そべるゴン。
太い尻尾を抱くように、
丸まって目を瞑っている。
隣で膝を曲げるさやや。

さやや「……最近、遊べてないね」

目を瞑ったまま眠るゴン。

さやや「ゴンのおかげだよ、
私がここまで来れたの。
終わったら、また、公民館に行こ。
受かっても、受からなくても、
また行こうね。約束だよ……ゴン」

手に持った携帯をゴンにかざす。
“カシャ”と、音が鳴る。

さやや「いつも一緒だからね。私達」

携帯の待受画面には、眠るゴンの姿がある。
腰を上げるさやや。
踵を返し、ゴンに背を向ける。
ふいに、ズボンの裾が引っ張られる。
振り向くさやや。

さやや「……?」

ゴンがズボンの裾を咥えている。

さやや「起こしちゃった?ごめん」

50 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 19:57:48.51 ID:S3gHIxie0.net
ゴンは寂しそうに見上げている。

さやや「……どうしたの?」

じっと、さややを見つめるゴン。

さやや「……?寂しいの?」

遠くから、母の呼ぶ声が聞こえる。

さやや「ごめん、もう行かなきゃ…」

ズボンから口を放すゴン。
じっと目を合わせるゴンの頭を撫でる。

さやや「またね、ゴン」

遠ざかってゆく紗矢の姿を見つめるゴン。
ひょこっと顔をあげると、
見えなくなった紗矢の姿をきょろきょろと探し、弱々しい声で鳴く―――。

ドラフト会議、前夜。
都内のホテルの一室。

母「……電話だわ、お父さんから」

携帯の画面に触れ、耳に当てる母。
父と話している。
一瞬、驚いた表情を見せる。

母「……え?」

さやや「どうしたの?」

母はさややから離れ、部屋を出ていく。
首を傾げるさやや。
しばらくして、母が戻ってくる。

さやや「なんだって?」

母「何でもないわよ、お父さん、
心配症だから。紗矢の様子が気になって仕方ないのよ」

51 :47の素敵な(公衆)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 21:10:19.06 ID:opqpVorV0.net
文豪…どーかばあぁやとゴンの悲報だけは止めてくれ…

53 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 22:53:48.01 ID:S3gHIxie0.net
さやや「………ほんとにそれだけ?」

母「……どうして?」

さやや「さっき驚いた顔してたから」

母「気のせいよ。
あなたは明日の事だけを考えなさい」

母はそう言って、さややから視線を
逸らす。

母「ちょっと、コンビニ行ってくるわね」

さやや「うん」

母は財布を持って部屋から出ていく。
不思議そうに首を傾げるさやや。

さやや「……」

イヤホンを耳に付け、
明日のパフォーマンス曲である
『River』を、静かに踊る。

ホテルの外に出た母。
少しひんやりとした夜風が頬に当たる。
空を見上げるが、何も見えない。
あるはずの星が見えない。

母の目から涙が零れ落ちる―――。


オーディション当日。
AKB48のファンだけでなく、
メディアも多く入った会場は、
がやがやと賑わっている。
一方、会場内にいる参加者の父兄から
は、緊張の色が見える。
さややの母もその中の1人。

母「紗矢、頑張るのよ」そう呟く。

54 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/06(水) 22:59:21.02 ID:S3gHIxie0.net
会場、舞台裏。

司会者の声が聞こえてくる。
自分達の出番を待つ参加者たちは、
皆、緊張した面持ちだ。
飲みものを飲んで、心を落ち着かせ
る子もいれば、
胸に手を当てて深呼吸をする子もいる。
さややもまた、緊張を隠せない。

さやや「力を貸して……ゴン」

祈るように両手で携帯を強く握る。
目を開いたさややは、携帯の待ち受け
画面をじっと見つめる。

さやや「大丈夫…やれる」

手の震えが止まる。
椅子に携帯を置いたさやや。
慌ただしくスタッフが走り回る。
総監督、高橋みなみの声が会場に響き渡る。
ドラフト会議が始まった。

『エントリー№2番、川本紗矢さん』

さややは、華やかなステージへと歩み始めた―――。

1人ずつを自己紹介をしていくドラフト候補生たち。
紗矢のそれは、堂々たるもの。
次は、パフォーマンス披露。
曲は『River』。

いつものように、全力で踊る紗矢。

彼女の目にゴンの姿が映っている。

母の足下に、確かにいる。

公民館で練習をしていた時のように、
地面に寝そべり、太い尻尾をくるり
と巻いて、自分を見守るゴンの姿が。

『ゴン、見ててね』

紗矢は踊り続ける。

一匹のファンのために。

55 :サーモン ◆pdlO7HZYuo (庭)@\(^o^)/:2015/05/07(木) 00:01:46.73 ID:EmXlSsa60.net

>> 51

……重いけど最後まで読んでもらえたらありがたいです

 

 

続きはこちら

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年07月01日 03:46