らき☆すた 陵桜学園 桜藤祭 IF SSまとめ @ ウィキ
http://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/
らき☆すた 陵桜学園 桜藤祭 IF SSまとめ @ ウィキ
ja
2010-05-05T12:31:32+09:00
1273030292
-
無題(ひかる)
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/228.html
主人公「ひかる先生、シャツ出てますよ、ほら…」
主人公「ひかる先生、おべんと付けてどこ行くんですか」
主人公「ひかる先生、ネクタイ曲がってますよ」
ひかる「うるさいなぁ~…ふゆきかお前は」
主人公「ひかる先生、髪の毛くしゃくしゃですよ」
ひかる「いいだろ、少しくらい」
主人公「駄目ですよ、せっかくの可愛い顔が台無しになりますよ、もう」
ひかる「なっ可愛い!?…お世辞はよせ」
主人公「いや別にお世辞じゃないですけど…よく見たら整った顔立ちしてると思いますよ、ひかる先生」
ひかる「~!?」
2010-05-05T12:31:32+09:00
1273030292
-
その他キャラ
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/21.html
一覧にいないキャラクターがメインのお話です。
[[黒井ななこSS]] 作者:1-162氏
[[無題(ひかげ)]] <未完?> 作者:前スレ908氏
[[イケナイ恋心]] (ひかる) 作者:2-133氏
[[らき☆to the future]] (かなた?) <未完> 作者:2-225氏
[[無題(ななこ)]] 作者:天狗氏
[[ゆい姉さんSS]] <未完> 作者:2-385氏
[[続・腐乙女]] (こう)<[[腐乙女]]の続編> 作者:2-868氏
[[30までは思春期(主人公編)]]作者:1-668氏
[[30までは思春期(ななこ編)]]作者:1-668氏
[[八坂こうの場合]]作者:2-837氏
[[無題(ひかる)]] 作者:5-769氏
2010-05-05T12:27:58+09:00
1273030078
-
感想と連絡と
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/26.html
感想や連絡はこちらへどうぞ。
- 試運転中です。どんなもんか試しに打ってみてます。どんな感じになるのか… -- 名無しさん (2008-04-08 22:19:22)
- お疲れ様です。作者です。ウチの作品群はブログ掲載ですが、まとめに載せていただいても問題ないです。むしろ置かせてください(懇願)。 あと事後報告になりますが、ブログでこちらのウィキにリンク張らせて貰いました。 -- GREN@想い出のつづき (2008-04-10 22:46:13)
- リンク了解です。ありがとうございます。想い出の続きシリーズは、こちらにも置かせていただきます -- まとめ@臨時 (2008-04-12 11:07:34)
- 複数キャラ別の1-558(無題2)の題名は「こなた喫茶」、作者1-911の題名は「時間のイタズラ」です。タイトルつけていなくて申し訳ないです。 -- そらる@きょうちゃん、のお姉ちゃん (2008-04-12 21:11:21)
- 了解しました。修正しました。 -- 名無しさん (2008-04-13 14:50:02)
- がーん、私の描いた主人公とみゆきのイラストがないっす. (ノД`)・゜・ -- 名無しさん (2008-05-02 15:03:01)
- 申し訳ありません。ページにリンクできてなかったようです。修正しました。 -- 管理者 (2008-05-03 21:05:53)
- えち保管庫の『健全学生生活24時』が見れない・・・・ -- 名無しさん (2008-05-26 01:57:24)
- 申し訳ありません。どなたか修正してくださったようです。ありがとうございます。 -- 管理者 (2008-05-26 17:07:46)
- どれも素晴らしい作品ばかりですね。 -- 奈々氏 (2008-07-31 06:03:20)
- 本スレが過去ログ行きになってしまったようですが、新しいのは建てられないんですか? -- 竜鬚虎 (2008-09-11 09:46:40)
- 建てられているようですよ。 -- 龍二 (2008-09-30 03:29:34)
- 勝手にまとめてみました。といっても2作品だけですが。 -- 2438 (2008-10-06 18:13:31)
- 新スレ立てました -- 名無しさん (2008-12-11 11:06:03)
- 最近の作品が(4スレ目あたりから)まとめられてないようですが、どうしましたか? -- 名無しさん (2009-01-07 17:55:37)
- かがみの「無題(かがみ)3という作品について質問があります。 -- のぶ (2010-01-21 23:43:53)
- 質問です。あれはいつ投稿された話なのでしょうか。ぼくはあの作品に似たものを読んだことがあります。その作品もオリジナルでこちらにあるのもオリジナルみたいですが、あまりにも似ています。そこをはっきりさせたいので、お願いします -- のぶ (2010-01-21 23:47:03)
#comment(size=40,nsize=15)
2010-01-21T23:47:03+09:00
1264085223
-
トップページ
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/1.html
&bold(){PS2ソフト「らき☆すた 陵桜学園 ~桜藤祭~」のSSまとめページです。}
&color(red){ゲームのネタバレが多分に含まれますので、これからゲームをプレイする方は閲覧しない方がよろしいかと}
&sizex(6){求むSS書き&まとめ人!}
#image(center,http://www9.atwiki.jp/ryouohgakuen/pub/%a4%b3%a4%e9%a1%a2%a4%c4%a4%de%a4%df%bf%a9%a4%a4%a4%b9%a4%eb%a4%ca%a1%aa.jpg)
&bold(){注意事項をしっかりよんでゆっくりしていってね!}
-初代スレまとめ終了(多分) 抜けてるものがありましたら[[感想と連絡と]]までお願いします
-年齢制限のあるページを作成しました。[[えちーなもの保管庫]]です。一部作品をそちらに移動しました。
**現行スレッド(2ちゃんねる)
-[[らき☆すた 陵桜学園 桜藤祭 IF SS 5話目>http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gal/1228959170/]]
**ゲーム公式サイト
-[[らき☆すた 陵桜学園 桜藤祭>http://www.vridge.co.jp/homepage/contents/products/lucky_ps2/]]
本日の桜藤祭参加者:&counter(today)
累計:&counter(total)
**分からないことは?
-[[@wiki ご利用ガイド>http://atwiki.jp/guide/]]
-[[よくある質問>http://atwiki.jp/guide/category1.html]]
-[[無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ>http://sns.atfb.jp/view_community2.php?no=112]]
-[[@wiki更新情報>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/264.html]]
-[[@wikiへお問い合わせ>http://atwiki.jp/guide/contact.html]]
等をご活用ください
**@wiki助け合いコミュニティの掲示板スレッド一覧
#atfb_bbs_list(112)
**その他お勧めサービスについて
-[[フォーラム型の無料掲示板は@bbをご利用ください>>http://atbb.jp/]]
-[[2ch型の無料掲示板は@chsをご利用ください>>http://atchs.jp/]]
-[[お絵かき掲示板は@paintをご利用ください>>http://atpaint.jp/]]
-[[その他の無料掲示板は@bbsをご利用ください>>http://atbbs.jp/]]
-[[無料ブログ作成は@WORDをご利用ください>>http://atword.jp/]]
-[[大容量1G、PHP/CGI、MySQL、FTPが使える無料ホームページは@PAGES>>http://atpages.jp/]]
**おすすめ機能
-[[気になるニュースをチェック>http://atwiki.jp/guide/17_174_ja.html]]
-[[関連するブログ一覧を表示>http://atwiki.jp/guide/17_161_ja.html]]
**その他にもいろいろな機能満載!!
-[[@wikiプラグイン>http://atwiki.jp/guide/category17.html]]
-[[@wiki便利ツール>http://atwiki.jp/guide/category32.html]]
-[[@wiki構文>http://atwiki.jp/guide/category16.html]]
-[[@wikiプラグイン一覧>http://www1.atwiki.jp/guide/pages/264.html]]
**バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は?
お手数ですが、メールでお問い合わせください。
2009-03-28T20:22:33+09:00
1238239353
-
~みゆきの願い~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/227.html
<dl><dd><font size="1">自室の窓から星降る空を見上げ、高良みゆきは物思いに耽っていた。<br /><br />
(今日も星が綺麗ですね…)<br /><br />
ホットミルクティーを飲みながら、ひんやりとした空気の中、瞬く星空を眺めいる。<br />
最近は夜空を眺める事が、みゆきのささやかな楽しみとなっていたのだ。<br /><br />
(流れ星は流れないでしょうか…)<br /><br />
星空を見上げた日は、いつも流れ星を探して眠りにつく。叶えて欲しい願いを伝えるために。<br />
夜空を眺めながら、いつ流れ星が来ても良い様に、両手を合わせて目を閉じる。<br /><br />
(…○○さんが幸せでありますように…)<br /><br />
いつから抱いていたか、みゆきにも分からない。<br />
ただ、いつも一生懸命に頑張ってくれた○○を、いつしかみゆきは想いを寄せるようになっていた。<br /><br />
(桜藤祭から…でしょうか? いつも頑張ってくれてましたから…。劇も、ミスコンも、ステージを支えていた時も…)<br /><br />
みゆきはその時々に見た○○の顔を想い、頬を赤らめる。<br />
ほてった頬に手を当て、ゆっくり目を開ける。<br />
その目には僅かな哀しみも含まれていた。<br />
ふと空を見上げると、星が流れていくのが見えた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(あっ…)<br /><br />
慌ててみゆきは両手を合わせて願いを祈る。<br /><br />
(…○○さんが幸せでありますように…)<br /><br />
一つ願いを祈って、ためらいがちにもう一つ祈る。<br /><br />
(それと…願わくば、私の想いが伝わりませんように…)<br /><br />
願いを祈り終えたみゆきは、悲しげな表情で目尻に涙を溜めながら、窓を閉めて眠りについていった。<br /><br /><br /><br />
翌日。<br />
授業も終わり生徒達が思い思いの活動の場へ散って行く中、<br />
こなた達4人は○○の机の周りで話していた。<br /><br />
「今日も疲れた…。これからバイトだよぉ~」<br />
「こなたさん今日はずっと熱心にノートとってたもんね。あれだけ集中してれば疲れるよな」<br />
「こなたが!? 有り得ないわよ」<br /><br />
かがみが一瞬大きく目を見開いて、即座に否定する。<br /><br />
「むぅ、失礼な。私もやる時はやるのだよ!」<br /><br />
薄い胸を叩きながら、誇らしげにこなたが言う。<br /><br />
「こなちゃんホントに頑張ってたもんね。たくさん英語書いてたよ」<br />
「…英語?」<br />
「うん、全部の教科で一生懸命書いてたの見たよ。こなちゃん頑張ってるな~って」<br />
「ちょ! つかさ見てたの?」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「全部の教科で…、ですか? 泉さん海外へ留学なされるんですか?」<br />
「え? あ~、いやまぁね…」<br /><br />
バツが悪そうにこなたが視線を逸らして猫口になる。<br /><br />
「…アンタ…。もしかして一日中ネトゲのパーティ編成考えてたんじゃ…」<br />
「…はっはっは…。かがみんや、そんな馬鹿な」<br />
「こっちを見て否定しなさいよ…。まったく…、そんな事だろうと思ったわよ」<br />
「ちぇ…。つかさに見られていたとは…。せっかく○○くんの好感度アップしそうだったのに…」<br />
「いやぁ…、しないと思うけどな…」<br />
「普段勉強しない娘が、一生懸命机に向かう! そのギャップに萌えないの?」<br />
「そう力説されてもな…。ってか勉強じゃないじゃないか」<br /><br />
こなたに詰め寄られて○○が困っていると、みゆきが横から助け船を出す。<br /><br />
「まぁまぁ…。皆さんそろそろいい時間ですから。泉さんもバイトのお時間大丈夫ですか?」<br /><br />
ケータイの時計を見てこなたが焦りの声を上げる。<br /><br />
「うぉっ!? ヤバ、遅刻しちゃうよ! じゃあ私先に帰るね! ○○くんいつか私のバイト先においでよ! じゃね!」<br /><br />
そう捲し立てながら、こなたは疾風の如く駆けて行った。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…しっかりアピールしてったわね…)<br />
(流石こなちゃんだね~)<br /><br />
走り去るこなたを眺めながら、かがみとつかさが小声で喋る。<br /><br />
「うん? 二人共何か言った?」<br />
「な、何でもないわよ。ほら、私達も帰るわよ!」<br />
「暗くなっちゃうから早く帰ろう?」<br /><br />
二人に背中を押され、○○は教室をあとにする。<br /><br />
「おっと! 分かってるよ。分かってるから押すなって」<br /><br />
教室を出ようとする3人に、みゆきが申し訳なさそうに声を掛ける。<br /><br />
「すいません。委員会の仕事があるので、私はもう少し残りますね」<br /><br />
少し困ったような笑顔をしたまま、みゆきが控え目に言った。<br /><br />
「そうなんだ? 良かったら俺も手伝おうか?」<br />
「いえ、書類をまとめたら提出するだけですから。お気になさらずに」<br /><br />
みゆきがそう言うと、○○は一瞬怪訝そうな顔をする。<br /><br />
「…そう? じゃあお先に失礼するね」<br />
「みゆきあんまり無理しちゃダメよ?」<br />
「ゆきちゃんまたね~」<br /><br />
○○達はみゆきに言葉をかけて、そのまま教室をあとにした。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">3人を見送り、みゆきは「ふぅ…」と溜め息をはく。<br /><br />
「…○○さん…」<br /><br />
普段○○が座っている机を眺めながら、ポツリと呟く。<br /><br />
(皆さん…、○○さんがお好きなんですね…)<br />
(…そうですよね…。だって、あんなに素敵な方ですから…)<br /><br />
委員会の仕事というのは、半分嘘だった。<br />
確かにやらなければならない事はあったが、別に今日中に取り決めなければならないものではなかった。<br />
ただ、あのまま○○の側にいては、自分の気持ちが表に出てしまいそうで怖かった。<br /><br />
(…やはり…私は○○さんが…)<br /><br />
そこまで考えて、いくつかの顔がフラッシュバックする。<br /><br />
――積極的に○○にアピールするこなた――<br />
――強がりながらも頬を赤らめるかがみ――<br />
――少し恥ずかしがりながら○○と楽しそうに話すつかさ――<br /><br />
その一つ一つを思い返しながら、みゆきはゆっくりと呟く。<br /><br />
「皆さん…、私の大切なお友達ですから…」<br /><br />
自分に言い聞かせるように、みゆきは言葉を繋ぐ。<br /><br />
「だから…、私の想いは気付かれてはいけないんです…」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">みゆきは、いつしか自分が読んだ小説の内容を思い出す。<br />
それは好きな男性を巡って、友達同士が仲違いするというものだった。<br />
ただの小説の内容だが、それでもみゆきは不安になる。それだけこなた達の事が大切という事の表れなのだ。<br /><br />
(…もし小説のような事になったら…)<br /><br />
こなた達が自分を見る目に敵意が宿ったとしたら、きっと自分は耐えられないだろう。<br />
『想いを伝えて友達との仲が壊れるくらいなら、自分を押し殺していた方が良い』<br />
みゆきはそう考えてしまったのだ。<br /><br />
「だから…」<br /><br />
誰にともなくみゆきは呟く。<br /><br />
「――だから…っ」<br /><br />
振り払おうとすればするほど、瞼の裏で鮮明に甦る。<br />
――思い出したくない顔――<br />
――見たくないはずの姿――<br />
――だけど、誰よりも愛しく大切な、その笑顔――<br /><br />
「……だ、から……」<br /><br />
呟きながらみゆきは泣いていた。<br />
どんなに頭で理解しても心まで簡単に理解出来るものでは無かったのだ。<br />
○○への押さえられない気持ちが涙になって溢れ出す。<br />
眼鏡が涙で濡れるのも構わず、出てくる声を押し殺し、自分自身を抱える様に、みゆきはただ一人泣き続けた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">どれだけ泣いていたのか、辺りはすっかり暗くなっていた。<br />
みゆきは泣き腫らした目を軽く洗い、書類を片付けて昇降口へと向かった。<br /><br />
(遅くなってしまいました…)<br /><br />
人の気配が微塵もない昇降口をくぐり、校門へ向かって行くと、門に寄り掛かるように立っている一つの影が見えた。<br /><br />
(…どなたでしょう?)<br /><br />
そう思いながら歩いていくと、よく見えなかった顔がだんだんハッキリしてくる。<br />
随分と見慣れた顔がそこにあった。<br />
その影は安心したような笑顔を携えて、みゆきの横へやってきた。<br /><br />
「みゆきさんお疲れ様。遅いから心配したよ」<br />
「…○○さん? どうしてここに…?」<br /><br />
みゆきがそう言うと、ほんの少し困った顔をしながら○○が呟く。<br /><br />
「あ~、うん、なんだかみゆきさんの様子がおかしかったからさ。その…、心配で待ってたんだ」<br /><br />
そう呟く○○の顔は、暗くてよく分からなかったが、言葉の端々から照れているようにみえた。<br /><br />
「様子…、ですか?」<br />
「うん、なんだか思い詰めてる気がしたんだ」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">みゆきは驚いた。想いを押殺している雰囲気が僅かに出ていたのだろう。<br />
何より驚いたのは、その僅かな変化を、○○が感じ取っていた事だった。<br /><br />
「ホントに大丈夫? 俺で良かったらまた力になるよ? …もう一回ミスコン出るとか?」<br />
「ち、違います! もうあんな恥ずかしいのはイヤです…」<br />
「そう? みゆきさん綺麗だったよ」<br /><br />
事も無げにそう言う○○を、みゆきは頬を赤くして抗議する。<br />
暗くて互いの顔がよく見えないのが救いだった。<br /><br />
「そんな…! 私なんて、…綺麗じゃないです…」<br /><br />
どこか哀しみを帯びた否定の言葉に、○○は首をかしげる。<br /><br />
「…大丈夫ですよ。大した事ではありませんから…」<br />
「う~ん、なら良いんだけどね。じゃあこれ以上遅くならない内に帰ろうか? 送っていくよ」<br />
「え? だ、大丈夫ですよ。そんな送って頂かなくても…」<br />
「いいから。ほら、早く帰ろう?」<br /><br />
そう言いながら、○○はみゆきの手を引き歩き出す。<br />
その握られた手から伝わる温もりと優しさに、みゆきの心は辛く締め付けられた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…ダメです。このままでは私…)<br /><br />
想いに気付かれてはいけないと押し殺していた感情が、○○の温もりで引き出されそうになる。<br />
そのまましばらく歩いていると、おもむろに○○が話し掛けてきた。<br /><br />
「見て、みゆきさん。凄い星空だよ」<br /><br />
そう言われて見上げると、とてつもない星空が煌めいていた。心なしかいつもより多く、綺麗に見えた。<br /><br />
「あ! 流れ星!」<br /><br />
○○が指す方を見ると、確かに一筋の光の尾が消えていくのが見えた。<br />
ふと○○を見ると、何かを懸命に祈っている。<br /><br />
「お願い事ですか?」<br />
「うん、ちょっとね。叶うと良いんだけどな」<br /><br />
そう言いながら、○○は照れくさそうに笑う。<br /><br />
「何をお願いしたのですか?」<br />
「え? あ、う~んとね…」<br />
「?」<br />
「…『みゆきさんの悩みが解決しますように』…って。その…、何に悩んでるか分からないけど…。<br />
自分に出来るのはこれくらいかなって…」<br /><br />
照れ笑いする○○の言葉を聞いて、みゆきは心がさらに締め付けられる。<br /><br />
――いつもこの人は優しくて――<br />
――だけど、その優しさが私を苦しめている――<br />
――だったら、いっそ―― <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…○○さん」<br />
「どうしたの?」<br />
「お願いが…あります」<br /><br />
みゆきの強い口調に、○○は改めてみゆきに向かい合う。<br /><br />
「…私の事を『嫌いだ』と言って下さい」<br />
「……何だって…?」<br />
「私を、嫌って下さい。…そうすれば、私の悩みは無くなりますから…」<br /><br />
そう言うみゆきの目は真剣そのものだった。<br /><br /><br /><br />
○○は、みゆきからの言葉に呆然としていた。<br /><br />
(『嫌いだ』なんて…、嘘でも言えないよ…)<br />
(…好きな娘に、そんな事…)<br /><br />
そう、○○もみゆきに想いを抱いていたのだ。<br />
時間のループが見せたみゆきの様々な顔が、いつしか○○の心を埋め尽くしていた。<br /><br />
しばらく考えて、○○は決意する。<br /><br />
「…分かった。それで、みゆきさんの悩みは無くなるんだね?」<br />
「…はい…」<br />
「…じゃあ…言うよ。俺は…みゆきさんが――」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">みゆきはギュッと目を瞑り、○○から伝えられる言葉を待っていた。<br />
だが、○○からの言葉がこない。どうしたのかと思っていると、自分を暖い何かが包んでいるのを感じた。<br />
早い鼓動、すぐ側に感じる○○の息遣い。<br />
みゆきは○○に抱き締めていると気付くのに、しばらくの時間を要した。<br /><br />
「…え? ○○さん…!?」<br />
「…よく聞いてね。俺は…、みゆきさんが好きだ。一人の女性として、大好きだ」<br />
「…だから、嘘であっても、『嫌いだ』なんて言えないよ…」<br /><br />
○○から感じる鼓動が、その言葉が嘘ではない事を物語っていた。<br /><br />
「…ダメです…、そんな事…。○○さんにはもっと相応しい方が…」<br />
「自分が好きな人以上に相応しい相手なんかいないよ。…みゆきさんは、俺が…嫌い?」<br /><br />
みゆきは言葉に詰まる。このまま○○の腕の中で想いを伝えたかった。<br />
だが、浮かぶ親友の顔が、それをさせてはくれなかった。<br />
答えのないみゆきの雰囲気を感じ取り、○○はゆっくりと話し掛ける。<br /><br />
「俺はね…、こう思うんだ。『他人の知っている自分と、他人の知らない自分が自分自身の中に居ても良い』って」<br />
「今までのみゆきさんは、きっと『こなたさん達が知っているみゆきさん』だったと思うんだ」<br />
「だから…、俺にだけ教えて欲しい。こなたさん達の知らない…、誰も知らないようなみゆきさんを」<br />
「そのみゆきさんが出した答えなら、例え何であっても、俺はそれを受け入れるから」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">自分の胸で俯いているみゆきをまっすぐに見つめながら○○は告げる。<br />
やがてみゆきは、○○の腕の中で、心から絞り出すように呟く。<br /><br />
「…ご存じですか…? 泉さん達も○○さんが好きなんですよ…。つかささんも…、かがみさんも…。<br />
……私は、泉さん達が大好きなんです……! 大切なお友達なんです…。もし、皆さんといがみ合うような事になったら――」<br />
「そんな事ならないよ」<br /><br />
○○は、微かに震えながら消え入りそうに呟くみゆきを、優しく撫でながら否定する。<br /><br />
「みゆきさんは3人がみゆきさんを嫌うと思う? お互いこんなに大切に思ってるんだよ?」<br /><br />
そう言って○○は自分の携帯からメールの画面を呼び出し、みゆきへ渡した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">『みゆきさん何だか様子が変だったから、○○くんみゆきさんを支えてあげなよ。みゆきさんきっと喜ぶから。<br />
フラグゲットでイベントCGゲットのチャンスだよ!<br /><br />
こなた』<br />
『みゆき様子が変だったから、一緒に帰ってあげなさいよ。<br />
アンタみゆきが好きなんでしょ? 男を見せなさいよ!<br /><br />
かがみ』<br />
『ゆきちゃんと一緒に帰ってあげて? なでなでしてあげると元気出ると思うから。<br />
…ゆきちゃんをお願いね。<br /><br />
つかさ』<br /><br /><br />
それは自分を心配してくれる3人からのメールだった。<br />
メール画面を見ながら、みゆきは口に手を当てて涙を流していた。<br />
親友からの思いに、その優しさに、涙が止めどなく溢れてくる。<br />
そんなみゆきに、○○は優しく語りかける。<br /><br /><br />
「俺はこなたさん達の気持ちには応えられない。だって、俺はみゆきさんが好きなんだから。<br />
いつも優しくて…、笑顔が素敵で、…怒るとちょっと怖くて。そんなみゆきさんが好きなんだ」<br />
「こなたさん達には俺がちゃんと伝えるよ、『ゴメン』って。だから、みゆきさんも、みゆきさんの心のままを応えて欲しい」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">○○の言葉を聞き、震えるみゆきの手が○○の背中に回される。<br /><br />
「好きです…。大好きです…! ずっと、ずっと前から――!」<br /><br />
そう言いながら、みゆきは○○の胸に顔を埋めた。<br />
『ありがとう』と『ごめんなさい』がみゆきの心を駆け巡る。<br />
こんなに好きでいてくれる○○に『ありがとう』を。<br />
心配してくれた親友達に『ありがとう』を。<br />
こなた達の想いを知りながら、自分の想いを伝えてしまった事に『ごめんなさい』を。<br />
喜びと罪悪感を感じながら、みゆきは涙を止める事が出来なかった。<br /><br />
「そんなに泣かないで。…お願いだから…」<br />
「す、すいません…。すぐに…、泣き止みます…か、ら…」<br /><br />
そう言いながら、一向に泣き止む気配のないみゆきに、○○は思い切った行動に出る。<br /><br />
「眼鏡…、外すね」<br /><br />
そう言って眼鏡を取ると、不思議そうに顔を上げるみゆきの唇に、自分の唇をあてがった。<br /><br />
「んぅっ!? んむ~…」<br /><br />
目を白黒させながら、突然の感触にみゆきは慌てた。<br /><br />
「…っぷは! …はぁ…はぁ…」<br /><br />
みゆきには永遠とも感じられる時間が、唇から温もりが離れる事で終わりを告げる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…泣き止んだ?」<br />
「…は…い…」<br /><br />
ポ~ッっと頬を赤らめ、涙とは違う意味で目を潤ませてみゆきがうなずく。<br /><br />
「ゴメンね…。どうすれば泣き止んでくれるか分からなくて…。ビックリしたら泣き止むかな~? …って」<br />
「あの…、しゃっくりではないので…」<br /><br />
控え目なみゆきのツッコミに、二人は柔らかく微笑む。<br /><br />
「みゆきさん…、愛してるよ…」<br />
「…『みゆき』が良いです…。そう、呼んで下さい…」<br />
「みゆき…」<br /><br />
優しく名前を呼びながら、二人の距離は再びゼロになる。<br />
突然ではないキス。伝えたい想いを温もりに込めて、心の全てが伝わるように唇を重ねる。<br /><br />
「…叶わなくて…、良かったです…」<br />
「ん? どういう事?」<br />
「うふふ、何でもありませんよ」<br /><br />
そう言いながら、みゆきは空を見上げた。<br />
二人を祝福するように、星達がより一層輝いている。<br /><br />
「綺麗ですね…」<br />
「そうだね。…あ! また流れ星だ」<br /><br />
星の煌めきの間を縫って、一筋の光が流れていく。<br /><br />
「「……」」<br /><br />
二人は目を閉じて願いを唱える。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「みゆきは何をお願いしたの?」<br />
「え? ひ、秘密です!」<br />
「教えて欲しいなぁ。ダメ…かな?」<br />
「そ、そんな哀しそうな顔で聞かないで下さい…」<br />
「あはは、ゴメンゴメン」<br />
「…もう…、いじわる」<br />
そう言うと、みゆきは顔をそっぽを向いてしまった。<br /><br />
(――○○さんとずっとずっと一緒に居られますように――なんて、恥ずかしくて言えません…)<br /><br />
恥ずかしそうに、背中に回していた手を解いて身体を離す。<br /><br />
「帰りましょうか? 遅くなってしまいますから」<br /><br />
そう言ってみゆきは○○の手をとり歩き出す。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「っと、待ってよみゆき!」<br /><br /><br /><br />
叶う願いと叶わない願い。<br />
それは星が選んでくれているかもしれない。<br />
そうならば――と、みゆきは願う。<br /><br />
(この言葉だけは…、いつも○○さんに伝わりますように…)<br /><br />
「○○さん――」<br /><br />
願いと想いを言葉にのせ、星の輝きに負けない笑顔で振り返りながら、みゆきは告げた。<br /><br /><br /><br /><br /><br />
「大好きです!」<br /><br />
FIN<br /><br /><br />
おまけ 通常ver<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好きです!」<br /><br /><br /><br />
二人の想いが通じた翌日、○○はみゆきと屋上でお昼を食べていた。<br /><br />
「はい、○○さんどうぞ」<br />
「あ、あ~ん」<br />
「うふふ、美味しいですか?」<br />
「美味しい! みゆき料理も上手なんだね!」<br />
「いえ、これは知り合いのシェフの方に昨日教わったので…」<br />
「シェフに? 凄いな」<br />
「いえ…、○○さんに食べてもらうのですから…。美味しくないと…イヤじゃないですか」<br />
「…みゆき…、ありがとう」<br />
「○○さん…」<br /><br />
周りに誰もいない事を確認し、二人の間がだんだん近付いていき、いざゼロになろうとした瞬間。<br /><br />
「先輩~! こなたお姉ちゃんが呼んでま――」<br />
「!!」<br /><br />
突然屋上入口からゆたかがやってきた。やろうとしていた事が事だけに、<br />
ビックリした勢いでお互いの唇を思いっ切りぶつけてしまう。<br /><br />
「――せんでしたぁ…。ど、どどどどうぞごゆっくり!」<br /><br />
ゼンマイ仕掛けの人形のように、角張った動きでゆたかはUターンしていった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…見られちゃいましたね」<br />
「…うん、おまけにビックリしてキスしたから、かなりディープな感じに見えたかも…」<br />
「…どうしましょう…」<br />
「それはもう一回キスしたいって事?」<br />
「え!? …は、はい…」<br /><br />
○○はみゆきの眼鏡を優しく外し、髪を梳しながら再び距離を縮めていく。<br />
お互いの吐息を肌で感じる距離になった瞬間。<br /><br />
「みゆきー。委員会の書類は――」<br />
「!!!!」<br /><br />
計ったかのように入口からかがみが入って来る。<br />
2回目は無いと油断していたせいか、突然の訪問者に驚いた○○はバランスを崩しみゆきを押し倒してしまう。<br /><br />
「――用意しとくわ。…ほどほどにしときなさいよ…」<br /><br />
落ち着いているように振る舞いながら、顔を真っ赤にしたかがみは、<br />
足取りもおぼつかないまま屋上から出ていった。<br /><br />
「…厄日なのかな、今日は」<br />
「……」<br />
「ん? みゆきどうしたの?」<br />
「いえ…、この状況が…」<br />
「…あ! ゴ、ゴメン! すぐに退くよ!」<br /><br />
身体を起こそうとした○○を、みゆきは手を掴んで止める。<br /><br />
「みゆき?」<br />
「…その前に、ちゃんとキス、して…下さい…」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">頬を赤らめながら、横になったままみゆきは目を閉じる。<br />
その姿に○○は胸が高鳴った。<br /><br />
(…綺麗だ…。みゆきを好きになって、良かった…)<br /><br />
眠れる森の美女にキスするかのように、○○はみゆきの唇へ近付いていく。<br />
二人の影が一つになろうとした瞬間。<br /><br />
「みゆきさ~ん! チチくりあって――」<br />
「○○くん、エッチはダ――」<br />
「ウチより先に結婚は許さへ――」<br />
「!!!!!!」<br /><br />
かがみ達から話を聞いたのか、こなたとつかさと黒井先生が続々と屋上へやってきた。<br />
3回目を警戒する前に、みゆきに見とれてしまった○○は、突然の乱入に驚きバランスを崩して手をつく。<br /><br />
――ムニュ――<br /><br />
――その瞬間――世界が凍った――<br /><br />
「きゃああぁぁぁぁぁぁ!」<br />
「ゴ、ゴメンみゆき!」<br />
「え、あ、いえ、いきなり過ぎてビックリしただけなので…。その…、イヤではないです…」<br />
「え…、…うん…ゴメンね」<br /><br />
恥ずかしながら見つめ合う二人を、こなた達は凍り付いたまま眺めていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「しょせんは巨乳が勝ち組か…」<br />
「こなちゃん、貧乳はステータスじゃなかったの?」<br />
「勝負に負けちゃ意味がないんだよ。…まぁ、素直に祝福してあげようか」<br />
「そだね。あの二人とってもお似合いだもん…」<br />
「ま、説教は私達からのプレゼントって事で。では、黒井先生よろしく~」<br /><br />
その後、桃色空間を作り上げ続ける二人は、黒井先生による涙と嫉妬の説教を3時間程くらったのはまた別のお話。<br /><br /><br />
FIN<br /><br /><br />
おまけ 別ver<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">黒井先生から血涙付きの説教をくらった翌日。<br />
相変わらず屋上で桃色空間を展開し続ける二人に、入口から複数の視線を送る影があった。<br /><br />
(二人が上手くいったのは良いんだけどさ~)<br />
(こうもあからさまに桃色空間作られるとね…)<br />
(…どんだけ~)<br /><br />
こなた、つかさ、かがみの3人は、入口から息を潜めて二人を観察していた。<br /><br />
(…確かに○○くんには、ハッキリとフラれちゃったけどさ)<br />
(諦められる訳ないじゃない! いくらみゆきでも、これは譲れないわよ!)<br />
(お、お姉ちゃん声が大きいよぉ…)<br /><br />
目に力を入れて燃え上がるかがみに、こなたは提案する。<br /><br />
(かがみんも諦めてないんだね? じゃあ話は簡単だ)<br />
(? こなちゃんどうするの?)<br />
(…決闘だよ! ○○くんを賭けて勝負を申込むのだよ!)<br />
(血糖?)<br /><br />
――ズンッ!<br /><br />
つかさはかがみの当て身をくらい、その場に崩れ落ちる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(その手のネタ2回目よ)<br />
(何でかがみが知ってんのさ)<br />
(気にすると危険よ。それよりも早くも一人脱落ね)<br />
(でも、みゆきさんにはこんな力づくは通用しないよ)<br />
(じゃあどうするのよ? 何か手はあるの?)<br /><br />
そう聞かれてこなたはポケットからトランプを取り出す。<br /><br />
(前回のリベンジを兼ねて、ポーカーで勝負しようと思ってね)<br />
(アンタ前回ボロ負けしたじゃない。結果は同じじゃないの?)<br /><br />
かがみがそう言うと、こなたは口の前で指を振る。<br /><br />
(チッチッチ。私が2度も失敗する訳ないじゃん。はい、かがみ)<br />
(何よ、この伊達眼鏡は?)<br />
(これを付けると、カードの裏から絵柄が見えるんだよ)<br />
(…イカサマかよ…)<br />
(○○くんを奪う為には手段なんか選んでられないんだよ!)<br />
(まぁ…いいけどね。じゃあ…、行くわよ! 『○○くん奪還作戦』開始!」<br /><br />
『恋は盲目』とはよく言ったものである。奪還も何も○○は望んでみゆきの隣りに居る訳だが、<br />
もはやこなた達には、そんな事も見えなくなっていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">入口を勢いよく開けて、二人は桃色空間の中へ突入する。<br /><br />
「「みゆき!(さん!)」」<br /><br />
突然の訪問者に、若干驚きながら○○達はこなたとかがみを見る。<br /><br />
「どうかなさいましたか?」<br />
「みゆきさんに勝負を申込みに来たんだよ。…○○くんを賭けてね!」<br />
「お、俺?」<br />
「今からこのトランプでポーカーをやって、勝った人が○○くんの彼女になるんだよ」<br />
「いや、待ってくれよ。俺の意志は――」<br />
「ないわよ。諦めなさい」<br /><br />
かがみにピシャリと言われて、○○はスゴスゴと押し黙る。<br /><br />
「――どう? みゆきさん。この決闘受ける気はある? …それとも逃げるのかな?」<br /><br />
不敵な猫口笑みを浮かべながら、こなたが挑発する。<br />
そんな様子を見ながら、みゆきは怖じ気付く様子も無く、微笑んだままうなずく。<br /><br />
「えぇ、やりましょう」<br />
「みゆき!?」<br />
「ご安心を。このゲームは得意ですから」<br />
「…でも――」<br />
「私を信じて下さい。…大丈夫、必ず貴方の元へ戻りますから…」<br />
「…みゆき…」<br />
「あぁもう! 桃色空間展開しないでよ! ほら、さっさとやるわよ」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">そう言いながらカードを配ろうとするかがみとこなたに、みゆきが声をかける。<br /><br />
「ところで――」<br /><br />
その瞬間、○○は時間の流れに『違和感』を感じた。<br /><br />
「何故こんな伊達眼鏡をかけているんですか?」<br /><br />
そう聞くみゆきの手には、さっきまでかけていたはずの、イカサマ眼鏡が握られていた。<br /><br />
「…そんなバカな!?」<br />
「何がですか? 泉さん。…これがないと、何か『不都合』でもあるのでしょうか?」<br /><br />
顔は笑っているが、みゆきの目は一切笑っていなかった。<br /><br />
「一体いつの間に? まさかみゆきさん『ザ・ワールド』を――」<br />
「何の事でしょう? うふふ…」<br /><br />
不敵に笑うみゆきに、二人はたじろぐ。<br /><br />
「どうされました? …やはり決闘は止めますか?」<br /><br />
みゆきからのお返しと言わんばかりの挑発に、二人は引き下がれなかった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「今度こそ絶対私が勝つんだよ!」<br />
「止めないんだから!」<br /><br />
二人の返事に、眼鏡と目の奥を光らせてみゆきが笑う。<br /><br />
「――よろしい、ならば戦争だ」<br /><br />
その後、こなたとは『7カードポーカー』で、かがみとは『テキサスホールデム』で対決し、<br />
どちらもみゆきのロイヤルストレートフラッシュで叩き潰したのは、また別のお話。<br /><br /><br />
FIN</font></dd>
</dl>
2009-02-09T00:54:33+09:00
1234108473
-
~こなたの微笑み~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/226.html
<dl><dd><font size="1">「かがみ様~! 寄り道してこ~!」<br /><br />
金曜日の放課後、○○を引き連れて、こなたはかがみの教室にやってきた。<br /><br />
「悪いけど今日はパス。家の用事があるのよ」<br />
「むぅ~、かがみ様も~? つかさもみゆきさんもダメだったんだよ~」<br />
「つかさも同じ用事だからね。…てか、かがみ様って言うな!」<br /><br />
かがみがこなたに襲いかかり、両拳でこなたの頭を挟みこんでグリグリする。<br /><br />
「ぎにゃ~! イダイイダイイダイイダイ! ○○くん助けて~!」<br />
「か、かがみさん! こなたさんの頭が砕けちゃうよ!」<br /><br />
こなたを抱える様に庇い、かがみから引き離す。<br /><br />
「砕かないわよ。ってか○○くんまでそうな事言うか…」<br /><br />
心なしか落ち込んでいるかがみを余所に、こなたは「むふふふ…」と含み笑いをする。<br /><br />
「こなたさん?」<br />
「いや~、助けるためとは言え、いきなり女の子を胸に抱き締めるとはねぇ~。<br />
○○くん、やっぱギャルゲ主人公の素質バッチリだよ!」<br /><br />
○○の腕の中で猫口をしたこなたが親指を立てて笑っている。<br /><br />
「うわっ! ゴ、ゴメンよ!」<br /><br />
慌てて○○はこなたを引き離した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「そんなに慌てなくてもいいのに…。それに桜藤祭の時は劇でキスした仲じゃん?」<br />
「アンタ何言ってんのよ? 桜藤祭の時は○○くんは道具係や進行の雑用だったじゃない」<br />
「え、あれ? あれぇ? そうだっけ?」<br />
「ゲームのやり過ぎよ。現実との区別が付かなくなったらヤバいわよ?」<br />
「むぅ…、そんなんじゃないんだけどなぁ…」<br />
「まぁいいわよ。それより、○○くんはこなたと一緒に行くの?」<br />
「うん、予定は無いから行こうかな~と。いろいろ教えてくれるらしいし」<br />
「クックック…。私色に染めてあげるよ~」<br /><br />
怪しげにこなたが笑うのを、○○とかがみが冷ややかな目で見ている。<br /><br />
「……やっぱ行くの止めるかな」<br />
「それが賢明ね」<br />
「ちょ! 冗談だよ! ○○くんに『とら○あな』の素晴らしさを教えるだけだって」<br /><br />
慌ててこなたが帰ろうとする○○の前に立ちはだかり、ちょこまかと弁明する。<br /><br />
(…可愛いなぁ…)<br /><br />
目の前で一緒に行こうと力説するこなたを、○○はほんわかした顔で見ていた。<br />
どこか小動物チックな動きにほのぼのしながら、<br />
○○はこなたに別の感情が芽生えているのを気付いていなかった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「ねぇ、行こうよ~。一人で行っても寂しいしつまんないんだよ~」<br />
「アンタやけに○○くんに絡むわね?」<br />
「え? き、気のせいだよかがみん」<br /><br />
ニンマリ笑いながら、こなたが否定する。<br /><br />
「うん、大丈夫、ちゃんと行くよ。『と○のあな』行った事無いから、ちょっと楽しみなんだ」<br /><br />
そう○○が言うと、こなたは満面の笑みでピョコピョコ飛び跳ねながら喜んでいる。<br /><br />
「やた~! じゃあ行こう行こう!」<br /><br />
言うが早いか、こなたは○○の手をとり駆け出していた。<br /><br />
「おわっ! 急に引っ張らないで! か、かがみさんまたね! バイバ―――」<br /><br />
二人はドップラー効果を残し、かがみの前から走り去ってしまった。<br /><br />
「…いってらっしゃい」<br /><br />
軽く溜め息をつきながら、かがみは二人の走り去る姿を眺めていた。<br /><br /><br /><br />
電車を乗り継ぎ、秋葉原の『とらの○な』一号店までやってくると、こなたさんの目の色が変わった。<br /><br />
「さぁ~て、今日は何か良いのがあるかな~」<br />
「え? 目的があって来たんじゃないの?」<br />
「とりあえずはコンプの最新号かな。あとは未知数」<br />
「未知数って…。もしかして片っ端から見て回るの?」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「はっはっは、…そんな馬鹿な」<br />
「俺の目を見て否定してくれ」<br />
「さぁ! さっさと行くよ! 時間が惜しいからね」<br />
「やっぱ片っ端からか!」<br />
「…○○くんは私と買い物するのはイヤ…?」<br /><br />
こなたさんが目をウルウルさせながら上目遣いに聞いてくる。<br /><br />
「…ギャルゲで培った技術ってやつ? そんな技使わなくても行くよ。せっかくだしね」<br />
「やた~! 流石○○くんだね! しかし○○くん…。<br />
あの上目遣いで動揺しないとは…。エロゲ主人公の素質バッチリなだけはあるね!」<br /><br />
褒められているのかいないのか分からなかったが、とりあえず笑って誤魔化しておいた。<br /><br />
「じゃあ早速行くよ。ついてきたまへ!」<br /><br />
そう言うと、こなたは○○の手を引いてビルの中へと駆け出していった。<br /><br />
「だ、だから引っ張るなって! おわっ!」<br /><br /><br /><br /><br />
結局各階の端から端まで見たせいで、とてつもない時間が掛かってしまった。<br />
ホクホク顔のこなたとゲッソリした○○がビルを出たのは、閉店時間も間際だった。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「いや~、満足満足」<br />
「……そか、よかたね」<br />
「ん? 元気ないね? 疲れた?」<br />
「まぁ…。後半は流石にキツかったな…」<br /><br />
(最初はこなたさんが目を輝かせながら、このCDはどうとかこのDVDは良いとか、一生懸命説明してくれてそれはそれで嬉しかったんだけど…)<br />
(流石に同人誌一冊ずつ持って来て説明されるのはキツかったな…)<br />
(…最後は全部同じ人が書いた絵に見えたよ…)<br /><br />
ぐぐっと身体を上に延ばし、気持ちを入れ替える。<br /><br />
(…まぁ、こなたさんも善意でやってくれたんだろうし。楽しそうだったのは見て分かったしね)<br /><br />
「いや~! これで○○くんもオタク街道まっしぐらだね!」<br />
「いや、それはないよ」<br /><br />
即座に否定する○○に、こなたが口を尖らせる。<br /><br />
「ぶーぶー。○○くんつれないなぁ…」<br />
「いやぁ、あの強行軍の中で染まれと言われても…」<br /><br />
そう○○が呟くと、こなたは猫口のまま少し寂しげに眉をひそめた。<br /><br />
「…やっぱり、楽しくなかった?」<br /><br />
言葉のテンションを少し落とし、こなたが呟く。<br /><br />
「一般人には見るとこなんかないもんね…」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">みるみるアホ毛が萎れていくこなたを見て、○○は慌てて否定する。<br /><br />
「いや、楽しかったのは楽しかったよ! でも詰め込み過ぎた感じがして疲れたな~ってだけさ」<br />
「…本当に?」<br />
「あぁ、もちろん。また一緒に来たいくらいだよ」<br /><br />
○○がそう言うと、パッと表情が明るくなる。<br /><br />
「だよね! やっぱ○○くんイイ人だね! また連れて来てあげるから感謝したまへ!」<br /><br />
さっきまでのしおらしさはどこに行ったか、こなたは猫口笑顔で喜んでいる。<br /><br />
(…やれやれ。まぁ、一緒に来るくらいでこんなに喜んでくれるなら、また来ても良いかな)<br /><br />
微笑ましく○○がこなたを見ていると、突然こなたが手を差し出して来た。<br /><br />
「もう遅いから帰ろうか? 送ってあげるよ! だから、はぐれないように手をつなご?」<br />
「…それは男である俺が言うべき台詞だよな」<br />
「気にしない気にしない。こんなイベント滅多にないよ?」<br />
「俺には女の子と手をつなぐ機会は滅多にないと? 二度と無いと?」<br />
「何いじけてんのさ。ほらほら、遅くなっちゃうから早くしたまへ!」<br /><br />
そう言うと、こなたは○○の手を引き歩き出した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「か、勘違いしないでよ! 別にアンタと手を握りたい訳じゃないんだから!」<br />
「…突然何?」<br />
「ツンデレの練習だよ。今度バイト先で『ツンデレDAY』ってのをやるからさ」<br />
「こなたさんバイトしてたっけ? どんなバイト?」<br />
「ただのコスプレ喫茶だよ。良かったら○○くんもおいでよ。サービスするよ~?」<br />
「…何というか…。こなたさんがバイトしてるとことしては、まったく違和感ないね」<br />
「…それどういう意味?」<br />
「気にしない気にしない」<br />
「むぅ…何か引っ掛かるなぁ…」<br /><br />
そんな事を話ながら、こなたは終始手を引きながら○○の前を歩いていた。<br />
そのせいで○○からはこなたの表情は見られなかったが、どこか落ち着きのない雰囲気があった。<br /><br />
「…ねぇ、○○くん」<br /><br />
しばらく歩いていると、こなたが前を向いたまま話し掛けてくる。<br />
握っている手が、どこか汗ばんでいるのを感じた。<br /><br />
「○○くんさ、オタクってどう思う?」<br />
「どうしたの? 突然」<br />
「いや~、今日秋葉原行ったでしょ? その時いろんな人達が居てどう思ったカナ~って」<br /><br />
そう言われて○○は今日を振り返る。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…そういえば、漫画かアニメみたいな女子高生のカッコしてる人いたな)<br />
(…男だったけど…)<br />
(別にそれが悪いとは思わないけど…)<br />
(…やっぱり何か怖いよな…)<br /><br />
人は理解出来ないものに対して、拒絶するか、畏怖してしまう。<br />
○○も、拒絶こそしなかったが、『なぜそんな格好をしているんだろう』と、<br />
疑念と畏怖の混ざった感情を感じていた。<br /><br />
「う~ん…。あまり良いイメージないかな? やっぱり何か近寄りがたいよね」<br /><br />
○○は今日見たごく一部の人に対しての感想を言った。<br /><br />
「…そっか…。……そうだよね……」<br /><br />
それを聞いたこなたは、目に見えてテンションが下がっていた。<br /><br />
「…? どうしたの?」<br />
「何でもないよ。…私用事思い出したから帰るね」<br /><br />
そう言いながらこなたは○○と手を離す。<br />
その瞬間、○○は自分の心から何か大切なものを失ってしまう予感がした。<br /><br />
――今こなたさんを追わないと後悔する――<br /><br />
そんな予感に駆られながらも、○○はどう呼び止めて良いか分からず、ただ走り去るこなたを眺めていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">翌日の土曜日。<br />
自室にいる○○は昨日の事を思い返していた。<br /><br />
(…こなたさん…、何であんなに落ち込んでたんだろう)<br />
(とらのあ○に居た時はあんなに楽しそうだったのに)<br /><br />
そんな事を考えながら、部屋でゴロゴロしていると、玄関のインターホンが鳴った。<br /><br />
「…誰だ…?」<br /><br />
そう○○が呟くと、突然ドアを激しく叩く音が聞こえた。<br /><br />
「○○くん! ○○くん居ないの!?」<br /><br />
外から聞こえてくるのは、かがみの声だった。<br /><br />
「かがみさん!?」<br /><br />
慌てて階下に降りてドアを開ける。もう少し遅かったら、扉がブチ破られていたかも知れない。<br /><br />
「かがみさんどうしたの? こんなに朝早く」<br /><br />
○○が時計を見ると、朝8時を回ったとこだった。<br /><br />
「今日は学校は休みだ――」<br /><br /><br /><br /><br />
バチィン!!<br /><br />
○○の目の前に一瞬火花が散る。かがみにビンタされたと分かるまで、しばらくかかった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…い、いきなり何する――」<br />
「アンタ…昨日こなたに何したのよ!?」<br /><br />
全身に怒気を纏いながら、かがみがとてつもない剣幕で詰め寄る。<br /><br />
「何って…。普通に『○らのあな』で買い物しただけさ。何があったんだよ?」<br />
「…さっきこなた、泣きながら電話してきたのよ」<br />
「――何だって?」<br />
「泣いてたのよ! アンタともう会えないって! 会っちゃダメだって!」<br />
「こなたに何を言ったのよ! …ヒドイ事言ったのなら、私…、アンタを許さないから…!」<br /><br />
目に涙を浮かべながら、かがみは○○を問詰める。<br />
かがみの言葉を受け、○○は昨日のこなたを思い出した。<br /><br />
――随分と楽しそうだった事――<br />
――いつも以上にテンションが高かった事――<br />
――帰り際に見せた悲しげな雰囲気――<br /><br />
思い当たるのは一つしかなかった。<br /><br />
「…昨日の帰りなんだけどさ、その時に『オタクってどう思う?』って聞かれてさ」<br />
「…それで?」<br />
「うん…、『あんまり良いイメージないかな』って」<br />
「…………」<br />
「それと…、『近寄りがたいよね』って」<br />
「もういい…。理由が分かったわ…」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">溜め息をつきながら、かがみはジト目で○○を見る。<br /><br />
「…アンタね…。こなたの質問の意図分からなかったの?」<br />
「いや、ただオタクについて俺がどう思ってるのか知りたいのかと…」<br />
「…半分当たりね」<br />
「…半分?」<br />
「残り半分は自分で理解しなさい。でないと意味がないから」<br /><br />
かがみはそう言うと、改めて○○に向き合う。<br /><br />
「アンタこなたの家分かるわよね? 行って謝ってきなさい」<br />
「…え?」<br />
「謝る理由は着くまでに見つけなさいよ。…ほら、さっさといく!」<br /><br />
かがみに急かされるように、○○は服を着替えて家を出た。<br /><br />
(…何でこなたさん泣いてたんだろう…)<br />
(…かがみさんの話を聞く限り、俺のせいみたいだけど…)<br />
(…でも、俺のせいなら一刻も早くこなたさんの所に行かなくちゃ…)<br />
(理由は何でもいい。とにかくこなたさんに謝ろう)<br /><br />
――こなたが泣いている――<br />
この現実が、○○をこなたの元へ急がせていた。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">こなたは部屋のベッドの上でクッションを抱き抱えていた。<br />
その目線は暗く、宙を彷徨っている。<br /><br />
(…オタクじゃ…、やっぱりダメなのかな…)<br />
(…今までオタクでいた事に後悔なんてなかったけど…)<br />
(…○○くん…、オタク苦手なのかな…)<br /><br />
こなたの中で大きくなり過ぎた想い。<br />
それは桜藤祭までの日々が芽生えさせたもの。<br />
それは○○との時間が育んだもの。<br />
こなたは初めて自分の中を占める感情に戸惑った。<br /><br />
(…何となく感じてたんだ…。私○○くんが好きだって…)<br />
(…だけど…、やっぱり私普通じゃないから…)<br />
(…だから、○○くんにオタクの事を興味を持ってもらおうと思ったけど…)<br />
(…ダメだね、やっぱり…。○○くん一般人だもん…)<br /><br />
こなたは昨日の○○の言葉を思い返していた。<br /><br />
(…どんなにギャルゲやエロゲやってても…。現実だと全然上手くいかないや…)<br />
(当然だよね…。…は…はは…)<br /><br />
探りを入れた問いに返ってきた○○の答えは、こなたには拒絶以外の何にも聞こえなかった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">――あんまり良いイメージないかな――<br />
――何だか近寄りがたいよね――<br /><br />
(…あんな事聞かなかったら良かった…。そうすれば…、こんな気持ちにならなかったのに…)<br /><br />
手を握った時も、かがみから助けられた時も、内心は凄くドキドキしていた。<br />
だから取って付けたようにツンデレの真似をしたり、照れ隠しに含み笑いをしたのだ。<br /><br />
(……もう○○くんに会えないよ……。会いたいけど…話したいけど…)<br />
(泣いちゃう…。きっと泣いちゃうよぉ…)<br /><br />
○○の事を思い返しながら、こなたはクッションに顔を埋めて泣いていた。<br /><br />
自分は拒絶された――<br /><br />
○○の言葉にそんな意図はなかったが、こなたには希望を打ち砕く言葉にしか聞こえなかった。<br />
それでも、こなたの気持ちは止まらなかった。<br /><br />
会いたかった。<br />
話したかった。<br />
例え拒絶されたとしても、それは変わらなかった。<br /><br />
拒絶された現実<br />
○○への想い<br /><br />
それらが混ざり合い、こなたの心を駆け巡る。<br />
こなたは、ただただ流れる涙を止められなかった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「はっ…! はぁっ…! …着いたぁ!」<br /><br />
肩で息をしながら、○○はこなたの家の前にいた。<br /><br />
「…おじさん居なければ良いんだけど…」<br /><br />
そうじろうが出ない事を祈りつつ、○○はインターホンを押した。<br /><br /><br /><br />
ピンポーン<br /><br />
泣き疲れたこなたは、まどろんでいく意識の中でインターホンを聞いた。<br /><br />
(…誰かきた…?)<br /><br />
さっきまで泣いていたせいか、窓に映る自分の顔には涙の跡がついている。<br /><br />
(これじゃ出られないね…。お父さんいないし…。誰だろ? 郵便かな)<br /><br />
そう思いながら窓から覗くと、肩で息をしている○○の姿が見えた。<br /><br />
「うぇ!? ○○くん!?」<br />
驚きとほんの少しの喜びに思わず前のめりになり、したたかに額を窓にぶつけた。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">ゴン!<br /><br />
何かをぶつけたような鈍い音がして上を見ると、うずくまっていくアホ毛が見えた。<br /><br />
(いた! こなたさんだ!)<br /><br />
が、こなたはそのまま窓から見えなくなってしまった。<br /><br />
(どうしよう…、まさか大声出して呼ぶ訳にも…。近所にストーカー扱いされそうだし…)<br /><br />
そう思った○○は周りを見渡し、一つの決意をして行動に出た。<br /><br /><br /><br />
窓の外に居た○○に驚いたが、それ以上に心が締め付けられていた。<br /><br />
(…何で○○くんが…)<br />
(かがみが呼んだのかな…)<br />
(…でも…、だとしてもどうして…)<br /><br />
友達だから来てくれたのかも知れない。<br />
かがみに無理矢理来させられたのかも知れない。<br />
それでもこなたは、○○が来てくれた事に喜びを感じていた。<br /><br />
(…でも…、私は…)<br /><br />
こなたは喜びを即座に否定する。自分はオタクなのだと。○○が嫌うオタクなのだと。<br />
そんな不安定な感情に揺れていると、『コンコン』と窓を叩く音に振り返る。<br /><br />
――会いたくて会いたくて仕方の無かった笑顔がそこにあった―― <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…完全に変質者だな…)<br /><br />
家の隣りに建っている電柱によじ登りながら、○○は自虐的に思う。<br /><br />
(…どうしても会わなきゃいけない…。伝えなきゃいけないんだ)<br /><br />
○○はここに来るまでの道中、こなたに伝える事を考えていた。<br />
その中で行き着いた想い。その言葉を伝える事に必死だった。<br /><br />
(…警察呼ばれるかな…)<br /><br />
雨どいをつたって2階部分へ辿り着く。<br />
中を覗くと、額に手を当ててうずくまっているこなたがいた。<br /><br />
(あの音はおでこをぶつけた音なのかな?)<br /><br />
その様子に少し和みながら、窓をそっとノックした。<br /><br /><br /><br />
少し申し訳なさそうな笑顔の○○が窓の外にいた。<br /><br />
(…通報されるね…。外見が100%怪しい人だよ)<br /><br />
かと言って自分が通報する訳にもいかず、まさか突き落とす<br />
訳にもいかなかったので、窓を開けて○○を入れた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「や、こなたさん」<br />
「…『や』じゃないよ。何しに来たの?」<br />
「かがみさんがこなたさんが泣いてるって聞いてさ」<br />
「それで来たの? 2階から侵入してまで。…○○くん本当にエロゲ主人公みたいだよ」<br /><br />
半ば呆れ、半ば喜びながらこなたが○○を見る。<br />
○○は靴を2階の屋根に置き、こなたの横へ座った。<br /><br />
「やった事ないから賛同しかねるよ。…泣いてたのはホントなんだね」<br /><br />
こなたが慌てて頬を擦る。<br /><br />
「うっ…。こ、これは汗だよ! せっかくの休みだから正拳突きの素振りを100本してたからね!」<br /><br />
しどろもどろに説明するこなたをまっすぐ見ながら、○○はゆっくり口を開いた。<br /><br />
「俺、こなたさんに伝え損ねた事があるんだ。…聞いてくれるかな?」<br />
「…イヤ。シリアス過ぎるのキライ」<br />
「今だけでいいから。――大切な話なんだ」<br /><br />
○○に見つめられ、こなたが押し黙る。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「俺さ、『オタク』ってまだよく分からないんだ」<br />
「男の人が堂々とセーラー服来てたりとか…さ」<br />
「アニメとかなら俺もよく見るよ? だけどああして何かをするってのがよく理解出来ないんだ」<br />
「だけどね? 俺は『理解しない』つもりはないよ」<br />
「これから先、ああいう人達がその格好するのも、良いと思うんだ」<br />
「きっとそこには『やりたいと思った理由』があるはずだから」<br />
「だから俺は、そういう人達の気持ちまで否定しないし、理解もするよう頑張る」<br />
「…だから…。――だから、こなたさんの事も教えて欲しいんだ」<br />
「何でそういうのが好きなのか。きっかけは何だったのか。今どういうのが好きなのか」<br />
「こなたさんの想いと一緒に、全部教えて欲しいんだ」<br />
「…だって俺は…。こなたさんが好きだから。――誰よりも…、大切だから」<br /><br />
いつも側にいて分からなかった。<br />
近過ぎたが故に気付かなかった想い。<br />
○○はようやくそれに気付いたのだ。<br /><br />
「…俺じゃダメかな? その、もっとオタクについて勉強するから!」<br /><br />
身振り手振りを交えて懸命に想いを伝えてくれる。<br />
そんな○○を見て、こなたの目から涙がこぼれていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">だが、それは悲しい涙ではなく、心から自然とわき出た喜びの涙だった。<br /><br />
「…○○くん!」<br /><br />
こなたが○○の胸に飛び込んでくる。<br /><br />
「わっ!? こなたさん?」<br /><br />
顔を○○の胸にすり寄せながら、こなたは小さく呟く。<br /><br />
「…ダメだと思ってた…。○○くんオタク苦手だって言ってたし…」<br />
「私の事も苦手なのかなって…。本当は私といるの迷惑してるんじゃないかなって…!」<br />
「だから…! だからもう○○くんに会えないって思ってた…。会っちゃダメだって…!」<br />
「でも…、でも! 会って良いんだよね? オタクだけど…。こんなにちっちゃいけど…。…胸だってないけど…」<br /><br />
言葉を発していく内に徐々にヘコんでいくこなたを、愛しさを込めて抱き締める。<br />
普通より小さい身体が、○○の腕の中にスッポリ収まった。<br /><br />
「…全部、大好きだよ。こなたさんの気持ち…、教えてくれる?」<br /><br />
優しくこなたの頭を撫でながら、○○は返事を待つ。<br /><br />
「大好き…。大好きだよ…」<br /><br />
小さな身体を押し付けるようにして、こなたは精一杯○○に抱き付く。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「…攻略されちゃったね…。しかもこんなイベント付きで」<br />
「…イベント?」<br />
「ヒロインの家に押し入って告白なんて、ギャルゲにもなかなかないよ?」<br />
「押し入るって…。いや、確かに玄関から入った訳じゃないけどさ」<br />
「んで? この後はどうするの? ベッドあるけど」<br />
「なっ…! 何を言って…」<br /><br />
顔を真っ赤にしながら○○がこなたを見ると、ほんのり頬を赤くしながら、<br />
こなたはいつものからかうような猫口になっていた。<br /><br />
「その前に…」<br /><br />
そう言いながら、こなたは○○へ目を閉じて顔を向ける。<br /><br />
「…何だか緊張するな…」<br />
「もう…! こういう時はリードするもんでしょ? …前も同じ事言ったよ?」<br />
「覚えてるの?」<br />
「なんとなくね。…この距離の○○くんの顔…、見覚えあるし」<br /><br />
改めて○○と目を合わせ、その距離の近さにこなたが真っ赤になる。<br />
恥ずかしそうに目を逸らそうとするこなたの頬に手を当て、奪うように唇を重ねる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「うむぅ!? …うぅ…ん…」<br /><br />
舌をからめお互いの唾液を交換する。しばらく重ねた唇を、惜しむようにゆっくりと離した。<br />
互いの舌先を繋ぐ透明な糸がゆっくり伸びて消えていった。<br /><br />
「…リードするって、こういう事じゃないんじゃない?」<br />
「…ゴ、ゴメン…。可愛かったからつい…」<br />
「…いいよ…別に謝らなくても。……気持ち良かったし……」<br />
「ん? 最後何か言った?」<br />
「言ってないよ! やっぱり○○くんエロゲ主人公に向いてるね」<br />
「向いてるって…。今度そのエロゲを見せてよ」<br />
「エロゲを彼氏と一緒にやるの!? …別にいいけど…」<br />
「そ、彼女と一緒にエロゲをやるの」<br /><br />
『彼氏』『彼女』という響きに、お互いおかしくなって笑い合う。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「いろいろ教えてくれよ? こなたさんの事…」<br />
「…じゃあ…。私の事を『こなた』って呼ぶと、好感度上がるよ?」<br />
「完全にギャルゲのパラメーターだよね。…こなたらしいと言うか…」<br />
「そのうち○○くんにも分かるよ! 沢山教えてあげるからね!」<br /><br />
いつもの猫口ではなく、○○の初めて見る笑顔がそこにあった。<br />
泣く事もあるかも知れない。<br />
怒る事もあるかも知れない。<br />
それでも、この笑顔だけは失う事はないだろう。<br />
○○がこなたに言葉を紡ぐ限り。<br />
こなたが○○に想いを紡ぐ限り。<br /><br />
「○○くん!」<br /><br />
こなたは○○以外に見せる事のない、優しい笑顔に想いをのせてまっすぐに告げた。<br /><br /><br /><br />
「大好き!」<br /><br />
FIN<br /><br /><br />
おまけ 通常ver<br /><br />
かがみは走り去る○○を眺めていた。<br /><br />
(……これで…いいのよね…)<br /><br />
かがみは泣きそうな顔をして微笑んでいる。<br /><br />
「お姉ちゃん…」<br /><br />
呼ばれた声に振り返ると、目に涙を溜めたつかさが立っていた。<br /><br />
「つかさ!? なんでここに?」<br />
「お姉ちゃん朝電話してたでしょ? それで起きちゃったの…」<br /><br />
今にも泣きそうになりながら、つかさが説明する。<br /><br />
「…何で泣きそうになってるのよ?」<br />
「…だって…、だってお姉ちゃん可哀相なんだもん…」<br /><br />
つかさはそう言うと、ポロポロと泣き出してしまった。<br /><br />
「……っ」<br /><br />
つかさに言われて、かがみは言葉に詰まった。 <br /><br />
「…つかささん、泣かないで下さい」<br /><br />
声がした方を見ると、いつの間にかみゆきがいた。<br /><br />
「みゆきまで…。何でここに?」<br />
「つかささんに呼ばれました。…かがみさんの側にいてあげて欲しいと」<br /><br />
みゆきがつかさの頭を撫でながら、かがみに説明する。<br />
戸惑いながらつかさを見ると、みゆきがゆっくり口を開く。<br /><br />
「…かがみさんは、○○さんがお好きだったんですね」<br /><br />
核心をつかれ、かがみは思わず口を噤む。<br /><br />
「…でも、泉さんも大切なんですね」 <br /><br />
――その通りだった。<br />
いつの間にか抱いていた○○への想い。<br />
だが、それと同時に気付いてしまった、こなたの○○への想い…。<br />
二つの想いに気付いてしまってから、かがみはずっと悩んでいた。<br /><br />
こなたは一番と言っていい親友だから。<br />
○○は、どんな人よりも素敵な、想いを寄せた人だから。<br /><br />
二人を見続けて至った結論は、『二人が笑顔でいられるようにしよう』という事だった。<br /><br />
「…私達も分かっていました。…泉さんが○○さんを好きな事も…。<br />
かがみさんが想いを堪えていた事も…」<br />
「…辛かったですね…、かがみさん…」<br />
「…良いのよ…。二人が笑っていてくれれば…。…私は…それで――」<br /><br />
みゆきの言葉に、押さえていた想いが溢れ出す。<br />
最後は最早言葉にならなかった。溢れる涙を押さえながら、かがみはその場に泣き崩れた。 <br /><br />
つかさは泣き崩れるかがみの頭をかき抱いて、一緒に泣いていた。<br /><br />
「お二人共、そんなに泣かないで下さい…」<br />
「…うん…分かってる…。あの二人が上手くいったら、笑顔で祝福しなきゃね」<br /><br />
目をこすりながら、かがみが笑顔を作る。<br /><br />
「お姉ちゃん…」<br />
「ほら、つかさも…、もう泣かないの。私も泣かないから。…笑顔でいるから」<br /><br />
かがみにそう言われ、溢れそうになる涙をつかさは懸命に堪える。<br />
その様子をかがみは可愛く思い、つかさの頭を優しく撫でる。<br /><br />
「ありがとうね、つかさ…。みゆきも、ありがとう…」<br />
「ううん、どういたしまして。…えへへ…」<br />
「お気になさらずに。大切な友達ですから」<br />
「うん…、ありがとう。何でつかさは嬉しそうなのよ?」<br />
「…えっとね、お姉ちゃんに撫でられるのが気持ち良くて…」 <br /><br />
「まったく…。子供ね。まぁつかさらしいけどね」<br />
「うふふ。…そうです、良かったら私の家でクッキーを食べませんか?<br />
先日知り合いから美味しいものを頂いたんですよ」<br />
「いいわね、今日はのんびりとお茶会で楽しむのも」<br />
「じゃあ私クッキー焼いて行くね。昨日下準備してたからすぐだよ」<br />
「準備いいわね。じゃあ、後でみゆきの家に行くわね」<br />
「はい、お待ちしていますね」<br /><br />
そう言って3人は一度別れ、正午から優雅にお茶会を楽しんでいた。<br />
後日、失恋のせいもあって、お茶会でクッキーと出されたケーキを食べ過ぎ、体重が○kg増えたかがみが、<br />
○○に八つ当たり気味に往復ビンタをお見舞いしたのは、また別のお話。<br /><br /><br />
FIN<br /></font><font size="1"><br /><br />
おまけ 別ver<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好き!」<br /><br /><br />
ドアの外にまで溢れる甘い空気を、目を血走りながら蹴散らしている影があった。<br />
家主であり、泉こなたの父親、泉そうじろうである。<br /><br />
(お~の~れ~! こなたの部屋に付けた盗聴器から男の声がしたから急いで帰ってきてみれば…)<br />
(何だあの男は! 俺のこなたに告白した上に、だ…大好きなんて言わせやがって~!)<br /><br />
そうじろうは、体液を撒き散らしながら怒り狂っている。<br /><br />
(まったくです! 俺の○○に抱き付きやがって! 泉のヤツめ~)<br />
(…君は誰だ)<br />
(WAWAWA…っと、どうも! 白石ッス!)<br />
(どうやって入って来た? …いや、それより抱き付いているだと!?)<br />
(えぇ! お互い抱き合っていますね。…○○の腕の中は、俺の予約席なのにぃ~!)<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(ぐぬぬぅ…! よくもよくもよくもぉ~! こうなっては自らの手で天誅を下さねば…)<br />
(…ところで、ちなみに何で中が分かるのだ?)<br />
(○○の事なら何でも分かるんです!)<br /><br />
得意気になる白石を異物を見るような目で一瞥すると、手首を回し突入の準備をする。<br /><br />
(待っていろよこなた! 今助けてやるからなぁ!)<br />
(○○! 俺の愛を受け止めろぉ!)<br /><br />
バンッ! と扉を開けて中に踏み込むと、ベッドの上に避難した○○と、<br />
部屋の真ん中で仁王立ちしているこなたがいた。<br /><br />
「こなた! 無事か…あ?」<br />
「…よく来たな…」<br />
「…と、闘気が不動明王を形作ってる…」<br />
「扉の外で何を騒いでいるかと思ったら…」<br /><br />
ジリッ…。っとこなたが間合いを詰める。<br /><br />
「娘の部屋に盗聴器を仕掛けて…。さらには○○くんに危害を加えようとは…」<br />
「な、なんでそれを…? お、落ち着けこなた。お父さんはただ心配で…」<br />
「危害じゃない! 愛の形だ!」<br />
「君は黙っていろ! ほ、ほら。落ち着いて闘気を…」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「もういい…。テメー等は泉こなたが直々にぶちのめす」<br /><br />
言葉の迫力とオーラに二人が思わず縮こまると、その瞬間にこなたの姿がいなくなる。<br /><br />
「ど、どこに…」<br />
「…こっちだよ…」<br /><br />
言葉が聞こえる方へ視線を下げると、拳を右脇に構えたこなたがいた。<br /><br />
「はぁっ!!」<br /><br />
気合一閃。正拳突きをそうじろうの股間にねじ込む。<br />
突いた拳を脇に引き戻した動作から遅れて、「ズドンッ」という鈍い音がした。<br /><br />
「…そんな…、音が正拳突きの引き手より遅れて聞こえるなんて…」<br /><br />
そうじろうは糸の切れてマリオネットのように崩れ落ちた。<br /><br />
「ひぃぃ…!」<br /><br />
おびえる白石にこなたがゆっくり近付く。<br /><br />
「許して下さい! もう○○には近付かないから!」<br />
「そう…、本当に○○くんに近付かないんだね?」<br />
「近付きません! 近付きませんから命だけは…」<br />
「だ が 断 る !」<br /><br />
絶望に染まる白石に五連中段突きを叩き込み、白石は「ぶべらぁ!」と声を上げながら窓から吹き飛んでいった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「二度と○○くんに近付くなぁ!」<br />
「…こなた強いんだなぁ」<br />
「まぁ、格闘技経験者だしね。何より、『愛』の力だよ!」<br />
「…何だか恥ずかしいな…。でも、ありがとう」<br /><br />
床に倒れているそうじろうを無視して、こなたと○○は愛の空間を展開していった。<br /><br />
『あらあら…。恋する女の子は強いのね。こなた、あんまりそうくんをいじめちゃダメよ?』<br />
『それと、○○くんでしたっけ。二人共末永くお幸せに。こなたをこれからもずっとよろしくね?』<br /><br />
その部屋に居た優しい存在は、二人に気付かれないまま、ゆっくりと消えていった。<br /><br />
後日、○○に「一回だけ!」と迫る白石に、こなたが瞬獄殺を10連続で叩き込んだのは、また別のお話。<br /><br />
FIN</font></dd>
<dt><br /><br /></dt>
</dl>
2009-02-09T00:50:01+09:00
1234108201
-
~ひかるの恋心~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/225.html
<dl><dd><font size="1">教室に板書する音が響く。<br />
黒板に向かってチョークを走らせているのは、生物教師の桜庭ひかるだった。<br /><br />
「…と、まぁこんなとこだ。分からないとこがあったら聞きに来い」<br /><br />
どこか適当な感じもするが、板書された内容は丁寧で、途中に挟んだ解説も至極分かりやすいものだった。<br /><br />
(適当に見えてちゃんと授業になってるんだもんな…)<br /><br />
手に付いたチョークを払う桜庭先生を、○○は敬意の想いを込めて眺めていた。<br />
桜庭先生がチラリと時計に目をやると、ちょうど終業のチャイムが鳴った。<br /><br />
「お、ちょうど終わりか。では、今日はこれまで」<br /><br />
教室から出る桜庭先生の姿を目で追いながら、○○は物思いに耽っていた。<br /><br />
(クールで理知的で…。でも可愛いところもあって…)<br /><br />
○○は桜藤祭前の事を思い出していた。<br />
時間がループする中で、扉を開ける度に場所や時間が飛ばされるという体験をしていた時を。<br />
その時に見回りをする黒井先生と桜庭先生を脅かした事があったのだ。<br /><br />
(…普段の先生からは考えられなかったな…。あんなに慌てて…)<br /><br />
その時を思い出しながら、普段とのギャップに愛しさを覚える。 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">(…何故か天原先生の名前を呼んでたけど)<br />
(意外と結婚願望が強いのかな? …いや、天原先生と結婚したがってる…? ――いやいやまさか)<br /><br />
信じられない…、と言うよりは信じたくないという気持ちを込めて否定する。<br /><br />
(…ギャップに弱かったのかな…、俺…。こんなに桜庭先生が気になるなんて…)<br /><br />
鞄を取り出し、教科書を入れながら二つの顔を思い返す。<br />
いつも理知的で、クールな桜庭先生。<br />
桜藤祭前に見せた脅かされて慌てる桜庭先生。<br />
その二つを想い○○が胸をときめかせていると、みゆきが話し掛けてきた。<br /><br />
「○○さん? 顔が赤いですよ? 風邪をひかれたのですか?」<br /><br />
そう言いながら、心配そうな顔をしている。<br /><br />
「え? いや、そんな事ないんだけど、赤くなってるかな?」<br />
「ええ、もし体調が悪い様でしたら、一度保健室へ寄られてはいかがですか?」<br />
「大丈夫だよ。ちょっと暑いだけだから」<br />
「ダメダメ! 私が看病してあげるよ! 感謝したまへ!」<br /><br />
いつの間にかこなたがみゆきの後ろに来ていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「こなたさん居たの? みゆきさんの影で見えなかった」<br />
「ひどっ! う~…。確かに縦も横も足りて無いけどさ…」<br />
「いや、悪気があった訳では…」<br />
「泉さん? …『横』とはどこの事でしょう?」<br /><br />
こちらからはみゆきさんの表情は見えないが、相対しているこなたさんの表情を見ると、<br />
この世の終わりの様な顔をしている。<br /><br />
(…見える…。みゆきさんの周りの空間が歪んでいくのが…)<br /><br />
間に入らないと、こなたさんがとんでもない事になりかねないと思った時――。<br /><br />
「でもホントにお熱はない? 顔赤いよ?」<br /><br />
○○の視線の外から、つかさが額に手を伸ばしてきた。<br /><br />
「ん…。ちょっと熱いよ? 良かったら明日お見舞いに…」<br />
「つかさ! 抜け駆け…じゃない。何してるのよ!」<br /><br />
いつの間にかつかささんの隣りにかがみさんもいた。<br /><br />
「…抜け駆け…?」<br />
「な、何でもないわよ。気にしたら負けよ?」<br />
「むぅ…、イベントを起こそうとしてるのは私だけではなかったか…」<br />
「…イベント…?」<br />
「何でもないのだよ。気にすると禿げるよ?」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「さっきから気にすると散々だな。…でも何だか頭クラクラしてきたし…、保健室寄ってから帰ろうかな…」<br /><br />
そう言って立ち上がると、4人が一斉に声を上げる。<br /><br />
「付き添ってあげるよ!」<br />
「仕方ないわね…。付き添ってあげるわよ。…か、勘違いしないでよ!?」<br />
「私に付き添わせて欲しいな…」<br />
「何でしたら世界的権威をお呼びいたしますよ?」<br /><br />
4人が同時に口を開いたので○○にはよく聞き取れなかったが、<br />
4人には言葉が聞こえたようで、お互いをじっと見ている。<br /><br />
(…見える…。4人の間の空間が歪んでいくのが…)<br /><br />
ここに居ては危険と判断した○○は、4人を置いて保健室へと急いだ。<br /><br /><br /><br />
保健室の前まで来ると、中から話し声が聞こえる。<br /><br />
(桜庭先生だ。天原先生とおしゃべりしてるのかな?)<br /><br />
中に桜庭先生がいると思うと、思わず胸が高鳴る。軽く深呼吸しつつ、○○は扉を開けた。<br /><br />
「失礼しまーす」<br /><br />
そう言いながら入ると、少し頬を赤くしながらこっちを見ている桜庭先生と、<br />
いつものニコニコ顔が5割増しになっている天原先生がいた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…○○! いつからそこに居たんだ!?」<br />
「…今来たんですが? どうかしましたか?」<br /><br />
○○がそう言うと、桜庭先生は幾分落ち着きを取り戻した。<br /><br />
「…そうか…。いや、なら良いんだ。ところで、何か用事か?」<br />
「いえ、頭がクラクラするので…、帰る前にちょっと診てもらおうかと」<br />
「…だそうだ、ふゆき」<br />
「桜庭先生に用がなくて残念ですね。良ければ桜庭先生が診てあげてはどうですか?」<br />
「私の専攻は生物学だぞ」<br />
「生物の事ですよ?」<br />
「医学とは別物だ! …早く見てやれ」<br />
「はいはい。それで、○○くんどうしましたか?」<br /><br />
桜庭先生に急かされながら、天原先生がニコニコ顔のまま聞いてくる。<br /><br />
「いえ、何だか熱があるような気がするんです。頭もクラクラするし…」<br />
「あらあら、それは大変ですね。じゃあちょっとお熱を計ってみましょうか」<br /><br />
そう言いながら、天原先生は体温計を――何故か桜庭先生に渡している。<br /><br />
「では桜庭先生、彼の熱を計ってあげて下さい」<br />
「…何で私なんだ?」<br />
「お暇でしょう?」<br />
「…いや、そうゆう問題では無くてな…」<br />
「私は書類を取って来るので。お願いしますね?」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">有無を言わさぬペースで桜庭先生に体温計を押し付け、<br />
天原先生は保健室を出て行った。<br /><br />
「…まったく…、ふゆきのヤツ…」<br />
「…あの、体温計貸してもらえますか? 自分で出来ますし」<br /><br />
そう○○が言うと、桜庭先生は一瞬寂しげに眉をひそめたが、何事も無かった様に体温計を渡した。<br /><br />
「…約5分挟んでおけよ」<br />
「はい、分かりました」<br /><br />
体温計を脇に挟んでじっとしている。保健室の時を刻む音だけが響く。<br /><br />
(…何だこの間は…。せっかく桜庭先生といるんだし…、何か話さないと…)<br /><br />
そう思い必死に話題を探していると、桜庭先生から声を掛けてきた。<br /><br />
「どうだ? 授業で分からないところはなかったか?」<br />
「あ、はい。大丈夫です。先生の授業は適当に見えて凄く分かりやすいですよ」<br />
「適当とはなんだ、適当とは」<br />
「いや、凄いなって思ってるんですよ! ただ、たまにメチャクチャ難しい<br />
話に飛ぶと流石に分からなくなるんですが…」<br />
「難しい?」<br />
「ほら、この前言ってた『シュレーディンガーの猫』とか」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「あぁ、あれか。なに、そんなに難しく考える事は無い。<br />
要は『思い込みはダメだ』ということだ。それが分かっていれば問題無い」<br />
「う~ん…、思い込みですか…」<br /><br />
そんな話しに夢中になっていると、体温計が音を鳴らして計り終えた事を知らせる。<br /><br />
「貸してみろ。…37度8分か。微熱より高いぞ、今日は早く帰れ」<br />
「思ったより熱があったんですね…」<br />
「そうだな、明日も下がらないようなら休むんだな」<br />
「はい、それでは帰りますね」<br />
「あぁ…。…おい、○○」<br /><br />
不意に呼び止められ、扉の前で振り返る。<br /><br />
「はい?」<br />
「…あ~、その、なんだ。…気をつけて帰れよ」<br /><br />
しどろもどろになりながら、桜庭先生はそう言った。<br /><br />
「はい、それじゃあ失礼しますね」<br /><br />
そう言いながら、○○は保健室を後にした。<br /><br /><br /><br /><br />
○○の出て行った扉を眺めながら、ひかるは体温計を綺麗にして元に戻す。<br />
しばらくすると、手ぶらのふゆきが戻ってきた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…書類を取りに行ったんじゃなかったのか?」<br />
「あらあら、忘れちゃいましたね」<br /><br />
にこやかに笑いながら、ひかるはしれっと言いのける。<br /><br />
「…余計な事をするな。私はもう諦めはついてる」<br />
「随分と早いんですね、諦めるのが。何も始まってないというのに」<br />
「…早くなどない…桜藤祭から――。いや、もう少し前から抱いていた想いなんだからな」<br /><br />
悲しげな目をしながら、ひかるは俯く。<br /><br />
「まさかこの歳で本気の恋愛をしようとはな…。おまけに相手は年下の…、<br />
しかも生徒だ。こんな数式、どんな学者にも解ける訳がないだろう…」<br />
「だから、解くのを諦めるんですか?」<br />
「唯一導き出せる解はそれだけだろう。…それに…、私の想いなどアイツにとって迷惑以外の何でもない」<br /><br />
寂しげに、吐き捨てるように呟くひかるを、ふゆきはニコニコ顔のまま見ていた。<br /><br />
(…ひかるちゃんは意外と自分の事に関しては鈍いから…。そこに敵対心があったら感付くのに…。<br />
敬愛と恋慕に対してはまるっきり気付かないのかしら…?)<br /><br />
そう考えながら、ふゆきははゆっくり立ち上がる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「お茶にしましょう? 温かいお茶は気持ちを落ち着かせてくれますよ」<br />
「…そうだな。下手に動揺したままではマズいしな」<br /><br />
二人はお茶を飲みながら、暫くの静かな時間を過ごし、それぞれの仕事を切り上げて帰路についた。<br /><br /><br /><br /><br />
翌日。<br />
○○は自室で冷えピタを張って寝込んでいた。<br />
帰ってからさらに熱が上がり、最終的には38度を超えてしまった。<br />
流石に学校へ行くは厳しいだろうと、黒井先生に病欠を伝え、休んでいたのだ。<br />
どれだけ眠っていただろうか。<br />
夢か現実か分からない中、額に手をあてがわれる感触を感じた。<br /><br />
(…母さん…?)<br /><br />
優しい手つきで○○の額を撫でている。その仕草から、心配している事がありありと伝わった。<br /><br />
(…母さん…。ありがとう、俺は大丈夫だよ…)<br /><br />
そう呟きながら、額にあてられている手をギュッと握る。<br />
すると、手がビクッと強張るのを感じた。<br />
やけに現実味のある手の感覚に、ゆっくりと目を開けると、そこには困ったような顔をした桜庭先生がいた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…先生…?」<br />
「あ…あぁ、体調はどうかと思ってな」<br />
「…何でここに…?」<br />
「時計を見ろ。もう夕方だぞ」<br /><br />
言われて壁に掛かっている時計を見ると、既に夕方も6時になろうとしていた。<br /><br />
「随分寝てたんだ…。…お見舞いに来てくれたんですか?」<br />
「ま、まぁな。ふゆきに急かされて様子を見に来たんだが…」<br /><br />
そう言うと、桜庭先生は困ったような顔のままそわそわしている。<br /><br />
「さっき軽く計ってみたが、熱は大分下がったようだな。…だから…、その…、手を離してくれないか?」<br /><br />
言われて自分の手を見ると、右手が桜庭先生の手をしっかりと握っていた。<br /><br />
「…あれ? …そうか、母さんの手かと勘違いしてた…」<br />
「なんだ? お前は普段から母親の手を握っているのか?」<br />
「ち、違いますよ!」<br />
「それに…、幾らなんでも母親に間違われるとはなぁ…」<br />
「だから違いますって。何だか夢の中にいるような感覚だったので…」<br /><br />
顔を赤くしながら○○が弁解する。<br /><br />
「まぁ何でもいい。ほら、手を離せ」<br /><br />
じっと握っている桜庭先生の手を見ていて、○○は首を横に振る。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…何だか落ち着くんです…。だから、もう少しだけこのままで居て下さい」<br />
「…そうしてやりたいのは山々だが、水を持って来れないだろう」<br /><br />
そう言うと、桜庭先生はゆっくりと手を解くと立ち上がる。<br /><br />
「待っていろ。水を取って来るから」<br /><br />
部屋を出て行く桜庭先生を、○○はぼやける視界で眺めていた。<br /><br />
(…先生…)<br />
(…なんで来てくれたんだろ…?)<br />
(天原先生に急かされたからって…)<br />
(わざわざ来てくれるものかな…?)<br />
(―――先生…。…早く帰って来て下さい…)<br />
(寂しいよ…先生…、先…生…)<br /><br />
風邪をひいているせいか、一人の時間が恐ろしく心細かった。<br />
このままずっと一人なのではないかと不安に心が締め付けられ、気付くと○○は涙を流していた。<br /><br /><br /><br /><br />
(…どうする…。どうすればいいんだふゆき!)<br /><br />
コップに水を汲みながら、ひかるは難しい顔をしていた。<br /><br />
(ふゆきの有無を言わせない迫力に押されて来たはいいが…)<br />
(私に出来る事などこれくらいだぞ…?)<br /><br />
ひかるはコップをおぼんに置き、揺れる水面を眺めながら今日の昼休みを思い出していた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">『今日は○○くんはお休みですよ?』<br />
『何で知っているんだ』<br />
『保健教員ですから』<br /><br />
うふふと笑うふゆきをひかるは肩を竦めて一瞥する。<br /><br />
『…で? お見舞いは行かないんですか?』<br /><br />
出されたお茶を口に運びながら、ひかるは首を振る。<br /><br />
『生徒が休んだだけだぞ? それに黒井先生によると、風邪による病欠なだけだ』<br />
『でも○○くんは今お家に一人なんですよ?』<br />
『ご両親は共働きなのか?』<br />
『いいえ。昨日から町内会の旅行だそうですよ。帰宅は明後日だそうです』<br />
『…だから何でそれをお前が知ってるんだ…』<br />
『行き先もお聞きしますか?』<br />
『いや、いい…。知るのが怖い』<br /><br />
ふゆきに畏怖しながらお茶を飲み干す。○○は心配だが、自分が行ったところで出来る事はたかが知れている。<br /><br />
『ごちそうさま。…ふむ、午後は授業はないし、書類の整理をして…』<br />
『はい、桜庭先生』<br /><br />
そう言いながらひかるは一枚の紙を差し出した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">『…何だこれは?』<br />
『○○くんの家までの地図ですよ。お見舞い行かれるんでしょう?』<br />
『お前は話を聞いて無かったのか? 午後は…』<br />
『行かれるんでしょう?』<br />
『だから…』<br />
『…行くんですよね?』<br />
『…あぁ、分かったよ。だからオーラを出すな』<br /><br />
やれやれと溜め息をつきながら、ひかるは腰を上げる。<br /><br />
『だが、私が行っても何も出来んだろう?』<br />
『そんな事はありませんよ? …きっと一番の薬になると思いますよ』<br /><br />
いつも通りのニコニコ顔のままで、意味ありげに呟く。<br /><br />
『…うん? 何か言ったか?』<br />
『いいえ? 何も♪ それよりちゃんと行くんですよ? お薬やお水を出してあげる事は出来るでしょう?』<br />
『…まぁな。分かった、放課後行くよ』<br /><br />
(…これで出来る事はすべてだぞ…? やはり来た意味はなかったんじゃないのか?)<br /><br />
おぼんにふゆきから貰った薬と水を持って、○○の部屋へと戻る。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「薬を持ってきた…ぞ…?」<br /><br />
そこまで言ってひかるは目を疑った。○○が仰向けのままで泣いていたのだ。<br /><br />
「ど、どうした!? どこか痛いのか? 頭か? 腹か?」<br />
「うっ…ひっく…。ち、違うんです…」<br />
「先生が部屋から出て行ったら…、急に寂しくて…、心細くて…」<br /><br />
ひかるは机におぼんを置き、○○の元へ駆け寄る。<br /><br />
「…心配するな。私はここにいる」<br />
「…すみません…、先生…」<br /><br />
○○の額を優しく撫でてやる。どうすれば落ち着くのか分からなかったが、<br />
ただ泣きながら震える○○が愛しくて堪らなかった。<br /><br />
しばらくそうしていると、○○が口を開いた。<br /><br />
「…先生…。昨日の『シュレーディンガーの猫』の話を覚えていますか…?」<br />
「あぁ、覚えているぞ」<br />
「あの時…、先生は『思い込みはダメだ』と言ってました」<br />
「…俺…、このままじゃきっと、桜庭先生の事を思い込んで勘違いしてしまうから…」<br />
「勘違いしたままの独り善がりなんて嫌だから。…だから…伝えます」<br />
「俺は…桜庭先生が好きです」<br />
「…桜庭先生の気持ち…、俺に教えて下さい」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">真剣なまなざしで自分を見つめる○○に、ひかるは言葉を失っていた。<br /><br />
――自分は今告白されているのか?<br />
――しかし…、この告白を受けていいものか?<br />
――私と○○は教師と生徒。<br />
――それでなくても歳が大きく離れている。<br />
――それに、風邪による気の迷いかも知れない。<br /><br />
様々な推測と思いがひかるの中で浮かんでは消えていく。<br />
ひかるの戸惑いを感じた○○は、さらに言葉を重ねる。<br /><br />
「…俺は、風邪をひいて心細いからじゃないです。看病されたからじゃないです。<br />
――ずっと前から、貴女が好きでした。そして、これからも貴女が好きです」<br /><br /><br /><br /><br />
――ひかるが思い悩んだ全ての解がその中にあった。<br /><br />
「…お前…本気か? 本気で私が…好きなのか?」<br />
「本気で好きです。大好きです」<br />
「…わ、私は…、私は――」<br /><br />
そう言いながら、ひかるは一筋の涙を流していた。<br /><br />
「…ふふっ。意外と乙女だったのかもな、私は」<br />
「先生…」<br />
「あぁ…、問われたのなら、答えが必要だな」<br /><br />
そう言うと、ひかるは○○の頭を優しく抱き締めた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「私も…好きだぞ。生徒としてではなく、一人の男性として…」<br /><br />
そう言いながら、○○の頭を優しく撫でる。<br />
○○もひかるの背中へ、ゆっくりと手を回した。<br /><br />
「俺…、俺凄い嬉しいです…!」<br />
「なんだ大袈裟だな。この程度で嬉しいのか?」<br /><br />
○○は顔を赤くして慌てる。<br /><br />
「ち、違いますよ! 先生と両想いになれたのが嬉しいんです! べ、別に抱き締められる事では…」<br />
「抱き締められるのは嬉しくないのか?」<br />
「…嬉しいです…」<br /><br />
そう呟く○○を、ひかるは愛しさを込めて見つめていた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「だが○○。まだ私とお前が教師と生徒なのは変わらん。そこはキッチリ区別するぞ?」<br />
「はい、もちろんです」<br />
「…でもな、『今』この時は私とお前の二人だけなんだ」<br />
「…だから、今だけは私を名前で呼んでくれないか…?」<br />
「…はい、喜んで! 愛しています、ひかるさん…」<br />
「…随分恥ずかしいものだな…」<br />
「ひかるさんは?」<br />
「…愛しているよ。当たり前だろう?」<br /><br />
そう言いながら、お互いの身体を強く抱き締める。<br />
人の想いは科学や数式では分からない。<br />
言葉で、温もりで初めて理解出来るものである。<br />
長らく悩んだその解を、ひかるは喜びと共に伝える。<br /><br />
「…○○…」<br /><br /><br /><br />
「大好きだぞ!」<br /><br />
FIN<br /><br /><br />
おまけ<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好きだぞ!」<br /><br /><br /><br />
甘い空気を醸し出す○○の部屋の外に、扉に張り付く複数の影があった。<br /><br />
(…出遅れた~! せっかくのイベントチャンスが…)<br />
(それどころじゃないでしょ! ○○くんが桜庭先生を好きだったなんて…)<br />
(え~? ○○くん年増が好きなの~?)<br />
(…そばかすがぁ…っ)<br /><br />
こなた、かがみ、つかさ、みゆきがそこに居た。<br /><br />
(生徒と教師…。素晴らしいネタだけど…、書いたらいろいろマズいような…)<br />
(OH! ○○は年上好きネ!?)<br />
(そんな…先輩ぃ…)<br />
(泣かないでゆたか…。あのツインテール切り落としてくるから…)<br /><br />
チェーンソー片手に乗り込もうとするみなみを、7人が取り押さえる。<br /><br />
(い、岩崎さん! 流石にそれはマズいッス!)<br />
(それに、○○くんが選んだんだよ? そんな事したら○○くん悲しむでしょ!)<br /><br />
かがみがそう説くと、全員納得いかないながらも、静かになる。<br /><br />
(…でもさ~。いいの? かがみんは○○くんを取られたままで)<br />
(…いいもなにも…。○○くんが…)<br />
(恋愛は自由なんですよ?) <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…みゆきが言うと何だか怖さがあるわね…)<br />
(気のせいですよ? うふふ…)<br />
(…だけど…やっぱり…)<br />
(柊先輩…。恋愛は戦いなんですよ?)<br />
(ゆたかちゃん、たくましくなったわね…)<br />
(…で、どうするかがみ?)<br />
(私達はこれから宣戦布告してくるよ、お姉ちゃん)<br />
(…ま、待ちなさいよ! …私も諦めないんだから!)<br />
(…では皆さん、行きましょうか)<br /><br />
みゆきがドアノブに手を掛けた瞬間、8人は背後の殺気と闘気に背筋を凍らせた。<br /><br />
(…皆さん? 何をしているのですか?)<br /><br />
8人がゆっくり振り向くと、空気を震わせながら、笑顔の天原先生がそこに居た。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(あ、天原先生? いつのまに…)<br />
(さっきからですよ? …もう一度聞きます。『な に を し て い る の で す か ?』」<br /><br />
その単語を発した瞬間、天原先生を中心に闘気が放たれる。<br />
闘気にあてられた8人は、押し潰されそうになるのを堪えて、皆しゃがみ込む。<br /><br />
(…さあ、帰りましょう? 皆さん)<br />
(…で、でも…)<br />
(…帰りましょう?)<br /><br />
再び闘気をぶつけられ、8人は完全に心が折れてしまった。<br /><br />
(…はい…)×8<br />
(良い子達ですね。では帰りましょうか)<br /><br />
ぞろぞろと降りていく8人を眺め、天原先生は闘気を収める。<br /><br />
(…あとは二人の問題ですね。…末永くお幸せに♪)<br /><br />
扉を一瞥して、ふゆきは階下に降りていった。<br />
この後二人は天原先生の闘気にあてられ、折り重なって気絶したまま○○の両親に見つかり、<br />
弁解したものの、その場で婚約させられたのはまた別のお話。<br /><br />
FIN</font></dd>
<dt><br /><br /></dt>
</dl>
2009-02-09T00:41:42+09:00
1234107702
-
~かがみの涙~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/224.html
<dl><dd><font size="1">キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…。<br /><br />
「ほな今日はこれまで。ちゃんと予習しときや?」<br /><br />
お昼前の最後の授業が終わり、皆空腹を満たすために動き出す。<br />
学食を利用する人、購買で買う人、弁当を取り出す人など様々だ。<br /><br />
「ぬぅぅぅ~…んっ!」<br /><br />
大きく身体を伸ばし、授業で凝り固まった関節をほぐす。<br /><br />
「すっごい伸びるね。まさか○○くんゴム人間?」<br />
「君は何を言ってるんだ?」<br /><br />
弁当を持ったこなた、つかさ、みゆきが○○の机にやってきた。<br /><br />
「ジョークだよ、ジョ~ク。…そんなに素で返さないでよ」<br /><br />
いじけたようにこなたさんが口を尖らせる。<br /><br />
「まぁまぁお二人とも」<br /><br />
みゆきさんがやんわりと仲裁する。その傍らでつかささんが机を繋げて座る準備をしていた。<br /><br />
「お腹空いたね~。早く食べようよ~」<br />
「つかさ待ちなって。まだかがみが来てないよ」<br />
「お姉ちゃん今日は購買で済ますって。さっきメール来てたよ」<br /><br />
弁当箱を開けながらつかささんが言った。どうにも我慢出来ないくらいお腹が減っているようだ。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「むぅ…、さてはまたダイエットだな…。桜藤祭が終わって気が抜けたね」<br />
「こ…、こなちゃんあんまりそういう事大声で言わない方が…」<br />
「でも食欲の秋って言うからね。いろいろ美味しいものが旬を迎えるし、つい食べちゃうのも分かるな」<br /><br />
そう言いながら、○○は摘んだおかずを口に運ぶ。<br /><br />
「でもかがみさん、言うほど太ってないと思うけどなぁ」<br />
「甘いね○○くん。見て判らない部分が太ってきたんだよ」<br />
「そうなのかな? 少しくらい丸みのある方が女性らしくていいのに」<br /><br />
○○がそう言うと、こなたがいきなり白石に声を掛けた。<br /><br />
「セバスチャン! 購買でチョココロネ10個買って来て!」<br />
「わ、私メロンパン10個!」<br /><br />
突然の命令に戸惑いながら購買へ向かう白石を横目に、みゆきさんが電話をかける。<br /><br />
「もしもし? ピザ○ラさんですか? LLサイズのピザ10枚お願いします」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…皆どうしたの? ってかピザ10枚はどうするの? 投げるの?」<br />
「いや~、何だか急にお腹が減ってね~」<br />
「メロンパン大好きなの~」<br />
「ピザとコーラは至高の組み合わせですよ?」<br />
「そうなんだ…? ピザとコーラに関しては同意だけど」<br /><br />
暫くして机の上はパンとピザで埋め尽くされていた。<br />
凄まじい勢いで平らげる3人を眺めながら、○○はかがみの事を考えていた。<br /><br />
(かがみさんは特に体重気にしてたしなぁ…)<br />
(あの時みたいに無理しなきゃいいけど…)<br /><br />
○○はつかさの弁当と入れ替わっていた「カロリーメイト弁当」と、<br />
「ウィダーインゼリー弁当」を思い返していた。<br /><br />
(…やっぱり様子を見てこよう)<br /><br />
そう思いたった○○は、いつの間にか半分以上平らげられた<br />
机の上に驚きながら、教室を出てかがみを探した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">(仮に購買で買ったとして…、どこで食べるか…)<br />
(周りに食べてる人が多いと、食べても満足出来ない可能性がある…)<br />
(あまり人がいなくて…、何も考えずに居られる場所…)<br />
(…屋上かな…?)<br /><br />
そう考えて屋上へ上がると、角の方でうずくまるようにしているかがみが居た。<br /><br />
「かがみさん?」<br />
「…え…? ……なっ! 何でアンタがここに居るのよ!」<br />
「探しに来たんだよ。お昼にいなかったから」<br /><br />
そう言いながら、○○はかがみの横に腰を下ろす。<br /><br />
「座っていい?」<br />
「…座ってるじゃない。まったく…」<br /><br />
少し頬を赤らめて、かがみはそっぽをむく。<br /><br />
「…ダイエットだって?」<br />
「……!! 誰に聞い――!…あっ」<br /><br />
今度は目に見えて顔が赤くなる。慌ててかがみは○○から顔を逸らす。<br /><br />
「…ホントなんだ? かがみさん別に太ってるように見えないけどな」<br />
「う、うるさいわね! 私の勝手でしょ!」<br />
「…まぁ…、そうなんだけどさ」<br />
「…心配なんだよ? 桜藤祭の時みたいに、とんでもない食生活しそうで」<br />
「カロリーメイト弁当とか、ウィダーインゼリー弁当とかさ」 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「うっさい! …ってか、早く忘れてよそんなの!」<br />
「あはは、ゴメンゴメン」<br />
「…まったく…。……アンタのせいなんだから……」<br /><br />
「…え? 何か言った?」<br />
「何でもない! ほら、お昼休み終わるわよ? 私は先に戻るからね!」<br /><br />
そう言うと、かがみさんは屋上から出て行ってしまった。<br /><br />
「…? 何って言ったんだろ…?」<br /><br /><br /><br /><br />
屋上から戻る道中、かがみは複雑な心境だった。<br /><br />
(アイツ、私の事心配してくれてるんだ…)<br />
(…だけど…、これだけは止める訳には…)<br /><br />
そう思いながら、かがみは数日前の事を思い出した。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">こなた達と一緒に帰ろうと教室へ向かうと、廊下で白石と会話する○○がいた。<br /><br />
「なぁ、○○は大きいのと小さいのはどっちが好きなんだ?」<br />
「ん~、大きいのかな。ってか表現違くないか?」<br />
「気にするなよ。じゃあ細いのと太いのは?」<br />
「う~ん、俺は細いのが好きだな。見た目的にも綺麗だろ」<br /><br />
かがみはこの会話を耳の端で聞きながら教室へ入っていった。<br /><br />
(…大きいのと小さいの? これってやっぱり…)<br /><br />
かがみは自分の胸を見る。<br /><br />
(じゃあ…、細いのと太いのって…)<br />
(…体型…よね…。やっぱり…)<br />
(○○くん細い方が好きなんだ…)<br /><br />
かがみは決して太っている様には見えない。それどころか適正な体型のように見えるが、<br />
自分の目にはそう写っていなかった。<br /><br />
(最近間食が多かったし…)<br />
(…よし、…痩せよう!)<br /><br />
これが数日前の事だった。きっかけは単純だったが、その決意は生半可なものではなかった。<br /><br />
(絶対に痩せるんだから…っ!)<br /><br />
自分の教室に向かいながら、改めて決意の炎を燃やすかがみだった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…<br /><br />
一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。<br /><br />
「うぅぅぅ~…っ」<br /><br />
両手を組み合わせて、上にあげながら大きく伸びをする。<br /><br />
「やほ~。○○くん寄り道してこ~!」<br /><br />
こなたさんがそう言いながら、薄い鞄を片手にやってきた。<br /><br />
「う~ん、今日は遠慮しとくよ。宿題沢山あるしね」<br />
「え~。せっかく私とのイベントを起こすチャンスじゃ~ん。行こうよ~」<br />
「多分俺とこなたさんの間にフラグは一本も立ってないよ」<br />
「フラグって言葉を自然と使うあたり…。君も立派なオタクだね!」<br /><br />
嬉しそうに親指を立てながらこなたさんが言う。<br /><br />
「…ま、まぁとにかく。今日は止めとくよ、また今度ね」<br /><br />
ブーブー言うこなたを置いて、○○は昼間のかがみの様子を心配しつつ、帰路に就いた。<br /><br />
一方、かがみは一人帰宅を急いでいた。<br /><br />
(…早く帰って部屋でじっとしていよう…。お腹減り過ぎて痛い…) <br /></font></dd>
<dd><font size="1">かがみのダイエット方法とは、一日一食しか食べないものだった。<br />
それも、食べるのはお昼の購買のパン一つだけである。<br />
つい2日前まで、食事を取りながら運動するというごく普通のものを行なっていたが、<br />
効果があまり目に見えてこないため、かなり強引な手法に切り替えたのだ。<br /><br />
(痩せるんだから…)<br /><br />
なかば朦朧としながら家に辿り着くと、倒れるように自室のベッドに横になった。<br /><br /><br /><br /><br />
翌日。<br /><br />
「おはよう。つかささん、かがみさん」<br />
「○○くんおはよ~」<br />
「…おはよ…」<br /><br />
対照的な挨拶をする二人に、昨日の心配が甦る。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…大丈夫? かがみさん。目に見えて衰弱してるよ?」<br />
「…だ、大丈夫よ! ちょ~っと目が覚めて無いだけだから」<br />
「ホントに?」<br /><br />
そう言いながら○○はかがみの顔を覗き込む。<br />
するとかがみは沸騰したかのように真っ赤になると、慌てて横を向いた。<br /><br />
「大丈夫って言ってるでしょ! …女の子の顔を覗き込むなんて、デリカシーが無いわよ…!」<br />
「…お姉ちゃん…、○○くんは心配してくれてるんじゃ…?」<br /><br />
つかさが控え目にかがみに言うが、かがみは顔を赤くしたまま、<br />
「先に行くから」と言って走って行ってしまった。<br /><br />
「…マズかったかな…」<br />
「ねぇ、○○くん…。お姉ちゃんね、昨日の晩ご飯何も食べて無いんだ…」<br />
「昨日だけじゃないの。一昨日も食べなかったし…」<br />
「このままじゃお姉ちゃん、倒れて怪我しちゃうよ…」<br />
「だからお願い。お姉ちゃんにダイエットを止める様に言ってあげて!」<br /><br />
つかささんが必死な顔で俺を見てくる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…でも、それならつかささんの方が良くないかな?<br />
妹が本気で心配してるって分かれば止めそうだけど」<br />
「……ダメなの。○○くんが言ってあげないと」<br />
「きっと、今お姉ちゃんに必要なのは、○○くんの言葉だと思うから…」<br />
「? 分かったよ。今日のお昼にまた話をしてみるね」<br />
「うん! お姉ちゃんをお願い!」<br /><br />
つかささんはホッとしたような、少し哀しそうな顔をしていた。<br /><br />
その日のお昼。<br />
昨日と同じく、大量のパンとピザを平らげる3人を眺めつつ、○○はかがみを探しに教室を出た。<br /><br />
(また屋上かな?)<br /><br />
○○が屋上のドアを開けると、昨日と同じ場所にかがみが居た。<br />
○○は近付いて行くと、昨日と同じく隣りに腰を下ろす。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「ちゃんと食べてる?」<br />
「…うるさいわね。…食べてるわよ…」<br />
「…皆心配してたよ。全然食べてないみたいじゃないか」<br /><br />
こなたも最初は面白がっていたが、<br />
流石に様子が尋常ではないと気に掛けていたのだ。<br /><br />
「…………」<br />
「俺も…、無理してかがみさんが怪我でもしたら…、悲しいよ」<br />
「…大丈夫よ。自分の事は自分で分かるわ。無理なんかしてないわよ」<br />
「…でも――」<br />
「もう良いでしょ? 大丈夫よ。私は無理してないから」<br /><br />
無理矢理会話を終わらせ、かがみは立ち上がる。<br /><br />
「ほら、休みが終わるわよ」<br /><br />
そう言ってかがみは入口へと向かい、慌てて○○は後を追いかけた。<br /><br /><br /><br />
(…気持ちはとっても嬉しいけど…。やっぱり止める訳にはいかないの…)<br />
(…だって…、私…アンタが…)<br /><br />
そう考えながら扉をくぐり、階段を降りようとした時、<br />
かがみは視界が回るのを感じた。<br /><br />
(…あれ…?)<br /><br />
遠くで○○の声を聞きながら、かがみの意識は遠くなっていった。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「かがみさんっ!」<br /><br />
入口をくぐり前を向くと、かがみさんの身体がグラリと前へ傾いたのが見えた。<br /><br />
(くそっ! 間に合え!)<br /><br />
大きく踏み出すと、かがみの身体を抱える様に抱締め、そのまま階段を転がり落ちていった。<br /><br />
(ぐわっ! …痛って~。…か、かがみさんは…?)<br /><br />
腕の中にいるかがみが無事なのを確認すると、安心したのか、○○はフッと気を失った。<br /><br /><br />
いつまで眠っただろうか。<br />
深く暗い水中から急浮上するように意識が戻る。<br /><br />
「…ここ…は?」<br />
「…お姉ちゃん? …お姉ちゃ~ん!!」<br /><br />
目に涙を溜めたつかさが抱き付いてくる。<br /><br />
「かがみ起きたの!?」<br />
「大丈夫ですか? かがみさん!?」<br /><br />
こなたとみゆきも居た。周りを見渡すと、どうやら保健室のようだ。<br /><br />
「…何で私ここに…?」<br />
「かがみ覚えてないの? 屋上の階段で○○くんと倒れてたんだよ?」<br />
「倒れて…。そっか…、倒れちゃったんだ…」<br />
「先生が、顔色悪いし栄養不足だろうって。もう、かがみ無理し過ぎ!」<br /><br />
皆からの言葉をぼんやり聞きながら、かがみは引っ掛かった事を聞いた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…○○くんと?」<br />
「…うん。そこにいるよ」<br /><br />
隣りのベッドを見ると、○○くんが静かに横になっていた。<br /><br />
「多分、かがみをかばって一緒に落ちたんだと思うよ。頭を強く打ったみたいだけどね。傷もないし、大丈夫だろうって」<br />
「念の為、明日は病院で見てもらうそうですよ」<br /><br />
かがみは呆然としていた。<br />
自分の事は自分が分かっている。…そう大口を叩いておきながら、<br />
倒れた挙句に○○まで危険な目に合わせた事に。<br /><br />
(…何やってるのよ…。私は…)<br /><br />
かがみの表情を見たこなたは、みゆきとつかさに外で待っていようと言い、保健室を後にする。<br /><br /><br />
(…何でダイエットしてたのよ…)<br />
(この人の隣りに居たくて…、○○くんの隣りに居たくて頑張ったのに…)<br />
(…なのにっ…。○○くんに心配掛けさせて…)<br />
(挙句の果てには…、危険な目に合わせるなんて…)<br />
(…最低…。最低よ…)<br /><br />
静かに眠っている○○の顔を見るていると、自分の浅はかさに悔し涙が流れた。<br /><br />
(ゴメンね…、ゴメン…)<br /><br />
後悔が押し寄せる。悔しくて涙が溢れる。かがみは自分に対して、<br />
そして○○に対しての思慮の無さに、ただただ泣き続けた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…泣かないで、かがみさん…」<br /><br />
静かな、優しい声が聞こえて、かがみは顔を上げる。<br />
いつの間にか、隣りのベッドで眠っていた○○が目を覚ましていた。<br /><br />
「○○くん…。…大丈夫なの? 頭はハッキリしてる? 気分が悪いとかない?」<br /><br />
かがみが心配そうに聞いてくる。○○は身体を起こしてゆっくり自分の頭を触る。<br /><br />
「…痛っ! …タンコブが出来てるくらいかな…。気分も悪くないし、大丈夫だよ」<br />
「本当に? …良かった…。ごめん…。私のせいで…」<br />
「違うよ。かがみさんをかばったのは俺の意志だもん。かがみさんのせいじゃないさ」<br />
「でも…。『自分の事は自分で分かる』なんて大口叩いて…、<br />
結局気絶しちゃうなんて…。最悪よね…」<br /><br />
自嘲気味にかがみが笑う。<br /><br />
「そんな事ないよ。たまたま今回上手くいかなかっただけさ。<br />
それに、そこまでして痩せたい『理由』があったんでしょ?」<br />
「…それは…」<br /><br />
かがみが口ごもると、○○はゆっくり首を横に振る。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「ううん、聞かないよ」<br />
「…どうして…?」<br />
「例え聞いても、俺は何も変わらないから。かがみさんが本気なら、<br />
俺はかがみさんが無理し過ぎないように側で見守るだけだから」<br />
「どんな理由であってもね。…まぁ…、今回は後手になっちゃったけど」<br /><br />
苦笑いしながら○○は言った。そんな○○を見て、かがみはますます自責の念にかられる。<br />
収まりかけていた涙が、再び溢れる。かがみは止まらない涙を拭いながら、<br />
ただひたすらに○○に謝るしかなかった。<br /><br /><br /><br />
両手を顔に当て、嗚咽を堪えながら泣き続けるかがみを見て、○○は掛ける言葉を失っていた。<br />
不意に今朝のつかさの言葉が甦る。<br /><br />
『きっと、今お姉ちゃんに必要なのは、○○くんの言葉だと思うから…』<br /><br />
(…俺の言葉…)<br /><br />
言葉とは、相手に想いを伝える為に存在する。<br /><br />
(…俺の…、かがみさんに伝えたい想いは…)<br /><br />
○○は自分の胸に問い掛ける。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">俺の想いは…?<br />
何を伝えたいんだ…?<br />
…俺にとってのかがみさんは何…?<br /><br />
心の中でそれらの答えを探ると、一つの想いに行き着く。<br />
それはいつからあったのか。<br />
泣き続けるかがみを見ていて芽生えたのか。<br />
共に桜藤祭を成功させた時に芽生えたのか。<br />
ダイエットを支えるうちに芽生えたのか。<br />
劇を見た時に芽生えたのか。<br />
初めて会った時に芽生えたのか…。<br /><br />
○○の行き着いたのは、いつの間にか大きく育った「かがみへの想い」だった。<br /><br />
「…かがみさん…」<br /><br />
そう呼びながら、○○は硝子細工を扱うかのように、<br />
丁寧に、優しくかがみを抱き締める。<br /><br />
「…え? な、何で? ちょっと…」<br />
「…少しだけ…、このままで…。伝えたい事があるんだ…」<br />
「……な、何よ…」<br />
「今朝ね、つかささんに言われたんだ。かがみさんには、俺の言葉が必要だって…」<br />
「だけど、俺は泣き続けるかがみさんに掛ける言葉なんか分からなかった」<br />
「だから、今俺の心にある、素直な感情を言葉にするよ」<br />
「…かがみさん…。好きだよ」<br />
「俺の好きなかがみさんは、笑顔が素敵で…、怒った顔も…、怖いけどやっぱり素敵で」<br />
「だから…、泣かないで…。貴女の泣き顔は…、とても悲しくて…」<br />
「俺まで悲しくなってしまうから…」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">突然の告白に、さっきまで流れていた涙は無くなっていた。<br /><br />
「で…でも、私こんなんだよ? 意地っ張りで…、強がりで…」<br />
「だったら尚更側にいさせて欲しいんだ。俺が、かがみさんの支えになってみせるから」<br />
「…それに…、私そんなに細くないし…」<br /><br />
そうかがみが言うと、○○は首を振って否定する。<br /><br />
「今俺の腕の中にいるかがみさんは、とても細くて、華奢で、温かいよ」<br />
「……っ! は、恥ずかしい事言わないでよ…! …もう…」<br />
「…かがみさんは…。俺なんかじゃダメかな…?」<br />
「……そんな事、ない…。私も…、…アンタが、いい」<br /><br />
○○の胸に顔を埋めながら、背中に手を回して呟く。<br /><br />
(…どこかで同じ様な事を言った気がするわね…)<br />
(…だとしても、きっと相手はこの人よね…)<br />
(だって…、こんなに好きなんだから…)<br /><br />
気持ち良さそうに、○○の胸板に顔をすり寄せる。<br />
その仕草が愛しくて、○○はより強くかがみを抱き締める。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「そういえばさ…、一つ聞きたいんだけど…」<br />
「やっぱり○○くんは細くて大きな娘が好きなの…?」<br /><br />
腕の中で顔を上げ、上目遣いでかがみが聞いてくる。<br /><br />
「…? 何の事?」<br />
「ほら、この前白石と話してたでしょ?」<br /><br />
そう言われて○○は記憶を探る。<br /><br />
「…あ~、あれかな? 細いのが好きとかなんとか」<br />
「…やっぱり…、そうなんだ…」<br /><br />
そう聞いてかがみは落ち込む。もっと細い娘が現れたら、○○を取られると思ったからだ。<br />
だが、次に○○から発せられた言葉に唖然とする。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「うん、やっぱりパスタは細くて長いのがいいよ。盛り付けた時も見た目が綺麗だし」<br />
「…は?」<br />
「だから、パスタは細くて長いのが…」<br />
「いやいやいやいや」<br />
「…どうしたの?」<br />
「『…どうしたの?』じゃないわよ! 何でパスタの話になってんのよ!?」<br />
「だってそうなんだもん…。最近白石がセクハラ染みた質問ばっかりするからさ」<br />
「ついこの間も、すりこ木の棒について俺に『形状は?』とか、『サイズは?』とか聞いてくるんだよ」<br />
「そんなの『太い』か『硬い』しかないのに、無理矢理言わせるんだよ?」<br />
「流石に怖くなって、こなたさん直伝の正中線5連突きをお見舞いしたけど」<br /><br />
かがみは口をパクパクさせて呆然としていた。<br /><br />
(…な、何よそれは~!)<br />
(もしかして…、盛大な勘違い…?)<br /><br />
呆然としたままのかがみを見て、状況を理解した○○がニヤリと笑う。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…もしかして…、かがみさん俺が細い娘が好きだって勘違いしたとか…?」<br />
「う、ううう、うっさいわね! そうよ! 悪い? アンタの隣りに居たかったから必死だったのに!」<br />
「…なのに…。これじゃあ…私、バカみたいじゃない…」<br /><br />
俯き再び泣き出しそうになったかがみを見て、○○は慌てる。<br /><br />
「いや、ゴメン。違うんだ、嬉しいんだよ」<br />
「こんなに好かれて、こんなに一生懸命に想いをぶつけてくれるから」<br />
「それが好きな相手からなら尚更だよ」<br /><br />
○○はかがみの頭を撫でながら謝る。<br /><br />
「…じゃあ、アンタの想いを証明してよ」<br />
「…どうやって?」<br /><br />
そう聞くと、かがみは目を瞑り○○に顔を向ける。<br /><br />
「…いいの? 俺はまだかがみさんの気持ちをハッキリ聞いて無いけど…」<br />
「……バカ。…好きに決まってるじゃない…」<br /><br />
恥ずかしそうに呟くかがみさんの唇に、自分の唇をあてがう。<br />
触れるだけのキス。それでも、幾万の言葉を交わすよりも明確な想いを伝えた。<br />
「んん…。…ぁん…。…はぁ…っ」<br /><br />
暫く重ねていた唇を、名残惜しそうに離す。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「…愛してるよ、かがみさん…」<br />
「…かがみって…、呼びなさいよ…」<br />
「かがみ…」<br />
「…うん…」<br />
「…好きだよ」<br />
「…私も…」<br />
「…俺さ…、あんまりカッコ良くないかも知れないけど…。<br />
かがみに相応しい男になるからさ…」<br />
「だから…、ずっと一緒にいてくれよ」<br />
「…分かったわよ。…仕方ないわね…」<br />
「私も…、アンタ以外に興味無いんだから…」<br />
「浮気なんかしたら、許さないんだからね!」<br /><br />
かがみは笑顔で泣いていた。だがそれは、自責や後悔の涙ではない。<br />
○○と想いが通じた歓喜の涙。<br />
○○の隣りにいられる事の喜びの涙だった。<br /><br />
「○○…」<br /><br />
決して枯れる事はない涙。これから先、○○は何度となく喜びの涙を流させるから。<br />
○○が側に居る限り、かがみの流す涙に悲しみはないから。<br />
かがみは一筋の涙と共に、慈愛と微笑みに溢れた顔で告げた。<br /><br /><br />
「大好きだからね!」<br /><br /><br />
FIN</font></dd>
</dl><dl><dd><br /><br /><font size="1">おまけ<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好きだからね!」<br /><br />
腕の中の愛しい人が想いを告げている。しかもここは保健室のベッド。<br />
健全な男子なら『えっちぃ事を考えるな』…という方が無理かも知れない。<br /><br />
「…かがみ…」<br />
「…どうしたの?」<br />
「俺さ…、その…。…我慢出来ないかも…」<br />
「……っ!?」<br /><br />
かがみは言葉の意味をすぐに感じ取った。<br /><br />
「ダ、ダメよ! こんなとこで! 学校よここ!?」<br />
「だって…。かがみ温かくて、柔らかくて…。…気持ち良いから…」<br />
「や、柔らかいって言うな…っ!」<br />
「かがみ…」<br /><br />
抱き寄せていたかがみの身体をゆっくりとベッドに横たわらせる。<br /><br />
「…もう…。…初めてが学校なんて…」<br /><br />
かがみが恥ずかしそうに、ほんの少しだけ嬉しそうにしながら呟くと、後ろで声が響いた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「それなんてエロゲ?」<br /><br />
―――――。<br /><br />
「うわぁ!」<br />
「きゃあああ!」<br /><br />
一拍の間を置いて、かがみと○○は驚いて身体を起こす。<br />
そこには、頬を赤くしたこなた、つかさ、みゆきがいた。<br /><br />
「皆! 見てたのかよ!?」<br />
「一部始終ハッキリとね」<br />
「お姉ちゃん可愛かったよ~」<br />
「素敵な告白でしたね…」<br /><br />
皆が思い思いの反応を口にする。かがみと○○は顔を真っ赤にしながら聞いていた。<br /><br />
「いや~、しかし想いの通じたその日にヤっちゃうなんて~。○○くんのエッチィ!」<br />
「違うよ! あ、いゃ、違わないけど、そんないい加減な気持ちじゃ…!」<br />
「分かってますよ。○○さんがかがみさんを、とても大切に想ってる事は」<br />
「そうだよ。さっきの二人、とっても幸せそうな顔してたもん」<br /><br />
改めて言われて、再び二人の顔が赤くなる。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「だけどさ~。○○くん…」<br />
「何?」<br />
「私にも告白しといて、かがみにも告白ってのは鬼畜過ぎない?」<br /><br />
――――。<br /><br />
「いやいやいやいや!」<br /><br />
一拍の間を置いて、猛烈な勢いで○○は否定する。<br /><br />
「私にも告白してくれたよね? とっても嬉しかったよ~」<br />
「あんなにハッキリと愛を囁いてくれましたよね?」<br /><br />
驚いた事に3人が3人とも、○○に告白されたと言ってきた。<br />
かがみを見ると、怒りと悲しみとが混ざり合い、まさに『般若』の形相をしていた。<br /><br />
「違うよかがみ! 俺そんな事一言も――」<br />
「一昨日言ってくれたじゃない」<br />
「丸みのあるこなたさんが好きだって」<br />
「女性らしいつかささんが好きだって」<br />
「ピザを平らげるみゆきさんが好きだって」<br /><br />
3人が3通りの告白文を告げる。<br /><br />
「何でそうなるんだよ! 俺は女性らしい丸みがあった方が良いって…」<br /><br />
懸命に弁解するが、こなた達は告白されたシーンを思い返しているのか、上の空である。<br />
かがみを見ると、そこにある筈の無い角が見え始めた。 <br /></font></dd>
<dd><font size="1">「だから私はチョココロネを毎日10個食べてたのに…」<br />
「私はメロンパンを焼いて持って来てたのに…」<br />
「私はピザをフリスビーしてたのに…」<br />
「みゆきさん食べ物を粗末にしない! だから違うって! かがみも話を聞いてくれよ!」<br /><br />
最早さっきまでの甘い空気はどこへやら。<br />
一変して修羅場と化していた。<br /><br />
「「「「さぁ…っ! ○○くん…」」」」<br /><br />
泣きそうな○○を取り囲み、4人は般若の形相で問詰める。<br /><br />
「「「「一体誰が好きなの!?」」」」<br /><br /><br /><br />
この後、小一時間かけて全ての誤解を解き、お詫びと称して全員に叙○苑の焼肉を奢らされ、<br />
最後にかがみとのキスを披露したのは、また別のお話。<br /><br /><br />
FIN</font></dd>
</dl>
2009-02-09T00:38:37+09:00
1234107517
-
~つかさの優しさ~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/223.html
<dl><dd><font size="1">「うぅ~…、緊張するよぉ…」<br /><br />
ここは柊つかさの自室。その主であるつかさは、布団に潜りながらモゾモゾしていた。<br /><br />
「○○くん明日の大学受験の面接大丈夫かな…。はぅぅ~、考えると緊張してきちゃうよ~」<br /><br />
なぜつかさが緊張するのか少しおかしい気もするが、つかさは強張った顔をして布団の中にいる。<br /><br />
「メール送ってあげた方がいいかな…。でもでも、桜藤祭の時みたいに、<br />
それで失敗しちゃったら可哀相だし…。うぅ~…」<br /><br />
つかさは自分が送ったメールで、○○がキスシーンを意識してしまった事<br />
(それが直接の原因という訳ではないが)を思い出した。<br /><br />
「……あれ? でも劇はちゃんとお姉ちゃんがやってたよね?」<br />
「?????」<br /><br />
つかさは桜藤祭時の記憶が混同してしまっていた。時間が繰り返した事によるものだろう。<br /><br />
「…うん、やっぱりメールしよう! …何もしてあげられないのは嫌だもん…」<br /><br />
そう決意すると、つかさは携帯を取り出し文字を入力していく。<br /><br />
(私の時も○○くんが応援してくれたし…、今度は私の番だよね)<br /><br />
つかさは既に料理師の専門学校への入学が決まっている。<br />
その面接の日、○○から「落ち着いていこう」といった内容のメールを貰い、不思議と気持ちが落ち着いたのだ。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「送信っと…。出来た~!」<br /><br />
小一時間かかってメールを作成し、ようやく送信した。<br />
携帯を机に置き、やり遂げた顔をしながら改めて布団に入る。<br /><br />
(これで○○くんの支えになれたら嬉しいなぁ…)<br /><br />
寝返りをうち、頭の奥がぼやけていくのを感じる。<br />
眠りに落ちていく感覚を自覚しながら、つかさは○○の顔を思い返した。<br /><br />
桜藤祭から、5人はほぼ毎日一緒にいた。<br />
そして桜藤祭のループの中で、つかさは○○に対してほのかな想いを抱いていた。<br />
それが桜藤祭以後、ほぼ毎日一緒に居た事で、○○がかけがえのない存在になっていたのだ。<br /><br />
(…だけど…)<br /><br />
○○への想いを自覚しながら、つかさはそれを封じてきた。<br /><br />
(…きっと…、こなちゃんも…ゆきちゃんも…お姉ちゃんも…、○○くんが好きなんだよね…)<br /><br />
○○以上に一緒の時間を過ごしてきた皆の事だ。いくらつかさでも、3人の想いには気付いていた。<br /><br />
(私なんかより、3人の方がずっと幸せになれるよ…)<br />
(こなちゃんはゲーム上手だし、料理も出来るし…)<br />
(ゆきちゃんはスタイル良いし、綺麗だし…)<br />
(お姉ちゃんは頭も良いし…、ツンデレだし…)<br /></font></dd>
<dd><font size="1">正直、つかさは「ツンデレ」という事が良く分かっていなかったが、<br />
何となく魅力の一つなんだろうと思っていた。<br />
それに比べ、自分には何もない。そう結論付けてしまっていた。<br /><br />
(…受験も…、恋愛も…、私は○○くんの応援が出来れば良い…。<br />
○○くんが幸せになってくれればそれで良いよ…)<br /><br />
寝返りをうつ。それと同時に、涙が一筋流れた。<br /><br />
(泣いちゃダメだよ…。明日○○くんを応援しに行くのに…)<br />
(泣いたら目が腫れちゃうよ…)<br />
(泣いちゃダメ…。泣いちゃ…)<br /><br />
そう思えば思うほど、涙は止まらなかった。<br /><br />
(……好きだよ……、やっぱり私…○○くんが大好きだよぅ……)<br /><br />
つかさは布団の中で小さく身体を丸め、涙を流しながら眠りについていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">一方、○○も眠りにつけずにいた。<br /><br />
(明日は面接だもんな…。相対するのが紙とペンの筆記試験より、何倍も緊張するよ…)<br /><br />
眠らないと、間違なく明日へ影響する。だが、そう思えば思うほど眼は覚めてしまう。<br /><br />
(…ヤバいぞ…)<br /><br />
何度か寝返りをうっていると、携帯が鳴り出した。<br /><br />
♪ハァ~! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽ…♪<br /><br />
「白石やかましいっ!」<br /><br />
携帯を乱暴に取り、着信を確認してメールを開く。<br /><br />
「…つかささん?」<br /><br />
送り主はつかささんだった。<br /><br /><br />
『落ち着いていこうよ』<br />
『明日は面接だね。きっと○○くんなら大丈夫だよ。だって私信じてるもん。<br />
面接の人も○○くんの良さが分かってくれるって。だから大丈夫。<br /><br />
明日は皆で応援に行くから。頑張って!<br /><br />
つかさ』<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(つかささん…)<br /><br />
終始根拠のない内容だったが、それでも○○は嬉しかった。<br /><br />
(そうだよな…。自分を信じてやるしかないよな)<br /><br />
携帯を閉じると、さっきまでごちゃごちゃしていた心が、嘘のように静まっていた。<br /><br />
(…ありがとう、つかささん…)<br /><br />
夜も遅いので、返信はせずに心の中でお礼を言った。<br /><br />
(…眠ろう…、全ては明日頑張るしかないんだからな)<br /><br />
布団に入り目を閉じる。応援してくれたつかさの優しい笑顔を想いながら、○○は眠りへと落ちていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">翌日、○○が受験する大学の面接会場前に5人の姿があった。<br /><br />
「○○くんよく眠れた?」<br />
「うん、昨日は早めにベッドに入ったから、寝起きもスッキリだよ」<br />
「えぇ!? じゃあ昨日の深夜アニメ観てないの?」<br />
「観る訳ないだろ…」<br />
「○○くんをアンタと一緒にするな!」<br />
「むぅ~、昨日はあんなに萌える展開だったのに…」<br />
「でも、面接前日に夜更かしはよろしくないですし…。深夜アニメなら録画しておけますから…」<br /><br />
みゆきさんが控え目に正論をぶつける。<br /><br />
「旬なアニメはリアルタイムで観ないとダメなんだよ」<br />
「アンタはそんなに○○くんを落としたいの?」<br />
「うぐっ…」<br /><br />
かがみさんに突っ込まれ、返す言葉もなくこなたさんが押し黙る。<br /><br />
「あはは、大丈夫だよ。アニメ自体は録画してるからさ。面接後の楽しみにしとくよ」<br /><br />
3人の掛け合いを眺めていると、一人静かな人がいる事に気付いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…つかささん…?)<br /><br />
一人俯いて何も喋っていない。どうしたのかと声を掛けようとしたが、いつの間にか面接の時間が押し迫っていた。<br /><br />
「あ、もうこんな時間! ほら、○○くん早く行って!」<br />
「遅刻はマズいよ! 早く行きたまへ~!」<br />
「落ち着いて下さいね!」<br /><br />
皆が思い思いに声を掛けてくれる。<br />
つかささんはまだ押し黙ったままだった。時間が時間なので、急いで会場へ入ろうとした時。<br /><br />
「…○○くん!」<br />
「つかささん?」<br />
「…私…、ゆきちゃんやお姉ちゃんみたいに頭良くないから…、何言えばいいか分かんないけど…」<br />
「―――頑張って!」<br /><br />
まっすぐに俺を見つめながら応援してくれる。<br /><br />
「…うん! ありがとう!」<br /><br />
皆の応援を背に、○○は会場へと入って行った。</font></dd>
<dd><font size="1">「行ったわね」<br />
「そうだね、後は彼次第だよ」<br />
「はい、そうですね。…では、私達は行きましょうか」<br />
「そうね。つかさ、行くわよ」<br /><br />
かがみが声を掛けるが、つかさは動こうとしない。<br /><br />
「つかさ? 行くわよ?」<br />
「…ううん、ここで待ってる」<br />
「つかささん、流石にこの季節長時間外に居ると、風邪をひいてしまいますよ? せめてどこか屋内に…」<br />
「大丈夫だよ。カイロを20個持ってきたから」<br />
「アンタ家中のカイロを持ってきたの?」<br /><br />
つかさは会場をじっと見つめて、梃子でも動く気配はない。<br /><br />
「…行こう、皆」<br />
「そうね…。まったく…、つかさは乙女なんだから…」<br />
「…少し…羨ましいですけどね…」<br /><br />
3人はつかさをそのままに、それぞれの帰路に着いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">○○は会場の控え室で座っていた。ついさっき自分の前の人が呼ばれ、次はいよいよ自分だ。<br /><br />
(大丈夫…、大丈夫…)<br /><br />
上着を脱ぎ身体をほぐす。軽くストレッチして再び上着を着ると、ポケットに何か入っているのが分かった。<br /><br />
(…?)<br /><br />
取り出して見てみると、ポケットに入れたままの携帯だった。<br /><br />
(やばっ。電源切らないと)<br /><br />
慌てて切ろうとするが、その前にメールを開く。<br /><br />
(つかささん…)<br /><br />
昨日の夜に来たつかささんからのメールを見る。<br /><br />
(他にも応援のメールは貰ったけど…)<br />
(何でつかささんのメールが一番嬉しかったんだろう…)<br /><br />
そこまで考えて頭を振る。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…分かりきった事だろ…)<br />
(俺は…、つかささんが好きなんだ)<br />
(つかささんの優しさが…、つかささんの笑顔が…)<br />
(いや、どこが好きかなんて事じゃない…)<br />
(つかささんだから好きなんだ…)<br />
(同じ笑顔でも…、同じくらい優しくても…)<br />
(…きっと俺は、他の誰でもない、つかささんを選ぶから…)<br /><br />
携帯を閉じ、電源を切って前を見る。<br /><br />
(ありがとう…、つかささん。俺を応援してくれて…)<br /><br />
控え室のドアが開き、○○の名前が呼ばれる。<br /><br />
「はいっ」<br /><br />
上着を片手に立ち上がる。<br /><br />
(よし、行くか!)<br /><br />
心で気合いを入れて、○○は控え室を出て行った。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…………)<br /><br />
会場の外にいるつかさは手の平を合わせてじっとしていた。<br /><br />
「つかささん?」<br /><br />
名前を呼ばれハッと顔を上げると、自分の前に○○が立っていた。<br /><br />
「○○くん! 面接はどうしたの? 何でここにいるの?」<br />
「いや、今終わったんだよ。つかささんこそどうしてここに?」<br /><br />
そう聞かれたつかさは、鼻の頭を赤くしながら笑う。<br /><br />
「え? …えへへ、ここで○○くんを応援してたの。『頑張って~』って」<br />
「ここで? …ずっと!?」<br />
「…うん、…だって私…、これくらいしか…してあげられないから…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは鼻と手先を赤くして震えていた。<br /><br />
「それより、面接はどうだったの?大丈夫だった?」<br />
「もちろんバッチリだったよ! それより、この寒空の中ずっとここに居たの? 風邪ひいちゃうじゃないか!」<br />
「大丈夫だよ~。カイロ20個持って来たし」<br /><br />
得意そうに言いながら、ポケットからカイロを取り出す。<br /><br />
「一個しか開けてないの? 他も開けないとダメじゃないか!?」<br />
「あれ? …そっか、応援するのに夢中だったんだ。…どうりで寒いんだね」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">えへへ…、と頬を掻きながら笑うつかさを見ていると、○○は胸が苦しくなってくる。<br /><br />
「ゴメンよ、つかささん…。ほら、手を貸して」<br />
「? …背中でも痒いの?」<br /><br />
○○は困ったような笑顔をして、つかさの両手を包む様にギュッと握る。<br /><br />
「え? えぇ?」<br />
「手が凄く冷たくなってるよ…、こんなになるまでゴメンね…」<br />
「う…ううん、大丈夫だよ。それに…、私が出来るのは、やっぱりこれくらいだから…」<br />
「そんな事ないよ。だって、つかささんからのメールのおかげで落ち着いて面接出来たんだからさ」<br />
「本当…? えへへ、私でも支えになれたんだ…。嬉しいな…」<br />
「……違うよ」<br />
「え?」<br />
「つかささん『でも』支えになれたんじゃない」<br />
「つかささん『だから』支えになれたんだよ」<br />
「つかささんからのメールが無かったら…、きっと面接は失敗してたと思うから」<br /><br />
○○がそう言うと、つかささんは不思議そうな顔をしている。<br /><br />
「そんなに良い文章だった? 私あんまり現国の成績良くないよ」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">つかさの言葉を聞いて○○は苦笑いする。<br /><br />
(やっぱりつかささんだな…。あの時と同じく、鈍いと言うか何というか…)<br /><br />
ハッキリ言わないと伝わらない事が分かると、○○は覚悟を決める。<br /><br />
「つかささん。聞いてくれるかな? 今から大切な事を言うから」<br /><br />
そう○○が言うと、つかさの顔に緊張が走る。<br /><br />
「何? どうしたの?」<br />
「俺さ、好きな人がいるんだ」<br /><br />
握っていた手から、緊張が伝わる。だが、つかささんの顔を見ると笑顔のまま俺を見ていた。<br /><br />
「受験も…、まぁ合格した訳じゃないけど一段落したし、想いを伝えようと思うんだ」<br />
「そ、そうなんだー。私応援するよ!」<br />
「ホントに? 告白して上手くいくかな?」<br />
「…も、もちろん…だよ。だって…」<br /><br />
(…だって私なら…)<br /><br />
だが、つかさはそう言えなかった。<br /><br />
(…きっと3人の内の誰かかなんだよね…)<br />
(じゃあ、やっぱり応援しなきゃ)<br />
(…だって、皆私の大切な友達だもん…)<br /><br />
「きっと上手くいくよ! だって○○くんこんなに素敵なんだもん…」<br /><br />
語尾が震えそうになりながら、つかさは笑顔で答える。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「そう…かな。じゃあ告白するよ。…つかささん、俺は…、貴女が好きです」<br />
「…え? …つかさんって? 周りに誰もいないよ?」<br /><br />
(…わざとか…? わざとなのか?? …くそっ…こうなれば…っ!)<br /><br /><br /><br />
グイッ<br /><br />
つかさは突然前に引かれ、つんのめりながら○○の胸に鼻をぶつける。<br /><br />
「い、痛いよ…。どうしたの? ……あれ? 私抱き締められてる…」<br /><br />
慌てた様につかさは○○の顔を見る。<br /><br />
「はわわわわ! 私抱き締められてるよ!? ゴメンね、すぐ離れるから」<br />
「イヤだ、離さないよ。ってか俺が抱き締めてるからね。つかささんが謝る事じゃないよ」<br />
「だ、だって、○○くんの好きな『つかさん』に悪いよ…」<br /><br />
○○は抱き締める手を緩めずに、つかさの耳元に口を寄せる。<br /><br />
「よく聞いてね? …俺は、柊つかささんが好きなんだよ」<br />
「他の誰でもない、今俺の腕の中にいる人が、大好きなんだ」<br /><br /><br /><br /><br />
耳元で囁かれる言葉を、つかさはパニックになりながら聞いていた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(あれ? あれ?? え~っと、○○くんはこなちゃん達に好かれてて、<br />
その○○くんは『つかさん』が好きで、今は『つかささん』が好きで…)<br />
(……私が好き…?)<br /><br />
考える内に落ち着いてきた思考が、結論に至る事で再び沸騰した。<br /><br />
「えぇ!? 私ぃ~!?」<br /><br />
つかささんは目を見開きながら、驚きの声を上げる。<br /><br />
「ダ、ダメだよ! 私なんか。…だって、きっと他に○○くんを好きな娘が…」<br />
「…もしかして…、みゆきさんとか…?」<br /><br />
見開いていた目がさらに見開く。<br /><br />
「知ってたの!?」<br />
「…うん、あとこなたさんとかがみさんも…ね」<br />
「何で知ってるの? ○○くん心が読めるの?」<br />
「そんな訳ないよ…。しばらく前に告白されたんだ」<br /><br />
○○の話を聞くと、みゆき→こなた→かがみの順で告白されたようだ。<br /><br />
「何で○○くんは…付き合わなかったの? 皆○○くんの事が大好きなんだよ!」<br />
「…うん、告白された時に感じたよ。こんなに好かれてるんだ…って」<br />
「でもね、俺にはもう好きな人がいたから。それなのに告白を受け入れるなんて出来ないよ」<br />
「それが私なの…? だけど、私なんか何もないんだよ?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「胸だって小さいし、運動神経だって鈍いし…、ツンデレでもないんだよ?」<br />
「最後のが何で必要なのか分からないけど…、そんなのは人を好きになる理由にならないよ」<br />
「今のつかささんより、胸が大きかったり小さかったりしても、俺は何も変らない」<br />
「柊つかさって『人』が、…俺は好きなんだ」<br />
「…つかささんは、俺って『人』は嫌いかな…?」<br /><br /><br /><br /><br />
つかさは自分の心が満たされていくのを感じ、気がつくとボロボロと大粒の涙をこぼしていた。<br /><br />
「…大好き…、大好きだよぉ…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは○○にしがみつくように、手を背中に回す。<br /><br />
「で、でもぉ…、わ…私でいいのぉ…? 私…、私ぃ…」<br /><br />
泣きながら○○の顔を見つめる。○○は優しく涙を拭きながら、つかさに声を掛ける。<br /><br />
「つかささんが良いんだよ。他の誰よりも、つかささんが大好きなんだ」<br />
「…うん…、うん…。私も大好き…! 誰よりも…大好きだよ…」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">凍えた身体を温めるように、優しく、優しく抱き締める。<br /><br />
「うっ…、うぅ…」<br />
「つかささん…、もう泣かないで…?」<br />
「うん…、分かってるんだけど…。止まらないよぉ…」<br /><br />
頭を撫でていた○○は、そっとつかさの頬に手を添える。<br /><br />
「じゃあ、涙が止まるおまじないしてあげるよ。…目を閉じて…?」<br />
「…う…、うん…」<br /><br />
止まらない涙を拭いながら、つかささんは目を閉じる。<br /><br /><br /><br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇に柔らかい何かを感じた。それが何か分からずに、つかさはゆっくり目を開ける。<br /><br />
「…? 今のは何? ちょっと気持ち良かったけど…」<br />
「おまじないだよ。恥ずかしいから見られたくないおまじないだけどね」<br />
「気になるよぉ~。ちゃんと見せて。…私には見せるの嫌なの…?」<br /><br />
(…そんな目で見られたら…、ダメなんて言えないよ…)<br /><br />
「じゃあ、見せてあげるね…?」<br />
「うん、何?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">目に力を入れて、しっかりと○○を見る。<br />
○○は深呼吸を一つすると、突然彼の顔がドアップになる。<br />
暫くして、自分がキスされていると初めて分かった。<br /><br />
「ぅん…、ん…」<br /><br />
少し長めにキスをし、お互いの顔が離れる。<br />
二人の吐息が、白く混ざり合いながら消えていく。<br /><br />
「…キス…しちゃった…の?」<br />
「涙の止まるおまじないだよ。…止まったよね?」<br />
「う…、うん…。だけど…、嬉しくてまた泣きそうだよぅ…」<br />
「じゃあ…、もう一回する?」<br />
「えぇ!? …うん…、して欲しいな…」<br /><br />
目を閉じて○○に顔を向ける。想いが通じてから3回目のキス。<br />
初めてお互いが意識して望んだキスをした。<br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇から○○の想いが全身に広がる。<br /><br />
(こんなに愛してくれるんだ…。…○○くんを好きになって良かった…)<br /><br />
「…ねぇ、○○くん…」<br />
「うん?」<br />
「お願いがあるんだけどね…」<br />
「何かな?」<br />
「…つかさって、呼んで欲しいの…。『つかささん』だと…、他人行儀で嫌だから…」<br />
「うん、良いよ…。つかさ、…愛してるよ」<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">その言葉を聞き、つかさは嬉しそうに○○の胸にギュッと顔を埋める。<br />
それに合わせて、○○はつかさを強く抱き締める。<br />
小柄なつかさが、○○の腕の中にスッポリ入った。<br /><br />
「…私…、こうやってギュッてされるの好き…」<br />
「これからも…、たくさんギュッてしてね」<br />
「うん、もちろんだよ。…ずっと、いつでも抱き締めてあげる」<br /><br />
○○は言葉でないと伝わらない事を、つかさは温もりで想いが伝わる事を知り、二人は改めて想いを伝える大切さを感じる。<br /><br />
「つかさ…、ずっと…一緒にいてくれよ?」<br /><br />
それに答えるように、つかさは精一杯想いを込めて抱き締める。<br /><br /><br /><br />
この温もりは途絶える事はないだろう。つかさは○○に、○○はつかさに想いを抱いている限り。<br />
そして二人は離れる事はないだろう。二人が共に紡ぐ想いがある限り。<br /><br />
「○○くん…」<br /><br />
温もりで○○に想いを告げながら、顔を上げてつかさは言葉を告げる。今を繋げる想いを、未来へと紡ぐ想いを。<br /><br /><br /><br /><br />
「大好きだよ!」<br /><br />
FIN</font></dd>
<dd><br /><font size="1">おまけ<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好きだよ!」<br /><br /><br />
一つの影となっている○○とつかさを、遠くから見つめる影があった。<br /><br />
「ネタキターーーーー(゚∀゚)ーーーーーーー! キタコレ! キタコレ!」<br />
「ひより落ち着くネ!」<br /><br />
学校帰りのパティとひよりだった。<br /><br />
「まさかネタ探しに彷徨っていたら、生告白シーンを見られるなんて…!」<br />
「遠出したカイがアリマシタネ!」<br />
「さっそく帰ってプロットを書くよ!」<br /><br />
そう言いながら振り向くと、異様な空気がそこにあった。<br /><br />
「…ご機嫌ね…、お二人とも…」<br />
「ホントにね~。…良いネタでもあった? …ひよりん…?」<br />
「うふふ…」<br /><br />
そこには、髪が自然では有り得ない揺らめき方をして、仁王立ちしたこなたとかがみとみゆきが立っていた。<br /><br />
「人の妹の…、それも告白シーンをネタにしようとは…ね」<br />
「ひよりん…、これはシャレにならないよ~?」<br />
「うふふ…、うふふふふ…」<br /><br />
3人は口調こそ軽い(かがみはマジだが)が、目がカケラも笑っていなかった。<br /><br />
「お、お三方! 居られたッスか…?」<br />
「ひ…、ひよりんマズいネ…」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">闘気とも殺気とも思えるオーラを放ちながら、3人はひより達を取り囲む。<br /><br />
「今メモったの…、渡しなさい?」<br />
「…な、何の事ッスか…?」<br />
「…遺書を書く方が宜しいですか?」<br />
「ひぃっ…。こ、これッス!」<br /><br />
渡されたメモをこなたは粉々に裂く。<br /><br />
「勘違いしないでよ!? ○○くんが書かれるのが嫌なんじゃないからね? つかさを書かれるのがイヤなんだから!」<br /><br />
聞いてもいない事を、かがみが弁解する。<br /><br />
「ツンデレ全開だねかがみん。だけど、本当にそうだからね」<br />
「はい、私達フラれちゃいましたからね」<br />
「そ…、そうなんッスか?」<br />
「…まぁ…、ね。○○くんが他の女の子を好きってなら諦めないけど…」<br />
「つかささんを好き…、という事なら仕方ありません」<br />
「そうそう。だって、二人とも大切な友達だからね」<br />
「たまにはアンタもまともな思考をするのね」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「愛人の座は諦めてないけどね」<br />
「オイ!」<br />
「い~じゃんかがみん~。私達ならつかさも許してくれるって」<br />
「いずれ正妻の座を奪い取るって訳ですね…」<br />
「みゆき、鬼気を出さない! 絶対ダメだからね! つかさが悲しむでしょ!」<br />
「分かってるって。冗談だよかがみん」<br /><br />
チッチッチ…、と口の前で指を振る。<br />
「…チッ…」<br /><br />
メガネの方から舌打ちが聞こえたが、全員スルーした。触れる勇気がない。<br /><br />
「だから、アンタ達も絶対同人誌なんか書いちゃダメよ! …もしどこかで見掛けたら…」<br /><br /><br />
「「「覚悟はいいでしょうね!?」」」<br /><br /><br />
「…はい…」<br />
「ワカリマシタ…」<br /><br /><br />
「さあ、帰るわよ」<br />
「あの二人はあのままにしておきましょう。…お邪魔したら悪いですから」<br /><br />
帰る道中で、3人はひよりの目が妖しく光ったのを知らなかった。<br /><br />
数日後、ひよりとパティが記憶を頼りに『Tの純愛』という18禁同人誌を創り、<br />
それを知った3人が即売会に乗り込んで全ての本を燃やしたのは、また別のお話。<br /><br />
FIN</font></dd>
</dl>
2009-02-09T00:34:05+09:00
1234107245
-
~パティの笑顔~
https://w.atwiki.jp/ryouohgakuen/pages/222.html
<dl><dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「ハァイ○○!
元気してますか~?」<br /><br />
昼休み、学校の自販機でメロンソーダを買おうとしていると、後ろからパトリシアさんが声をかけて来た。<br /><br />
「や、パトリシアさん。相変わらず元気だね…」<br />
「ン~? ○○何だか元気ないネ? どうかしたデスカ?」<br />
「う~ん…、勉強疲れが出てるのかな…。毎日毎日こうだと流石に疲れたかも…」<br /><br />
肩に手を当て首を回すと、『ゴキゴキゴキッ』と信じられない音をたてた。<br /><br />
「凄い音ネ…。○○大丈夫~?」<br />
「うん…、今のはちょっとビックリしたけど…」<br /><br />
○○達はちょうど受験期真っ直中。○○に限らず、こなたやかがみ達も勉強漬けになっていた。<br /><br />
「勉強ばかりじゃダメ! たまにはリフレッシュも必要デスヨ!」<br />
「そうだね。…だけど皆勉強に集中してる大切な時期だから、なかなか遊びに行けないよ」<br /><br />
そう言うと、パトリシアさんは少し考えるそぶりをすると、閃いた様に言った。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「だったらワタシと遊びに行きましょう! 一緒にリフレッシュするネ!」<br /><br />
良い事を思い付いた子供のように、パトリシアさんは満面の笑みを浮かべている。<br /><br />
「え? でも、二人で?」<br />
「そうですヨ! …○○はワタシと二人だけじゃ、楽しく無いデスカ…?」<br />
「ううん、そんな事ないよ。じゃあ明日土曜に遊びに行こうか?」<br />
「ハイッ! 一緒にエンジョイしましょう!」<br /><br />
自販機からジュースを取り出し、パトリシアさんと別れて教室に戻った。<br /><br />
(明日はパトリシアさんと遊びに行くのか…。久々に肩の力を抜いて遊ぼうかな。…楽しみだな…)<br /><br />
「○○くん何ニヤニヤしてんの?」<br /><br />
いつの間にか、こなたさんとつかささんが俺の顔を覗き込んでいた。<br /><br />
「え? そんなにニヤニヤしてた?」<br />
「うん、ヤバいくらいね。道で見掛けたら間違なく通報してる」<br />
「俺に何か恨みでも?」<br />
「あはは…、こなちゃんちょっと言い過ぎだよ~。でも○○くんとっても嬉しそうだったよ? 何かあったの?」<br />
「うん、明日パトリシアさんと遊びに行く事になってさ。久々の息抜きだから楽しみなんだ」</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「…………」<br />
「? どうしたの?」<br />
「…二人で遊びに行くの?」<br />
「今のところはそうだね」<br />
「…そう…、楽しんで来てね」<br /><br />
そうこなたさんが言うと、二人は教室から出て行ってしまった。<br /><br />
「…?」<br /><br /><br /><br />
「♪フフフ~ンフ~ン♪」<br />
「パティ随分楽しそうね? 何か良いネタでもあった?」<br />
「ハイ! 明日○○とデートの約束シマシタ!」<br /><br />
瞬間、ひよりのメガネにヒビが入り、みなみは目の色が暗く落ちていき、ゆたかは笑顔で箸を逆手に持ち変える。が、目は笑っていない。<br /><br />
「…ゆたか…、今はまだダメ…」<br />
「みなみちゃん…。そうだね、人目があるもんね」<br /><br />
4人の間に流れる空気が凍り付いている。それでもパティは気にした様子もなく、明日の事を考えて浮かれていた。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">土曜の朝9時過ぎ。<br />
駅前には、街灯に寄り掛かりながらパトリシアさんを待つ○○の姿があった。<br /><br />
(早過ぎたかな…。約束が朝10時だからな…)<br /><br />
そんな事を考えながら携帯を見る。約束の時間までの間を考えて<br />
軽く溜め息を吐くと、こちらに駆け寄って来る足音が聞こえた。<br /><br />
「ゴメンなさい! 遅くなったネ!」<br /><br />
息を切らしながらパトリシアさんがやってきた。<br /><br />
「○○ゴメンなさいネ…。遅れちゃいマシタ…」<br />
「いや、大丈夫だよ。ってか約束の時間は10時だからさ」<br />
「ソウデシタカ? ○○がもう居たから遅れたかと思いマシタ」<br />
「うん、何だか楽しみでさ。自然と早く来ちゃったんだよ」<br /><br />
そう言うと、心なしかパトリシアさんの頬が赤く染まる。<br /><br />
「本当ですか!? ウレシイデス!」<br /><br />
満面の笑みを湛えてパトリシアさんが嬉しそうに言う。<br /><br />
「でも流石に早過ぎたね。どこもお店開いてないよ」<br />
「そうですネ。○○朝ご飯は食べたデスカ? ワタシサンドイッチ作ってキマシタ!」<br />
「本当? 朝早かったから食べなかったんだよね。食べても良いの?」<br />
「もちろんデス! ○○の為に作ってきたんですヨ!」</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">そう言いながらパトリシアさんは手に持っていたバスケットを俺に渡してきた。<br />
手頃な場所に座り、バスケットを開けて見ると、定番の三角サンドイッチにロールサンド、<br />
ホットサンドにホットドッグと、様々なサンドが入っている。<br /><br />
「凄いね、これ! どれも美味しそうだよ」<br />
「好きなものを好きなだけ食べてクダサイネ!」<br /><br />
向日葵の様な笑顔を向け、パトリシアさんは三角サンドイッチを渡してくれた。<br /><br />
「ありがとう、じゃあ、いただきます!」<br /><br />
一口頬張ると、程よくマスタードがきいていて、レタスとハムがパンと絡み、正にサンドイッチの王道といった味だった。<br /><br />
「美味しいよ! 味付けが完璧だね!」<br />
「本当デスカ!? 良かったデス…」<br />
「パトリシアさん料理上手なんだね。この味付けはシンプルだけど、見事だよ」<br />
「そんなに褒めないでクダサイ…。何だか…、恥ずかしいデスヨ…」<br /><br />
褒められて照れているのか、手を合わせてモジモジしながら呟く。<br /><br />
(…これ俺の為に作ってくれたんだよな…)<br /><br />
そう考えながらパトリシアさんを見る。頬を赤らめて俯いているパトリシアさんの横顔がとても可愛く見えた。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">――――ドキッ――――<br /><br />
○○は自分の鼓動が大きく高鳴るのを感じた。<br /><br />
(…何か胸が急にドキドキしてきた…。もしかして…、いや、やっぱり俺…パトリシアさんの事…)<br /><br />
桜藤祭以後、○○はパティの事をなにかと考える様になっていた。<br /><br />
「…ン? ワタシの顔に何か付いてますカ?」<br />
「い、いや! 何でもないよ」<br />
「そうですカ…?」<br />
「そ、そう言えばパトリシアさんは食べないの?」<br />
「エ? ワタシは大丈夫ですよ! 全部○○が食べても…」<br /><br />
グゥ~…<br /><br />
パトリシアさんの顔がみるみる赤くなる。<br /><br />
「今の…、お腹の…?」<br />
「~~っ! 何でお腹が鳴っちゃうデスカ~! もぅ…恥ずかしくて死にそうネ…」<br />
「そんなに気にしなくても…。朝ご飯は食べなかったの?」<br />
「乙女の準備には時間が掛かるんですヨ~! それに…、それを作ってたら時間が無くなったネ…」<br />
「そっか…。そうだよね、これだけ作るのは大変だもんね」<br /><br />
バスケットの中一杯に入っているサンドイッチを見る。<br /><br />
「じゃあこうすれば良いよ。はい、パトリシアさん」<br /><br />
そう言いながら、○○はサンドイッチを一つ取り出し、パトリシアの口へ運ぶ。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「はい、あ~ん」<br />
「エ? エエェェェ!?」<br /><br /><br /><br />
○○にとっては何気ない行為だったのだが、予想していなかっただけに、パティは目を見開いて驚いた。その反面、心の底から喜んでいた。<br /><br />
(こんなに簡単に理想のシチュエーションが叶うなんて、幸せデス!)<br /><br />
二人でお弁当を食べる。しかも手作りのそれを二人で分け合うというのは、シチュエーションとしては欠かせないとパティは考えていた。<br /><br />
「じゃ、じゃあ食べさせて下さいネ? …ア~ン…」<br />
「うん、あ~ん」<br />
「…ウ~ン! 美味しいデス!」<br />
「パトリシアさんが作ったからね」<br />
「ノンノンノン! 違いますヨ~! ○○がア~ンしてくれたからデスヨ!」<br />
「グッ…、ゴホッゴホッ!」<br />
「だ、大丈夫デスカ?」<br /><br />
突然むせだした○○に慌ててポットの紅茶を入れる。<br /><br />
「だ…、大丈夫だよ…」<br />
「モウ! 落ち着いて食べるネ!」<br /><br /><br />
(まったく…、○○子供みたいヨ…)<br /><br />
むせながら笑顔を作る○○を、パティは微笑ましく見ていた。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">(いつから…?
いつから○○がワタシの中にいたんデスカ…?)<br /><br />
自分の中にいる○○に問い掛けるが、答えは返ってこない。<br /><br />
(桜藤祭の時から…? あの時から、アナタはずっとワタシの心の中にいるんデスネ…)<br /><br />
記憶がフラッシュバックする。劇の代役を任された○○、不安ながらも一生懸命頑張っている○○、<br />
自分達の即売会の為に一緒に悩んでくれた○○…。<br />
それらのシーンを思い返して、胸の奥が切なく、熱くなる。<br />
だが、同時にどうしようもない哀しさが押し寄せる。<br /><br />
(…もうすぐしたら、○○も卒業してしまいマス…)<br />
(それに…、ワタシもアメリカへ帰らないとイケマセン…)<br /><br />
パティは留学生である。当然、いつかはアメリカへ帰る事になっている。<br /><br />
(アメリカに帰ったら、きっと○○もワタシの事は忘れてしまうネ…)<br />
(…だから…、最後かも知れない想い出を…、ワタシにクダサイ…)<br /><br />
受験が本格的に近付くと、もう○○とは簡単に遊べなくなる。<br />
そう考えると、○○との想い出作りの最後のチャンスかも知れないと、パティは思った。<br /><br /><br />
「パトリシアさん?」<br /><br />
突然声を掛けられ、はじかれたように顔を上げる。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「ハ、ハイッ!?
どうかしましたカ?」<br />
「…いや、何でもないよ。それより、ごちそうさま! とっても美味しかったよ!」<br />
「全部食べてくれたんですカ!? ウレシイデス!」<br /><br />
満面の笑顔で○○からバスケットを受け取る。<br /><br />
(今日はずっと笑顔でイキマス! ○○との最後の想い出は笑顔で作りたいカラネ!)<br /><br /><br /><br />
パトリシアさんからのお弁当を食べ時計を見ると、10時を既に回っていた。<br /><br />
「あ、10時過ぎてたのか。もうそろそろお店も開きだすだろうし、行こうか?」<br />
「ハイッ! イ~ッパイ楽しみましょうネ!」<br /><br />
大輪の花のような笑顔で、「はぐれない様にデス!」と言い、ギュッと手を握ってきた。<br /><br />
「まずはどこに行きますカ?」<br />
「う~ん…、パトリシアさんと一緒なら、やっぱり『あそこ』かな?」<br /><br /><br /><br />
やがて二人はとあるビルの前にきた。<br /><br />
「流石○○! 分かってますネ!」<br />
「う~ん、ここでそんなに喜んでくれるのか…」<br /><br />
二人が来たのは、秋葉原にある「とら○あな」1号店である。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「ホラホラ! 早く行きマスヨ!
タイムイズマネーデス!」<br />
「わ、分かってるって。だからそんなに引っ張らないでくれ!」<br /><br />
手を引かれるがままに、パトリシアさんに付き添う。<br />
商業誌、同人誌、CDなどを見て回るパトリシアさんは、本当に楽しそうな笑顔をしていた。<br /><br />
(正直…、よく分かんないんだけど…。まぁ喜んでくれているし、良いか)<br />
(それに、パトリシアさんの手って、軟らかくて暖いな…)<br /><br />
しばらくパティの好きにさせながら、○○はパティとの二人だけの時間を楽しんだ。<br /><br /><br /><br />
夕方。<br />
お昼を過ぎても、「とらの○な」を出なかった為、何も食べないまま駅前へ戻って来た。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「う~ん!
今日は沢山遊んだな~。流石にお腹も空いたけど」<br />
「…………」<br />
「ん? どうしたの? パトリシアさん」<br />
「○○ゴメンナサイ…」<br />
「…え?」<br />
「今日はずっとワタシだけ楽しんで…、○○は楽しくなかったんじゃないデスカ…?」<br />
「そんな事ないよ。『と○のあな』もあんまり行った事無かったから、新鮮で楽しかったし」<br />
「何よりパトリシアさんと一緒にいろいろ盛り上がったじゃない? あれがとても楽しかったよ」<br /><br />
(何しろ自分の好きなアニメや絵描きの本を見つける度に、目を輝かせてたからな…)<br />
(あれは見ていて飽きないよ)<br /><br />
○○は「○らのあな」での事を思い返しながら言う。<br />
だが、パトリシアさんの表情はまだ暗いままだ。<br />
不思議に思い、声を掛けようとすると、パトリシアさんの目から涙が溢れていた。<br /><br /><br /><br />
(ワタシのバカ! バカバカバカ!)<br />
(何で今日くらいちょっと見るだけで我慢出来なかったデスカ!)<br />
(やりたい事やお話したい事がイッパイあったのに…)</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">パティは軽く「とらのあ○」を見て回ってから、<br />
お昼にはどこかでご飯を食べながら、楽しくお話しようと思っていた。<br />
だが、今日に限って探していた本やCDなどが次々と目に入り、結局片っ端から物色してしまったのだ。<br /><br />
(最後の想い出がこんなのなんて…、最低ネ…)<br /><br />
そう思うと、自分が許せなくて涙が出てきてしまった。<br />
慌てた様子で、○○が声を掛けてくる。<br /><br />
「ど、どうしたの? 何かあった?」<br />
「…ウッ…ヒック……」<br />
「な、何か欲しかったのが無かったとか? だったら他の店に探しに…」<br />
「違うネ…。そんなんじゃアリマセン…」<br />
「クヤシインデス…。せっかく○○と遊びにきたのに…。ずっと『あそこ』にいた自分が情けないんデス…」<br />
「もっとお話とかタクサンしたかったのに…」<br />
「ゴメンナサイ…、○○…、ゴメン…ナ、サ…」<br /><br />
謝っている間に、パティは泣き出してしまった。<br /><br />
顔を俯かせ泣いていると、フワリと頭を撫でる感じがした。<br />
顔を上げると、○○が困ったような笑顔をして、パティの頭を撫でていた。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「泣かないで。俺はとっても楽しかったよ?」<br />
「それに、お話するだけじゃ見えない、パトリシアさんの顔を沢山見れたから」<br />
「それだけで、俺は嬉しかったんだよ」<br /><br />
優しい笑顔でそう言った○○は、愛しさを込めながらパティの頭を撫で続けた。<br />
「だから…泣かないで。パトリシアさんが泣くと、俺まで悲しくなっちゃうよ」<br /><br />
優しく頭を撫でられ、パティはついに限界になってしまった。<br /><br />
「ウッ…、ウワァァァン!」<br /><br />
○○に抱き付き声を上げて泣き出した。<br /><br />
自分でも止められない想いが、次から次へと溢れ出てきてしまう。<br />
我慢が出来ず一人で楽しんでしまった事の後悔。<br />
やりたい事が沢山あったのに、自分のせいで出来なかった事の情けなさ。<br />
近い将来アメリカへ帰る事の寂しさ。<br />
何より、○○に対する誰にも負けない強い想い…。<br /><br />
それらが混ざり合い、パティの心の容量を越えてしまったのだ。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">自分の胸で泣きじゃくるパトリシアさんを見つめ、○○は自問自答する。<br /><br />
(俺は一体何をしていたんだ?)<br />
(パトリシアさんは、こんなに俺の事を考えてくれてるのに…)<br />
(ただ見てるだけで、何も自分からしようとしなかった)<br />
(お弁当もパトリシアさんが作ってくれたけど、俺はご飯くらい適当に済ませれば良いって思ってた)<br />
(『とら○あな』も喜んでくれはしたけど、積極的に何かをしようとしていなかった)<br />
(それじゃあ一緒に居るなんて言わない。それはそこに『在る』だけじゃないか!)<br />
(誰かと一緒に居るってそうゆう事か?)<br />
(――――違うだろうが!)</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">暫く泣いていると、パティは自分を暖い感触が包んでいる事に気付く。<br /><br />
「…○○…?」<br /><br />
彼の名前を呟くと、○○はより強く、だけど優しい力でパティを抱き締める。<br /><br />
「ゴメンね…、パトリシアさん…」<br />
「何で○○が謝るデスカ? …ワタシが悪い…」<br />
「そんな事ないよ!」<br /><br />
遮るように○○が声を上げる。<br /><br />
「そんな事ないっ…! だって、俺は何もしなかったんだよ! ご飯もどこかで食べれば良いとしか考えてなかった」<br />
「『と○の○な』に行っても、俺はただ見てるだけだった!」<br />
「俺がもっとちゃんとしてれば…、パトリシアさんはこんなに悲しまなかった」<br />
「だから…、俺が悪いんだ…。ゴメンよ…パトリシアさん…」<br /><br /><br /><br />
パティは溢てくるものを止める事が出来なかった。<br />
だが、今溢れているものは、先程までのものとは違う。<br />
嬉しい涙が止まらなかった。<br />
○○を愛しい気持ちが止まらなかった。<br />
そして何より、こんなに自分に優しくしてくれる○○の気持ちが嬉しかった。<br /><br />
(やっぱりワタシの大好きな○○ネ…、とってもとっても…、素敵な人…)</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">手をゆっくり○○の背中に回す。<br /><br />
「○○…、聞いて欲しい事がアリマス…」<br />
「覚えていますか…?桜藤祭の時…、○○は一生懸命ワタシ達の為に頑張ってくれました…」<br />
「それに…、代役を演じ切った○○は…とてもカッコ良かったネ…」<br />
「あの時、ワタシ…○○に大切な事を言った気がするヨ…」<br />
「けど、それは夢の中のような気がするネ…」<br />
「だから…、今ここでもう一度言いマス…」<br />
「…○○…、……I LOVE YOU……」<br /><br /><br /><br />
時間のループがあったせいか、告白した事自体は覚えているが、それが夢のようにぼやけた記憶になっているようだ。<br /><br />
「パトリシアさん…」<br /><br />
○○が答えを告げようとすると、パトリシアさんは腕の中で首を振る。<br /><br />
「ダメネ…。答えは聞きたくないヨ…」<br />
「…どうして…?」<br />
「これから○○は受験で忙しくなるネ…。それに…、いつかはワタシはアメリカへ帰るんデス…」<br />
「…だから…、○○とは想い出のままでサヨナラした方が…」</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">ギュ~ッ!<br />
突然○○はパティの鼻を摘み上げる。<br /><br />
「イ、イタイイタイイタイ! イキナリ何をするんデスカ!?」<br />
「パトリシアさんがバカだからだよ」<br />
「バ、バカって何ですカ!? ワタシは○○の邪魔になりたくないから…」<br />
「好きな人が邪魔な訳ないじゃないか」<br />
「ソウデスヨ! 好きだから邪魔に…。…エ? 好き…?」<br /><br />
キョトンとするパトリシアさんを優しく見つめる。<br /><br />
「答え聞いちゃったね? 何度でも言うよ。俺はパトリシアさんが好きだ」<br />
「……ダ、ダメデス……。聞いたら…、我慢出来なくなっちゃいマスヨ…」<br />
「しなくて良いんだよ。それに、好きな人と会えなかったり、話が出来なかったら受験どころじゃないさ」<br />
「デモ…、ワタシはアメリカに…」<br />
「迎えに行くよ。いつか、必ず」<br /><br /><br /><br />
『○○の邪魔になってはいけない』<br />
パティなりの考えで押さえていた感情が、○○の言葉一つ一つで解き放たれる。<br /><br />
「○○…っ!」<br /><br />
泣きそうになるのを堪え、○○の胸に顔を埋める。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「イインデスカ?
ワタシ…、我慢しませんヨ…?」<br />
「もちろん。俺も我慢しないからね。会いたくなったら会うし、愛しくなったら、こんな事もするよ」<br /><br />
そう言いながら、○○はパティの顔を上げさせて唇を奪う。<br /><br />
「ぅん…っ! …ん…」<br /><br />
一瞬驚いたようで、身体を硬直させるが、すぐに○○に身を任せる。<br /><br />
「んっ…チュッ……はぁ…」<br />
「……まさかいきなりシテくるとは思いませんデシタ……」<br />
「俺も自分がこんなに大胆だとは知らなかったよ」<br /><br />
幸せそうな笑みを浮かべながら、○○の胸の中へと顔を埋める。<br /><br />
「…いつか…、迎えに来てクダサイネ…」<br />
「ああ、もちろん」<br />
「受験が終わるまでは、時々で良いから会ってクダサイ…」<br />
「俺は毎日がいいけど…」<br /><br />
そう言うと、パトリシアさんはキッと顔を上げる。<br /><br />
「ダメデスヨ! ちゃんと勉強してクダサイ! アニメを見るのも忘れたらダメネ!」<br /><br />
そう言いながら人差し指を○○の鼻へ突き付ける。<br /><br />
「あと、会えないからって、浮気は許しませんヨ! …ホントにイヤデスヨ…?」<br />
「もちろんしないよ。…俺を信じて」<br />
「ハイ…、信じマス…」</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left"><font size="1"><font size="1"><font size="1">「…それと、一つだけイイですか?」<br />
「パティ…って呼んで下さい…。でないと、イヤです…」<br />
「あの時…、夢では呼んでくれましたヨ…?」<br /><br />
(夢…? ループした時の事かな…)<br /><br />
「うん。…愛してるよ、パティ…」<br />
「…ワタシもデス…。いつでも…、いつまでも…、愛してマス…」<br /><br />
良い雰囲気のなか、再び顔を近付けようとすると、周りからざわめき声が聞こえた。<br />
ふと周りを見渡すと、部活帰りの学生や、買い物途中の主婦などが一斉にこっちを見ていた。</font></font></font></div>
</dd>
<dd>
<div align="left">
<p><font size="1"><font size="1"><font size="1">一瞬にして頭が沸騰する。<br />
突然のパティの涙。<br />
パティからの告白。<br />
それらが相俟って今置かれている状況を忘れていたが、今ここは夕方の駅前だった。<br />
パティを見ると、同じく失念していたようで、顔を真っ赤にしてこっちを見ている。<br /><br />
「ど、どどどど、どうしまショウ~!?」<br />
「とりあえず…、逃げよう! パティ!」<br /><br />
パティの手を取り一目散に逃げ出す。<br />
周りからは『愛の逃避行だ!』『お幸せに!』などと聞こえてくる。<br /><br />
「○○! 何だか今が今日一番楽しいネ!」<br />
「それは同意せざるを得ないな! 恐ろしく恥ずかしいけど!」<br /><br />
手を取り合い二人は駆けて行く。その顔にはもう迷いはない。<br />
パティは、好きな人と一緒にいて良い理由を知った。<br />
○○は、好きな人と一緒にいる事の意味を知った。<br />
二人の想いは、もはや迷う事は無い。<br /><br />
「○○~!」<br /><br />
離れていても伝わる言葉。<br />
離れ離れになる二人が、愛を確かめ合う一つの言葉。<br />
パティは枯れる事のない思いを、笑顔と言葉に乗せて高らかと告げた。<br /><br /><br /><br />
「大好きデスヨ!」<br /><br />
FIN</font></font></font></p>
<p><font size="1"><font size="1"><font size="1"> </font></font></font></p>
<p><font size="1"><font size="1"><font size="1"> </font></font></font></p>
<p><font size="1"><font size="1"><font size="1">おまけ</font></font></font></p>
</div>
<div align="left">
<dl><dt><font size="1"><font size="1"><font size="1"><br />
腹拵えを済ませた5人は、パティと○○が動いたのを見て、慎重に後をつける。<br /><br />
(…手握ってる…)<br />
(パトリシアさんいぃなぁ~)<br />
(…ネタになりそうな…。でも書きたくないような…)<br />
(羨ましいなぁ…。…みなみちゃん高枝切り鋏で切っちゃダメ)<br />
(…どっから出したッスか?)<br /><br /><br /><br />
そうこうしている内に着いたのが、秋葉原の「とら○あな」一号店だった。<br /><br />
途端に、約二名の目が光る。<br /><br />
(先輩…)<br />
(うむ…、一時任務中止だ)<br />
(どうしたの? こなちゃん)<br />
(つかさ…。世の中には譲ってはならない時があるんだよ…)<br />
(それが…、今なんッスよ!)<br /><br />
言うが早いか、二人は一号店の中に飛び込んで行った。 <br /><br /></font></font></font></dt>
</dl></div>
<div align="left">
<dl><dt><font size="1"><font size="1"><font size="1">(ふぇ~…。大事な用事かなぁ…?)<br />
(…欲に負けただけに見えますが…)<br /><br />
本来の目的である二人を探していると、ゆたかが声を上げた。<br /><br />
(あ~! こんなとこにカフェがありますよ!)<br />
(ホントだ~、尾行して疲れたし、寄って行こうか?)<br />
(はいっ)<br />
(…そうですね…)<br /><br /><br />
それから暫くして…。<br /><br />
「しまった! もう閉店だよ!」<br />
「ホントッスか!? 夢中になり過ぎた…」<br />
「二人は?」<br />
「…さすがにもう…」<br />
「うぅ~…、撒かれてしまったか…。やるなパティ」<br />
「どちらかと言うと、物欲ってかオタク欲に負けたような…」<br />
「だって、ホントに欲しいものがあったら悔しいじゃん?」<br />
「気持ちは分かるッスけどね…」<br /><br />
一号店から出ると、隣りの本店からつかさ達が出てきた。 <br /><br /></font></font></font></dt>
</dl></div>
<div align="left">
<dl><dt><font size="1"><font size="1"><font size="1">「つかさ?
何してたの?」「カフェでずっとおしゃべりしてたよ~。スイーツも美味しかった~」<br /><br />
スパンッ!<br /><br />
「いかほどっ!」<br />
「まったく…、ちゃんと尾行してよね!」<br />
「泉先輩…、ワタシ達も同罪では…?」<br />
「二人共見失っちゃったね…」<br />
「…残念…」<br /><br />
のたうち回るつかさを尻目に、ゆたかとみなみは溜め息を吐く。<br /><br />
「仕方ない…。今日は帰ろうか…」<br />
「月曜に○○先輩を問詰めるッスか?」<br />
「そんな事しないよ。だけど、次の土曜の○○くんを予約しとくつもり」<br />
「あ、私も予約する~!」<br />
「先輩達は勉強するッス!」<br />
「そうだよお姉ちゃん! ○○先輩は私が預かるからね!」<br />
「…いくらゆたかでも…、それは阻止する…。…全力で…っ!」<br /><br />
一触即発の空気の中、一人、また一人と夜の街へと帰っていった。<br /><br />
後日、5人から一斉にアプローチを受け、5人が血で血を洗う抗争に勃発したのは、また別のお話。<br /><br />
FIN</font></font></font><br /><br /></dt>
</dl></div>
</dd>
</dl>
2009-02-09T00:16:55+09:00
1234106215