―――いた。
劇が終わって、大急ぎで着替えて。
私は急ぐ。
星桜の下へ。
それが、あいつと交わした“約束”だから。
「…よっ」
ぼんやりと空を見上げてるあいつに声をかける。
「…よかった。憶えててくれたんだ」
振り返って、にっこりと笑う。
その笑顔に、妙にドキドキしちまう。
あやのも、兄貴に告白とかしたとき、こんな感じだったのかな?
「あ、当たり前だろ。約束…したんだからな」
顔が熱くなる。あいつを見てらんなくて…でも見てたくて。
あー、なんかヘンだ私。
「…ごめん、随分待たせちゃった」
不意に。
目の前に、あいつの顔。
気が着くと私は、腕の中にいた。
「ちょ…!」
心臓が跳ね上がる。一瞬、止まるかと思った。
「教えてくれないかな。…“今”の…日下部さんの気持ちをさ」
「バカ。……く、空気読めよ」
「…読めなくはないけど。でも、折角だから日下部さんの口から聞きたいんだ。“あの時”みたいにさ」
…ったく、恥ずかしいコト言いやがって。
でも、悪い気はしないな。
「…好きだから。私、ゆうきのこと、好きだから!」
ちょっと見上げて、あいつの顔めがけて叫ぶ。あいつは照れくさそうに笑って―――まったく、私の方が照れるってんだ―――頷いた。
「…うん、俺も。俺も、日下部さんのこと、好きだよ」
その言葉に、胸が締め付けられる。
あやのなら、きっと『キュンとなる』っとでも言うんだろーな。
苦しいような、でも気持ちいい。不思議な感覚。
“あの時”は…まだよくわかんなかったけど…
「…今なら、わかる気がする」
きっと、ずっとこーしていたいって気持ちが“答え”ってヤツなんだ。
「改めて、これからよろしく。…今度こそ、長い付き合いにできりゃいいな」
「そうだね。…言っとくけど、浮気はしないからね」
あ、先回りしやがったな。
「私だって」
「うん」
互いに顔が近づく。あいつの目に私が映ってる。多分私の目にも、あいつが映ってる。
「…好き」
「俺も」
目を閉じる。身体通り越して、心が重なってくような、そんな気がした。
らき☆すた~陵桜学園 桜藤祭~ After Episode
想い出のつづき
日下部みさおの場合~らんぶりんぐ☆えもーしょん~
「柊~」
桜藤祭から3日経った。
いつかあいつが言ったとおり、あいつが転校してきた日に戻ることはなかった。
それは…まぁ、嬉しいんだけどな。
「ん? どしたの、日下部」
「いや…その…」
私が口を濁してると、チョココロネぱくつきながらちびっ子が声かけてきた。
「ゆうきくんならいないよー?」
「ちょっ、お前には聞いてねーよ!」
「でも彼に用事なんでしょ?」
…うぅ、言い返せねー。
顔、今ぜってー真っ赤だよ。くぁ、恥ずかし…。
「今、私たちの飲み物買ってきてくれてるの」
柊妹が教えてくれた。
ってか、私ほっぽって何やってんだよ。
「悪いとは思ったんですが、用事のついでと仰られたので…」
高良が申し訳無さそーにうつむく。
まぁ、人がいいのはあいつらしいけど。
「…にしても遅いわね。混んでるのかしら」
「たまに妙に混むんだよねー。ギャルゲーのイベントじゃあるまいし」
時間を見る柊と、わけわかんねーこと言ってるちびっ子。
…まぁ、いないんじゃしょーがないか。
「…って、どこ行くの?」
「教室戻んだよ」
ゆうきがいないんじゃ、居ても意味ねーしな。
「いいじゃない。ここで待ってれば」
「ヤだよ、どーせゆうきとのことで私のことからかう気だろ?」
この3日間でさんざん冷やかされたからな。特に柊とちびっ子から。
「しないしない」
ウソだ。ぜってーウソだ。目が笑ってやがる。
…まぁ、いいか。
あやのも「ゆっくりしてったら?」って言ってたし…。
「…ちょっとだけ、だぞ」
「それはゆうきくん戻ってきたらソッコーで二人きりになりに行くってことでおk?」
「あのなー!」
*
「…にしてもびっくりだよねー」
「あにがだよ?」
垂れたチョコを指ですくいながら、ちびっ子が呟く。
「いや、みさきちとゆうきくん。最初の嫌いっぷり見てたら、今の状況、冗談に見えるもん」
「…む、そりゃ…まぁな」
私だって、そう思うことがちょっとだけある。
ふつー、ああまで嫌ってたヤツのこと、好きになるか?
やっぱ、あいつヘンだよ。
「…まぁ、それがゆうきくんのいいところなんだよ、きっと」
そう言った柊が『だから…かな』と小声で呟いたように聴こえた。
「柊?」
「…ん、なんでもない」
「ごめん、お待たせ!」
教室の扉が勢いよく開いて、聞きなれた声が響く。
腕にいくつか缶をかかえて、あいつが飛び込んでくる。
「おそいよー、もー」
「ごめんこなたさん。なんか今日妙に人多くてさ…」
「それもだけど…ほら、待ちぼうけ喰らって拗ねてるコがいるんだよ」
は? と間抜けな顔のあいつ。ちびっこが指してるのは…私。
「って、誰が拗ねてるって!?」
「あ…ごめん、遅くなって」
缶ジュースを机に置くのもそこそこに、ゆうきが駆け寄って頭を下げる。
「いや…その…いいよ。約束、忘れてたわけじゃないんだろ?」
「うん。…でも、遅くなったのは事実だからさ」
だから、ごめん。
そう言って、俯く。
「謝んなって! …あーもー…うりゃ!」
申し訳無さそうな顔のままのゆうきに抱きつく。
周りで柊たちが見てるけど、知るもんか。
「…拗ねてないけど、寂しかったのはホント」
クラス違うから、朝と昼と放課後っきゃ会えないし。
「つーか、遅くなるならなるでメールよこせ」
「…あ、そうだね。ごめん」
「だからあやまんなってば。ちゃんと今ここにいるから、いい」
と、ゆうきの腕が私の背中に回る。
「…うん。ありがと」
いつか私にやってくれたみたいに、背中を撫でてくれる。
それが、すげー心地よくって。時間を忘れそうになっちまう。
「好きだ。大好き」
「うん。俺もな」
「…仲良き事は美しき哉…なんて言うと思うか!!!」
「「あてっ!」」
乾いた音が跳ねて、同時に頭に鈍痛が走る。
「…く、黒井先生…?」
…え!? え!?
「ま、まさか本鈴…」
「おー、当の昔に鳴っとったで。つか自分ら、それすら聞こえンくらい二人の世界におったんかいな。…見せつけとンんか、見せつけとるんか!? 彼氏おらんウチへのあてつけかー!!?」
出席簿で容赦なく頭を叩いてくる。
「いてっ、いてて! ちょ、頭悪くなったらどーすんですか!」
「安心せい、そんな色ボケ頭、とっくに悪くなっとるわい」
…教師にあるまじきセリフだよな、それ。
「日下部もとっとと自分のクラス戻らんかい。ほれ駆け足!」
「は、はいぃ!」
うー、顔から火ぃ出そうだゼ…
「あ、みさ!」
廊下に出た私に、ゆうきが声をかける。
付き合うようになってから、そう呼ばれるようになったけど、やっぱ慣れねーな。照れる。
「放課後、部活終わるまで待ってるから。一緒に帰ろ!」
「あ…」
笑顔で、そう言う。
…やっぱ、かなわねーな。
すげー惚れてる。私、あいつに。
だから、私も応える。
今できる、精一杯の笑顔で。
「…おう!」
「この状況でまだ口説きに入れるか…ええ度胸やな赤津!」
「あでっ! ちょ、角は危険! 危険ですってば!!」
…ちょっと頼りないヤツかもだけど…。
大好きだゼ、ゆうき!