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「だから!ただ友達と遊んでただけだろ!」
「私より男友達の方が大切なの!?」
「比べられるわけないだろ!」

放課後の廊下。俺とかがみは口論をしていた。
理由は簡単。休日にかがみの誘いを断って、男友達と遊んでいたのが原因だ。
説明し忘れたが、俺とかがみは付き合っている。

こなたさん、つかささん、みゆきさん、日下部さん、峰岸さんが俺たちを落ち着かせようとしている。
しかし、かがみの黙ってて!という怒号に、5人は黙り込んでしまっていた。

「もういい、勝手にすれば」
そう言って、かがみは行ってしまった。5人は慌ててかがみを追いかけた。

俺は教室に戻り、一人で考え込んでいた。
考えてみれば、原因は俺にある。かがみの誘いを断ってまで、友達と遊ぶ事もなかった。
・・・・・・俺から謝ろう。

「あっ!見つけたぞ、このヤロー」
教室の扉が勢いよく開いたと思ったら、そこには日下部さんがいた。
「ど、どうしたの?」
「お前を捜してたんだってヴァ」
「俺を?俺にいったい何の様?」

つぎの言葉を聞いて、俺は耳を疑った。
「柊が・・・階段から・・・階段から落ちた!」

俺の顔から血の気が引いていくのが、自分で分かる。
「今保健室で寝てるけど、早くお前も行ってやれよ」

俺は全速力で廊下を走り、保健室へ急いだ。

 

かがみは今、保健室のベッドで眠っている。
こなたさんが状況を説明してくれた。階段を下る途中で、足を滑らしたそうだ。
そしてみゆきさんが、かがみの容態を教えてくれた。
「天原先生が言うには怪我はたいした事ないんですが、頭を強く打っていて軽い脳震盪を起こしてるらしいですけど・・・」

俺は一人、想う。
(これって・・・俺のせいだよな。いくら頭に血が登ってたとはいえ、あんな風に言わなくても。
元々の原因は俺なわけだし・・・)
そう考えていると、こなたさんが叫んだ。
「あっ!かがみ!!」

みんなが目を覚ましたかがみに、みんなが喜びの声をあげる。
「あやのーー!柊が起きたよーーー!」
「心配したのよ、柊ちゃん」
つかささんは、泣きながらかがみに抱きついている。
「かがみさん、大丈夫ですか?」

まだ状況を把握していないかがみは、こなたさんに問う。
「こなた。あたし・・・?」
「かがみ、階段から落ちたんだよ。心配したんだから」
「あたしが・・・階段から?」
「覚えてないの?」
「・・・・・うん」
「かがみ!」

こなたさんとの会話に割って入る形で、俺はかがみに話しかける。
「えっと・・・その・・・」
うまく謝れない。俺が口を濁していると、かがみが再び、こなたさんに問う。

「こなた・・・この人・・・誰?」

 

かがみのその言葉に、その場の全員が凍りついた。
かがみが見てるのは、俺。

「かがみ、あたしの事分かる?」
「こなたでしょ?」
こんな具合にこなたさんは、俺を除く全員の名前をかがみに問う。・・・問題なし。
「じゃあ・・・この人は?」
こなたさんが、俺を指差す。そしてかがみの口から、一言。
「こなたの・・・知り合い?」

「おい、どういう事だよチビッ子!」
「まさかとは思うけど・・・」
そのあとの言葉は続かず、こなたさんに代わり峰岸さんが言う。
「記憶・・・喪失?」

ウソだろ?記憶喪失?俺の事だけ?
「冗談じゃねえよ!かがみ!さっきの事なら・・・」
そう言ってかがみの肩を掴む。
「いや!!」
そう言って、俺の腕を払うかがみ。

今まで恋人として接してくれたかがみが、俺を拒絶した。
落ち着いてと言うこなたさんの言葉も、頭まで回ってなかった。ただ信じられず、これが夢だと思うしかなかった。

みゆきさんの提案で、今日はもう帰ることにした。その際みゆきさんは一つだけ、約束をした。
この事はこの場にいる人たちだけの秘密にすること。
みんな承諾し、それぞれの帰路に着く。

俺は一人だけ、教室に残っていた。まだこれが夢だと思い、現実を受け入れない俺。
「夢なんだよな、これは。夢だろ?早く覚めろ。夢なんだから・・・くそ!」
そういって俺は教室の壁を殴る。何度も。何度も。

しかし俺の手に残っていたのは、滲んだ血と、確かな痛みだった。その痛みがまるで言っているようだった。
これは現実なんだよ。・・・と

 

あれから1週間が過ぎた。かがみの記憶はまだ戻らない。
みんな色んな方法で思い出させようとしてくれた。しかし、やっぱり思い出してくれない。
いつからか、俺はかがみを避けるようになっていた。昼休みになると、一人で屋上に行くようにしていた。
教室にいると、かがみが来るから。その場にいるのが、たまらなく嫌だった。
心のなかに、あの思いを抱いたまま、時は流れる。

そんなある日の授業中、俺のケータイにメールが届く。・・・こなたさんからだ。
「今日の放課後、屋上に来るベシ!来ないと・・・」
屋上?今日は予定もないしなぁ・・・。OKと返信する。

放課後。屋上でこなたさんを待つ。・・・おかしいな、30分しても来ない。なんか嫌な予感がする。
「自分から呼び出しといて、なんだよ」
一人で文句を言っていても、いつまで経ってもこなたさんは来ない。
「・・・・・帰るか」

屋上から校舎に通じる階段を下りると、声が聞こえた。
「ちょっと・・・」

聞きなれた、声。しばらく聞いてなかった、声。
「・・・・・かがみ・・・」

そこには確かにかがみがいた。この1週間、ずっと避けていたかがみが、そこにいる。
気まずい空気。ながい沈黙がこの場を包み込む。
「なんで?」
かがみが、沈黙を破る。

「なんであんた、教室に居ないの?それに、あたしに話し掛けてもくれない」
「こなたから聞いたわ。あんたとあたし、ものすごく仲よかったって。・・・なんで?」
かがみの言葉が、凄く痛い。心に突き刺さる。
「思い出さないから?」

その言葉に、俺は言葉を失った。そうじゃないと言いたかったが、言葉が出ない。
「そう、なんだ・・・」
俺が違うと言いかけた時、かがみが一言。
「ごめんね」

その時、俺のなかでなにかが壊れた。音をたてて、なにかが崩れた。
「あたしがちゃんと、あんたの事を」
「・・・おい」

かがみの言葉をさえぎり、俺が言葉を続ける。
「なんでかがみが謝るんだよ・・・」
「だって悪いのはあたし」
「違う!!」

いままで溜めてきた思いが、一気に溢れてくる。
「かがみは何も悪くない!謝るな!」
「でも、結局あんたの事を思い出せなくて・・・それであんたに迷惑かけて」
「だから違う!本当に・・・本当に謝るのは・・・・・!」

言いかけて、俺は走りだした。正確に言えば、逃げた。

 

中庭まで来て、俺は止まった。目の前には星桜の木がある。二人の思い出の場所。
なんで謝れない。素直になれない!考えなくても、その理由が俺にはわかっていた・・・。
俺は・・・怖いんだ。かがみが思い出して、俺を許してくれないんじゃないかって。
「もう、見つけた」
かがみの声が、前から聞こえた。

「あんたねぇ、なんで・・・あっ!」
その時だった。かがみが躓いた。転びそうになるかがみを、俺は支えた。
その光景は、あの時と同じだった。こなたさんと仲直りした後の、廊下での光景と同じだった。

「あ、ありがとう・・・」
お礼を言われたがその言葉も耳に入らず、溢れる感情を感じていた。そして
「・・・・・え?」
かがみを抱きしめていた。戸惑うかがみを気にもせず、抱きしめる。
「ちょっ、なによあんた」
「・・・・・ごめん」

もう我慢できなかった。抑えていた何かが涙として溢れた。
「いままで避けてきてごめん!誘いを断ってごめん!悲しい思いさせてごめん!
今までのこと全部謝るから!もう悲しい思いさせないから!一生大切にするから!
だから・・・だからいつもみたいに「けんじ」って呼んでくれよ!俺のこと・・・思い出してくれよぉ!!」

初めて人前で泣いた。溢れる感情を、すべて言葉にした。

「ごめん」
「違う!悪いのは全部・・・全部!」
「けんじ君・・・」

確かに聞こえた、俺の名前。俺はかがみを見つめる。
「ごめんね、なんでだろう・・・どうして大切な人のこと、忘れてたんだろう・・・大好きな人なのに・・・」
見ると、かがみは泣いていた。その目は、しっかりと俺を捉えていた。
「ごめんね・・・けんじ君・・・」
「・・・かがみ・・・かがみ!」
まるで子供のように、俺は泣いていた。そして何度も謝った。かがみは母親のように、俺の頭を優しく撫でながら許してくれた。
夕日が二人を包み込むような、優しい光のように感じた。