私はいつものようにお昼を皆で食べるために、こなた達の教室へ向っていた。
いろいろあった学園祭が終わって、浮き足立っていた空気も日常に戻りつつある。
だけど、私の心はまだ浮ついている。
それも、これも―――
(祐一君・・・教室にいるかしら?)
長瀬(ながせ)祐一君。学園祭の直前に転校して来た男子。そして―――私の恋人。
祐一君のことを思い出すだけで、幸せな気持ちになる。
これが、人を好きになるってこと?
「・・・ちゃん?お姉ちゃん!?」
ふっと、我に返る。
「お姉ちゃん、どうしたの~?教室通り過ぎちゃってるよ」
教室のドアから顔を出したつかさが不思議そうな顔で、私を見ている。
私は目的地をいつの間にか、通り過ぎていた。
「ああ、ゴメン、ゴメン」
私は慌てて、つかさの側に寄った。

 教室の中に入って、私は思わず祐一君の姿を探す。だけど、その姿はどこにも無かった。
(居ないんだ・・・)
ちょっとだけ寂しくなる。
「むっふっふ~祐一君がいなくて寂しい?かがみ~」
こなたが私の心を読んだみたいに、ニヤニヤしながら話し掛ける。
「べ、別に・・・そんな訳無いでしょう!?」
否定する私。でもそれは無意味だろう。私の顔は多分真っ赤だろうから。
「照れなくてもいいのに~恋人なんだから心配するのは当然だろうしね」
「なっ?」
ズバリと指摘されて、私は言葉に詰まる。
「な、何で・・・」
「何でって・・・そりゃ後夜祭でのあの雰囲気を見てればね~」
告白された後に、私と祐一君は後夜祭を2人で過ごした。私としては、普通にしてたつもりだったんだけど・・・
「いや~見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの雰囲気だったよ」
「う、うっさい!いいじゃない、別に!」
「う~ん、恋する乙女なかがみん萌え♪」
「こ~な~た~!!」
完全にからかわれるのを自覚しながら、私は気になることを聞く。
「それで、祐一君は?」
「今日は、祐一さん、お休みですよ」
私達の会話が聞こえたのかみゆきが答える。
「えっ?」
「黒井先生がおっしゃってたんですが、熱が出たそうです」
「祐一君、お姉ちゃんの分まで頑張らなきゃって、劇の練習頑張ってたもんね~」
「そ、そうなんだ」
何か、そう言うの聞くと・・・嬉しくなっちゃうじゃない・・・
「ときめいてるね~かがみ」
「だ、誰が?」
こなたの言葉を否定しながら、私は祐一君に何かしてあげられないか考えていた。


そして、数時間後、私は祐一君の家の前に立っていた。

 

 「ど、どうしよう・・・」
いざ、祐一君の家の前まで来て、私は急に尻込みしてしまう。
祐一君の家に来るのはこれが初めてじゃない。
だけどあの時は、こなたが一緒だったし、何より祐一君を特別な存在として見ていなかった。
(ご両親がいたりしたらご迷惑かも知れないし、やっぱり後で・・・)
私の心が折れそうになったその時―――
『♪~♪~♪』
携帯電話が鳴る。
『はい、もしもし?』
『あ、かがみさん?』
『ゆ、祐一君?』
電話の向こうから大好きな人の声が聞こえて来る。
『どうしたの?それよりも風邪の方は大丈夫?」』
『うん、熱は下がったから・・・かがみさんこそ、俺の家の前で何やってるの?窓から見てるんだけどウロウロしてるから
何やってるのかなと思って』
『えっ?ゆ、祐一君が風邪を引いたって言うから・・・』
『そっか、ありがとう。・・・上がれば?』
『いいの?』
『いいよ。ヒマで退屈してたところなんだ』
『じゃあ、今から行くわね』
「おじゃましま~す・・・」
わたしはゆっくりと祐一君の部屋に入る。
こなたと来た時には印象に残らなかったけど、こうやって改めて見ると男の子の割りには意外と片付いている部屋だった。
「あ、あんまりジロジロ見ないで欲しいんだけど・・・」
「ゴ、ゴメン」
私はそう言ってベットサイドの椅子に座る。
祐一君は、私が見る限り、熱も引いてすっかり元気そうだった。
「で、今日は学園で何があったんだ?またこなたさんにイジられたとか?」
「そうなのよ~全く、アイツは・・・」
私はその日学園であったことを祐一君に話した。

 『グゥ~~~』
不意に祐一君のお腹の音が鳴ったのはたわいも無い話で盛り上がっていた時だった。
「お腹空いたの?」
「そう言えば、朝から何も食べてなかったな・・・」
「あ、じゃあ・・・つ、作ってあげようか?」
「えっ?」
「だ、だから・・・私が作ってあげようか?って言ってるの」
「ほ、ほら!前に祐一君が私の手作りお弁当が食べたいって言ってたことがあるじゃない?だから、あれから料理の勉強したのよ?
つかさやこなたに教わりながらね」
早口になりながら、まくしたてる私。
そうしないと、顔が真っ赤になるのがバレそうだったから。
「そうなんだ?じゃ、お願いしてもいいかな?」
「まかせなさい!じゃあ台所借りるわよ」
私はそう言って祐一君の部屋のある2階から下に降りて行った。
「・・・・・」
私の作った料理を味わう祐一君。
そのリアクションを気にする私。
「・・・美味しい!美味しいよ!かがみさん!」
「ほ、本当に!?良かった~」
思わず安堵のため息を洩らす私。
「いや~お世辞抜きで美味しいよ」
祐一君はあっさりと私の作った料理を食べきった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
祐一君は、しばらく考えた後、私の方を見て言った。
「じゃあ、俺からもお礼で・・・かがみさん、何かして欲しいこと無い?」
「べ、別にいいわよ。私は祐一君に何かしてあげたくてやったことだし」
「じゃあ、俺もかがみさんに何かしてあげたいな」
「・・・本当に何でもいいのね?」
「もちろん!」
「じゃあ・・・」
私はそっと祐一君に耳打ちした。

「かがみさん、こんなことでいいの?」
祐一君は、私の頭を撫でながら疑問を含んだ声で問い掛ける。
「いいのよ。こうされてると落ち着くから」
『私の頭を撫で撫でしてほしい』
それが私の祐一君へのお願いだった。
「私ね、子供の頃はこういう風に誰かに頭撫でてもらうなんてこと無かったの。大抵こういうことをされるのは、
つかさの方だったから・・・ねえ、祐一君」
「何?」
「これからもたまには、こういうことして欲しいな・・・祐一君が嫌じゃなければだけど」
「嫌な訳ないだろ?むしろ積極的にしたいよ。いや~だけど・・・」
「だけど・・・何?」
「こういう子供なかがみさんも可愛いな~なんて」
「・・・バカ」
私はそう言いながら、ゆっくりと自分が眠くなるのを感じる。
「眠いの?起こしてあげるから寝たら?」
「うん・・・そうする」
祐一君の声に頷きながら、私の瞼は少しずつ重くなって行く。
「祐一君・・・大好きだよ」
「俺もだよ。かがみさん」
祐一君の言葉にたまらない幸福感を感じながら、私は眠りに落ちていった。

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最終更新:2008年06月07日 01:26