それは、学園祭も終わった昼下がり。
数週間前に転校してきた伊藤まことも、すっかり学校に馴染みつつ、いや、今に馴染みつつあった。
「それでさ、学園祭の二年の演劇で、最後に赤い洗面器を頭に乗せた男がさー…」
教室にはいつものメンツ。
泉こなた、柊つかさ、高良みゆき、そして。
「もー、どんだけって感じよ。アハハッ」
いつも屈託もない笑顔を見せる、柊かがみ。
彼女達を見ていると、何か思い出さなければならない事があった気がする。
それが何だったか思い出せないまま、自分の席からじっと彼女達を見ていた。
そんな毎日を、これからも繰り返すような気がして、それじゃあダメなんだと思い始めた頃だった。
それは、その最中に突然届いたメールだった。
<まこと君、さっきからずーっと見とれちゃってるねー。これがゲームの始まりですかな?>
「へっ?!」
あれ?!なんでこなたさんが俺のメアドを?!
慌ててそっちを見ないように返信する。
<なにも始まってないと思うんだけど>
しばらくして、またメールが来る。
<そーいやこないだ携帯覗いた時、かがみのミスコンの時の写真、待ち受けに使ってたの見たよー。ふふふ。まさにゲームはこれからだね?むしろかがみに見られたらヤバイよー?>
ああっ?!
咄嗟に赤いボタンを押した。携帯の画面が、待ち受け状態、すなわちかがみのウェディングドレス姿の写真に変わった。
み、見られてる…でも、これは…なんでだっけ?
なぜだか、記憶がもやっとしている。何か大事な事があって、これを待ち受けに…いや、最近は気にもしていなかった気もする。
そして。
<ちょーっと今日、げまずに付き合って。悪いようにはしないからニヤリ>
確かに、ゲームの始まりだった。
どうも、そのプレイヤーは、…こなたであるらしい。
「んでさ、かがみの写真を待ち受けに使ってるっていうのは、これは脈アリどころか事情アリ、って見ていーのかな?」
ゲーマーズの前で待ち合わせをしたこなたが開口一番、そう言った。
「事情も脈も、何もないですよ、その、俺も…」
正直に事情を説明しようとして、はたと思った。
これ、俺も理由わかんないなんて言ったら、思い込みでここに呼んだこなたさんの機嫌損ねる…最悪この事がかがみさんの耳に…
「で、どーゆーわけかな?ほらほら、この恋愛スペシャル相談室(アレゲ限定)のこなたおねーさんに話してみな?」
「その、うーん…な、なんでしょね?」
冷や汗交じりに誤魔化してみる。
「ふーん、なるほどなるほど…」
こなたがうんうん考え込むが、ひょこっと顔を上げて、
「わかった!つまり好きな子の写真を待ち受けに入れて3週間誰にも見られなかったら想いが叶う、をリアルでやってたわけだね?!」
まったく意味がわからないが、女子高生の間のおまじないなのかとなんとなく納得してみた。
「とゆーことは、これの写真は学園祭だから…あ、3週間経ってない!リアル西園寺やっちゃったよぉ!」
ひとしきり意味不明の事をわめいた後、
「今日声かけたのは、やっぱりなんかの運命だったのかなぁ。よし!」
「あの、さっきからリアルどうとかって…」
「あぁわかんなかったら聞き流して。あたしもリアルでそこまでやるほど酔狂じゃないし」
そして、こう言った。
「お詫びって事になっちゃったけど、かがみん一発攻略法、伝授してあげる」
「こ、これを全部…読むんですか?」
「そう、読むだけじゃだめだよ。ちゃんと物語を気に入って、馴染む事」
文庫コーナーに入ったこなたが始めたのは、平積み横一列の本をざっくり積み上げる作業だった。
「えーと、あとこれとこれと…」
「え、ええっ?!」
棚の文庫本を一冊ずつ、…じゃなく、1タイトル一式ずつ抜き取ってゆく。
「俺、そんなに今日お金もってないって!」
「あぁいいのいいの、あたしも出したげるから」
まったく手を緩めず、ダース単位で文庫本が積まれてゆく。
「ほんとは今日発売のゲーム2、3本買うつもりだったんだけど、やっぱリアルプレイするゲームの方が面白そうだしね」
「そ、そうなの…」
「えーと、これで…よし、こんなもん!まこと君、半分持ってって」
半分持ってけ、と言われたって、手に収まるレベルじゃないような気もする。
対するこなたは、片手にひょいひょい積み上げて、古風な言い方だけど蕎麦屋の出前スタイル、それもテレビに出れそうなぐらいの高さを持ってレジへと向かってゆく。
「ありがとうございましたー」
レジを終え、文庫本なのに手提げビニール数個をぶらさげて店を出た。
「で、再び作戦会議なのだよまこと君」
「は、はぁ…」
「実は今買った本、かがみがずっと読んでるシリーズとかお気に入りとかそんなんなのだよ」
「なるほど、それで…」
「で、これが大事。この本を読んで、面白いと思ってもとりあえず今は誰にも話のタネにしないこと。これ大事だからメモしといて!」
メモをするにも両手はふさがってます。
「じゃあ、これは一体…?」
「それと期間は2週間、これまでにマスターする事!これができないとバッド直行だからこれも大事!」
「に、二週間?!」
「しょうがないよ、もう日がなかったんだもん。でも、これができればもうかがみとはバッチリがっちりフラグ立つから!間違いない!」
何故だか自信たっぷりのこなたに、なんとなく了承させられたようななんというか。
というか、こなたにここまで払わせてしまった以上、やる他はなかった。
そして、大学入試直前のような二週間を過ぎた金曜日、の放課後。
「ねー、かがみー」
こなたが一年生の田村ひよりを引き連れて教室に戻ってくる。
「んー、なに?」
「ひよりんと相談してたんだけど、明日の昼にげまず行かない?」
「何よ急に。明日はちょっと用事があるのよ」
「え、そうなんだ。秋葉のげまずでポイント景品の交換してこようと思ってさ」
「そうっス。なんか先輩、ポイントだいぶたまったっぽいんで、先輩もどーかなぁって思って」
「秋葉原なんだ。うーん、じゃあ行きと帰りだけね。あたしもそっちで用事だったのよ」
「ほほー、かがみが秋葉に用事とは珍しいですなぁ」
「うっさい!あんたみたいにオタグッズの買出しじゃないっつーの!」
「まぁいーや。じゃこれで四人で決定かな」
「他に誰が来るのよ?」
「うん、まこと君。なんか教えてくれなかったんだけど、やっぱり秋葉に用事があるんだって」
「ふーん、それぞれ自由行動でいいわけね?」
「うん」
一体何があるんだ?秋葉原の、それもUDXで。
直前の休憩時間に、こなたからのメールが届いていた。
<まこと君はUDXに用事があって秋葉に行くって設定だから。あんまり気にかけないそぶりしといてね。そしたらなぜかかがみも一緒に行く事になるから、そこからこれまでの成果を全力全開で、それも何気なくって感じで!>
まさにそれだけ。一体これが何を意味してるのかさっぱりなのだが、
<それだけで、魔法がかかったみたいにかがみんフラグ立ちまくるから。間違いない!>
そんな人にとっては意味不明、こなたとひよりにとっては待ちに待った土曜日の秋葉原。
「じゃ、あたしたちげまず行ってくるね」
「はーい。んじゃあたしたちも自由行動ね。まこと君、また後で」
「うん、じゃあね」
そのままかがみが、駅の方へと戻る。
確かにUDXに向かう方向だ。
「…ちょっとまこと君、なんでついてくるわけ?」
「UDXに行こうかな、って思って。ってかがみさんも?」
「え?まこと君も?」
かがみが目を丸くする。
「なんだ、そうだったんだ。学校じゃそんな素振りなかったのに、へー、意外ねぇ」
何故だかわかったような顔をする。
確かに、何かフラグとやらが立った気がする。
でも、あれだけの勉強…面白くて徹夜したこともあったけど…それを、ここで何気に、って…
と思ってた矢先、
「まこと君はどんな本読むの?」
渡りに船とはこの事。まるで思考を先読みされたような言葉に、
「今はフルメタル・パニックとかかな」
「こないだの新刊読んだ?ソースケがさ、…」
不思議だった。
あんなに偏った、と思っていた話が、ドンピシャで回ってくる。
UDXに向かう間も話は途切れず、自然とかがみが隣を歩く感じになる。
何故?今日UDXに行くってだけで、かがみさんが文庫本の話「しか」しなくなるって、何故?
これが、こなたさんのいってた魔法って奴なのか?
そして、UDXへ着いた時、ようやく合点がいった。
そういう事か。
掲げられた看板に輝く、角川書店の文字。
今日は角川書店のフェスタやってて、それを目当てにかがみさんが来た、って事なのか。
さすが、こなたさん。知り尽くしてるなぁ…
「すごいっスね…アレはもう個別ルート一直線って感じっスよ」
と、そんな会場の片隅。
「ふっふっふっ、かがみんも結局はオタクの一人。オタク同士で通じるひみつの暗号で、いとも簡単に心を開いてしまうのだよ」
こなたとひよりが、2ちゃんねる風に言えばスネーク状態でこっそり張り付いている。
「それが、UDXでイベントをやってる、という事っスね。うちら的にも浜松町と蒲田が通じるかで、濃いか薄いかの見極めっスから」
「さすがオンリー即売会に詳しいひよりん、同人三大聖地が暗号というわけだね?」
「この手の暗号地名は色々っス」
と、にまにましつつ片手に携帯でツーショット写真を収めているところだった。
「ふぁ…」
夕方、秋葉原駅を出た電車の車内で、かがみのあくびが漏れた。
「かがみ、眠いの?起こしたげるから寝てていいよ?」
「つかさと一緒にしないで。大丈夫よ、ちゃんと起きてるから」
そっぽを向いて座り直し、窓枠にひじをついて視線を逸らす。
でも、また…自然と笑みがこぼれ、うつらうつら。
いつも、こんな風…じゃないよな。かがみさんって割合最後まで起きてそうなのに。
誰に視線を向けるわけでもないかがみの様子に、ちょっと不安げになる。
と、こなたが携帯を取り出し、そそくさとメールを打ち始めた。
送信したかな、と思った瞬間、まことの携帯に着信が入る。
<ほっといてあげなよ。かがみにとっては、まこと君がスニーカー文庫ファンだっていうのは自分だけの秘密なんだから>
<そうなんだ。二人の秘密…って、こなたさんも知ってるのに>
<かがみはあたしの入知恵だとは思ってないから、かがみにとっての秘密、かな?>
<でも、ほんとに今日はありがとう。おかげでいっぱい、かがみさんと話せたよ>
<うんうん、電車で寝る事のないかがみがこんなに疲れてるなんて、初めての経験だったんだろうねぇ>
<だから、何かお礼をしたいんだ。なんでも言って>
<ここは遠慮するか何かお願いするのニ択だね。んじゃあ…>
ふと、こなたと目があった。好奇心ありありな目でじっと見つめている。
<やっぱやーめた。なんかバッドエンドっぽいフラグ立ちそうだし>
それから、こなた達と一緒に昼食を食べる事が多くなった。
かがみの指定席は、決まってまことの隣。
みんなで話していても、話がこなた達の間に移ると、なんともなくかがみが話しかけるようになっていた。
文庫本の新刊発売日は決まってかがみと一緒に下校して、一般書店で買い物。
でも、何か…違うんだ…
「こなたさん、相談に乗ってほしい事があるんだ」
かがみが来ない休憩時間、少し思いつめたような表情でこなたに声をかけた。
「んー、ここんとこの様子でなんとなーくわかる気がするんだけど、まぁリアルでツンデレって実際付き合ってみたら疲れるもんなのかもね」
「え?ツンデレ?」
「デレ期に入ったらツンツン部分が甘えっぽく見えたりするのは、二次元マジックなのかな?」
「いや、そうじゃなくて」
「おっとストップ、かがみんはリアルな存在なんだよ?こういうはずじゃなかったってぇのはお門違い!」
「それは全然ない」
「んじゃ何なの?断っとくけどあたし寝取り属性なんて二次元にもないよ?」
「それが…」
かくかくしかじかと、手短に「自分の」状況を語る。
「う…た、確かにそれは苦しい…」
こなたが突っ伏すのも無理はない。
「角川の新刊ったって、月にいったいいくつあるか…いち早く読みこなして、かがみさんの気に入るかどうか、とにかく全部読んでみないとわからないし…それに角川以外の文庫も入れたら…」
「愛するというのはかくも一途なものなのか…たぶんその労力を参考書に費やしたら、本気で東大行けるよ?」
「でも、まぁ…面白いものばかりだから、それは無理じゃないかな」
「うーん、事前に情報誌とかで絞った方がよくないかな」
「情報誌?本屋の壁に張ってある発売日表とか宣伝ポスターとかじゃなくて?」
「え?読んだ事ないの?っていうか、本屋に行ったらまずどこに行くの?」
「文庫の平積みかな?」
「う…」
「というわけなんだよひよりん」
「この情報化社会において、一切の調査もなく情報の海に飛び込むとは、オタク界のドンキホーテっスよ」
「じゃあ、その情報誌の名前だけでも教えてよ、今日の帰りに買ってくるからさ」
「んー、たとえばこれとかかな?」
こなたがかばんから一冊のコンプティークを取り出して渡す。
「これ、マンガ…?」
「あんまり深く説明はしないんだけど、えーと…ここ、ここ」
真ん中ぐらいのところをめくると、確かにそこに、角川の単行本の案内ページがあった。
「なるほど、これが情報誌なんだ」
ぱらり
「…」
「…」
「…これ、何の本…なの?」
冷や汗まじりで聞いてみる。
「…え、えーと、コンテンツ総合誌、かな?」
「ちょっとウブなオタクには刺激が強すぎたっすね」
「ま、まぁ、コンテンツ総合誌って事で…」
「まこと君には読むところ、たぶん少ないような気もするけど、各社こんな感じで載ってる、って感じかな?」
「でも、そのうち熱心に読むところが段々前の方に移っていって…そしてもっとアニメな表紙の本を手に取るようになり…」
「「まさしく、おたく☆まっしぐら!」」
「そのうちかがみだけじゃなくて、あたしとも話合うようになったりして」
「先輩、それNice boat.ルートっす」
「が、頑張ってみる…」
「で、先輩」
まことがやつれた背中を背負って帰った後、
「ん?」
「実際のところ、どーすか?ほんとにオタクに開眼しちゃったら」
「まー、かがみんはぼーぜん自失になるだろうねぇ…それはちょっと避けたいかな」
「いや、先輩の方っスよ。先輩、前にオタクの女子がオタクの男子と付き合わないのは不思議だねーって言ってたじゃないスか」
「あー、そんな事もあったっけ」
「まぁ、いいっスけどね。んじゃ部活行ってくるっス」
なんていうか、これって、…釘刺された?
あたしって、意外と寝取り属性あったのかなぁ。
ふと、幸せそうなかがみの顔が思い浮かぶ。
んー、…ちょっとだけ、だよ?まこと君もお礼がしたい、って言ってたんだし。
そんな夕暮れ、かがみが学校そばの本屋に立ち寄った。
いつも読んでいる雑誌の発売日がだいたい来ているのだ。
「えーと、あの本あの本…」
と、偏った雑誌コーナーに近づいた時、
「あれ、かがみさん?」
「あぁ、まこと君、…て、ちょっと、何読んでるの?」
「新刊の情報とか」
「はぁ?そんなこなたがよく読むな本に載ってるわけ…あ、ほんとだ」
「こなたさんに教えてもらったんです」
「もー、そういう事はあたしに聞きなさいよ。ほら、こっちの本読みなさい」
「これ…あれ?角川スニーカーズ?」
「他に、これとか」
「ドラゴンマガジン?え?これ、中全部小説だ」
「だから、小説専門の雑誌もあるのよ。他に電撃hpとかあったんだけど、今は誌名変わってるわ」
「道理で…情報が早い上に吟味されてるはずだ」
「まったく、こういうのは目を利かせる事が大事なの。確かにこういう表紙だからまこと君が手を出しにくいのはわかるけど、あるところにはあるもんなのよ」
「ふーん…なるほどッス…」
「まこと君にボーイズ教えたの、ひよりんだね?」
「え、えぇ、まぁ…」
「まったく、余計な事してくれて。そりゃまこと君なんでも飲み込むけど、なかばぱんぴーのかがみにいきなりカップリングのネタ振っちゃって、こっちの計画だいなしだよ!」
「うぁー…それでですか…」
「まぁ、まこと君はちょっとカマかけただけっぽいから、もうこのネタをうちの教室でする事はないだろうけど、それでもだよ?男にボーイズネタ教え込むって、ある意味アレだよ?どしてそんな事したのよ!」
「…」
「答えてよひよりん!」
「それは、先輩と同じ気持ちだからですよ…」
「何が?」
「自分だけー、こっそり光源氏ゴッコしといて、柊先輩の気持ち無視してるなら、あたしだっておこぼれいただいてもいいっすよねー?」
「な、何が?光源氏って、あたしはそんな事…」
「知ってるっすよー、最初は柊先輩の為とかいいつつ、ふたを開けてみたら素養があったから、オタクに教育して自分がウハウハなんて、それなんて西園寺世界ですよー?先輩はアニメ版みたいに無自覚世界っすねー」
「だったら、あたしは黒田っすよー。あたしだって彼氏ほしいんす。特にねー、色々話してみてわかったんす。あれは貴重なんてもんじゃない、何色にでも染まってくれる、すごいいい人っすよー」
「何色にでも、って…それじゃ、まことくんって、もう腐兄さんにまでなっちゃったの?」
「そうっす、最初はあたしもカマかけ程度にやってただけなんすけど、どういうものか説明するのにいつものよーに、煙に巻くような観念的な話したんっすよ」
「そしたらそういう表現もアリなんじゃないかって、やおい穴とか百合棒とか、そこったへんの存在の意味についてとか話すようになっちゃって」
「うぁ…終わってる…」
「いやいや、そんな感じじゃないんすよ。なんてゆーか、表現の可能性を追求した結果としての必然的な同性であり、って感じで理解してて、だからカップリングもパティみたいな頑固さがなくて、リバもありって感じで話しやすいんすよ」
「うーむ…でもひよりん、そういう男でいいわけ?だっていくら理由ついてたって、男がホモの話するなんてそれなんてやらないか?だよ?」
「そりゃ先輩が稀有なケースだからっすよ。腐女子がオタク男子と付き合えない理由ってのは、自分の趣味がオタクからも軽蔑されるべきものとわかってるから近づけないだけなんすよ。だから、腐兄さんという存在はそれだけで羨望の対象なんっす!」
「しかも見た目ふつーでリアル属性なし!まさに神キタコレ!っすよ!」
「つまり、あんたたちがまこと君にいらん事吹き込んでたわけ、ね?」
「あ…か、かがみさま?あの、どこったへんからお聞きに…」
「その、…やおい穴がどーとか、ってあたりから…って変な事言わすな!」
「…先輩、セーフっぽいっすね…」
「あたしが最初に吹き込んだ、なんて知れたら鮮血の結末一直線、だね…」
「屋上っすからどっちかっつーと永遠に、っすね」
「で、田村さん、さっきの事はほんとなわけ?」
「そ、そうッス…あたしが、教え込んだッス…」
「まこと君に、自分を気に入ってほしくて、なわけよね?」
「…でも、あたしも真剣ッスよ?」
「ま、それさえわかりゃいいのよ。あたしも応援するからさ」
「へ?」
「だから、まこと君があなたのお似合いになること、よ。ごめんね、気持ちに気づかなくて」
「え?ひ、柊先輩?」
「ちょ、ちょっと待ったかがみん!」
いきなりな展開に、こなたが必死に割ってはいる。
「それじゃあたしのやってきた事はどーなっちゃうの!せっかくここまで来たのに!」
「こなた、あんた何か…まさか…」
見る見るうちにかがみの表情が険しくなる。
しまったっ!
「いや、あのそのですね、私はですね…」
「泉先輩も、伊藤先輩の気持ちを引こうとしてただけッス」
「え?!」
その声は両方から漏れた。
「なに?んじゃ、こなたもまこと君を、なの?」
「そ、それはですね…」
「ふーん、そーなんだぁ、へー」
これが知り合いに対する態度、というかなんというか、まさにいつものこなたへの逆襲。
「じゃあ、あたしが応援する対象ってのは、自ずと決まってくるわねぇ?」
「…んでもかがみん、それでいいのかナ?」
「何がよ」
「かがみん、今みたいなシチュエーション、これまでに何度繰り返したかナ?」
「ちょ、ちょっと!いきなり何言い出すのよ!」
「あたしだって知らないわけじゃないよ。かがみんの周りは結構友達いるけど、友達以上の付き合いをした人っていないよね?どっちかというと、そのまま誰かに紹介しちゃったとか、そんなのなかったかナ?」
「あたしだって選ぶ権利はあるでしょ!そんなオタクに染まった人なんてこっちから願い下げよ!」
「じゃ、これを見ても同じ事が言えるのかナ?」
こなたが携帯を取り出し、この間写した写真、UDXでの二人の盗み撮り写真を突きつけた。
「あ、…あんた!見てたのね!」
「もう言い逃れはできないよかがみん?白状していないのはかがみんただ一人」
「くっ…」
かがみがひとしきり歯軋りした後、
「あぁもぉ!そうよ!なんかチャンスっぽいのがその時見えてたわよ!だから何なのよ!」
「まこと君は結構TPOわきまえてるんだよね。確かにさっきかがみんにカップリングの話を振ったけど、ほんとにカマかけってだけで、もう話を振る事はないと思うよ?」
「つまり、かがみにとってはラノベファン、あたしにとっては普通のオタク、ひよりんにとっては腐兄さんと、完全に使い分けしてきてるんだよ。これって言っちゃあアレだけど、もう同時攻略されかかってるんだよね?」
「同時…攻略?」
「まーなんていうか、あと一押しで誰でも落とせるっていう状態。ここでセーブしとけば誰でも選べるって状態だね」
「なんか、すんごく気に入らないわね」
「あたしもッス。それはそれでナメられてる気がするッス」
「まこと君はある意味天然だからね。こうなったら、まこと君に誰か一人、選んでもらおうと思うんだけど、どう?」
「ちょ、ちょっと!まこと君に正面切って聞くわけ?!そんな事したら…」
「先輩の性格だと、たぶん正面切ったその人になっちゃうっすよ!ズルっす!」
「いや、直接聞くわけじゃないから大丈夫。たぶんぴったりのゲームがあるから、それをやってどのヒロインを選んだかで決める!」
「な、なによそれ、ゲームのキャラなんかで決めるわけ?」
「それがちょうど、あたしたち3人っぽいキャラが登場するゲームがあるんだよかがみん。あたしまで、となるともうこれしかないってのが」
「超オタクが二人も入るって、そんなゲームまともな仕上がりなの、あったっすか?」
「それがあるのだよひよりん。その名も、こみっくパーティー!いちお全年齢の方ね」
「かがみは高瀬瑞希。完全ぱんぴーでツンデレ友達、メインヒロインで一番無難ときてる。たぶんこれが本命だね」
「ひよりんはサブキャラから二人、熱意を語る中堅同人作家の猪名川由宇と、ボーイズ一直線の芳賀玲子。これを選ばれたら多分かがみもあきれて諦めそうなキャラだから」
「じゃ、あんたは?なんか裏がありそうだけど…」
「いや、あたしはかなりハンディあって…不本意だけど九品仏大志」
「え?男?」
「ぱんぴーの主人公にオタクのてほどきをした張本人、要は泉先輩のやった事と同じ事をしたっす。男キャラだから選びようがないっすけど、それを跳ね除けて言われたら、あたしも納得するっす」
「期間は一週間。この4人を見てもらって、どれが一番よかったかを決めてもらう。で、トップ以外は手を引く事。うらみっこなしだよ」
「もし、他のキャラを選んだら?」
「それもそれ。そこまで言われたらあたしたち3人は実はまだ本命じゃなかった、って事で、まだ見ぬ誰かの為に道を譲る事。これも抜け駆けなしだよ!」
「いいわ。今の約束、忘れないでね」
「承知したっす…」
「じゃ、明日うちにあるのを貸しておくよ。三人とも攻略完了するまでこの話は絶対に振らない事。聞かれても流す事!」
「了解!」