―桜藤祭が終わって―
陵桜に転校生としてやって来てから一体どれだけ時間が経っただろうか。
・・・なんて言うほど実際時間はそんなにたってないのだが、そんなわずかな時間の間に俺は運命の人ってやつをみつけたのだ。
運命の人?そんなこと言っちゃっていいのか?いや、いいのだ。
彼女にはまだ直接言ってないが、俺があの子を幸せにするって決めたらから。
同じクラスの柊かがみ、桜藤祭のクラス出し物をきっかけに俺と付き合うことになった。
星桜の木の下、彼女が告白してきたあの日の胸の高鳴りは今でも忘れることができない。
実際いまだに俺はかがみと付き合っていることを信じきれていないのが現状で、毎日学校でかがみに会うたびに小恥ずかしい感じになる。
まあ、それが初々しくて良いといっちゃあ良いのかもな。
―月曜日―
「ん・・・、もう朝か。」
目覚まし時計より先に起床。時計のボタンを押す。遅刻魔の俺にしてみればなんて珍しい事でしょう・・・以前の俺だったならな。
俺は今、かがみの彼氏だ。毎朝ギリギリ登校もしくは遅刻で皆に笑われたんじゃ、かがみに申し訳ないだろ?彼氏として。
そういうわけで、俺は何に対してもシッカリしようと決心したのだ。
「さてと、朝食食べて、のんびりと行くかな。」
朝にするべき準備を終え、学校へ向かう。
いつもと変わらない道、青い空、そしてこの季節の朝の独特なさわやかさが気持ちいい。
「そうだ、時間もあるしコンビニに寄って昼食でも買って行こう。昼休みのメシ争奪戦にはもうコリゴリだからな。」
学校へ着き教室へ入る。
「少し早めに着いたな。」
教室にはみゆきさんがいた。
「おはよう、みゆきさん。」
みゆき「おはようございます、○○さん。今日も天気がよくて気持ちいいですね。」
「そうだね、少し寒くなってきたけど、外出するのに絶好の季節だよね。」
みゆき「そうですよね。ところで、もしよろしければ今日のプレゼンの発表練習でもしませんでしょうか。
まだ予鈴までも時間がありますし。」
「あ、そうだ。あれ二時間目から発表だよね。簡単にやっておこうか。」
そう、今日はクラス合同総合学習の一環として、三人一組であるテーマについて調べ、発表する授業があるのだ。
以前から今日のために準備をしてきたし、本当は練習なんかいらないのだけど、なんというか気分の問題で、発表当日に何もしないで本番を迎えるのは何か物足りない感じがする。
みゆきさんもきっとそう感じているのだろうか。
「あ、永森さん来たよ。ちょうどいい。」
「永森さんおはよう。今からプレゼンのリハ!入室早々で悪いけど、いいかな?」
やまと「わかったわ。・・・もう大丈夫だと思うけど。」
今回のメンバーは、みゆきさん・永森さん・俺なわけだが、これはクジで決まった。
かがみと一緒になれなかったのは残念だが、実は今日、どっちのチームが高評価を取れるかで、かがみと賭けをしている。
評価が低かった方が高かった方に遊園地のチケットをおごるという内容だ。
本当ならここは彼氏がおごるべきだが、かがみは恋人とは平等な立場でいたいそうで、そういうのが嫌らしい。
だから今回の賭けを俺から提案したわけだ。
かがみの「負けたーっ!」って顔を拝むのが楽しみな俺であるが、どっちが勝っても、チケットは俺が買ってあげようと思っている。ま、正直今回は負ける気がしないのだが。
「おはよ~!」
とやって来たのが、かがみ、つかさ、こなたの三人だ。
こなた「うおっ、朝から精が出ますねぇ三人とも~。あたしは眠くてモーダメ~。」
つかさ「ねぇ~、いつもより早く起きたから眠くって・・・。」
かがみ「ほら、二人とも。ちゃんと眼を覚ましなさいよ!
なんのために早く学校にきたかわかってるの?」
こなた「うぅ、五分だけ寝かせてくださいかがみ様―っ。」
つかさ「お姉ちゃん、あたしも五分だけ~、ほんとに~。」
かがみ「もぅ・・しょうがないわね。
コーヒー買ってきてあげるから、それまでに済ましておきなさいよ?」
そう言うとかがみは俺の方に向かって、ため息まじりの笑顔を向けた。
俺も笑顔で返すと、かがみは売店へと向かい教室を出た。
「相変わらずだね、あの二人は。」
みゆき「睡眠をとることは健康にもいいですし、今日みたいな良い天気だと、うとうとしてきてしまうのは仕方ないですよね。」
やまと「あれはだらしないって言うんじゃ。」
「そだね・・・。ま、かがみもいるし、なんとかなるでしょ。」
こんな感じに少し早めの朝は過ぎていき・・・二時間目。
クラス合同プレゼン発表が始まった。
会場は多目的室。あまり広いとは言えないが、2クラス分の生徒が入るには事足りる。
黒井先生「皆ちゃーんと準備してきたやろうから、期待してんで。
一応念のため確認しとくけど、評価方法は審査員4人の先生方の合計ポイン
トで決まるさかい、MAX40点目指して気張りやー。」
発表が始まった。一グループ持ち時間15分で発表する。グループ数も多いので六時間目までずっと続くわけだが、
学生達にとってはいい休憩にもなりそうだ。さっそく舟をこいでいるやつもチラホラいる。
さすがにクラス合同なので黒井先生の鉄拳も今日は飛ばなさそうだ。ラッキーだな、おまいら。
いろんなテーマのプレゼンがされている。出来のよさはピンキリだが、なかなか面白くて退屈しなさそうだ。
平均的な評価は28点ってとこかな。
こうしてる間に、俺たちの発表になった。壇上へと上がると、皆が見える。
特に緊張はしないが、唯一気持ちが高ぶる要因が一つ・・・かがみが見ている。
俺はかがみにチラッと目を向けて、手を軽く振った。
それを見たこなたがかがみをおちょくる。いやー、赤面しているかがみはなんとも・・・、って、俺!ビシッとしなきゃなビシッと!
「違いますよかがみさん、それは前回のね。夕張メロンムースのこと。」
かがみ「えっ、知らない。いつ出たの?」
「知らないのも当たり前。今日からコンビニに並ぶ新商品だからね。
・・・食べたいでしょ。」
かがみ「もちろん。・・・あ、どうせこなたみたい『かがみんはこれだから太るんだよ~』
なんて言ってからかうつもりじゃないでしょうね!?」
「ちがいます~。いくら太ろうが痩せようが、かがみはかがみだろ?俺が愛する対象としてなんら変わらないよ。」
なんて言ってみる。
かがみ「え・・あ・・ありがと。
えっと、あたしも・・その、あの・・・あんたと同じ気持ちだから。」
意外な反応だったのには驚いたが、俺は嘘を言うつもりはさらさらない。
そしてこう言われちゃうと・・・正直、たまりません。
「ほんとに?俺って幸せ者ですね、かがみ様!」
かがみ「はいはい、こなたみたいに呼ばない。」
・・・そうだ、今日はとっておきがあるんだった。
俺は自分のバッグに手を突っ込み、あるものを探す。
「はい、ところでこれなーんだ?」
かがみ「あ、ポッキー。『夕張メロンムース』・・・?
あーっ!これって!」
「そう、今日発売の夕張メロンムースポッキー。
実は今日の朝学校行く前に買っておいたんだよね。・・・はい、かがみにあげるよ。」
俺はかがみの手にポッキーを持たせてやる。
かがみ「え、いいの?」
さすがにびっくりしたようだ。しかし、かがみのポッキーを見つめる眼は輝いて見える。
・・・よほど好きなんだな。
「うん、かがみのために買ったんだし。」
かがみ「なんか・・・本当にありがとう。・・・あのさ、・・・お礼ってほどじゃないけど、・・・明日、お弁当作ってこよっか・・・?」
「おっ、いつぞや話してた手作り弁当!実はけっこう前から待ってたんだ。」
かがみ「そ、そうだったの?そうなら早く言ってくれれば作ってきたのに・・。」
「お願いしていいかな?」
そうきくと、かがみは髪をいじりながら恥ずかしそうな表情を浮かべた。
かがみ「いいけど・・・味は期待しないでよね。」
「最高だー!」
かがみ「・・・なんか、あたしが幸せ者かも。」
「ん、なに?」
かがみ「ん、あぁなんでもない!独り言よ独り言。」
「んじゃまぁ、家まで送ってくよ。少し寒くなってきたから・・・ほいっと。」
俺はかがみの腕を俺の腕に組ませた。恥ずかしそうに笑うかがみがなんともかわいい。
「普通に歩くより、こっちのほうが暖かいだろ?」
かがみ「・・・うん。」
そんなこんなで俺たちは柊家に着き・・・
「それじゃ、また―。風邪ひかないようにな。」
かがみ「○○こそ。・・・今日はいろいろありがとう。それじゃね。」
「おう、遊園地でのデート詳細はあとでメールするから!じゃーな~。」
こうして俺たちは別れて、俺は自宅へと向かった。
もう日も落ちかけて暗くなりはじめた空、いつもと何一つ変わらない帰り道、一人家に
向かう俺の頬を少し冷たい風が打つ。
それでも、俺はいつもより何倍も暖かかい気持ちだった。