今、私はどんな顔をしているのだろう。
一番大切な友達から、自分の恋人のことが好き、と言われて。
怒り?憎しみ?
・・・それとも、恐怖?
色々混じり合って、よくわからない。
こんな気持ちは、予想してはいなかった。
だから、たぶんこんな顔。
・・・戸惑いの、苦笑い。
みなみ「・・・ごめん」
ゆたか「・・・えっ・・・」
腕の中のゆたかが、私を見上げる。
その顔は、もうボロボロで。
みなみ「・・・私は、何をしたかったんだろう」
ゆたか「・・・・・・?」
ゆたかを、見る。
ゆたかも、私を見る。もう、眼はそらさない。
仮面も、必要ない。
みなみ「ゆたかが、先輩を好きだって気付いた時、苦しくなった」
みなみ「先輩がゆたかのことを好きになっちゃったらどうしようって」
みなみ「不安になって、怖くなって」
みなみ「どんどん、自分が嫌な人間になっていった」
みなみ「先輩は、私を選んだんだって」
みなみ「そんな、醜い優越感に浸って」
みなみ「先輩の隣にいるゆたかが、許せなくて」
自分の思いを、出来る限り口にする。
ゆたかは、口を挟まない。
じっと、ただ私を見つめて、聴いてくれている。
みなみ「今度は、ゆたかに対しても嫌な気持ちになってきて」
みなみ「いつも、世話をしてあげてる」
みなみ「先輩だって、ゆたかのことは厄介な後輩だって思ってる」
みなみ「ゆたかなんか選ぶ訳ない」
みなみ「そんなの、許さない」
みなみ「・・・そんな気持ちが、わいてきて。消せなくて」
みなみ「『違う。そんなこと考えてない。考えたくない』」
みなみ「『ゆたかは、大切な友達。先輩がゆたかを選んだなら、しょうがないんだ』」
みなみ「そんな風に、否定しようとしても」
みなみ「どんなに、振り払おうとしても、できなくて」
みなみ「このままじゃ、ゆたかのことを」
みなみ「・・・嫌いになっちゃう、って」
いつのまにか、私も泣いていた。
自分のため?
ゆたかのため?
きっと両方。
ゆたか「ごめん」
みなみ「・・・えっ?」
ゆたかが、口を開く。
その眼は、涙で溢れて。
でも、とても、キレイに思えた。
ゆたか「みなみちゃんが、こんなに苦しんでるなんて、思わなかった」
ゆたか「・・・こんなつもりじゃ、なかったの」
ゆたか「ただ、先輩の隣に入れたらいいや、って」
ゆたか「みなみちゃんも、それくらい許してくれる、って」
ゆたか「そんな、甘い気持ちで」
ゆたか「なんて、自分勝手で」
みなみ「・・・ゆたか」
ゆたか「聞いて」
圧されるような、強い視線。強い意志。
そうだ、私の言葉は必要ない。
次は私が聴く番。ゆたかの思いを、想いの全てを。
ゆたか「・・・私も、同じ」
ゆたか「悩んで、苦しくなって」
ゆたか「みなみちゃんに、嫉妬して」
ゆたか「こんな自分が嫌で」
ゆたか「こんな風に考えちゃう自分が、気持ち悪くて」
ゆたか「だから、考えるのをやめたの」
ゆたか「何も考えなければ、苦しくないから」
ゆたか「ただ、先輩の隣で、みなみちゃんのそばで」
ゆたか「楽しく笑って居れたら、それだけでいいや、って」
そうだ。
ゆたかは、笑っていた。
ふたりで私を、からかって。
先輩に、撫でられて。
触れ合う私たちを、見つめて。
それでも、ゆたかは笑っていた。
ゆたか「でも、結局それって、甘えだった」
ゆたか「みなみちゃんに、甘えて」
ゆたか「先輩に、甘えて」
ゆたか「何より、自分に甘えてた」
ゆたか「そんな自分のことだって、正当化しようとしてた」
ゆたか「みなみちゃんは、こんなに苦しんでたのに」
甘えてたのは、私だ。
ゆたかが先輩を好きなのを知って、勝手に嫉妬して。
見せつけていたのは、私。
許せない?
嫌な気持ち?
嫌われるかもしれない?
何様のつもりだ。
とっくに、嫌われていてもおかしくないんじゃないか。
ゆたか「・・・ごめんなさい、みなみちゃん。許してくださいとは言いません」
ゆたか「・・・もう、先輩の側にはいません」
ゆたか「想うことも、やめます」
ゆたか「願うことも、やめます」
ゆたか「だから、もう、苦しまないで」
ゆたか「みなみちゃんが苦しむのは、もう、嫌だから。」
みなみ「・・・・・・ゆたかっ!!」