――場所は変わって、泉邸。
こなた「いらっしゃーいみなみちゃん。はいお茶。ゆーちゃんもね。」
ゆたか「・・・ありがとう、お姉ちゃん」
みなみ「・・・あの・・・泉先輩」
こなた「ん?どしたの」
みなみ「あの・・・ゆたかと話があるんです。二人だけにしてもらえますか?」
こなた「・・・シリアスな話?」
みなみ「はい。」
こなた「・・・わかった。おとーさんにも近寄らないように言っとくよ。」
みなみ「ありがとうございます。」
こなた「いーよいーよ。ほいじゃ、ごゆっくり~」
みなみ「・・・はい。」
パタン。
ゆたか「・・・・・・」
みなみ「・・・・・・」
泉先輩が出て行ったその瞬間に、再び時が凍る。
家に来るまでも、お互い一言も喋ることはなかった。
私が、あの言葉を発したその時から。
ゆたかの眼は、私を見てはくれない。
みなみ「・・・ゆたか」
ゆっくりと、語りかける。
みなみ「もう一度、聞くよ。先輩のこと・・・好き?」
ゆたか「・・・・・・」
ゆたかは顔を上げない。じっと、何かを考えるように、目を伏せたまま。
みなみ「ゆたか。私は、怒ってるわけじゃない。お願い、答えて」
ゆたか「・・・なんで、そんなこと聞くの?」
ゆたかが、顔を上げる。先程以来、初めて私と顔を合わせてくれた。
それは、笑顔。
・・・私が今まで一度も見たことのない、ゆたかの、つくりものの笑顔。
ゆたか「嫌いなわけないよ。お姉ちゃんの友達だし、尊敬できる先輩だし。
なんでいきなり、そんなこと聞くの?」
みなみ「・・・ゆたか」
ゆたか「優しいし、面白いし、・・・っ、それに・・・みなみちゃんの、恋人、だよ・・・?
そんな人を、キライになるわけ、ない、よ。」
ゆたかは、笑顔を崩さない。
いや、もう、笑顔ではない。
石膏で固められた、仮面。偽りのペルソナ。
それが、悲しくて、哀しくて。
・・・気がつけば、私はゆたかを抱き締めていた。
ゆたか「・・・っ!・・・みなみ、ちゃん」
みなみ「いいの、ゆたか。言っていいの。」
きつく、きつく抱き締めながら、言葉を探す。
ゆたか「・・・でも・・・でも・・・私、私はっ」
みなみ「『キライじゃない』じゃなくて、本当の気持ちを、教えて・・・?」
ゆたか「・・・っ!!!!」
そう、ゆたかはまだ一度も私の質問には答えてくれてはいない。
それはきっと、口に出してしまえば、止められないから。
友達に気軽に言える『好き』なんかじゃ、もう、なくなってしまったから。
みなみ「ゆたか・・・お願い、もういっかいだけ、聞くから、教えて?」
ゆたか「・・・ひっ・・・グスッ・・・うぇ・・・」
ポロポロと、涙を流すゆたか。
これが、最後になるはず。
そう、最後。
私が、いや、私も。
・・・仮面を、かぶっていられる、最後。
多分、ゆたかを、ゆるせないから。
醜い自分が、出てくるから。
ののしるかも、しれない。傷つけるかも、しれない。
嫌われるかも、しれない。
でも、知ってしまったから。
何も知らない、『子供』では、いられなくなってしまったから。