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もう…何考えてんのよ。

目の前に広げられているのは参考書と問題集。
でも意識は全くそこに集中していない。
そして浮かんでくるのは誠君の横顔。

これじゃ勉強にならないな。しかたなくベッドに腰掛ける。
熊のヌイグルミを抱きかかえながら一人ため息をつく。
どうしたらいいんだろう…

桜藤祭の準備をしているうちに気付いたこの想い。
その想いは一緒にいるうちにだんだん大きくなっていった。

会いたい…

想いが膨らむ一方でそれが実現できないことは分かっている。

桜藤祭も終わり、今はお互い受験生なのだ。
これから受験に向けて恋だなんだと言っている余裕はない。
私自身が目指す大学も難しいこともさることながら、誠君が私のせいで受験に失敗したら、と思うと想いを伝えることはできない。
それがわかっていながらも思考は堂々めぐりを繰り返していた。


「おはよー、かがみさん」
「あ…おはよ」

朝、みんなが登校する時間。
クラスが違う私が誠君に会えるわずかな時間。

「最近かがみさん。登校するの遅くない?」
「え、そんなことないわよ」
「そうだよー、前までは私がいつも遅いって怒られてたのに、最近は私がお姉ちゃんの部屋に急かしに行くこともあるんだよ」
「ちょ、つかさ、余計なこと言わないでよ」
「やっぱりそうだよね。何かあったの?」

そう、最近はぎりぎりに登校するようになってしまった。
でもその理由は言えるわけがない…

もしかしたら登校中に、誠君に会えるかもしれないからだなんて…

授業を受けていても意識を勉強に集中させることができない。
朝、誠君がしてくれた挨拶の声が頭をよぎる。
たった数秒の会話なのに私の頭を占領してなかなか出て行ってくれなかった。

終わった…
心ここにあらずの授業はいつもより数倍長く感じられる。
私は荷物をまとめて急いで隣のクラスへ行く。
つかさ達がこっちのクラスに来る前に…
B組の教室に入るとすぐにこなたが話しかけてくる。

「あ、かがみんも授業終わった?じゃあ帰っろか」


いた…
私の視線は話しかけてきたこなたを飛び越えてその背中越しに見える人物に注がれる。

「かがみさん帰るの?お疲れ~」
「うん、じゃあね。誠君」

これでいいんだ…伝えたってお互いのためにならないもんね…
誠君に手を振りながら私は自分に言い聞かせていた。


「お姉ちゃん、最近無理してない?」

駅でこなたと別れた後つかさがいきなり聞いてきた。

「別にそんなことないわよ」
「そう?でもお姉ちゃん、素直になった方がいいよ」
「何言い出すのよ、いきなり?」

急に意味深なことを言い出すつかさ。
気付かれているわけはない…と思う。

それに、別に無理をしているわけではない。
このまま誠君への想いを伝えずに隠し続けていけると思っていた。
というよりそれしか選択肢はないと思っていた。

そして、なにより、もしはっきり拒絶されたら…
それを思うと眠れなくなるほど怖かった。
それならいっそこのまま友達の方が…

つかさはそれ以上何も問い詰めてこなかった。


次の日もいつも通りに進む。
誠君とクラスが違う私は朝と帰るときくらいしか話せる時間はない。
話すといっても挨拶程度である。
ここ数日は休み時間にB組に顔を出すのも控えている。
会いたいと思っても自制するようにしていた。
会ってしまったら話したくなる。話したらもっと話したくなる。それが分かり切っていたから…

授業が終わり、昨日と同じように荷物をまとめてB組に向かう。
B組の教室に入ると、無意識のうちに誠君を探す。

いた…

そしてすぐ見つけてしまったことを後悔した。

「うん、ありがとう。じゃああとでメールするね」

誠君と満面の笑顔で話していたのは私の双子の妹だった…

 

 

コンコン…
「お姉ちゃん、入っていい?」

そう言いながらつかさが私の部屋をノックしてきたのはもう日が変わろうかという時間だった。
桜藤祭が終わって、私が本格的に受験勉強に取り掛かりだしてからは、何か用事がない限り私の部屋に来る家族はいない。
つかさも例外ではなかった。

「なーに?どうしたのこんな遅い時間に」

その時点で嫌な予感がした…

「あのね、お姉ちゃんに相談したいことがあるの…」

もし予想している通りのことが起こったら…姉として協力しなくちゃね。

「あの…あのね…誠君のことなんだけど」

体温が一気に下がった気がした。体中の血液が凍ったかのようだった。胸が詰まって息を吸うのが苦しい。
それを悟られないように私は一瞬目をつむって無理やり笑顔を作った。

 

「何考えてるのかしら、あの子」

昨日つかさから切り出した相談は結局『やっぱり恥ずかしいから明日学校で話す』ということになった。
そのくせこなたやみゆきには聞かれないようにと、わざわざ昼休みに星桜の樹の下で待ち合わせることになったのだ。

「こなた達に聞かれたくないなら家で話せばいいのに…」

それにしても…自分の鈍さにはあきれてしまう。
考え直してみれば、つかさが誠君を好きになったことには思い当たる節がいっぱいあった。
道具係で一緒にいた時間が長かったし、誠君と話すときのつかさはいつも以上に笑顔であふれていた気がする。

敵わないなぁ…
思わずため息をつく。
私もつかさみたいにもっと素直になれたらいいのに…
諦めたはずの想いはまだくすぶっていて胸がちくちくと痛む。

しばらく待っているとやっと来たようだ。
一つの人影が校舎の曲がり角から現れた。

 

「遅いわよ、つか…」

現れた予想外の人物に私は息を呑んだ。
……誠君…?

「ごめんごめん、思ったより授業が長引いちゃって」
「え、えっと誠君?あれ?なんで?」
「なんでってかがみさんが呼び出したんじゃないの?つかささんに聞いたんだけど」

突然の出来事に頭の整理が追い付かない。
心臓の音が誠君に聞こえるんじゃないかと思うくらいに跳ね上がっている。

ブルルルル…
そんな私の心音と共鳴したかのように携帯のバイブレーションがメール着信を告げる。

「ちょ、ちょっとごめんね」

誠君に断ってから携帯を開く。
送信者はつかさだった。

『お姉ちゃん、がばてね』


混乱していた頭にようやく理路整然とした思考ができるような冷静さが戻ってきて一つの納得いく結論が浮かぶ。
つまりこれはつかさが仕組んだこと…
双子の妹に私の想いはすべて見抜かれていた、ということだ。

「それで、話って何?」

とはいえいきなりのこの状況で想いを伝えるなんてできっこない。
それに、もし振られたら…

「もしかしてつかささんの勘違いだったとか?相変わらずつかささんってちょっとおっちょこちょいだね。違うんなら戻ろうか?」
「ち、違うの!」

思わず呼び止めてしまった。
こんなチャンスはもう二度とないかもしれない。
そう、さっき自分でも思ったじゃない。つかさのように素直になりたいって。

深呼吸をひとつ。そして言った。

「好き、誠君のことが好きなの」

言えた。
心臓が今までにないくらいバクバクいってる。
恥ずかしさと怖さで誠君の顔を見ることができなかった。
一気に体温が上がって顔が真っ赤になっているのがわかる。

誠君の返事はない…
沈黙がどれくらい続いたんだろう。
多分時間にしたらたった数秒か、長くても数十秒だったろう。
でも私には数時間たったかのように感じられた。

「ごめん…」


目の前が真っ暗になった。
足に力が入らなくなって危うく倒れそうになるのをギリギリのところでこらえた。
そんな様子の私を見て誠君はあわてて言う。

「いや、そういう意味じゃなくて…」
「じゃあどういう意味よ!」

気がついたら目には涙がにじんでいた。
もう…なんで私が泣かなきゃいけないのよ!

「かがみさんの気持ち、すごくうれしいよ。その…だから、言わせちゃってごめんってこと」
「え?」
「俺、かがみさんのこと大好きです。俺の方から言おうと思ってたんだけどな」
「うそ…」

これは夢じゃないだろうか。

「嘘じゃないって」

そう言うと誠君は私を優しく抱きしめてくれた。

「ちょ、ちょっと」

いきなりのことに心臓が止まって死んじゃうんじゃないかと思った。
でもこんなに幸せならこのまま死んじゃってもいいかも…


「嫌だった?」
「べ、別にそんなことは…」
「なんか素直すぎていつものかがみさんじゃないみたい」
「な、何よ!いつもと変わんないわよ」

精一杯の強がりを言う私を見て誠君は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見てたら私もおかしくなってきて一緒に笑ってしまった。
ひとしきり笑った後、誠君がもう一度言った。

「かがみさん、好きだ」
「私も……大好き…」

私の背中にまわされている手の力が強くなった。
それに応えるように私も誠君を抱きしめ返す。

二人の距離がだんだんと近づいていく。
私は静かに目を閉じた。


星桜の樹が私たち二人をそっと見守っていた。