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「こうのこと好きなんでしょ?」
 その日、カラオケから帰ってきた俺は、ずっとその言葉の答えを探していた。
 喉の痛みに耐えながら、八坂さんのことを考えていた。
 俺は、八坂さんのことをどう思っているのだろう?
 元気でノリの良い後輩? それとも――。
 その考えを遮るようにして、目覚まし時計が喧しく騒ぐ。
「あ、あれ? もしかして、もう朝?」
 ベッドに横になっていたものの、まだ寝れてないんだけど……。
 結局、一睡もできずに月曜の朝を迎えてしまったようだ。
 なんだか、桜藤祭のときにもこんなことがあったような……。よくは思い出せないけど。
 けれど、答えは見つけた。
 そもそも、寝ることすら忘れて、その人のことを考えていられるのだから、答えは出ているようなものだ。
 そして、寝不足で体が重いけれど、今日は平日。睡眠を欲しがる体に鞭を打ち、俺はベッドから出るのだった。

「あっ、伊藤先輩。おはようございます」
「ああ、田村さん。おはよう~」
「何か……すごく眠そうっスね」
「うん、色々あって一睡もできなかったんだ」
「こうちゃん先輩とのデート、眠れなくなるほど楽しかったんスか?」
「それとはまた違う理由なんだけど、って何で知ってるの?」
「ちょっと買い物に出かけたら、デート中の先輩たちを見かけたんス。こうちゃん先輩と永森先輩に挟まれてニヤニヤしてたっスね」
「そりゃかわいい女の子二人に挟まれたら、さすがに……ね。というか、田村さんは永森さんと面識があるんだ?」
「前に、同人誌即売会で、こうちゃん先輩が売り子の助っ人として連れてきてくれたんス」
「なるほど、それで面識があるのか」
「そうっス。岩崎さんとはまた違う感じでクールっスよね、永森先輩」
「八坂さんと話してるときは、クールとは違う気もするけどね」
「あの二人の掛け合いは見てて楽しいっスよね! いいネタもらったっスよ!」
「ネ、ネタ……。なんというか、さすが田村さんって感じだね」
「こ、このことは他言無用っス」
「大丈夫、言わないよ」
「それを聞いて安心したっス……」

「それで、いつこうちゃん先輩に告白するっスか?」
「へっ?!」
 突然の質問に目を丸くする。というか、もしかして俺バレバレ……?
「な、何でそう思うの?」
 とりあえず、平静を装い聞いてみる。
「何でって……、部員でもないのに、受験期にアニ研に通ってるんスよ。かな~り怪しくないっスか?」
「なんか、そういう風に聞くと確かに怪しいね、俺って」
「そうっスよ。それで、ちゃんと告白はするんスよね?」
「もちろんそのつもりだけど、中々タイミングとかが……ね」
 そもそも、自分の気持ちを整理したのが今日だ。
「そうなんスか。それじゃあ、そんな伊藤先輩に耳寄り情報っス! こうちゃん先輩は、最近恋愛ものばっかり書いてるっスよ!」
「ええと、つまりどういうこと?」
 元々、創作って恋愛が絡むものが多い気もする。というか、八坂さんたちはそれがメインじゃ……。
「つまり何が言いたいかっていうと、その小説の中身が純愛ものなんス! これはもう脈アリ間違いないっスよ!!」
「うーん、あまり根拠がない気もするけど」
「何言ってるっスか! 幅広く書いてるこうちゃん先輩が、純愛ばっかりっスよ!」
「そうなんだ……、それは少し心強い情報……かな」
「そう思ってもらえたなら、嬉しいっス。告白、がんばってくださいね!」
「うん。ありがとう、田村さん」
 なんだか楽しそうだったな、田村さん。やっぱり、他人の恋愛話はおもしろいものなのだろうか?
 けれど、心強い耳寄り情報をもらい、背中を押してもらったような気がする。
 後はタイミングだけだ。

 あっという間に授業が終わり、現在放課後。いつも通りアニ研にお邪魔させてもらっている。
「まこと先輩、聞いたよ~。授業ほとんど寝てたらしいじゃないですか~」
「いや、睡魔に耐え切れずつい……」
「受験生がそんなんじゃダメですよ!」
「八坂さん、心配してくれるの?」
「そ、そりゃもちろんですよ! アニ研に行ってたら落ちた、な~んて言わせませんよ!」
「アニ研に来てることを言い訳にはしないよ。それに、好きで来てるわけだしね」
「前から思ってたけど、部員でもないのにアニ研来るなんて、物好きですよね」
「それは前にも言っただろ? 八坂さんに会いに来てるって」
 ここぞとばかりに攻めてみる。
「は、恥ずかしいセリフ禁止ー!!」
 両腕で大きくバツの字を作る八坂さんの姿に、思わず笑ってしまう。良いリアクションするなあ。
「あっ、なにニヤニヤしてるんですかっ! さすがに怒りますよ!」
「いや、なんかおかしくてつい……、てちょっと八坂さん、何構えてるんだよ!」
 八坂さんの顔が赤い。
 なんだかんだ言って、もう怒ってるんじゃないか。
「問答無用! ロケットシューズ!!」
「うわっ! あ、謝るからちょっと……ストップストップ!」


「バカやってたら、すっかり遅くなっちゃいましたね」
「いやあ、まさか八坂さんが怒るとは……」
「はあ……、あんな風にからかうからですよ。てか、まこと先輩って実はS?」
「う~ん、そうかもしれない。八坂さんが良いリアクションしてくれるからってのも、あるかもしれないけどね」
「もうそれはいいですよ」
 辺りはもうすっかり暗くなっている。結構な時間の間、追いかけっこをしていたようだ。
 遅い時間までバカをやっていたので、今は八坂さんと二人っきり。
 絶好のチャンスと思われる状況だ。

 廊下を二人で歩いていると、星桜の樹がちょうど目に入った。
「なんだか、星桜もすっかり寂しくなっちゃったね」
「そもそも、桜藤祭の時期に満開になってたのが、おかしいんですけどね~」
 何か理由があって満開になったハズなのだけれど、今はもう思い出せない。
 でも、星桜を見ると懐かしいと言うか、言葉にできない何かを感じる。
「俺としては、転校してきて早々に、良いものが見れたけどね」
「確かにそーですねぇ。中々にレアな体験ですよ、きっと!」
 う~ん、せっかく星桜の近くにいるのだから、星桜の下で告白するのはどうだろう?
 星桜自体は今は寂しい状況だけれど、星桜の下ならばきっと大丈夫な気がする。
 ここなら無敗のような、根拠と言えそうなこともあったと思う。……でも、なぜか思い出したらいけないという、強迫観念に駆られる。
 思い出したら、罪悪感と共に混沌とした状況になってしまいそうな予感が――。
「まこと先輩、どーかしたんですか?」
「え? あ、いや、なんでもないよ。っとそうだ、八坂さん、ちょっと星桜を見にいかない?」
「構いませんけど、急にどーしたんですか?」
「えーと、星桜に合格祈願でもしとこうかなってね」
「なるほど、それじゃ私もまこと先輩の合格を祈ってあげますね!」
「ありがとう、八坂さん」

「志望校に受かりますようにっと……」
 よし、合格祈願もしたし、後はタイミングだけだ。
「八坂さん……」 「まこと先輩……」
 まったく同時に切り出してしまった! ……ここは、少し落ち着くために、まず八坂さんの話を聞くことにしよう。
「えと、俺の話は八坂さんの後でいいよ」
「そ、そーですか。それじゃお先に……」
 すると、なぜか大きく深呼吸を始める八坂さん。
「八坂さん、どうしたの?」
「えーとですね、なんかガラにもなく緊張しちゃってるんで、少し落ち着こうと思って」
「そうなんだ……」
 八坂さんが緊張するなんて、余程大事な話なんだろうか。
 そう考えると、こちらもしっかり聞かないといけないな、なんて考えてしまう。
「ふうぅ、よし、それじゃ本題に入りますね」
「うん」
「私……、まこと先輩のことが好きなんですよ」
「うん。……え?」
「転校してきたばっかなのに、みんなのために一生懸命になれたりとか、……やまとのときだって、ほとんど面識がないのに親身になって手伝ってくれたし、そんな姿を見て、……なんかいいなって」
「…………」
 あ……、ありのまま今起こったことを話すぜ! 『告白をしようと思っていたら、いつのまにか告白されていた』
 な……、何を言っているのかわからねーと思うが(略)
「まこと先輩は、私のこと……好きですか?」
「……俺も八坂さんのこと好きだよ。ていうか、俺もここで告白しようと思ってたんだけどね」
「あれ、そーだったんですか? 思わぬ形で、さっきの仕返しができちゃいましたね」
「まあ、別に気にしてないけど」
「良かった!」
 言うと同時に、八坂さんは俺の腕に抱きついてきた。
「ちょっ、八坂さん!?」
「何驚いてるんですか~。私のこと、好きって言ってくれましたよね?」
「も、もちろん」
 イタズラっぽく笑う八坂さん。何か、凄く照れくさい状況だなあ……。

 翌朝、珍しく早起きに成功する。普段の余裕の無い朝が、嘘のような余裕ある朝になるだろう。
 良いことは続かないとよく言うけれど、案外そんなことはないのかもしれない。そんなことを考えながら、俺は居間へと向かう。
「母さん、おはよ……」
 しかし、その考えは居間の光景を見たとき、全て吹き飛ぶのだった。
「あっ、おはよーございます、まこと先輩!」
「おはよう、今日は早いのね。でも、女の子を待たせるのは関心しないわ」
 いや母さん、関心するしないより、こんな時間に女の子が家にやってくるという状況を、誰が想定できるのかと問い詰めたい。
「や、八坂さん……なんでここに?」
「えっ、そんなの、一緒に登校しようと思ったからに決まってるじゃないですか~」
「そっか……。ていうか、それしかないか」
「ほらほら、雑談はまた後にして、早く準備を済ませなさい」
「わ、わかってるよ」

「はぁ~」
 賑やかな朝だった。というか、朝食を食べている間、母さんと八坂さんの俺トークを聞かされるって……どんな罰ゲームだよ。
 黒歴史は思い出すわ、色々恥ずかしいわで異常なほど疲れた。
「そんなに疲れましたか?」
「そりゃあね、拷問かと思ったよ……」
「確かに黒歴史を掘り返されたらそうですよねぇ、私にとっては凄く楽しい時間だったけど」
「そうだろうね……」
「あっと、そうだ。先に言っておきますけど、今日は先約があるんで一緒には帰れないんですよ、すいません」
「先約があるんじゃ仕方ないよ。ていうか、もしかしてそれで朝来たの?」
「まあ、そういう訳です。迷惑だったかもしれないですけど」
「迷惑ではなかったよ、楽しかったし。……疲れはしたけどね」
「いやー、まこと先輩のそーいうところ、好きですよっ!」
 言うと同時に、俺の腕に抱きつく八坂さん。
「おー、朝から路上でハレンチだねぇ」
「まこと君て、八坂さんと付き合ってたんだね~」
「だから、最近はよくアニ研に行ってたのね」
「それにしても、見ている方も楽しくなるほど、楽しそうですね」
 もう声だけでわかる。というか、振り向くのが凄く怖いのはなぜだろう?
 今朝方考えたことは間違いだった。やはり、良いことばかりは続かない。

 ――その後、怒涛のいじりを受けたのは言うまでも無い。その様子はあまりに悲惨だったので、割愛させてもらう。

 放課後、勉強を早めに切り上げ、一人帰路についていると、校門で永森さんに出会った。
「あれ? 永森さん、久しぶり」
「久しぶりね、今日はこうは一緒じゃないの?」
「うん、八坂さんはまだ部活中だよ。ていうか、もしかして八坂さんが言ってた先約って、永森さんのこと?」
「そうよ。だから、今日はこうを借りるわね」
「借りるって……」
「表現は間違ってないでしょ?」
「まあね。……ってもしかして、もう知ってる?」
「言われなくても、こうを見ていればなんとなくわかるわ」
「さすが親友だね」
「あんなに嬉しそうなこうを見れば、長い付き合いじゃなくてもわかると思うけど」
「そうだったんだ……、なんか少し照れるな」
 あの後の八坂さんは、誰が見てもわかるほど嬉しそうだったようだ。
 表情が豊かなのは、八坂さんの良いところだと思う。見ていて飽きないというか、一緒にいて凄く楽しい。
「わかってはいると思うけど、こうを悲しませないように。もし、悲しませたら……わかるわね?」
 永森さんは、冷ややかな目をこちらに向ける。綺麗なだけに、もの凄い威圧感だ……。
「好きな人を悲しませるようなことなんて、俺はしないよ」
「即答で臭いこと言えるなら、安心ね」
「そ、そんなに臭かったかな」
「かなり……」
「そっか……」
 真面目に答えたから、臭いと言われるのは少しショックだ。安心だってフォローはあったけど……。
「まあ問題ないとは思うけど、応援くらいはしてあげるわ」
「うん、ありがとう、永森さん」
 永森さんに別れを告げ、再び帰路につく。
 八坂さんとの時間を作るために、勉強をしておかないと。

 ――時間は飛んで、卒業式。
 みんなとの別れの日……。と言っても同窓会があるし、たまに集まって会おうということにもなっている。
 だからか、なんかあっさり終わったような気がする。
 ただ、みゆきさんの言葉にはグッときた。短い間ではあったけど、このクラスのみんなにも、黒井先生にもお世話になったなあ。
 そんなことを考えていたら、見慣れた後姿を見つけた。
「あっ、副委員長、一年間お疲れ様。……ってどうかしたの?」
 副委員長は、みゆきさんのことが好きらしく、みゆきさんと仲がいいからという理由で、俺によく相談を持ちかけてきた。
 俺としても友人を助けたかったけれど、みゆきさんはもの凄く忙しそうだったので、何もできず卒業を迎えてしまったワケだ。
「はあ……、結局何の進展もなく卒業だよ、伊藤……」
「そんな副委員長にこの言葉を送る。あきらめたらそこで試合終了ですよ」
「……そうだよな、あきらめたら終わりだよな」
「そうそう、同窓会とかもあるし、まだチャンスはあるよ」
「ありがとう、伊藤。俺まだがんばるよ!」
 副委員長は元気よく去っていく。応援してるぞ副委員長、あきらめなければ、きっと報われるときが来る……ハズ。

「やーっと見つけた!!」
 声の方向に振り向くと、八坂さんがいた。
「随分と探したんですからね!」
「ごめん。ていうか、それなら電話してくれれば良かったのに」
「簡単に見つかると思ってたんですよ」
「学校とかって自分が思ってるより、案外広かったりするものだよ。それで、どうしたのさ。今日は学校で会うって話はしてなかったけど」
「いやー、ぱっと思いついたことがあったんで」
「思いついたこと?」
「はい。えっと、その……第二ボタンもらえません?」
 そういえば、以前にこなたさんたちが話をしてたな、好きな人の第二ボタンがどーのって。
「こんなもので良ければ、どうぞ」
「こんなもの!? まこと先輩はベタの良さをわかってないな~」
「ベタ?」
 確かありきたりみたいな意味だっけ。でも、八坂さんが言うからには違うのかな?
「今日はその辺のことをご教授しますよ~」
「お手柔らかにね」
「わかってますよ。……あっ、遅くなりましたけど、卒業おめでとうございます!」
「ありがとう」
「後ちょっとしたら、しばらく簡単には会えませんね……」
「そうだけど、土日とかには会えるから、心配しなくても大丈夫だよ」
「……そうですね」
「だから、八坂さんは受験勉強に集中しないと」
「わかってますよ。同じ大学に受かってみせますから、待っててくださいね!」
 そう言って抱きついてくる八坂さん。
「うん……、待ってるよ」
 俺は優しく抱き返す。
 一年の辛抱は少し長いけれど、その先に続く二人の時間に比べれば、あっという間だろう。
 だから、今はもう少しだけこの時間を大切にしよう。