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最初に泣いたのはつかささん。でも、一番派手に泣いたのはかがみさんだった。
式典はとっくに終わってるけど、誰もまっすぐ帰ろうとはしない。みんな、思い思いに名残を惜しんでる。
俺も、色んな人と話した。感動的な卒業なんて内心諦めてたけど、大事な友達はたくさんできた。
みんな、本当にいい子だと思う。

ただ、本当に話したい人には、まだ会えていない。
さっきから姿は見えてるけど、生徒に囲まれてとても近づけないでいる。
順番が回ってくるまで、根気よく待つしかないか。

…お。空いてきたかな。もうちょっと囲まれててくれてよかったんだけど。
いやいや、及び腰になってどうする。台詞はちゃんと用意してるだろ。
…やっぱり、そんなのは全部捨てていくべきかな。まあ、半分くらいは持っていってもいいよな。
よし。行くぞ。頑張れよ、自分。

「黒井先生」
「おーっ、伊藤やないかい。探してたんやで?」
「俺からは、ずっと先生が見えてましたけど。なんだかモテモテでしたね」
「いや、ほんま参ったわ。涙で化粧が台無しや。
これで卒業や思うとみんなかわいなってもうてな、なかなか切り上げられんかったわ」
「生徒からあれだけ慕われるのって、難しいと思います」
「ん、まあ、教師冥利に尽きるっちゅうところかな。」

「私生活でもあのくらいだったらいいですね」
「そやなぁ。そらマジに問題やで…ってコラ、自分んなこと言うためにウチんとこ来たんかっ?」
「そんな、滅相もない。俺も、ちゃんとお別れを言いたいんです」
「お別れなんて、水臭いこと言いっこなしや。いつでも遊びに来たったらええ」
「いや。お別れです。今日で、俺は陵桜の学生じゃなくなりますから。教師である黒井先生とは、お別れです」
「…カタいやっちゃ。でも、人生はそうやって前向いとった方がええかもしれんな」
「黒井先生には、すごく感謝してます。先生が気さくだったから、転校初日も緊張せずにいられました。
俺ひとりだったら、変に気負ってみんなに溶け込めなかったと思います」
「大げさやな。すんなり友達ができたんは、伊藤自身の才能や。その厚かましさ、社会に出たら役立つで」
「…厚かましい?」
「自覚ないんか?泉らと喋っとるとき、なんや昔からの知り合いみたくしとったやん。初対面でアレは、中々なんぎやで」
「…それは多分、かなり後半の方だと思います」
「え?」
「…先生、桜藤祭のことを憶えてますか?」
「おう、当然憶えてるで。ステージが崩れるゆうて、成実さんにパトカーまで使わせたなぁ。
いや、教頭あたりにバレんでよかったわ」
「考えてみると、けっこう危ない橋でしたね」
「しっかし、なんであんだけ必死になったんやろか。よう思い出せんねんな」

「それでいいと思いますよ。ステージは無事だったし、先生も無理なダイエットをしなかった」
「そっ、それはまた別の話やろ!女にとっちゃ深刻な問題やねんっ」
「先生もかがみさんもみゆきさんも、どこがどう気になってるのかさっぱり分かりませんでしたよ」
「…伊藤、お前な。そんなジロジロウチらのカラダ見とったんか?」
「と、思う吉宗であった」
「誤魔化すなっ!このドスケベがっ」
「!いっ……ったいんですけど……っ」
「ウチからの最後の愛の鞭や。じっくり味わっときぃ。…あかん、もうこんな時間か」
「…なにかあるんですか?」
「ナニっちゅうんでもなくてな。来賓とか父兄の方にも挨拶せなあかんから、そろそろ動かなまずいかもしれへん」
「…じゃあ、先生。最後に1個だけ、お願いを聞いてくれませんか?」
「おう、ゆうてみぃ」
「俺があの校門をまたぐまで、見送ってほしいんです」
「なんやそれ。まあ、ええで。自分みたいなけったいな男は、とことんイヤミな顔で送ったるわ」
「…じゃあ、行きます」
「おう」
「…よし。行きますよ」
「さっさと行かんかい」

 歩く。毎日していたように、門を出る。
 よっしゃ。言うぞ。

「またいだな。きっちり見送ったで」

「はい。これでもう、俺たちは生徒と教師じゃありません」
「またそれかい。くどいやっちゃな。ウチと離れるんがそんなに嬉しいんか?」
「だから、ななこさん。俺と付き合ってください」
「…えっ?ん?…な、なんて?」
「付き合ってください。あなたが」

 あー、詰まった。平気な顔で言える自信、あったんだけど。
 でも、言わなきゃ。桜藤祭の日から、これを伝えることだけ考えてたんだから。

「俺は、ななこさんのことが」
「ちち、ちょい待ち!」
「…っ」
「そこまでやっ。えっと、あーっと……そら、自分は卒業したかもしれへんがな。
ウチはアレやねんて。ほら、まだ仕事中やねん」
「…はあ」
「せやから、その話はまた後日ってことで…な?」
「…ダメ、ってことですか?」
「ちゃうねん!ちゃうねんて。ウチが教師やってない時間なら、聞いてやれるっちゅうことや」
「…じゃあ、電話ください。番号教えますから」
「お、おう。ええで。ほな、明日にでも連絡するわ。それでええか?」
「待ってます」
「よし。そんじゃ、今日のところはここまでや。卒業おめっとさん」
「…ありがとうございます。それじゃあ」

 …なんだろう、これ。大人の断り方ってやつ?電話がなければ諦めろって?
 いや、深く考えるな。あんまネガティブになると、泣く。
 けどなぁ。食い下がりたいな。俺は、別に大人じゃないし。そもそも、この気持ちが簡単になくなるとは思えない。
つーか、俺はふられたのかな。ふられたんだよなぁ。微妙な空気だったもんなぁ。
でも、まだ好きだとも言ってない。これだけは、どんだけ嫌がられてもぶつけたいな。
 電話、待ってますからね。そっちにその気がなくても、待ち続けます。だって、あなたがそうしろって言ったから。