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時間のループは終わった。
永森さんの言ったとおり俺はもうあの時の出来事をほとんど思い出すことが出来ない。
だけどたった一つだけ、思い出すことが出来ること、いや、絶対に忘れてはいけないことがある。


「ごめんごめん、お待たせ」
「大丈夫です。そんなに待ってないですよ。さあ、行きましょうか」

 朝一緒に登校するのは今や日課になっている。
あの時間のループの中で俺達は互いに惹かれあっていた。
出会って2週間足らずで、なんて回りは言うがそんなことはない。
俺達はとても長い時間を一緒に過ごしてきたのだ。
まぁ、それに気づいているのはおそらく俺達だけなのだが…

「そういえば、みゆきさんは結局あの大学を受けるんだよね?」

 12月になると3年の俺達の話題はやはり受験だ。
みゆきさんは東京の某大学の医学部志望だというのは知っているがついつい聞いてしまう。

「えぇ、たいへん厳しいとは思っています。ですが、やっぱり自分の想いに嘘はつけませんし、それに…」
「それに?」
「今なら頑張れる気がするんです!なんと言いましょうか、その…」

 顔を真っ赤にして次の言葉を言えないみゆきさん。
やっぱりこの人はかわいいなぁ、なんて妄想中の俺はニヤニヤしまくりだ。

「大丈夫だよ、みゆきさんなら。うん、絶対に。俺が保証するよ!
なんて頭の悪い俺に言われてもあんまり自信になんないか」
「い、いえ!ありがとうございます!とても嬉しいです。
やはり応援してくれる方が隣にいらっしゃるだけで…。
ほ、本当ですよ!だから…お互いに頑張りましょう!」
「うん。ありがとう、みゆきさん…」

 互いに足を止め見つめ合う。まさか朝からこの雰囲気!ktkr!

「いやぁ、朝から見せ付けてくれるねぇ。お2人さん」
「まずはみゆきより自分の心配をしなさいよ。
 あんたがみゆきと同じ大学なんてただでさえ無謀なんだから」

「こなちゃんもお姉ちゃんもだめだよぅ。2人がせっかくいい雰囲気だったのに」

 ですよね…やっぱりこうなりますよね。はい、自重します。

「み、み、みなさん?!お、おひゃようございましゅ!」

 みゆきさん、慌てすぎです。おひゃようございましゅって何ですか…。

「みんな、おはよう。そしてかがみさん、朝から痛いつっこみをありがとう…」
「けど驚きだよねぇ。まさか君がみゆきさんと同じ大学を受けるなんて。
 いっつも授業中寝てるしさぁ、そんなに頭良かったっけ?」
「だよねぇ。私も聞いた時はびっくりしたもん。でもこの間の模試の結果私とそんなに変わらなかったような…」

 …やめて、つかささん!それ以上言わないで。それにこの前ってあれは桜藤祭終わってからすぐにあったやつだし。
言い訳です、すみません。
言い忘れていたが俺はみゆきさんと同じ大学を受験するつもりだ。
もちろん学部は……文学部です。さすがに文系から医学部なんて離れ業は俺には無理だ。
いや、それ以前の問題か。とにかく俺も今はかつてないほど勉学に勤しんでいる。

「そんなことないですよ、つかささん。たいへん勉強がんばっているんですよ。
 この前はたまたま調子が悪かっただけだと…。
 最近は遅くまで学校に残って勉強されてるみたいですし、黒井先生も驚いていましたよ」
「みゆきは甘やかしすぎよ。もっとプレッシャーかけなくちゃ冗談抜きでやばいわよ」
「うーん。けど確かに最近はみゆきさん、私達と一緒に帰ってるし。
 これはもしかしてちょっと期待できちゃう感じなのかも?」
「だったらいいなー。恋人同士で同じ大学行くなんてちょっとロマンチックだしねぇ、2人ともいいなぁ」
「まだ受かったわけじゃないんだし…ねぇ、みゆきさん」
「えぇ…まだまだ厳しい成績ですので…」
「…少しはフォローしてください…」
「え?!あっ!すみません!」
「相変わらずの2人だね」

 こなたさんの一言でみんなが笑う。そういえば、大学に行くとこんな光景もなくなっちゃうんだよなぁ。
みんなで学校に行って、一緒に勉強して、そしてこうやって笑いあう。
そう考えると時間のループももしかしたらいいものかもしれない。今考えてみるとあの経験に少し名残惜しさを感じる。
けど、時間のループが終わったからこうやってみんなで先のことを話せるのか、ってあれ?

「みゆきさん、みんなは?」
「予鈴が鳴ってます!もう走っていきましたよ。私達も急ぎませんと」

 みゆきさんが俺の手を引っ張り走り出す。やっぱりこっちの方がいい。
こうやってみゆきさんの暖かさを感じることができる。

「…みゆきさん?」
「は、はい、なんですか?」

 走りながらこちらを振り向く。急いでる時に話しかけたからちょっと怒ってるのかな?

「これからは2人でたくさん思い出を作っていこうね」
「…どうしました?突然」

 もう時間は繰り返さない。互いの思い出ももう消えることはないのだ。
なら…今、こうやって2人で走っているのも立派な思い出になるはずだ。

「え?い、いやまぁ、突然だけどさ…。俺達が…将来笑って話せる思い出を今からたくさん作ろう。
 もう時間は繰り返さないんだから。
 みんなで作った思い出だけじゃなくて、俺達2人だけの思い出を。これからもよろしくね」
「ふふ…。本当に突然ですね。けど、嬉しいです。その言葉が…。
 ええ、たくさん作っていきましょうね。私達のこれからの時間は限られたものではないのですから…」

 再び立ち止まって向き合う。俺はこの彼女の笑顔をこれからずっと見ていきたい。
限られた時間の中ではなく、ずっと。そう本当に永遠に、だ。
 みゆきさんは眼を閉じている。それが何を望んでいるのか分からないほど俺も鈍感じゃない。
腰に手を回し抱き寄せようとする……ん?声が聞こえる。

「そこのバカップル!ほんとに遅刻するわよ!早くしなさーい!」
「「………」」
「…ぷっ、ははは…」
「ま、またですね」
 2人で顔を真っ赤にして校門に走る。
あぁ、やっぱり時間を戻してください…。5分前でいいですので。
顔を真っ赤にしたみゆきさんが口を開く。

「…そ、その…たまには2人で帰りたいと思いまして。
 大変な時期なのは分かっていますが……やはり寂しいです………。
 今日の放課後…ご迷惑じゃないですか?」

 迷惑なわけないです。前言撤回。やっぱりこのままでいいです。



 後日談だが俺は今、みゆきさんと同じ大学に通っている。
ちなみに合格したときの俺の第一声は「待たせて…ごめん」だ。
結局、俺は一浪してしまった。
実は第二志望には受かっていたのだが、両親に無理を言い浪人という道を選んだ。
いつかみゆきさんの言った言葉、「自分の想いに嘘はつけない」今や俺の座右の銘だ。

みゆきさんは1年も俺を待っていてくれた。
これからは俺が恩返しをする番だ。流れる時間の中で…2人でたくさんの思い出を作っていこう…

     ~完~