「はぁ……」
 桜藤祭当日、告白することなく失恋したまこと君は、峰岸の彼氏紹介という追い討ちもあったからか、未だに元気がな
い。
 ていうか、峰岸に悪気がないのはわかっているけれど、紹介のタイミングが最悪すぎたと思う。

「まこと君、まだ引きずってるみたいね」
「ま~、あんなことがあったからねぇ」
「そうだよね……」
「おや~? かがみはまこと君のことが気になるのかな?」
「ち、違う! 私がもっと早くに教えてあげてれば、傷はもう少し浅かったかなって思っただけよ!」
 そう、私はこなたよりも早く、彼氏のことを教えてあげることができた。
 けれど、桜藤祭後でいいだろうと考えたのがいけなかった。
 私がそんなことを考えなければ、まこと君がここまで落ち込むことは、なかったかもしれないのだ。
「ふ~ん、そっか。でも、あんまり気にしない方がいいよ。だって、知るのが早いか遅いかの違いでしかないんだし」
 私の考えていることがわかったのか、こなたがフォローしてくれた。
 けれど、やはり私にも責任がある。
「わかってるわよ。でも、励ましてあげようとは思ってるわ。まぁ、その……大切な友達なんだしね」
 大切な、という表現をしたからか、若干照れくさい。
 私のこういったところを、こなたが面白がってからかうのだろう。今も、こなたがニヤニヤしている。

「はぁ……、空が青いな」
「何言ってるのよ」
 まこと君は、授業が終わってどこに行ったのかと思っていたら、屋上でベタなことを言っていた。
「うわっ、かがみさん!?」
「な、何よ! 私がいたら変?」
 なぜ、まこと君は私と急に会うと、いつもこんなに驚くのだろう?
 以前に叫ばれたこともあったような気がする。
 いつの話だったかは、不思議と思い出せないけれど。
「変じゃないけど、……どうしたのさ?」
「え? いや、その……励ましてあげようかなーって」
「俺、そんなに元気なかった?」
「誰がみてもわかるくらいに」
「そ、そんなに?」
「うん、みんな心配してるわよ」
 もちろん、誰が見てもわかるのだから、峰岸も当然心配している。
「そうなんだ……。じゃあ、尚更早く立ち直らないとね」
「でも、中々立ち直れないと」
「う、うん。自分で勝手に先走ってただけってのが……、痛いよね、俺」
「それ気にしすぎ、私だって想像だけ先走って、バカみたいな思いをしたことが――」
 あっ……、口が滑った。
「かがみさんも、似たようなことがあったの?」
「そ、それは……」
 あまり、思い出したくないことだけれど、それで少しでも良くなるかもしれないのなら、仕方ないか。

「そんなことがあったんだ……」
「修学旅行で、思わせぶりな手紙もらったら、誰だって先走るわよ」
 まこと君に、修学旅行でのあの出来事を教えた。
 私の場合、こなたがフォローしてくれて、思ったより落ち込まなかったのだけれど。
 ただ、ヤケ食いをしたせいで、別の理由で落ち込むことになったか。
「そうだね、きっと俺も勘違いして先走ると思う」
「まったく、修学旅行よりも前に、転校してきてくれれば良かったのに……」
「え? 何? よく聞こえなかったんだけど」
「な、なんでもない! 気にしないで!」
「そっか」
 変な事を考えてしまった。あの場にまこと君がいたって、何も変わらないだろうに。
 そもそも、何かがおかしい。
 だって、会ってから一ヶ月程度しか経っていないのに、まこと君とは随分親しい気がする。
 いや、親しいのではなく、気になってしまうのだ。恐らく、桜藤祭が終わった頃から。

「でもさ、俺だけみんなとの思い出が少ないよね」
「まあね、転校してきた時期が時期だもの。結果として、一年も一緒にいれないわよ」
「うーん、なんかそれって寂しいよね」
「……そうだね」
 私も、まこと君との思い出は、もう少し欲しいと思う。もう一緒にいられる時間は、残り少ないけれど。
「行こっか? 卒業旅行」
「り、旅行!? そ、それは……」
 嬉しいけれど、恥ずかしい。凄く、恥ずかしい。今、私の顔はきっと真っ赤だろう。
「うん、みんなで行こうよ。思い出を作りにさ」
「みん……な?」
「そうだよ。三月なら、きっとみんな大丈夫だよね?」
「え……っと、たぶん」
 そうだよね、みんなとに決まってるよね。
 私は、何を勘違いしていたのだろう。
「それじゃ、みんなで行こうか、卒業旅行。留学が終わっちゃう、パティさんたちも誘って」
「うん」
 最後に、みんなとの思い出ができるのなら、それはそれでいいことだと思う。

「……」
「……」
 話が終わり、私もまこと君も黙ってしまう。
「……」
 大抵誰か回りにいるから、本当に二人っきりになれる機会は少ない。
 私は、何か言うことはないのだろうか。
 もしかしたら、二人っきりになれるのは、これで最後の可能性だってある。
「……」
 そんなことを考えたら、余計にドキドキしてきてしまった。
 何か話すことを必死に考えても、声が出てこない。
 まるで、声を失ってしまったみたいだ。
「そろそろ戻ろうか? みんな心配してるかもしれないし」
「ぇ……」
 このまま戻っていいのだろうか。
 何も言えずに終わってしまったら、きっと後悔すると思う。
 まこと君が転校してきてから、桜藤祭までの記憶はなぜか曖昧だけれど、何度も助けて、何度も助けられた、大切な人
だということだけは、なんとなく覚えている。
 だから、その気持ちが本物なら、いつまでも待っているだけでなく、勇気を出さないといけない。
「ま、まこと君!」
「かがみさん?」
「そ、その……、前に貸したあのラノベなんだけど……」
「ああ、あれか! 続きが気になるよね」
 桜藤祭後、私が何冊かラノベや小説を貸したら、好きになった作品が色々とあったようだ。
 たまに、作品の話をするときは、とても楽しい。
「新刊が発売するから、今度の休みに……その……一緒に買いに行かない?」
「もちろん行くよ、続きが早く読みたいしね。日時は後で考えようか?」
「う、うん」
 今さらだけれど、映画とか他にもっとあっただろうに……、私のばか。
 でも、一歩踏み出せたのだから、今回はそれで良しとするべきか。

「あ~、ここにいたのか」
 背後からこなたの声。
「こなたさん、探しにきてくれたの?」
「まあね」
「もしかして、つかさが探してた?」
 一緒に帰る約束をしていたから、私を探しているかもしれない。
「それもあるかな」
 それも? 他に何かあるのだろうか?
「それじゃ戻ろうか」
「かがみに用事があるから、まこと君は先に戻ってね~」
「わかったよ」

「それで、用事って何?」
「むふふ、それを聞くのかな? かがみ~」
 ニヤニヤと笑うこなた。やっぱりそれか……。
「やっぱまこと君のことが気になってたんじゃん」
「う、うっさい! 別に私はまこと君のことなんて……」
 一歩前進したといっても、やっぱり私は素直じゃないなと実感する。
「わかりやすい反応だね~。けど、かがみか……強敵だなぁ」
「は?」
 こなたの突然の発言に、あいた口が塞がらない私。
「いやあ、だって、極東の最終兵器『ツンデレ』だよ? 強敵に決まってるじゃん」
「えっと、こなた? どういうこと?」
「何言ってんの、かがみ。まこと君攻略ルート終了、なんて私一言も言ってないよ」
 頭が痛くなってきた。そして、戦局は厳しい。
 私はこなたみたいに、積極的にはなれない。
「まさか、こなたとこういった状況で争うことになるなんて、考えもしなかったわ」
「それは、私もだよ。これからはライバルだね、かがみ」
「言っておくけど、負けるつもりはないわよ」
「おお、宣戦布告!? でも、素直になれないのが、仇にならないといいけどね~」
「うっ、それは否定できないかも」
「それじゃ、そろそろ戻ろうか?」
「そうね、つかさも待たせてるし」
 これからは、恋に受験に忙しくなりそうだ。
 春を笑って迎えられるように、がんばらないと。

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最終更新:2008年08月03日 23:09