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俺が大学に入学し1ヶ月が過ぎた。
充実した毎日を楽しんでいる。
だが・・・。


「やっべ・・・きつい。・・・もう寝よう・・・」


大学の忙しさ。
これ程までとは正直思っていなかった。
講義終了後は即サークルへ。
4月の飲み会の毎日よりかはまだいい。
しかし、実家通いの俺の帰宅時間は毎日が11時を過ぎる。
友人の家に泊まるなんて今や当たり前だ。


「今日も連絡とってないや・・・」


口には出したが睡魔には勝てなかった。


 ~不信 ともや編~



「岡崎ー、次はこっちをよろしくな」
「岡崎君、これはあっちよ」
「岡崎!これは作り直しだ!」
「はいっ!分かりました」

俺は入学し、迷わず演劇サークルに入った。
桜藤祭での劇は俺に大きな影響を与えていた。
そうは言っても俺はまだ1年生。
できることと言えば発声練習と体力作り。
後はこんな感じで雑用ばっかりだ。
先輩はいい人たちばかりで、毎日が楽しい。
いささか人使いが荒いのが玉に瑕だが・・・。
そんなこんなで時間が過ぎる。


「「「お疲れ様でしたー」」」


全員の挨拶で今日の練習は終わる。
現在の時間は7時30分。
いつもより2時間も終わるのが早い。
どうやら上級生のみでこれから話し合いがあるようだ。
理由は何にせよ、今日は久々に岩崎さんに電話できる。
いつもの定食屋の前で友人の誘いを断り、真っ直ぐ帰宅。
腹は減っているがそんなの関係ない。

「・・・・・・あ、岩崎さん?」
『・・・先輩、お久しぶりです・・・』


お久しぶり、という言葉が胸に突き刺さる。
本人に嫌味な気持ちは全くないはずだ。
メールではやり取りしている。
しかし、こうやって声を聞くのは確かに久々だ。


「うん・・・ごめんね。忙しくって・・・」
『しょうがないです・・・。けど・・・声が聞けて嬉しいです・・・』
「本当にごめんね。もっと電話できたらいいんだけど・・・」
『・・・いえ。無理されなくても大丈夫です・・・』
「・・・・・・・・・」


岩崎さんには本当に迷惑をかけていると思う。
練習が終わった後、携帯に着信履歴があったりメールが来てたり。
それに俺が気づくのはだいたい電車の中だ。
事情は話していて、納得はしてくれている。
だが、それが彼女の本心でないことは分かりきっている。


『・・・先輩?どうかしましたか・・・?』
「え?あっ、ごめん。ぼーっとしてた」
『大変そうですから・・・。お疲れのようですし・・・』
「今日は早く終わったし大丈夫!それよりさ・・・」

彼女に話題を振る。
岩崎さんはとても優しい。
そして、人の事をまず第一に考えている。
今の言葉も後に続くのはきっと俺に対しての気遣い。
俺の体を気にしてくれるのはとても嬉しい。
しかし、今日は久々にこうやって会話できるのだ。
疲れていようが、この時間を俺は優先する。
これ以上、彼女に気を使わせたくない。


「それが臭くってさ。驚いたよ」
『そうだったんですか・・・』


他愛のない話。
それでも今の俺にはこの時間が何よりも幸せだ。


『・・・先輩・・・。そろそろ・・・』
「え?」


時間を見てみると10時を大きく回っている。
いつの間にか2時間近く話していたようだ。


「もうこんな時間だ。明日も学校あるしそろそろ寝ないとね」
『・・・先輩。最後に一つ聞きたいのですが・・・』
「ん?どうしたの?」
『・・・今週の日曜日は・・・空いてませんか?』
「・・・今週」

・・・だめだ。
その日はサークルのみんなで舞台を見に行く予定がある。


「・・・・・・ごめん。その日はもう予定があるんだ」
『・・・そうですか・・・・・・』
「けど、来週なら!」
『すみません・・・気を使わせてしまって・・・おやすみなさい』
「え、ちょ、岩崎さん・・・・・・?」


切れてしまった。
俺は最低だ。
彼女は精一杯勇気を出して、俺を誘ってくれたに違いない。
なのに・・・俺は・・・・・・。


「・・・くそっ!」


しばらくは何もする気が起こらなかった。


日曜日。
俺はサークルのみんなで舞台を見に来ていた。
演劇を学ぶならやはりプロから、というのがここの方針だ。
月に1度、こうやって全員で舞台を見る。
ちなみに俺は2度目だ。


「・・・・・・」


やはりプロはすごい。
だが、俺の気持ちは舞台に向いてはいなかった。


「・・・はぁ・・・」


岩崎さんは傷ついていた。
あれから岩崎さんからの連絡はない。
今更考えても仕方ないが頭から離れない。
しょうがないんだ。
自分に何度も言い聞かせる。


「おーい、岡崎。帰るぞー」
「へっ?あ・・・。はい・・・」
「おいおい。ちゃんと見てたのか?」
「も、もちろんですよ」
「よーし。じゃ、今から飲みながら反省会だ」


見てたが、内容は一切思い出せない。
結局俺はそのまま飲み会に参加。
夕方から飲まされることになった。


「んじゃ、一足先に失礼します」
「おう、お疲れさん」
「また明日な」

俺は2次会には行かず帰ることにした。
明日も授業があるし、何より岩崎さんのことで気分が乗らない。
そのまま駅へ向かう。
今日はもう寝てしまいたい。


「岡崎くぅーん!」


振り向くと先輩が走ってくる。
それもかなり酔っているのか足が危なっかしい。
あっ、こけた。


「大丈夫ですか?」


慌てて駆け寄る。
この先輩は埼玉から通っているってこともあり、一緒に帰ることがある。


「一人じゃ立てなーい。手伝ってよぉ」
「はいはい・・・」


だめだ。
かなり出来上がっている・・・。
仕方なく起こしてあげる。


「先輩は2次会に参加しないんですか?」
「明日は朝から授業があるのよぉ」
「そうですか。で、今から帰りと・・・」
「そうでーす!だから岡崎くんと一緒に帰るのぉ」


この人、明日の授業大丈夫なのか・・・。
けど、一人で帰れそうにもないしな・・・。


「じゃ、さっさと帰りましょうか」
「うん、帰ろ帰ろ♪」
「ちょっと・・・先輩・・・!」
「いいじゃない♪減るもんじゃないんだしさぁ」
「で、ですが・・・」


俺におぶさってくる先輩。
相当酔ってるし、しょうがない。


結局、先輩の家まで一緒に行ってあげた。
ほっといたら家までたどり着けないだろう。
俺が自宅に着いたのは日が変わる直前だった。
真っ直ぐ自分の部屋に行き寝支度を済ませる。
後はベッドに倒れこむだけだ。

「・・・ん?」


携帯のランプが点滅していることに気づいた。
開いてみると留守電が入っている。
岩崎さんだった。
かなり前にかけてきたようだ。


「なんで留守電に入れたんだろう」


普段の彼女はそんなことはしない。
電話でだめだったらメールが入っている。
もしかしたら急ぎの用だったのかもしれない。
とりあえず聞いてみる。


『・・・先輩。
 岩崎です・・・。
 私はこれまで先輩に大変なご迷惑・・・かけてきたと思います。
 いつか・・・言わなければならないと思っていました・・・。
 ・・・私は・・・これ以上先輩に迷惑をかけたくありません。
 これからは・・・私の事を気にせずに大学生活・・・楽しんでください。
 ・・・これまで・・・ありがとうございました・・・・・・』


・・・・・・・・・え?

「これは夢?」


あぁ、夢かもしれない。
自分の頬を思い切り叩く。
痛い。


「・・・・・・」


聞き間違いかもしれない。
いや、きっとそうだ。
間違い電話かもしれない。


「もう一度聞いてみよう」


口に出して言ったが、間違いでない事は分かりきっている。


『現在、この電話は電源が切られていr・・・』


俺は携帯を握り締め、岩崎さんに電話をかけ続けていた。
かかるはずがないと分かっていたのに・・・・・・。