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「……伊藤君、似合ってるよ」
 本日は約束したお料理会の日。みんなエプロンでという強制のもと、お料理会が始まろうとしていた。
「うん、お料理が得意そうに見えるよ~」
「ここまでエプロンが似合う男性というのも珍しいですね」
 みんなが俺のエプロン姿を褒めてくれている。エプロン姿でなければ、もっと嬉しいのだけれど。
「本当に似合ってるわね、専業主夫みたい」
「見事に家事全般だめだけどね」
「見たイメージ通りの方というのは、あまり多くはないですからね」
「案外そんなもんだよね」
「それじゃあ、そろそろ始めようか」
「うん……」
「まずは――」
 こうして始まったお料理会は、騒がしく進んでいくのだった。

「……痛っ」
 隣でこなたさんが顔を歪ませる。野菜を切っているときに、指を切ってしまったようだ。
「ちょ、こなたさん、大丈夫?」
「う、うん、ちょっと切っただけだから」
「大丈夫なわけないでしょ、ちょっと見せて。……うん、あんまり深くないわね」
「では、消毒をしてからカットバンで大丈夫でしょうか?」
「そうね、つかさ、救急箱持ってきて」
「うん、わかった」
 つかささんが駆け出す、転ばないといいけれど。
「柊さん、ありがとう……」
「べ、別にこれくらい普通でしょ。お礼を言うくらいなら、次は気をつけること!」
「……うん」
 こなたさんは、控えめで恥ずかしげな笑顔を浮かべる。
 不覚にもドキッとした。俺に向けたものではないのはわかっているけれど、今のこなたさんの笑顔は初めて見た。
 この笑顔は、本日最大の収穫なのではないだろうか。
 けれど、包丁で指を切るのはさすがにマズイ。見ているだけで痛い。
「俺も気をつけないとなあ」
「私も、うっかり切らないように、気をつけないとだめですね」
「かがみさんも気をつけなよ」
「確かに、時期が時期だから、気をつけるにこしたことはないわね」
 模試前に、利き手の指切ったなんてことになったら、かなり悲惨なことになるだろう。
 こなたさんのケガが、ひどくはなくて良かった。

「できたー!」
 色々な困難が起こりつつも、俺たちはなんとか料理を作り終えた。
 メニューはというと、ハンバーグとちょっとしたサラダだ。一応、昼食ということになる。
「よし、それじゃあ食べよっか」
「うん……」
「いただきまーす」
 自分が作った料理を食べる。
 うん、ちょっとしょっぱい。これは白米が進む。
「そういえば、今度あの作品の映画が公開されるよね、こなた」
「……そうだね、見たいとは思ってるんだけど」
「実は、私も見たいと思ってるのよ」
「あの映画ですか……、前評判でもいいと聞きますし、私も興味があります」
「それなら、みんなで見に行こうよ」
「つかさ、言っておくけど模試終わってからね」
「うっ、やっぱりそうなのか」
「当たり前でしょう、まこと君」
「学生の本分は学業ですからね。なので、今は模試に集中しましょう」
「仕方ないか……」
 模試が終われば、息抜きができると考えれば、なんとか乗り切れるかもしれない。

 その日の帰り、こなたさんと二人っきりになったのだけれど、会話が続かない。
「……」
 さすがに、少し気まずい。何か話題はなかっただろうか?
「え、えっと……、その……伊藤君」
 必死に話題を探していると、こなたさんから話しかけてきた。一体何だろう?
「こなたさん、どうしたの?」
「あの……ありがとう。桜藤祭の後、伊藤君が話しかけてくれなかったら、こんなに楽しい日なんて来なかったと思う」
「え? 何で?」
「私には……友達がいなかったから……」
「そんなことないよ、俺は転校してきたときから友達だし、みんなだって桜藤祭前から友達なんだよ?」
「そんなの嘘だよ……。本当に友達なんていなかった」
 確かにみんなと仲が良かったのは、いつものこなたさんであって、今のこなたさんではない。
 けれど、こなたさんが友達であることに変わりはないはずだ。
「信じられないかもしれないけど、俺が陵桜に来て、一番最初にできた友達はこなたさんなんだよ」
「え……? それ変だよ……、私は伊藤君と、ほとんど会話してないもの」
 仕方がないのだけれど、今のこなたさんと俺では、桜藤祭までの記憶に違いがある。
 しかも、今の状況を説明するには、俺では無謀すぎる。それに、こなたさんが今の状況を、どう受け止めるかがわからない。
 だから、食い違いが少ないように、この会話を終わらせるよう尽力すべきだ。
「そうだっけ? ほらっ、転校初日の登校のときに、俺とぶつかったろ?」
「……転校初日は、柊さんたちと登校してたよ、伊藤君」
 いきなり地雷踏んだあああ! マインスイーパーでも、ここまで早く地雷を踏んだことないぞ!
 こなたさんの目が、あきらかに不信に満ちている。
「えっ? じ、じゃあさ、俺が劇に出ることになったとき、セイバー役だったこなたさんと、色々話したよね?」
「……セイバー役は柊さんだよ。私は、道具係」
 なんてことだ、地雷原が見える。
 というか、つかささんがセイバーって……、イメージ全然湧かないぞ。ぶっちゃけ見てみたい!
 そして、こなたさんがヤバイ。不信とかそういう次元じゃない、目が死んでる。
 これはだめだ。全てを話さないと、もっとヤバイ方向に向かいかねない。
「こなたさん、その……実は――」

「――ていう状況なんだ」
「あまり……、信じられない話だけど」
「でも、本当のことだよ。みゆきさんに聞いたら、もっと詳しく教えてくれると思う」
「……本当のことだとしても、信じたくないよ」
「え? 何でさ?」
「だって……、それが本当なら、みんなにとって『泉こなた』は友達だけど、私は友達じゃない」
 一番……見たくなかった状況になってしまった。
「……きっと、みんな以前の『泉こなた』に戻ってほしいって思ってる」
 頼むから、そんな悲しそうな顔をしないでくれよ……。
「みんな……、私なんかいなくなればいいって思ってるんだ!」
 それは――。
「違う! みんなはどう思ってるか知らないけど、少なくとも俺は違うよ!」
「伊藤君……?」
「確かに最初は戸惑ったけど、今は違う。今は……、俺たち友達だろ?」
「……! ……うん……」
 こなたさんは顔を真っ赤にしている。そして、俯いて……泣いている!?
「こなたさん、大丈夫!?」
「だ、大丈夫。……ただ、嬉しかっただけだから」
 泣きながらも見せてくれるその笑顔は、とても愛おしかった。
 守ってあげたいって、こういうのを言うのだろうか?
「……そっか、歩くの少し休む?」
「ううん、大丈夫……」
 二人してまた歩き出す。
「映画、楽しみだね」
「……うん」
「でも、その前に模試か」
「……がんばろうよ、その……私も手伝うから」
「そっか、なら安心だね」
 さっきまでの気まずさは、もうなくなっていた。