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「とーさん、夕飯できたよー!」
「わかった、すぐ行くよ」
 ゆたかの死から、長い年月が経った。
 母親がいないことで苦労するかと思いきや、みんなの助力のお蔭で、まゆみは真っ直ぐに成長した。
 今や高校三年生だ。もちろん、陵桜に通っている。
 身長はこなたさんより少し大きい程度で、こなたさん曰く、ぱっと見ると背がやや大きくなったゆたか、だそうだ。
 目が俺に似てしまったから、ゆたかほど優しそうな雰囲気は持っていないけれど、純粋さはちゃんと受け継いでいる。
 ただ、言葉遣いがやや荒い。恐らくは、よく家に来るみさおさんの影響だろう。

「いただきます。……おっ、これ美味しいな」
「えヘヘッ、つかささんにレシピ教えてもらったんだ」
 まゆみは小さい頃から、つかささんやあやのさんに料理を教えてもらっていたので、料理は得意だ。
 しかも、かがみさんやみゆきさんやみなみさんのお蔭で、成績も優秀という万能っぷり。
 しかし、俺の悪いとこが遺伝し、収集癖がある読書家に……。
 好きな作家の作品なら、出費は厭わないし、どこまでも探しに行ってしまうほどだ。
 更に、小説以外にも、かがみさんの影響でラノベ、こなたさんたちの影響でゲーム・漫画まで、幅広く収集癖が働いて
いる。
 ゆたか……、すまない。俺の収集癖は、優性だったようだ。

「そういえば、前に話した友達のことなんだけどさ」
「ああ、あの子のことか」
 まゆみの友人の中で、一番仲のいい子は体が弱く、身長も低く、そして優しい。そんなゆたかのような子だ。
「何でか知らないけど、たまに甘えたくなるんだ。不思議だよね?」
 最初は、体調を崩したその子を放っておけないという、俺とゆたかと似たような出会いだったようだ。
 きっと、仲良くなるにつれて、その子に母親の姿を見てしまうときがあるのだろう。
 少しの間しか、一緒にいられなかったけれど、ちゃんと心の中でゆたかは生きているのだ。
「そうかな? 俺はむしろ自然だと思うけど」
「嘘だー、友人に甘えるって変じゃん」
「まゆみは甘えん坊だから、自然だろ」
「そ、それは昔の話でしょ!」
 小さい頃は、家にやってきたみんなにくっついて離れなかった。
 特に、よくまゆみの面倒を見に来てくれていた、みゆきさんやゆいさんやみなみさんにはべったりだった。
 ゆたかがいなくて、寂しかったのだろう……。

「……なあ、まゆみ」
「ん?」
「お母さんいなくて、寂しくないか?」
「急にどうしたの?」
「いや、なんとなく聞きたくなっただけだよ」
「ふうん……。別に……寂しくないよ」
「本当に?」
「ホント。だってさ、十分賑やかじゃん? みんな来るし」
 そう言って笑うまゆみ。
 確かに、みんなが来たりするので、我が家はいつも賑やかだったりする。
 聴きたかったこととは、少し違うけれど、聴かないでおく。しんみりしすぎるのは良くない。
「それなら良かった」
「ねー、良かったよねー、とーさん?」
 ニヤニヤしているまゆみ、こなたさんやみさおさんの影響だろうか? ひどく嫌な予感のする笑い方だ……。


 ――我が家に帰ってくるのも、久しぶりだ。去年のお盆以来だから、一年ぶりになる。
(まー君もまゆみも、元気にしてるかな?)
 居間の方から声が聞こえてくる。親子の中が良いようで嬉しい。
 まゆみが陵桜に入学した頃は、見ていて辛かった。
 お姉ちゃんたちのお蔭で、なんとかなったから良かったけれど。

「な、何だよ、まゆみ」
 居間へとやってきたけれど、昔よく見たような光景になっている。
 何やら、まゆみがニヤニヤしているのだ。こなたお姉ちゃんが、かがみ先輩をいじるときのような感じで。
 結局、まー君は娘に対してもいじられキャラなようだ。何だか、笑ってしまう。
「だってさ、高校時代の同級生、後輩がよく家に来るんだよ? かーさんが生きてたら、ちょっとした修羅場じゃない?」
(そうかな? みんなに会えるのが嬉しかったんだけど、……私が変なのかな?)
「そんなことないよ、俺はゆたかを世界で一番愛してるからね」
(まー君……)
「うわー、くっさいね」
 そんなことを言いつつも、まゆみは嬉しそうに笑っていた。
「でもさ、それってかーさんが、ちゃんとわかってないとダメじゃない?」
「たぶん、覚えてると思うよ。面と向かってちゃんと伝えたことだしね」
(うん、ちゃんと覚えてるよ)
 それは、死んでからも忘れたことのない言葉……。私を支えてくれている言葉。
「なら心配ないね」
「だろ? 夫婦に言葉はいらないのさ」
「ハイハイ、ソーデスネ」
「おいおい、その反応はひどいぞ」
 家族みんなで笑う。惜しむらくは、私がその場にいられないことだろうか。

「そーいえばさ、何でとーさんはかーさんを選んだの?」
(え?)
「え?」
 急な質問に、私もまー君も目を丸くする。
「だってさ、みんなあんなに個性的で、いい人たちなのに、その中でかーさんを選んだ理由って気になるじゃん?」
(か、考えてみたこともなかったなぁ。私を……、選んだ理由……。確かに気になるかも)
 思い返してみれば、桜藤祭後、まー君は急にみんなと親密になっていた。好意を持っていたのは、私だけではなかった
かもしれない。
「ゆたかを選んだ理由か……。そうだな、放っておけないとか、守ってあげたいっていう気持ちが理由だと思ってた」
「思ってた?」
「うん、桜藤祭の劇も、大学受験も、教員試験も、ゆたかのためにって思って、なんとかがんばれたんだ」
「それが理由じゃないの?」
「違うよ。それは、ゆたかに支えてもらった結果だからね。守りたいって思ってたのに、気がついたら、俺が支えられて
たんだ」
「……」
「だからさ、本当の理由は、俺にとって、ゆたかは必要不可欠な存在だからってことなんだ」
(……)
 我慢していたのに、涙がこぼれてくる。やっぱり、適わないなぁ。
(それは、私も同じだよ、まー君)
「ホントにクサいね、とーさん。でも、とーさんとかーさんの子でよかったよ、私」
(それも、私と同じだよ、まゆみ)
「感謝してるなら、幸せになって、孫の顔でも見せてくれ」
「いい人がいたらね」

「それじゃ、私は風呂に入ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
 風呂へ向かうまゆみ。
 まー君はというと、何か考えているようだ。
「そういえば、今日は盆か……。ゆたか、帰ってきてるか? まゆみも俺も、元気にしてるぞ」
(ただいま、まー君。私も元気だよ)
 会うことができないのが、ひどく寂しい。
 けれど、私は二人が、ずっと幸せでいられるように、見守ろうと思う。
 だって、まー君とまゆみの中には、ちゃんと私が生きてくれているのだから……。

 どうか、私に幸せをくれた人たちに、幸せゆたかな日々が訪れますように――。



―――― 終わり ――――