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「……はぁ、……ただいま」
 いつも、おかえり、と言って迎えてくれた人は、もういない。
 思わず、涙がこぼれそうになる……。

 ゆたかの葬式が終わり、家に帰ってきた。
 俺は、胸にぽっかりと孔が開いたような喪失感に襲われている。
 俺が考えていたより、ゆたかは大切な存在だったということに、失ってから初めて気付いた。
 一方、まゆみはというと、ずっと大人しくしていた。きっとまゆみも、ゆたかを見送っていたのだろう。今は疲れて眠っている。
 ……しかし、俺一人で、まゆみを立派に育てることができるだろうか?
 仕事ばかりで、構ってあげられない可能性だってある。
 思春期になったら、一言も話してくれなくなってしまうかもしれない。
 子供にとって、母親の存在はとても重要だ。俺が、ゆたかの代わりになれるとは思えない……。
 まゆみが母親の力を必要とした時、どうすればいいのだろう?


 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。一体誰だろう?
「やあ、まこと君! 元気付けに来たよー!」
 ゆいさんだった。けれど、なぜこんなに元気なのだろう?
 葬式の間はずっと泣いていたのに……。
「元気だね、ゆいさん……」
「あったりまえでしょう! 自分のことで落ち込んでるなんて、ゆたかが知ったら、きっと泣いちゃうよー!」
 確かにそうだ。ゆたかは、自分のことで迷惑をかけると、とても悲しむ。
 ゆたかが今の俺を見たら、どう思うだろう……?
「だから、まこと君、元気出しなよ。きっと、ゆたかが一番見たくないのは、まこと君が落ち込んでるとこだよ?」
 ゆいさんが言うのだから、間違いない。今の俺を見たら、きっとゆたかは悲しむだろう。
 だから、元気を出さないと、俺はゆたかを不安にさせないと決めたのだから。
「そう……だね。ゆたかが安心できるように、元気を出さないと!」
「そーだよ! それに、落ち込んだ父親の姿を見てたら、まゆみが不安になっちゃうぞ」
 娘にまで心配させてしまうなんて、良くない。
「それはマズイ。頼れる父親になれるよう、努力しないと!」
「うんうん。思ったより落ち込んでなくて、良かったよ。式の時はすっごく落ち込んでたからね」
「何言ってるんだよ。ゆいさんだって、凄く落ち込んでたじゃないか」
「いやー、まこと君とは比べ物にならないよ。あの時のそうじろうさんと同じくらい、落ち込んでたよ~」
 そういえば、そうじろうさんは、俺と同じ状況を経験していた。
 今思い返してみると、ゆたかにかなたさんの姿を重ねていたようにも思える。
「男手一つで、娘を育てるアドバイスを、今度聞いてみようかな」
「んー、どんなことを参考にするかは、自分でしっかり考えてからの方がいいと思うよ」
「うん……、そうだね」
 まゆみにも使えるアドバイスが、どれほどあるかはわからない。
 けれど、聞かないよりは聞いた方がいい……と思う。

「なあ、ゆいさん」
「ん? どうかした?」
 ふと疑問が浮かんだ。
「ゆたかは幸せだったって言ってたけど、俺は本当にゆたかを、幸せにできていたのかな?」
 ゆたかの言ったことを、信じていないわけではない。
 確かめたかったのだ。姉であるゆいさんに、ゆたかは本当に幸せだったのか……。
「そんなの聞くまでもないでしょう、ゆたかは私の前でも、あんなに幸せそうな顔したことないよ」
「そうなんだ、……良かった」
 ゆいさんの言葉を聴き、少し心が楽になった気がした。
「うん。だから、お姉さん少し悔しかったんだ~」
 ゆいさんが笑う。
 俺もつられて笑ってしまった。
「よ~し、それじゃあ今日は、そうじろうさんやこなたも誘って飲むか! 我が弟よ!」
「まゆみを起こさない程度なら、喜んで」

 その時、またもや玄関の呼び鈴が鳴る。今日は葬式だったというのに、来客が多いな。
 俺が玄関を開けると、そこには――。
「おーす、まこと。励ましに来てやったぞ!」
「まこと君、大丈夫?」
 日下部さんとあやのさんだ。どうやら、俺を励ますために、わざわざ来てくれたようだ。
「二人とも、ありがとう……」
「何言ってんだ? 二人じゃねーぞ」
「へ?」
「夜分にすみません、ですが心配だったので……」
「おや、意外と元気そうだね~」
「凄く落ち込んでたから心配だったけど、大丈夫そうだね」
「少しは無理してるってのも、あると思うけどね」
 みゆきさん、こなたさん、つかささん、かがみさん……、みんな忙しいはずなのに……。
 泣きそうになってしまう。
「無理しないで、辛いなら言うてみ、ちゃんと聴いたるで」
 黒井先生――いや、今は兄沢先生か――も来てくれたようだ。
「ななこのおナヤミソウダンシツネ!」
「……さすがに、それは軽すぎでは……」
「いやいや、こーいう時は、案外軽いノリの方が、悩みすぎないかもよ?」
「そうっスよ、下手に悩むと鬱まっしぐらっス!」
 パティさんに岩崎さんに八坂さんに田村さん……、みんな励ましに来てくれるなんて、嬉しい。
 嬉しいのだけれど、何やら面子が凄いことになっているのは、気のせいだろうか?
「何か……、ちょっとした同窓会レベルになってない?」
「こんな面子で励ましてもらえるなんて、この上ない幸せだと思うけどね~」
「こなたさん、確かにそうだとは思うけど、俺妻子持ち……」
「細かいことは気にしない方がいいよ」
「……そうだね、みんなありがとう」

 ゆたか……、俺は弱くて、小さな人間だから、きっとゆたかを忘れることなんてできない。
 でも、みんなの支えがあるから、まゆみを守って歩いていくことはできそうだ。
 だから、心配しないで大丈夫だよ……。


 ――その後、けしからん! と言ってそうじろうさんがやってきたのは言うまでもないだろう。