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 駆け出しの小説家という身分で、幼馴染を連れ故郷を離れ、結婚して子供を作る。
 自分の父親を悪く言うつもりはないが、まともな神経で出来ることではない。

 物書きになりたい。幼馴染と結ばれたい。両方を愚直に求めた結果なのだろう。
 失敗したときのことなど、考えもしなかったはずだ。
 そして、最後にはそれを押し通してしまった。父はいま、小説によって十分に家族を養っている。

 暢気に構えているようで、本当に欲しいもののためなら一片の努力も惜しまない。
 結局のところ、自分もそういう血を継いでいたのだ。

 志望校の入試を終え、こなたは珍しく自分のことを振り返っていた。

「こなたさん」
「あ、闇に降り立った天才ナンパ師まこと君だ。こんちゃ」
「…引っ張るなあ。それって、3ヵ月も前の話じゃん」
「うにゃ、そうだっけ」
「勘弁してよ」
「ほら、あれだよ。最近あんまり喋ってないから、キミに関する情報が更新されなくてさ」
「こなたさん、午後になると自習室に直行だったからね。やっぱり、今日も行くの?」
「むふふん。よくぞ訊いたね?なにを隠そう、炎の受験生こなたは、昨日をもって死んだのだよっ」
「…そっか。入試、昨日だっけ」
「そゆこと。しっかし、もうちょっと開放感あると思ってたけど、案外そうでもないね」
「結果出るまでは、そんなもんじゃない?しかもこなたさん、本命一本なんでしょ?」
「スタートが遅かったからねぇ。滑り止めとか、考える暇なかったよ」
 本当は、違った。第一志望を落としたら、もう大学に行く意味がないのだ。
 その大学でないと、駄目だった。そこにしか、かがみはいないのだから。

 かがみと、同じ大学に行く。
 担任のななこにはたしなめられたが、それでもやると言い張った。既に、心は決まっていた。

 理由は簡単だった。要するに、かがみと離れるのが寂しいのだ。
 ただ、その奥にある本当の気持ちは、かがみにしか話していない。
 最後までやめろと言いつづけたのも、かがみだった。すべてを伝えてからは、それもなくなった。

「ってことは、今日は報告?」
「報告というか、お礼というかね。黒井先生にも、さすがに心配かけちゃったし」
「なるほど。まあ、あえて手応えは訊かないけど」
「まこと君は、来週だっけ」
「そ。なんか、もう当日まで寝てたい気分だよ」
「あー、わかる。私もさあ、煮詰まって煮詰まって、カラメルソースにでもなるかと思ったよ」
「あと一息だし、踏ん張ってみるけどさ。ところで、かがみさんは?一緒じゃないの?」
「かがみんは、昨日のうちに来たっぽいね。私はもう、帰ることしか頭になかったよ」
「なるほど。こなたさんらしいかも」
「おやおや。まこと君まで、そーゆーこと言っちゃう?」
「…ごめん。えっと、嫌だった?」
「いや、そんなんでもないけど。私が勉強してると、みんなしてらしくないって言うもんだからさ。
まったく、失礼な話ザマスねぇ奥さん、って感じ?」
「…こなたさん、あのさ」
「なにザマスか、スネちゃま」
「少しだけ、真剣な話するけど。こなたさんは、なんでかがみさんと同じ大学にしたの?」
「…友達と同じがよかったから、ザマス」
「茶化しきれてないよ」
「…でも、ホントにそうだもん。私、精神年齢低いからさ。
お軽い動機で、進路とか決めちゃうんだよね。陵桜受けたのも、PS2のためだったし」
「あの大学って、そんな発想が通るレベルじゃなくない?」
「そりゃ、かがみんは法学部だからね。大学が一緒ってだけで、私は底辺の人文学部なわけで」
「だからって」
「悔しいじゃん」
「…え」
「だって、悔しいじゃん」

 口を突いた、という感じだった。話すつもりもない本心が、ころりと出てきてしまった。
 まことと話していると、たまにこういうことがある。彼が持つ、一種の才能だった。

「なんか、負けるみたいでさ」
「負けるって、かがみさんに?」
「違うよ。なんだろね。運命というか、時間の流れというか、そーゆーものに」
「…でっかい話だ」
「まこと君さ。卒業したら、私たちってどうなると思う?」
「どうって、えっと。別々の道、みたいな」
「みんな、それで当り前だと思ってない?」
「そりゃ、当り前だから。むしろ、仕方ないことだし」
「それがね、私は嫌なわけさ」
「…嫌?」
「寂しいね、とか、また会おうね、とか言うばっかりでさ。離れ離れになることは、誰も疑ってないんだよ?」
「そこはそれ、みんな将来の目標とかあるわけで」
「そんなの、わかってるよ。大事なことだと思うよ。
でもね。みんなが決まりごとみたいにしんみりした顔してるのって、我慢できなくてさ。
それって違くない?卒業したらお別れなんて、誰が決めたの?別にいいじゃん、ずっと一緒にいたって」
「…あれもこれも、とはいかないでしょ」
「だから、私がやってみるの。なんにも、諦める必要なんかないんだよ。
卒業して、夢を追って、どんどん変わっていって、それでも絶対、友達でいられるはずなんだよ。
かがみといれば、つかさとも会える。3人いるなら、みゆきさんもいないと穴が空いちゃう。
そうやって、どこかで繋がっていられるでしょ。卒業して離れ離れになるのが運命なら、負けてたまるか、って思うんだ」
「思い出にはしない、ってこと?」
「あれも思い出。これも思い出。ヘソで茶ぁ沸かせだね」
「…すごいな、こなたさんは」
「別にすごかないよ。結局、他に目標がないからやれるわけで」
「うーん。やっぱり、すごいよ」

 喋りすぎた。いまの話を知っているのは、かがみだけだ。
 それを聞きだしてしまう辺りが、やはりまことの怖さだった。
 もっとも、受験というものが一段落ついて、溜まったものを一息に吐き散らしたい気持ちもあった。

「…まこと君が乗せるから、軽く演説しちゃったよ。てゆーか、なんでこんなこと訊いたの?」
「こなたさんの頑張りがどっから来るのか、気になっちゃって」
「…前から思ってたけど、乙女の本心を覗くのはちょっち悪趣味だよ」
「前からって?」
「おおっと、案の定天然ですかい」
「ごめん、よくわかんない」
「この際だから教えたげるけど。まこと君、無駄に素直だからさぁ。
こっちも、つられて要らないこと喋っちゃうんだよね。多かれ少なかれ、みんなそう思ってるよ」
「…そうなの?」
「それ自体は、いいんだけど。問題は、変なツボにはまったときだね」
「はあ」
「ぶっちゃけ、もてるタイプなのだよ、君は。
しかもタチの悪いことに、こっそりともてる。ギャルゲの主人公みたいな感じかな」
「いくらなんでも、それは嘘でしょ?」
「そう思ってるがいいさ」
「でも、告白すらされたことないよ?いまも、周りに女の子いっぱいいるのに」
「ノコギリフラグな発言ありがとう。ちなみにまこと君は、巨乳派?貧乳派?」
「…なんでそうなるのさ」
「いいからお答えなさいな」
「…極めて深長なテーマだけど、とりあえずあるに越したことはないんじゃない?」
「巨乳派、ってこと?」
「どうしてもどちらかを選べと言われれば、そう答えざるを得ない」
「なるほど。そりゃいいや」
「なにが?」
「さあね。じゃあ、私はもう行くからねん」
「あ、うん。えっと、おつかれさま」
「ありがと。まこと君も、しっかりね」
まことはまだ突っ立っていたが、こなたは構わず歩き出した。ななこのいる学年室は、4階だ。

 いつまでも付き纏うことで、かがみたちを縛ってしまうとは思わない。
 自分らは一緒にいるべきだという、妙な自信があった。

 別れる運命など、認められるはずがなかった。そもそも、運命など大したものとは思っていない。
 大人になっても友達でいれば、それが運命だったと言い張ってしまえるのだ。

 廊下を曲がるときも、まことはなにか考えている風だった。胸がどうの、という話の意味を考えているのだろう。
 こっそりともてる、というのも、あまり正しくない。まことに恋をした人。それが、たまたま慎み深い性格だったのだ。

 せいぜい悩めばいいさ。いつまでも気付かないのが悪いんだ。分不相応にも、みゆきさんに好かれてるくせに。

 そう思いながら、こなたは二段抜かしで階段を昇った。