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俺の携帯がメールの着信を告げたのは、星桜へ向かおうとしている最中の事だった。

 【件名:どこかなあ?】
 【わたしは、もう星桜のとこにいるよ??】

 つかささんからだ。
 随分出遅れてしまったらしい。
 返信をしようと思って…やめた。

「…ちょっとびっくりさせてみようかな?」

 目を凝らす。つかささんは星桜に背を預け、ぼんやりと桜藤祭でにぎわう校庭を眺めていた。
 急いで近づいて…こっそり後ろに、星桜の陰に隠れる。

【つかささ~ん、うしろ うしろ!】

 と入力して…送信。

「…あれ?」
 メールに気がついて、星桜の後ろへ回るつかささん。もちろん俺はそれをかわして…つかささんの背後に。

「あれ? あれあれ?」
 頭中ハテナマーク状態のつかささん。
 そんな彼女に、俺はこみ上げる笑いを抑えながら声をかけた。



「 つ か さ さ ん 」 

「うひゃうっ!?」
 奇声とともにつかささんの身体がぴょこんと跳ね上がる。おそるおそる振り向いた瞳と、俺の目がかち合う。
 …あ、ちょっと涙目。やりすぎたかな。

「も、もぅ…びっくりしたよぉ…」
「ご、ごめん…」
 あわてて謝るが、潤むつかささんの瞳は収まるどころか…
 つぅ、と涙のすじを頬に伝わせる。
「ちょ、つかささん!?」

「…ごめんね、泣いちゃって…… でも、不安だったの。怖かったの。…もし、ゆうきくんが来てくれなかったらって。…ダメだよね。約束したのにね。…ごめんね、信じられなくて…」
 ぐしぐし、と涙を拭って、笑顔を見せる。

 …違う。
 俺が見たかったつかささんの笑顔は、そんなんじゃない。

 そう思うより先に、俺の腕がつかささんを抱きしめていた。

「ゆうき…くん?」
「ごめん…俺の方こそ。いらないことして、つかささんのこと不安にさせちゃって」

 何やってんだ。
 彼女の笑顔に逢うために、俺は時の環を解き放ってきたんじゃないか。
 その俺が、彼女の笑顔曇らせてどうする。

「もう、どこにも行かない」
 ぎゅ、と。
 抱きしめる腕に力を込める。
「…ゆうきくん、ちょっと…痛い」
「あ、ごめん」
 少しだけ、緩める。
「でも…あったかい」
 やっと、つかささんが本来の笑顔を取り戻した。

「…ねぇ、ゆうきくん」
「なに?」
 んっとね、と一拍置いて。
「これから、ずっといっしょ…だよね?」
 そう、聞いてくる。
「うん。もう、時間は巡らない」
 いつか、君が望んだとおり。

  ―――ずっと。ずっといっしょ……
  そうなれたら……うれしいな

「これからは、ずっと傍にいる。イヤだって言っても、ね」
「イヤだなんて、言うわけないよ。…好きだもん。大好きだもんっ」
 自ら発した言葉に、真っ赤になるつかささん。俺も釣られて真っ赤になる。

「…俺もだよ。…俺も、好き…大好き」

 柔らかな唇の感触。つかささんの…つかさのくもぐった吐息。全身に伝わる、温かみ。
 その全てが、もうたまらなく愛しくて。

 俺たちは、時間の許す限り…ただ、抱きしめあってた。




    らき☆すた~陵桜学園 桜藤祭~ After Episode
    想い出のつづき
    柊つかさの場合~うたたね☆こみゅにけーしょん~




 桜藤祭が終わって、幾度目かの週末。
 母さんに頼まれたお使い…って、いい年して“お使い”もないだろうに…をこなした帰り、俺はふとあることを思い出した。
「そういえばココ、鷹宮だっけ」
 このあたりには神社があって、そしてそこはつかさの実家だったはずだ。
「いるかな? 週末は境内の掃除してるって言ってたけど」
 ひょっとしたら、巫女装束姿のつかさを見られる絶好のチャンスかもしれない。
「いるさ、きっと」
 根拠の無い確信を連れて、俺は鷹宮神社へ向かうことにした。
 差し入れに、コンビニでメロンソーダを購入して。

  *

 季節柄、境内は舞い散る落ち葉で彩られていた。
「こりゃ、掃除する方も大変だよな」
 つかさはどこかな…と、辺りを見回す。
「あ」
 見つけた。
「おーい、つか―――」
 っと、あれ?

 よく見ると、大きなイチョウの樹の下で…
「…みゅぅ」
 座って船をこいでいた。
 掃除途中で力尽きてしまったのか、竹箒を抱えたままで。
「…ほんとに寝ちゃってるよ」
 実は結構、半信半疑だったりしたのだが。
「にしても、風邪引いちゃうぞ。それにそんな体勢でよく寝れるなぁ」
 起こそうと思い、頬をつつく。
「ん~…だめだよお姉ちゃん~それ私のバルサミコ酢だよぉ~」
 …何の夢見てんだか。
 ってか、こんな幸せそうな寝顔見せられちゃ、起こすに起こせない。
「…よっと」
 つかさの傍らに腰掛ける。起こさないように細心の注意を払いながら、彼女の身体を傾けて―――

 とすん。

 彼女の頭を俺の膝に委ねる。
 まぁ、つまるところ膝枕だ。

「~ふみゅ」
 なんか、子犬みたいだな。
 毛布代わりに上着をかけながら、そう思う。
 穏やかな寝顔を見ていると、なんだか心があったかくなるっていうか。
 薄紫色の髪を撫でる。手触りが気持ちよくて、何度も往復させてしまう。
「…ゆうき、くん」
 不意に零れた声に、ドキっとする。
 まだ…寝てるよな?

「……誰?」
「うお!」
 急に背後から声をかけられ、全力で硬直する。
 ビクビクしながら振り返ると、巫女装束姿のかがみさんだった。
「って、ゆうきくんじゃない。どうしたの? …あ、つかさに会いに来たんだ」
「ま、まぁね。近くまで来てたもんだからさ」
 俺とつかさの関係は、もちろんかがみさんも知っている。
 とはいえ…この状況はかなり恥ずかしい。
「あらら、やっぱ寝ちゃってたのね」
 俺の膝枕で可愛い寝息をたてているつかさを見て、かがみさんがやれやれと溜息をついた。
「ごめんね、せっかく遊びに来てくれたのに、ネボスケな妹で」
「いやいや、可愛い寝顔も見れたから善しってコトで」
「…あんた、それちょっと変態っぽい」
「え゛」


「ねぇ」
 ふと、かがみさんがまじめな顔で俺を見た。

「今更だけど…つかさのこと、好き?」

 本当に、今更な質問。
 だけど、本気で問われている。
 だから、俺はそれに真摯に応える。

「…あぁ、大好きだよ」
「…そっか。うん…そーよね」
 まるで、自分に言い聞かせるように頷いて、踵を返す。



「……目、ないか。…やっぱり」
「え? なんか言った?」
「ううん、なんにも」
 それから、「じゃ、お邪魔虫はとっとと退散しますか!」とワザとらしく大声で言って、かがみさんは走り去って行った。



「…んぅ…お姉ちゃん…?」
 っと、起きちゃったか。
「おはよ、つかさ」
「あ、おはようゆうきくん…って、ええぇ~っ!!?」
 俺の顔を見るなり、びっくりして飛び起きる。

 …なんというか、いつぞやの俺たちみたいだ。
 あの時は立場は逆で、俺たちの関係も今ほど進んじゃいなかったけど。

「ど、どどどどどど…」
「どどうど?」
「じゃなくって! ど、どうしてゆうきくんがここにいるのぉ~??」
 顔から火が出る、という慣用句が100%理解できそうな顔のつかさ。ああ、可愛いなぁ。
「近くまで寄ったもんだからさ。つかさに逢いに。寝てたけどね」
「そ、そうなんだ…。ご、ごめんね。お構いできなくて」
 気にしなくていいのに。
 まぁ、そーゆーところが彼女の魅力なんだけど。
「そう言えば」
「?」
「初めて見るね、巫女装束」
 俺がそう言うと、えへへ…と照れ笑いを浮かべて、くるりと回ってみせる。
「ど、どうかな…へんじゃない?」
「全然。すっごく可愛い」
「も、もぉ…恥ずかしいよぉ~」
 桜色の頬がさらに赤みを増した。

「…あぁっ!」
「ど、どうしたの?」
 急に大声。
「いっけない、まだ掃除の途中だったんだ! あぅぅ…また落ち葉増えてるよ~」
 まぁ、季節柄ね。
「手伝うよ」
 ひょい、とつかさから竹箒を拝借する。
「そ、そんな悪いよ~」
「いいからいいから。いっしょにやれば早く終わるし」
 本音を言えば、少しでも長く、つかさと居たいからなんだけど。
 ちょっと恥ずかしいので、それは言わないでおく。
「えっと…そうだね…そうすれば、いっしょにいられるもんね」
 …っと、同じコト考えてたらしい。
 なんだか似たものカップルだ、俺たち。

「それじゃ…」
「はじめようか!」







 …ちなみに。
 この後お互いが気になってロクに掃除がはかどらなかったりしたのは……言うまでも無いことだと思う。