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俺がここにやってきてから過ごした時間は今まで生きていた中で一番充実していた。
そう言っても過言では無い程楽しかった。
転校してきてから桜藤祭が終わるまでの記憶が殆ど無いのが未だに良く分からないがそんな疑問もいつのまにか沸いてこなった。
そんな疑問を解決しなくても十分充実していたからだろう。
俺はこの学園で思いっきり楽しく過ごす事しか考えていなかった。

だから俺は未だに実感する事ができなかった。
今日、この学園を卒業すると言う事を。




「いやー、長かったねぇ校長先生の話。まぁ定番と言ったら定番だけどさ」
「長いというかそーゆーレベルを超えていたと思うぞ、アレ。 三時間ぐらいぶっ通しで話してなかったか……?」
「すごいよねー、あれだけ話したら普通喉渇くと思うんだけど全然そんな様子なかったし」

隣を歩くこなたさんのぼやきにかがみさんが魂を抜かれたかのような表情で返事をする。
それに対してつかささんはどうも少し的が外れた感想を述べ、そのさらに向こう隣でみゆきさんがまるで彼女達の母親なのではと勘違いしてしまう程に穏やかな表情で笑みを浮かべている。
いつもの事だ。俺がここに転校してきてから何度もこの光景は見た。
だからこそどうしても実感が沸かない。 この光景がもう、当分の間見られなくなるなんて。

「ねぇ、そういやさ」

ふと、俺の背中を引っ張るこなたさんの手で俺は我に返った。

「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの? 私達と離れるの寂しい?」
「は、はい?」

いつもの事ながらこなたさんの唐突な発言にはついていけない。
そしてさらにこなたさんは真顔で冗談を平気で言う人だからなんというか……扱いずらい。
かがみさんも過去にこなたさんに真顔で迫られ最悪な目にあったとか。

「何黙ってるの? 図星?」
「え? あ、んー……どうかな?」

まぁ、普通に考えて答えはYesだろう。
確かに会おうと思えば会う事はできる。
だが日常を共に送るのとは天と地ほどの差がある。
だけどはっきり寂しいなんて言うのはどこか恥ずかしかったから俺は曖昧に答えを返した。

「こなたさん達は大学だっけ? 一緒の所いくんだよね」
「まぁね、学部は違うけど」

俺が話しの矛先を反らした事が不満なのかこなたさんがぷーっと頬をふくらませる。
まぁ当然、俺は無視。

「そういえばキミがこれからどうするのか聞いてなかったよねー」

だが素早くつかささんが再び話しを俺の事に戻す。
俺の視界の隅の方で怪しく微笑みつかささんの背後でGJと呟き続けるこなたさんが不気味だ。
「ん、あぁ~……どうするんだろうなぁ?」
「ちょ、貴方が質問してどうすんのよ、まさか決まってないの?」
「ん~……まぁ、そうなるかなぁ」

とりあえず確かな事はこなたさん達四人と一緒ではなくなるという事だ。
その事実をつけつけられたせいか俺は何か考える力を失っているようだった。

「どこかに就職されるんですか?」
「いや……別に、そんな事はないかな」

頬をかきながら早くこの話題が終われと心の中で願い続ける俺。
そんな俺の心中を察してくれたのかみゆきさんはその一言を最後ににっこりと微笑むとそれ以上、何も言ってこなかった。

「まさかアンタ……ニートにでもなるつもり?」
「ほぉ~……キミもやるねぇ。ネトゲーに没頭する毎日が始まるねぇ?」
「ん~、考えとく」

俺は苦笑しながらそう返事をする。
かがみさんの言う事は半分当たっている。俺の進路は全く決定していないのだ。
そう……俺は今、何とも言えない無気力感に襲われていた。
この学園生活が楽しすぎたからかもしれない。
楽しすぎたせいで将来の事を考えるのを後回しにしていたのだろう。
この卒業という今が訪れる事から目を背けていたのだろう。
彼女たちと別れる事を受け入れたくなかったのだろう。
だから俺はこんな場所に立っている。
地平線が完璧に見えてしまう広大な平原のど真ん中。
どこへでも行ける。だがどこにも目印なんてものは無い。
そんな所に一人で放り出された気分だ。
だが彼女たち四人は今までと同じく一緒に日常を過ごしていくのだろう。
そうなると嫌が応にも俺と彼女たちの間に壁が出来る事になる。

一緒に過ごす時間が少なくなる、という事は人の気持ちを薄れさせるには十分な要素となる。
その事はもう経験済みだ。 ここに転校してくる前の学校の友達とはメルアドとかは交換しているが実際に連絡を取り合う事は殆ど無い。
いつでも会おうと思えば会える。 でも無理に会う必要は無い。
俺もいつか、彼女たち四人の中で「高校の時、一緒に『いた』人」になってしまうのだろう。
そう、一緒にいる……ではなく、一緒にいた……に。
元々、彼女たちは俺が転校してくる前からずっと一緒にいた仲間だ。
そして俺がこの学園に来てから卒業するまで、冷静に考えてみれば半年も経っていない事になる。
その時間の差は人の存在、絆を削り取るには十分な要素となるのではないか。

その何とも言えない不安、そして孤独感のせいで彼女達の問いにまともな返事を返すことができなかった。

「ふーん……ま、頑張りなさいよ」

かがみさんもこなたさんも、みゆきさんと同じく察してくれたのだろう。
冷静になって思い返せば確かに露骨だった。
明かな冗談に対して考えとくなんて答えたら誰だって何かあると思うに決まってる。

……まぁ、約一名事情が理解できないようで呆けた表情で俺達を眺める女の子がいたが。
そろそろ校門が近づいてきた。

目の前に迫ってきた別れ。
ここを超えたら俺とこなたさん達は同級生から元同級生になる。
その校門を抜けたらもう、俺達が一緒にいる理由が無くなる。
もう一分も経たない内に俺はこの四人に背を向けている事になるだろう。


「じゃあ……」

そしてその瞬間。
校門までの間を歩いている時とは打ってかわって俺は自分でも驚く程に落ち着いていた。
こうやって彼女たちに背を向け別れを告げるという行為が日常の中で行われていたせいかもしれない。
だが俺達はもう元同級生だ。
だからいつもの言葉の最後を変える事にした。

「じゃあ、バイバイ」

校門を一歩出た瞬間、俺は彼女たちに笑顔を向けながら手を振る。
正直、四人がどんな顔をしていたのか分からなかった。 て言うか見てなかった。
あまり彼女たちの顔を見たくなかった。 見たら別れがもっと辛くなる気がしたから。

だけど……


「バカ、違うだろ?」
「は?」

かがみさんの呆れたような声に俺は思わず振り返ってしまう。
次の瞬間、俺は息を飲んだ。

「…………」

何か言葉を出そうにも俺は口を金魚のようにパクパクさせる事しかできなかった。
俺が見た四人の表情、それは非常に理解しがたいものだった。
一体、何が起きたのか。
タマネギでも切ってたのか? とツッコミを入れればいいのだろうか?

とにかく、四人は目から涙を流し俺を見つめていた。
そんな彼女たちを見て、俺の頭の中は真っ白になりどうしたら良いのか分からずそのまま硬直してしまう。
だがそんな俺の様子などおかまいなしに四人は一瞬だけ視線を交わすと再び俺を見つめ、こう言い放った。



「またね!」