「言ってみれば、出来レースって言うか。
相手は俺が当然断るのを知ってて、相手もそれを望んでいて、俺もそれをわかっていて。
それでも、そうせざるを得ない状況で。」
みなみ「・・・・・・・・・・・・」
「・・・苦しかった」
苦悶。先輩の横顔は、ひどく歪んでいた。
「『ゴメン』、って、ただ一言言えば、それで終わりなんだけれど」
「・・・どうしても、言葉にならなくて」
「・・・ただ、しばらくじっと固まってた」
「そうしたら、小早川さんが、言ったんだ」
―――『ゴメンナサイ。先輩を困らせるつもりじゃなかったんです』
『ただ、伝えたかっただけ』
『答えは、いりません』
『だから、せめて』
『・・・嫌わないで、いて下さい』
『・・・それだけが、私の願いです。』
みなみ「・・・・・・・・・先輩」
「これで終わり。・・・情けないよなぁ、俺には、岩崎さんがいるのに。」
みなみ「・・・そんなこと、ありません」
よく、わかる。私だって、そうだから。
ほとんど知らない人に言われた私でさえ、こんなに心苦しいのに。
・・・先輩は、ゆたかに言われたのだから。
みなみ「・・・先輩」
「・・・・・・・・・」
みなみ「・・・先輩は、情けなくなんか、ないです。」
「・・・でも、俺は・・・」
みなみ「先輩」
私は、先輩の手を、取って。
みなみ「・・・情けないから、断れなかったんじゃ、ないです。」
先輩の手を、強く握って。
みなみ「・・・それは、きっと。」
・・・先輩の目を、見て。
みなみ「・・・先輩が、優しいから。優しすぎるから。」
それは、時には、ただの優柔不断に思われるかもしれないけれど。
みなみ「優しすぎて、壊れてしまうくらいに」
みなみ「・・・先輩の心が、暖かいから。」
「・・・岩崎、さん」
みなみ「・・・ありがとう、ございます」
みなみ「少しだけ、わかりました」
みなみ「・・・人に、好きに、なってもらった気持ち」
みなみ「嬉しいけど、苦しい気持ち」
みなみ「・・・とっても、難しい気持ち。」
「・・・それじゃあ、おじゃましました。」
母「ええ、またどうぞ。・・・でも、できれば今度は、昼間にね?」
「・・・う///ハイ。」
母「それじゃ。みなみ後はよろしく~」
・・・もう、日は変わった。明日も学校だ。先輩も早く帰らなくては。
「・・・岩崎さん、ゴメンね?相談に乗りに来たのに逆に乗られちゃった感じだ。」
みなみ「・・・そんなこと・・・ありません。すごく参考になりました。ありがとうございます」
「そう?」
みなみ「ハイ」
「・・・・・・なら、良かったよ。また明日、っと、今日、か。学校でね?」
みなみ「・・・・・・はいっ」