「あれ」
「どったのー、誠君?」
ううっ、かがみん凶暴と、こなたさんは瞳に少し涙を浮かべている。
「こなたさんは、何のコスプレするの?」
「その台詞はコスプレ喫茶勤め歴二年の私に挑戦と!?」
「いや、そんなつもりじゃ…」
「まあ今回はかがみも凛役なことだし? ここは私もセイバーのコスしかないかなあっと」
「じゃあやっぱり俺は士郎役?」
「察しがいいねえ、誠君は」
「なんだか劇みたいだねー 私も役者、ちょっとだけやってみたかったかも」
「でもつかささんの道具作りのおかげで、劇ができたわけだし」
「そうですよ、つかささん。本当に感謝しています」
「いや、みゆきさんにもそっくりそのまま当てはまると思うんだけど。みゆきさんがきちんと監督兼進行を行ってくれたからこそ、劇が成功したんだから。俺だってみゆきさんの助けがあったからこそ、へたくそとはいえ士郎役をこなせたんだからさ」
「ありがとうございます…それでしたら、すばらしい台本を書き上げていただいた峰岸さんにもお礼を言いませんと」
「そだね。じゃあみんなも思い切ってよんでみる? みんなでやったらもっと楽しいかも」
「いや、呼ばなくていいから…」
本日何度目だろう。かがみさんは突っ込み疲れたという風に、ただただため息をついた。
「でも誠君。その節はありがとね。私のせいで迷惑かけちゃってさ。
でもあんたの演技、お世辞抜きでうまかったわ」
「ありがとう、かがみさん」
「それじゃあ、みんなの役も決まったことだし、バイト先に出発進行!」
(みんな)「「「「「おー!」」」」
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その道中、やはり疑問点があった。少し迷ったが俺は、かがみさんに聞いてみることにした。ちょうどいい具合にかがみさんと距離も近く、こなたさん立ちは数歩先をいっていたので、小声でかがみさんに話しかけることができた。
「ねえかがみさん」
「なによ?」
「なんでこの件引き受けたの? かがみさんってこういうコスプレっていうの? あまり好きじゃないと思うんだけど」
「仕方ないでしょ? こなたのバイト先が病欠だし――こなたも困ってるんだし」
「かがみさん、優しいんだね」
「べ、別にそんなんじゃないわよ! だ、だって、一日だけだし、こなたもバイト代はちゃんと払うといっているし、その、ちょっとした小遣い稼ぎなだけよ。別にこなたのためというわけじゃないんだから」
「…」
「あ、そこで沈黙するな!」
「やっぱりかがみさんは優しいよ」
「な、なによ、あんたらしくない。まあ、ありがとね。
―――まあ、あんたには言っておいてもいいか」
「なんのこと?」
「今回のことよ。
…昨日ね、こなたを喫茶店でみかけたの」
「もしかして、常連さん?」
「んなわけあるか! 欲しかったラノベの発売日だったから、本屋にいったついでに寄ってみただけよ。こなたがまじめに働いているかどうかも知りたかったし」
「なんでかがみさんが…」
「別にいいでしょ、そんなこと。
結局こなたは私に気づかなかったんだけどね。お手洗いにいっているとき、こなたと店長が話しているのを聞いたの。
――こなたなのよ」
「だから何のことか…」
「食中毒にあたったのは事実みたいなんだけど、その代役に私たちを選んだことよ」
「え、でも、こなたさんは店長にお願いされたって―――」
「今の話を考えれば、わかるでしょ。てゆーか常識的考えても、コスプレみたいな特異な職場で、面接もなしに採用するわけないでしょ?」
「まあ、言われてみれば」
「こなたがね『私の嫁に――違います違います、友達です――学園祭の劇で凛役をやる予定だった子がいたんです。でも練習中の事故で出れなくて…でもその子、本当に熱心で、だからせめて私や、その子の友達の中だけでも凛役をやらしてあげたいんです』ってあの馬鹿がさ」
そういったかがみさんは、一人、その思いを反芻するかのように俯き、表情は読み取れない。
もちろん俺はそんなかがみさんの心情を斟酌し、「こなたさん…」とだけつぶやいた。
「あの馬鹿…そんなこと言われたら、いくら苦手なコスプレだって断れるわけないじゃないの…本当に、馬鹿なんだから」
其の言葉が俺に向けられたものでないことくらいはわかる。俺とかがみさんは、前を行く3人を見失わないように、少し早足で歩き始めた。
「おーいかがみん、誠君。二人してなにしてるのさー」
「ごめんごめんこなたさん」
「むむ…怪しい二人。
かがみは私の嫁なんだから、嫁争いは負けないよ」
「ええ、おねえちゃん、結婚するの? おめでとー」
「つかささん、そういう意味ではないと思いますが…」
「嫁じゃないっつの!」
こなたさんは「否定するかがみん、ナイスツンデレ!」っと指をたてて笑っていった。
「ようし、目標100m前。きっとかがみやつかさ、みゆきさん、それに誠君も。
『心が表れるようでしたわ』って帰りには呟いてるね。間違いない」
「緊張しますね…」
「ゆきちゃん、がんばろうね」
「なんならかがみ、気に入ったならシフト入ってもいいんだよ? かがみなら素質ありだし、きっと採用されるよ~」
「ごめんだわ…」
そういってかがみさんは腕組をする。
「そんなことよりさっさと入るわよ! こなた、今回ばかりは頼りにしてあげるから、きっちり頼むわよ」
「ほいほーい。なんなら、こなた様って呼んでもいいんだよかがみーん」
「するかばか!」
かがみさんのツインテールが、嬉しそうにゆれていた。