きょうちゃんの、お姉ちゃん2
「え、今日休むの?」 つかさは、かがみの体調を確認しにきた、みきに伝えた。「お願い、お母さん」「…仕方ないわね」 つかさの切実な思いを感じ、またも慈愛に満ちた判断を下す。それが正しいかはわからないが、少なくてもみきは今はそうでもいい、と思った。「――でも、黒井先生にはつかさから連絡しなさいよ。それくらいはできるよね」「う…うん、わかった」「つかさ、本当に休むの? つかさは学校にいっていいんだよ?」 かがみが心配そうにたずねる。熱のせいかいつもの覇気はなく、どことなく弱々しげだった。「うん。今日はお姉ちゃんと一緒にいる。ううん、一緒にいたいの」 かがみの部屋から廊下にでた。その足取りは、少し重かった。 黒井先生に電話かあ、なんていえばいいんだろう。風邪…かな? お母さんは特に病状を言わず「遅刻していきます」と告げただけらしいから、それでいこう。
・・・
「――はい、陵桜学園です。ご用件はなんでしょうか」 受付係が応対に答える、つかさは「えっと、くく、黒井先生いますか?」と聞くと「…どちら様ですか」と受付係の人は聞いた。「あ、3年B組柊つかさです」「はい、柊つかささんですね。黒井先生に取次ぎいたします」 保留中を知らせる音楽が流れる。その音を聞いている時間というのは、どうしてこんなにも緊張するんだろうとつかさは思った。それが嘘をつくための電話とあれば、なおさらだ。 「おーす、柊かあ? どないしたん。今から登校か?」 聞きなれた関西弁が聞こえてくる。黒井は知人に話すような、くだけた言葉遣いでつかさに話しかけた。「あ、先生。その、今日はお休みしようと…」「んー? 風邪でもひいたんか?」「は、はい! そそそうなんです」「そのわりには、元気そうやけどな…」「え、そんなことないですよお」「まあ、ええけどな。泉だったら殴ってでも学校に行かせるんやけど、柊だしなあ…まあ、欠席のことは了解や。体、きいつけてなー」「はい、その、すみませんでした…」「なにがや?――あ、そうそう」思い出したように付け加える。「なんですか?」「柊の姉のほうや、大丈夫か?」「は、はい。今は安静に休んでいると思います」「そっか、まあ大事にな。桜庭先生の担任とはいえ、うちも気にのうてな。 それに、泉が元気なくて」「こなちゃんがですか?」「まあ柊が二人とも、休んでいたら、そりゃあ元気もなくすわ。高良はしっかりしているから、心配はしてへんけど――ついでに、伊藤もや」「そうなんだ…」「それじゃあ先生、失礼します」 そうつかさは言い、受話器を置いた。「はあ…どきどきしたよお」 見かけどおり嘘をつくのが苦手なつかさは、黒井先生に嘘が見抜かれずにすんだことにほっと胸をなでおろした。
「つかさ、かがみ。泉さんたちがお見舞いにきたわよ」 午後6時。その間じゅう、つかさずっとかがみの部屋にいた。お姉ちゃんの看病は私がするんだから、と意気込んでいたが其のうちの半分はかがみのベッドにもたれかかって、寝てしまっていた。寝言で「うう…お姉ちゃん、大丈夫?」と呟くつかさを見て、かがみはつかさに知られないように、人知れず枕をぬらした。 「ありがとうね、つかさ」――どたどたと、階段を上る音がする。その音は複数ある。きっといつものメンバーがやってくるのだろう。 嬉しさや期待と、二人だけの空間が壊されることに少しだけ残念だった。
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