岩崎みなみの憂鬱2
ゆたか「先輩は、週末どうするんですか?」「うーん、まだ決めてないんだよ。岩崎さんは用事があるって言うし」用事。本当はそんなもの投げ出して先輩といたいけれども、母に頼まれたら仕様がない。それに・・・『一緒にいたい』なんて・・・言えない。顔から火が出そう。ゆたか「そうなんですかー。それじゃあ、ウチにきませんか?お姉ちゃんが、新しいゲームを買ったんです」「それって、もしかして今話題の?」ゆたか「はい!」「うーん・・・」ゆたか「・・・で・・・」二人の会話に、私は入らない。いや、入れない。私とは流れる時間がまるで違うから。以前は、私を中心に並んで歩いていた。会話も、私とゆたかの日常が主だったと思う。いつだったか、お互いに用事ができて、三人ではなく二人組交互で帰ることが増えた時があって。それが終わった頃には、この並びだった。
「・・・さん、岩崎さん?」みなみ「・・・えっ!?」気がつくと、私は立ち止まっていた。先輩と、ゆたかが・・・怪訝そうな顔で私を見つめている。ゆたか「みなみちゃん、どうしたの?気分でも悪いの?」みなみ「・・・ううん、ちょっと、ボーっとしてただけ。大丈夫。」ゆたか「そう?」「岩崎さん、ごめんな。ほったらかしにしてたから怒っちゃった?」みなみ「い、いえ、そんなことないです。二人の話聴いてるの、楽しいですから。」少なくともそれは真実だ。先輩と出会ってから、大抵は、私は二人の話を聴くだけの立場の人間だった。本当は、先輩も、ゆたかと話している時の方が楽しいに違いない。私には、楽しい話題なんて、何もないから。・・・そしてきっと、ゆたかも。
みなみ「・・・本当に大丈夫ですよ。行きましょう。」そう言って先に立って歩き出す。先輩たちも、急いで隣に駆け寄ってくる。こんな訳のわからない行動をしても、ただ苦笑するだけで済ましてくれる二人に、安心する。ちょっと前なら、「すましてて、コワい奴」なんて言われて、皆離れて行ったから。こんな自分が嫌で、変わったはずだったのに。「週末、残念だなぁ。岩崎さんも来れれば良かったのに」みなみ「すみません・・・」ゆたか「残念ー。・・・でも先輩、ホントは、みなみちゃんと二人きりがいいんじゃないですか?」「はははっ、まーね」みなみ「・・・っ!!」ちくり、と胸が痛む。今度は、先輩のセリフが恥ずかしいからじゃない。見てしまったから。知っているから。ゆたかの、想いを。
ゆたか「ぷう、やけちゃいますね。いーなー。」「小早川さんだって、作ろうと思えば彼氏の1人や2人すぐさ。クラスでモテたりしないの?」ゆたか「そ、そんな、そんなの全然ないですよ///私こんなちびだしっ」「そんなことないよ。スゴく優しいし、かわいいし。狙ってる奴多いと思うよー」ゆたか「エ、エヘヘ///そうかな///」「ねえ岩崎さんもそう思うよね?」みなみ「・・・ハイ」実際、どうなのかはわからない。男子とはあまり話さないし、クラスの男子の話題に出るのはモデルや女優の、大人の女性だ。泉先輩は「需要」と言うけれど、それもなんのことなのかはよくわからない。ただ、女の私から見ても、ゆたかは可愛い、とは思う。気も効くし、笑顔も多い。私のようなつまらない女よりは、ずっと男性に受けは良いはずだ。・・・でも、先輩は――――
みなみ「―――――!!」ビクン、とカラダが跳ね、硬直する。「い、岩崎さん!?どうしたの?」ゆたか「み、みなみちゃん?」今、何を思った?今、何を考えた?みなみ「あ・・・あ・・・」「岩崎さん?」ゆたか「みなみちゃん?」動悸が激しい。自分のカラダが、岩になったように言うことを聞かない。みなみ「・・・あ・・・か・・・ふ・・・!」「岩崎さん、岩崎さん!」ゆたか「みなみちゃん!?みなみちゃん!」視界がぼやける中、二人の声だけが、やけにクリアに聴こえる。
みなみ「だ・・・だい・・・じょうぶ・・・」「大丈夫なもんか!ほら、そこのベンチで休もう。小早川さん、ジュースか何か買ってきて!」ゆたか「は、ハイ!」先輩に引きずられるように、ベンチに腰掛ける。「岩崎さん、大丈夫?呼吸はできてる?過呼吸とかじゃない?」みなみ「・・・・・・」答える余裕はないが、辛うじて首を縦に振る。「今、小早川さんが何か冷たいモノを持ってくるから。今はゆっくり深呼吸して。」そう言って、先輩は私の手を握りしめていてくれる。それだけで、少し楽になれている自分が、今は逆にツラい。
あの時考えたことは、決して考えてはいけないこと。考えたく、ないこと。考える自分が、イヤになること。醜い、自分。――――でも、先輩は・・・先輩は、私を選んでくれた。『ゆたかなんかじゃなくて』、私を。
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