無題(やまと)
目を開けるとそこに広がっていたのは枯れた星桜の木だった。それを見て自分が寝ていた事を思い出す。Fateの劇を終えた俺はたぶん無意識にここに来て寝たんだろう。あぁ、青空が眩しい。「…何やってるのよ」声がした方向に身体を起こす。誰なのかは分かっている。永森さんだ。「寝てた。なんとなく」「…とてもじゃないけど、さっきまであんな演技をしていた人とは思えないわね」「もしかして俺の演技全然ダメだった?」「いいえ、逆よ。とても良かったわ」「そう言ってくれると嬉しいな」「でもダメな部分もあったわよ」「貴方は劇の間、たぶん誰かを意識していて集中出来ていない所があったわ。特にキスシーンの辺りはね」「キスシーン…やっぱりダメだったな俺。結局キスできなかった」「ライトを落としても誤魔化しきれないのよ」「だね…みんなに散々迷惑かけちゃったな」「でも、私としては嬉しかった…」「え、何か言った?」「な、なんでもないわ」「ならいいんだけど」
「えっ…」俺は永森――いや、やまとを抱きしめていた。やまとの身体は暖かくて柔らかくて透き通った瞳はとても綺麗でなびく髪は風のようで吐息が擽ったくてただ可愛くてそんな彼女が俺が世界で一番好きな人だ。「な、なによっ!いきなりっ!」「こうするのは嫌?」「嫌じゃ…ないわよ」「これが俺の気持ち。分かってくれた?」「うん…嬉しい…でも」「でも?」「行動じゃなくて言葉ではっきり示して欲しいわ」「分かった」
抱きしめた身体を一旦離し正面から向かいあう。次に深呼吸を一つ。「俺は…」やまとをしっかりと見据えて宣言する。「俺は永森やまとさん、貴方が好きです」俺は今こういう風に面と向かって言うのは意外と恥ずかしい事を知った。顔が噴火しそうだ。「ど、どうかな?これでいいか――なっ!」次の瞬間は俺が驚く番だった。やまとが俺の胸に抱きついてきたからだ。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。「…最初からそう言ってくれたらいいじゃない」「ごめん」「でも…ありがとう」「なぁやまと、俺も返事は行動じゃなくて言葉で欲しいな」
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