げっとざ☆ふゅーちゃー
「…進路?」放課後。なんとはなしにダベってた俺たちのところに、小早川さんたちがやってきた。「はい。週末までに希望を提出しなさいって」手にした洋半紙には、希望進路を幾つか書くような欄が描かれている。アンケートみたいな感じだろう。あ、そういう季節か。「……でも、まだピンと来なくて…」「それデ、コナタたちにソーダンしよっテ!」なるほどね。げっとざ☆ふゅーちゃー「そんなわけで、まずは参考までに先輩方の進路を聞きたいっス」俺たちの進路か…えーと、確かみゆきさんは…「私は医学部で進学を…」「で、つかささんは料理学校だっけ」「うん。お料理もっと勉強したくて」うーむ、二人ともしっくりくるなぁ。…でもみゆきさん、医者って苦手だった気が。特に歯医者とか。「私は、一応法学部で進学よ」「…マジで?」「なによ、らしくないっての?」かがみさんににらまれた。「や、そーゆーわけじゃないけど」意外としっかりした進路でびっくりしたくらいで。「そーいえば、ゆーくんって進路決めてたっけ?」背後からこなたの声。正確には、俺の背中に寄りかかってぺたぺたとくっついてるんだけど。「ん、まぁね」本当はつい最近まで漠然としか決めてなかったんだけど。「文芸学部で進学希望」へー、と周囲から声。「もともとなにかしら書くのは嫌いじゃなかったんだけど、そうじろうさんと話するようになってから、結構興味持っちゃってさ。折角だから本格的に勉強してみようかなって」 「先輩、小説家目指すんスか?」「どうかな。まずは知ってみたいって好奇心みたいなもんだし、どうなるかはまだわからないよ」っと、仮にも彼女たちは俺たちに相談しに来たんだ。テキトーなことは言えないな。「なんてゆーか、さ」こほん、と咳払いひとつ。「まずはなにをやりたいか、それを決めるのも難しいと思うんだ」俺だって、いまのいままでかかったわけだしな。「就職するにしろ、進学するにしろ。進学するなら、どのジャンルってのもあるし」それこそ選択肢は鬼のようにある。「だから、今は…何に興味があるか、くらいでいいと思うよ」好きこそ物の…ってのもある。それを伸ばせるチャンスがあるんだ。乗っからない手はない。「大丈夫。キミらはまだ2年猶予があるんだから」でも、それにあぐらかいてちゃだめだけどね。そう言って締めくくる。「おぉ~」ぱちぱちと拍手。なんか恥ずかしいな。「いやー、さすがゆーくん。カッコいいことゆーねぇ♪」なでなで。「ちょ、頭なでるなって」「そういえば、お姉ちゃんは進路決めたの?」小早川さんが問いかける。ふむ、俺も聞いたことないな。「うーん、正直全然なんだよねぇ~」「おいおい」呆れ顔のかがみさん。「まぁ、あてがないわけでもないというか」「なぁに?」首をかしげるつかささん。こなたはにんまりと笑って、改めて俺に抱きつく。「ゆーくんとこに永久就職☆」…………世界が凍りついた。「ちょ、こ、こなた!?」焦る。嬉しいけど、めっちゃ焦る。「……ヤなの?」上目遣いに俺を見る。寂しげな目で。こら、そんな目で俺を見るな。「…………ヤじゃ、ないです」照れる。そりゃもうこの上なく照れる。「コナタ、“エーキューシューショク”ってなんですカ?」「んー、簡単に言っちゃうと。お嫁さんってことかな?」きゃっ、言っちゃった♪ なんて。…キャラ違くない、こなた?「ナルホドです! …じゃァ、ワタシの進路はこれでケッテーですヨ!」さらさらと進路希望のプリンタにペンを走らせる。なになに…第1希望の欄に書かれたのは…【ユーキのアイジン】「こーゆーコトですネ! ワカリマス!」……って待てぃ。「それは進路じゃねえ!」「そーだよ、ダメだよパティ!」助け舟を出してくれるこなた。「ゆーくんの愛人枠はもうかがみんの予約が入ってるんだからっ」……はい?「ちょっ、なにバカ言ってんのよこなたっ!!?」耳まで真っ赤になって、かがみさんが怒鳴る。「えー、違うの?」「ったりまえだ!」……やれやれ。「なんか、あれだな」「はい?」俺の呟きに、みゆきさんが首をかしげる。「どれだけ時間がたっても、万一みんなバラバラになっても…この空気…ってか、雰囲気?……変わらない気がしてきたよ」きゃいきゃいとかしましく騒ぐこなたたちを見てると、そう思う。「……ですね」くすくす笑いながら、みゆきさんが頷いた。「あ、でも変わるものもあるよ?」「え?」いつの間にか俺の傍らに戻ってきていたこなたが囁く。「……たとえば、私の名字とか♪」小悪魔ちっくに微笑んで、俺の腕にしがみつく。まったく、こなたってヤツは。「…それも、いいかもな」ただ、そうじろうさんは大泣きしそうだけど。「婿養子って手もあるよ?」「…選択肢には入れとくよ」…でも、ま。「その“未来”は楽しみだけど…」「?」「“今”、こーやっているときを大事にしたいかな」何度も同じ“時”を繰り返した身としては、今のこの何気ない時間が、なにものにも変えがたいものだって、知っているから。「……そだね」こなたが頷いて、そっと寄りそう。その肩を、抱き寄せる。放課後の喧騒が、遠くに聞こえた。
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