岩崎みなみの溜息5
先輩、仰天。「こ、告白って・・・え、岩崎さんが?ぇえ?」先輩、動揺。みなみ「・・・落ち着いて下さい。もちろん、明日、断ってきますから」「ぇ・・・あ・・・そ、そうね。ア、アハハ、ハハハ、・・・はぁ・・・びっくりしたぁ」先輩、安堵。なんか可愛いかも。・・・いや、今はそんな場合じゃない。みなみ「・・・先輩・・・・・ゆたかに、告白された時・・・・どう、感じました?」「・・・・・・えっ?」聞き返す先輩。繰り返す私。あの時は、聞かなかった。・・・今は、聞きたい。あの日の、先輩の思いを。みなみ「何を、考えました?教えてください・・・あの時、何を、思っていたのか―――」「・・・・・・・・・」みなみ「・・・・・・」―――質問の後から、先輩は、しばらく目を瞑っている。私は、一瞬『やっぱり・・・』と、すぐ謝る気持ちになったのだけれど。今は、黙って待っている。・・・ただ、待つ。先輩の言葉を。
「・・・岩崎さん」みなみ「・・・は、はいっ」先輩が目を開ける。その目は、やっぱり、いつも通り、とても優しくて。・・・最近の、ゆたかの目によく似ていた。・・・・・・違う、逆。ゆたかが、先輩に似てきたんだ。私が、ただ、先輩の優しさを享受しているだけの間に、・・・ゆたかは、大人になったんだ。先輩の背中を追って。・・・私も、いつかはこんな目ができるようになるのだろうか?・・・道は、果てしなく遠い気がした。―――そして、先輩が言葉を紡ぐ―――「・・・あの時」「・・・小早川さんに、呼び出された時」「最初は、一体なんだろうって思った。」「別れる前に色々あったし、なんだか二人とも様子が変だったから」「ひょっとしたら、喧嘩して相談にでも乗ってほしいのかな、なんて考えてた」
・・・そう、あの日、先輩には悪いことをしたと思う。とても心配をかけて、そのくせ勝手に『二人にしてほしい』なんて。・・・結局、後で謝った時にも、先輩は笑って許してくれたけど。先輩の言葉は続く。「・・・そしたら、いきなり」「『先輩が、好きです。』って」みなみ「・・・・・・」先輩は、微笑んだまま。でも、やっぱり、さっきよりは、困ったような笑み。「・・・すごく驚いたよ」「ずっと、妹みたいに思ってたから」妹。ゆたかも、最初は、先輩をお兄さんみたいに思ってたのかもしれない。・・・でも、ゆたかは、それ以上を望んだ。「・・・でも、なんとなく、なんとなくだけど、納得できた」「いや、その、自慢とか、自惚れとかじゃなくて」「・・・よく、わからないけど、なんていうか」「ひょっとしたら、そんな『可能性』もあったんじゃないか、っていう」
「・・・ごめん、これじゃやっぱり自惚れかな」そういって先輩はさらに困ったような顔をする。自分でもなんて言ったらいいかわからない、というような顔。・・・でも、なんとなく、なんとなくだけど、私にもわかるような気もした。・・・可能性。例えば、どこからか同じ人生をやり直せるとして、数回、数十回と繰り返したなら、その中には。・・・きっと、私以外の誰かが先輩の隣にいる時もある。いや、私がいる可能性こそ、本当は少数派なのかもしれない。数限りない、無限の可能性の中の、ほんの一筋の流れ。・・・そこに、今、私はいる。「うーん・・・」先輩はまだ、どう言えば良いか悩んでいるようだ。とりあえず、私は先を促すことにした。みなみ「・・・大丈夫です。なんとなくわかりましたから。続けてください」「・・・あ、うん。まあ、その、そんなわけで、告白自体は、なんとか飲み込むことができたんだ」「・・・そしたら、当然、今度は考えなくちゃならなくなった」「どう、すればいいか」
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