「こなたさん」
「あっ、まこと君っ」
「どうしたの?そんなに急いで。さっき、かがみさんが」
「アニメ始まっちゃうから、ごめん!」
小柄な身体が、信じられないような速さで過ぎ去った。あのコンパスで、どうやったらあれだけ走れるのか。
ふと、時刻が気になった。
こなたが来たということは、もう一時間以上、こうを待っていることになる。陽の明りはすでになく、夜の空気が漂いだしている。
心配になる。あの子は、寒いのが苦手と言っていた。なんとなく、辺りを見回す。
二人、人がいた。片方が、間断無く謝りつづけている。人気のなくなった大路に、こうの甲高い声が響いた。
「ごめんっ。この通りっ。お願いだから許して!」
「こう。私がなにに怒ってるのか、わかる?」
「寒い中、待たされたこと?」
「それは、平気だったわ。ねえ、白石堂のお座敷は、何時までだっけ?」
「…5時です」
「今は、何時?」
「ああ、もうっ、わかってるよう。今度の日曜、遊ぼ?やまとの行きたいところ、どこでも付き合うから」
「…その日は、予定が入るかもしれない」
「八坂さん」
「あれっ、先輩?」
「一緒に待っていてくれたわ。なんだか、人が好いのね」
「勝手にいただけ、ってね。八坂さん、なにかあったの?」
「いや、実はですね」
聞いてみれば、それなりに正当な理由だった。
謝るときに言えばいいようなものを、こうは自分の正しさなど少しも主張しない。
とにかく、心の底から謝るだけなのだ。それをやられると、なんとなく許してしまいたくなる。
そうやって何度となく懐柔されている自分が、本当のところやまとは苦々しいのだろう。
見ている分には、微笑ましい。やはり、いい組み合わせなのだ。
「まこと君」
「ん、なに?寒いから、歩きながら話そうか」
「さっきの話、考えてもいいわ」
「…ホントに?」
「ええ。都合のいい日がわかったら、連絡してくれる?私も、空けておくから」
渡された付箋には、あらかじめ連絡先が書いてあった。こうも、同じようにしていたはずだ。
親友の真似をしてみるような少女っぽさも、やまとにはある。また一つ、彼女を知ったような気分になった。
「なな、なになに?内緒の話?私のこと?」
「八坂さん、そんなに気にしないでいいよ。永森さんも、実はそんなに怒ってないんでしょ?」
「だめよ。甘やかすと、よくないわ」
「やまとぉ」
「そんな声出しても、だめ。まこと君、行きましょ」
やまとを挟むような格好で、歩き出した。やまとは、まことにばかり話しかけてくる。
わざとやっているんだろう。それも、こうが本当に落ち込んでしまう前にやめた。
ふたりの掛け合いを眺めていると、楽しい。自分の苛立ちが、ちっぽけに思える。
出逢ってから間もない。それでも、三すくみの会話は止むことがなかった。