みゆき☆大好き…です
星桜へと向かう俺の足が、ふと止まる。 視界の端に、待ち人の姿。「…これから、ですか?」 少し前に、俺を見つけていたらしい。 彼女の方が、先に声をかけてきた。「…うん」 待ち合わせの場所の、ちょっと手前で鉢合わせ。 …なんというか、微妙だな。「とりあえず、行こうか?」「…はい」 それは向こうも同意見だったようで。 なんとなく連れ立って、星桜の下へ。「……」「……」 いざ星桜の下まで来て、俺たちは二人して押し黙る。 言いたいことは、言わなくちゃいけないことはいっぱいあるのに。 何から言おうか、お互いに迷っていたのかもしれない。「「あのっ」」 案の定、同時に声かけて。「「……」」 同時に押し黙る。 …って、それじゃだめだろ。「…みゆきさんは」「はい?」 呟いた声に、彼女が顔を上げる。「どこまで、憶えてるの?」 言って、意味のない問いだと気付く。 “今まで”に関する記憶は、薄れていっている。 永森さん曰くの、時間の抵抗ってやつで。「…そうですね。もう殆どが曖昧で…“憶えて”いる、という表現は適切ではないのかもしれません」 みゆきさんが、寂しげにそう言った。「…でも」「?」「今、ここにある想いは、忘れてません」 胸元をいとおしそうに抱きしめ、微笑む。「…いいえ、例え忘れても」 しっかりと、俺を見て。「きっと私は、あなたを好きになるでしょうし」 そう、言い切る。 その姿は、まるで天使に似て… 不覚にも、涙ぐみそうになる。 ともすれば、忘れられてもおかしくない、自分のことを。 ここまで、想っていてくれている。 その事実に、胸が熱くなる。「…ゆうきさん」 気付くと、彼女の腕の中に、俺はいた。「あなたは、どうですか?」 問いかけられる。「今、あなたの中に、私はいますか?」 勿論、聞かれるまでもない。「…それは愚問だよ、みゆきさん」 彼女を、抱きしめ返す。「大好きだ」 全身で、彼女の存在を感じる。 ファースト・キスはレモンの味とか誰かが言っていた気がする。 俺は、みゆきさんの味がしたと思った。 …って言ったら、みゆきさんは顔真っ赤にしてたけど。 らき☆すた~陵桜学園 桜藤祭~ After Episode 想い出のつづき 高良みゆきの場合~もっと☆近づきたくて~「今度のお休みに、私の家にいらっしゃいませんか?」 昼休み。みゆきさんにそう尋ねられる。 …てゆーかみゆきさん、そういうことは二人っきりになったときに言ってもらえませんでしょうか。「おお~☆」 ほら、こなたさんが水を得た魚みたいな目しやがってるし。「なになに、お二人さんはもうそーゆー仲なの? いやぁ、意外と進んじゃってるんだねェ」「全力で誤解を招くような物言いしないでくれ」 こなたさんほどじゃないが、つかささんもかがみさんも興味津々といった表情だ。 …カンベンしてください。「…あ、そ、そのですね…母に何度かゆうきくんのことをお話していまして、それで、『ぜひお会いしたい』…ということでして」 みゆきさんが俺の意図を察してくれたようで、取り繕うように付け加える。「…って、それってさりげなく重要イベントだよね?」 こなたさんの呟きに、『そういえば…』と顔を見合わせる柊姉妹。「お義母さん! 娘さんを僕に下さい! …みたいなことやるのかなぁ?」 いやそれはないです。ないですからそんな期待に満ちた眼差しで見ないでくださいつかささん。「…え、ないんですか?」 みゆきさんがとたんにしゅんとなる。「え?! あ、いや、そ、その!」「…ふふ、冗談です」 …なんか、少し性格変わってないかみゆきさん? まぁ、新しい一面が見れて、それはそれでいいことなんだけどさ。 * そして、日曜日。「あ、こちらです!」 改札を過ぎた俺を、みゆきさんが出迎えてくれる。「すみません、母のわがままに付き合ってもらって…」「気にしないでよ。俺も、みゆきさんちは行ってみたかったからさ」 そう言って笑う俺に、みゆきさんは頬を桜色に染めて俯いた。「じゃ、道案内よろしくね」 はい、と頷くみゆきさん。 気付くと、二人の手は自然に繋がれていた。 *「いらっしゃぁ~い♪」 高良邸(という表現がぴったりくる豪邸だった)にやって来た俺を出迎えたのは、みゆきさんに良く似た女性。「…ええと、お姉さん?」「いえ…母です」 …………………………ナンデスト?「高良ゆかりです。はじめまして、ゆうきくん☆」 なんというか、特異点? …いや、違うか。 しかし、それにしても…若い。 本当に1児の…それも高校3年生の娘を持つ母親には見えない。「それにしても良く似てるわぁ~」「? 誰にです?」 俺の周りをくるくると回りながら観察するゆかりさん。「お父さんの若い頃♪」 …リ、リアクションとり辛いなぁ…「みゆきもなかなか隅に置けないわよね~」「ちょ、お、お母さん!?」 にこにこと笑うゆかりさんに、みゆきさんが火のついたように赤くなる。「ねぇみゆき~。アタックしていい?」「!?」 いや、人妻ですよねゆかりさん?「だっ、だめですだめです! ゆうきさんは私の―――!」 そこまで言いかけて、ゆかりさんの笑顔がにやにやに変わっているのに気付いたみゆきさんが絶句した。「…うぅ、恥ずかしいです…」 *「なんていうか、面白い人だね。みゆきさんのお母さんって」「…お恥ずかしいところをお見せしまして」 みゆきさんの自室に案内された俺は、誘われるままにベッドに腰掛ける。「ふあ…あ」 と、みゆきさんが小さくあくびする。「眠いの?」「い、いえ…」 恥ずかしげに俯く。「実は…今日ここにゆうきさんをお招きするに当たって、緊張しちゃいまして…」 昨夜、あまり寝付けなかったんです。 そう言って、盛大に照れまくるみゆきさん。「そ、そっか…」 改めて気付く。 付き合ってる女の子の部屋にお呼ばれされている現実。 今更ながら、照れる。「…」 お互いに押し黙ってしまう。 でも、居心地の悪い沈黙じゃない。「…みゆきさん」「はい?」 みゆきさんを手招きする。俺の隣に腰掛けた彼女の肩をそっと抱き寄せて、俺にもたれさせる。「あ、あの…?」「まだ、緊張する?」 自分の緊張を棚に上げて尋ねる。「…いいえ」 みゆきさんが、いつにも増して穏やかな口調でそう答えた。「少しだけ、ドキドキしますけど…とても、暖かくて…安心できます」 腕越しに、みゆきさんの鼓動が伝わる。 俺の身体に預けられた重みが、そのまま俺への信頼の証のようで、それがとても嬉しい。「…もっと、寄りかかってもいいよ」「…え?」 だから、 もっと頼って欲しいって思う。 俺、思いのほかわがままらしい。「みゆきさんはさ、なんでもできちゃうから…なんでも抱えちゃうこと多いと思うんだ」 それが、彼女の最大の魅力であることは、俺自身重々承知している。「でも、時々はさ。こーやって、寄りかかってよ。頼ってよ」 だからこそ、弱いところも見せて欲しい。 俺に、頼って欲しい。「まぁ、俺じゃちょっと、役不足かもしれないけどさ」「…ふふ、確かに役不足ですね」 って、フォローしてよ。「…いいえ。役不足の本来の意味は…その逆」 つまり…「あなた以外に、ありえない。…ということです」 みゆきさんが、俺の腕をきゅっと抱きしめる。「…大好きです、ゆうきさん」 そう言ったかと思うと。 ―――すぅ「…寝ちゃった、のか」 その柔らかな寝顔を見ているうち、俺にも睡魔が呼びかけてくる。「ふぁ…」 抗うことなく瞼を閉じる。 願わくば。 誰よりも大切な……彼女の夢の中に、行けますように。 …その後。 二人寄り添って眠っているところを、ゆかりさんに激写されて二人して照れまくったりしたのだが… それはまた、別のお話ということで。
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