無題(かがみ)2
「だから!ただ友達と遊んでただけだろ!」「私より男友達の方が大切なの!?」「比べられるわけないだろ!」放課後の廊下。俺とかがみは口論をしていた。理由は簡単。休日にかがみの誘いを断って、男友達と遊んでいたのが原因だ。説明し忘れたが、俺とかがみは付き合っている。こなたさん、つかささん、みゆきさん、日下部さん、峰岸さんが俺たちを落ち着かせようとしている。しかし、かがみの黙ってて!という怒号に、5人は黙り込んでしまっていた。「もういい、勝手にすれば」そう言って、かがみは行ってしまった。5人は慌ててかがみを追いかけた。
俺は教室に戻り、一人で考え込んでいた。考えてみれば、原因は俺にある。かがみの誘いを断ってまで、友達と遊ぶ事もなかった。・・・・・・俺から謝ろう。「あっ!見つけたぞ、このヤロー」教室の扉が勢いよく開いたと思ったら、そこには日下部さんがいた。「ど、どうしたの?」「お前を捜してたんだってヴァ」「俺を?俺にいったい何の様?」つぎの言葉を聞いて、俺は耳を疑った。「柊が・・・階段から・・・階段から落ちた!」俺の顔から血の気が引いていくのが、自分で分かる。「今保健室で寝てるけど、早くお前も行ってやれよ」俺は全速力で廊下を走り、保健室へ急いだ。
かがみは今、保健室のベッドで眠っている。こなたさんが状況を説明してくれた。階段を下る途中で、足を滑らしたそうだ。そしてみゆきさんが、かがみの容態を教えてくれた。「天原先生が言うには怪我はたいした事ないんですが、頭を強く打っていて軽い脳震盪を起こしてるらしいですけど・・・」俺は一人、想う。(これって・・・俺のせいだよな。いくら頭に血が登ってたとはいえ、あんな風に言わなくても。元々の原因は俺なわけだし・・・)そう考えていると、こなたさんが叫んだ。「あっ!かがみ!!」
かがみのその言葉に、その場の全員が凍りついた。かがみが見てるのは、俺。「かがみ、あたしの事分かる?」「こなたでしょ?」こんな具合にこなたさんは、俺を除く全員の名前をかがみに問う。・・・問題なし。「じゃあ・・・この人は?」こなたさんが、俺を指差す。そしてかがみの口から、一言。「こなたの・・・知り合い?」「おい、どういう事だよチビッ子!」「まさかとは思うけど・・・」そのあとの言葉は続かず、こなたさんに代わり峰岸さんが言う。「記憶・・・喪失?」ウソだろ?記憶喪失?俺の事だけ?「冗談じゃねえよ!かがみ!さっきの事なら・・・」そう言ってかがみの肩を掴む。「いや!!」そう言って、俺の腕を払うかがみ。
今まで恋人として接してくれたかがみが、俺を拒絶した。落ち着いてと言うこなたさんの言葉も、頭まで回ってなかった。ただ信じられず、これが夢だと思うしかなかった。みゆきさんの提案で、今日はもう帰ることにした。その際みゆきさんは一つだけ、約束をした。この事はこの場にいる人たちだけの秘密にすること。みんな承諾し、それぞれの帰路に着く。俺は一人だけ、教室に残っていた。まだこれが夢だと思い、現実を受け入れない俺。「夢なんだよな、これは。夢だろ?早く覚めろ。夢なんだから・・・くそ!」そういって俺は教室の壁を殴る。何度も。何度も。しかし俺の手に残っていたのは、滲んだ血と、確かな痛みだった。その痛みがまるで言っているようだった。これは現実なんだよ。・・・と
あれから1週間が過ぎた。かがみの記憶はまだ戻らない。みんな色んな方法で思い出させようとしてくれた。しかし、やっぱり思い出してくれない。いつからか、俺はかがみを避けるようになっていた。昼休みになると、一人で屋上に行くようにしていた。教室にいると、かがみが来るから。その場にいるのが、たまらなく嫌だった。心のなかに、あの思いを抱いたまま、時は流れる。そんなある日の授業中、俺のケータイにメールが届く。・・・こなたさんからだ。「今日の放課後、屋上に来るベシ!来ないと・・・」屋上?今日は予定もないしなぁ・・・。OKと返信する。放課後。屋上でこなたさんを待つ。・・・おかしいな、30分しても来ない。なんか嫌な予感がする。「自分から呼び出しといて、なんだよ」一人で文句を言っていても、いつまで経ってもこなたさんは来ない。「・・・・・帰るか」屋上から校舎に通じる階段を下りると、声が聞こえた。「ちょっと・・・」
聞きなれた、声。しばらく聞いてなかった、声。「・・・・・かがみ・・・」
中庭まで来て、俺は止まった。目の前には星桜の木がある。二人の思い出の場所。なんで謝れない。素直になれない!考えなくても、その理由が俺にはわかっていた・・・。俺は・・・怖いんだ。かがみが思い出して、俺を許してくれないんじゃないかって。「もう、見つけた」かがみの声が、前から聞こえた。「あんたねぇ、なんで・・・あっ!」その時だった。かがみが躓いた。転びそうになるかがみを、俺は支えた。その光景は、あの時と同じだった。こなたさんと仲直りした後の、廊下での光景と同じだった。「あ、ありがとう・・・」お礼を言われたがその言葉も耳に入らず、溢れる感情を感じていた。そして「・・・・・え?」かがみを抱きしめていた。戸惑うかがみを気にもせず、抱きしめる。「ちょっ、なによあんた」「・・・・・ごめん」
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。