岩崎みなみの憂鬱6
今、私はどんな顔をしているのだろう。一番大切な友達から、自分の恋人のことが好き、と言われて。怒り?憎しみ?・・・それとも、恐怖?色々混じり合って、よくわからない。こんな気持ちは、予想してはいなかった。だから、たぶんこんな顔。・・・戸惑いの、苦笑い。みなみ「・・・ごめん」ゆたか「・・・えっ・・・」腕の中のゆたかが、私を見上げる。その顔は、もうボロボロで。みなみ「・・・私は、何をしたかったんだろう」ゆたか「・・・・・・?」ゆたかを、見る。ゆたかも、私を見る。もう、眼はそらさない。仮面も、必要ない。
みなみ「ゆたかが、先輩を好きだって気付いた時、苦しくなった」みなみ「先輩がゆたかのことを好きになっちゃったらどうしようって」みなみ「不安になって、怖くなって」みなみ「どんどん、自分が嫌な人間になっていった」みなみ「先輩は、私を選んだんだって」みなみ「そんな、醜い優越感に浸って」みなみ「先輩の隣にいるゆたかが、許せなくて」自分の思いを、出来る限り口にする。ゆたかは、口を挟まない。じっと、ただ私を見つめて、聴いてくれている。みなみ「今度は、ゆたかに対しても嫌な気持ちになってきて」みなみ「いつも、世話をしてあげてる」みなみ「先輩だって、ゆたかのことは厄介な後輩だって思ってる」みなみ「ゆたかなんか選ぶ訳ない」みなみ「そんなの、許さない」みなみ「・・・そんな気持ちが、わいてきて。消せなくて」
みなみ「『違う。そんなこと考えてない。考えたくない』」みなみ「『ゆたかは、大切な友達。先輩がゆたかを選んだなら、しょうがないんだ』」みなみ「そんな風に、否定しようとしても」みなみ「どんなに、振り払おうとしても、できなくて」みなみ「このままじゃ、ゆたかのことを」みなみ「・・・嫌いになっちゃう、って」いつのまにか、私も泣いていた。自分のため?ゆたかのため?きっと両方。ゆたか「ごめん」みなみ「・・・えっ?」ゆたかが、口を開く。その眼は、涙で溢れて。でも、とても、キレイに思えた。
ゆたか「みなみちゃんが、こんなに苦しんでるなんて、思わなかった」ゆたか「・・・こんなつもりじゃ、なかったの」ゆたか「ただ、先輩の隣に入れたらいいや、って」ゆたか「みなみちゃんも、それくらい許してくれる、って」ゆたか「そんな、甘い気持ちで」ゆたか「なんて、自分勝手で」みなみ「・・・ゆたか」ゆたか「聞いて」圧されるような、強い視線。強い意志。そうだ、私の言葉は必要ない。次は私が聴く番。ゆたかの思いを、想いの全てを。ゆたか「・・・私も、同じ」ゆたか「悩んで、苦しくなって」ゆたか「みなみちゃんに、嫉妬して」ゆたか「こんな自分が嫌で」ゆたか「こんな風に考えちゃう自分が、気持ち悪くて」
ゆたか「だから、考えるのをやめたの」ゆたか「何も考えなければ、苦しくないから」ゆたか「ただ、先輩の隣で、みなみちゃんのそばで」ゆたか「楽しく笑って居れたら、それだけでいいや、って」そうだ。ゆたかは、笑っていた。ふたりで私を、からかって。先輩に、撫でられて。触れ合う私たちを、見つめて。それでも、ゆたかは笑っていた。ゆたか「でも、結局それって、甘えだった」ゆたか「みなみちゃんに、甘えて」ゆたか「先輩に、甘えて」ゆたか「何より、自分に甘えてた」ゆたか「そんな自分のことだって、正当化しようとしてた」ゆたか「みなみちゃんは、こんなに苦しんでたのに」
甘えてたのは、私だ。ゆたかが先輩を好きなのを知って、勝手に嫉妬して。見せつけていたのは、私。許せない?嫌な気持ち?嫌われるかもしれない?何様のつもりだ。とっくに、嫌われていてもおかしくないんじゃないか。
ゆたか「・・・ごめんなさい、みなみちゃん。許してくださいとは言いません」ゆたか「・・・もう、先輩の側にはいません」ゆたか「想うことも、やめます」ゆたか「願うことも、やめます」ゆたか「だから、もう、苦しまないで」ゆたか「みなみちゃんが苦しむのは、もう、嫌だから。」みなみ「・・・・・・ゆたかっ!!」
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