岩崎みなみの憂鬱4
――場所は変わって、泉邸。こなた「いらっしゃーいみなみちゃん。はいお茶。ゆーちゃんもね。」ゆたか「・・・ありがとう、お姉ちゃん」みなみ「・・・あの・・・泉先輩」こなた「ん?どしたの」みなみ「あの・・・ゆたかと話があるんです。二人だけにしてもらえますか?」こなた「・・・シリアスな話?」みなみ「はい。」こなた「・・・わかった。おとーさんにも近寄らないように言っとくよ。」みなみ「ありがとうございます。」こなた「いーよいーよ。ほいじゃ、ごゆっくり~」みなみ「・・・はい。」パタン。ゆたか「・・・・・・」みなみ「・・・・・・」泉先輩が出て行ったその瞬間に、再び時が凍る。家に来るまでも、お互い一言も喋ることはなかった。私が、あの言葉を発したその時から。ゆたかの眼は、私を見てはくれない。
みなみ「・・・ゆたか」ゆっくりと、語りかける。みなみ「もう一度、聞くよ。先輩のこと・・・好き?」ゆたか「・・・・・・」ゆたかは顔を上げない。じっと、何かを考えるように、目を伏せたまま。みなみ「ゆたか。私は、怒ってるわけじゃない。お願い、答えて」ゆたか「・・・なんで、そんなこと聞くの?」ゆたかが、顔を上げる。先程以来、初めて私と顔を合わせてくれた。それは、笑顔。・・・私が今まで一度も見たことのない、ゆたかの、つくりものの笑顔。
ゆたか「嫌いなわけないよ。お姉ちゃんの友達だし、尊敬できる先輩だし。なんでいきなり、そんなこと聞くの?」みなみ「・・・ゆたか」ゆたか「優しいし、面白いし、・・・っ、それに・・・みなみちゃんの、恋人、だよ・・・?そんな人を、キライになるわけ、ない、よ。」ゆたかは、笑顔を崩さない。いや、もう、笑顔ではない。石膏で固められた、仮面。偽りのペルソナ。それが、悲しくて、哀しくて。・・・気がつけば、私はゆたかを抱き締めていた。
ゆたか「・・・っ!・・・みなみ、ちゃん」みなみ「いいの、ゆたか。言っていいの。」きつく、きつく抱き締めながら、言葉を探す。ゆたか「・・・でも・・・でも・・・私、私はっ」みなみ「『キライじゃない』じゃなくて、本当の気持ちを、教えて・・・?」ゆたか「・・・っ!!!!」そう、ゆたかはまだ一度も私の質問には答えてくれてはいない。それはきっと、口に出してしまえば、止められないから。友達に気軽に言える『好き』なんかじゃ、もう、なくなってしまったから。みなみ「ゆたか・・・お願い、もういっかいだけ、聞くから、教えて?」ゆたか「・・・ひっ・・・グスッ・・・うぇ・・・」ポロポロと、涙を流すゆたか。
これが、最後になるはず。そう、最後。私が、いや、私も。・・・仮面を、かぶっていられる、最後。多分、ゆたかを、ゆるせないから。醜い自分が、出てくるから。ののしるかも、しれない。傷つけるかも、しれない。嫌われるかも、しれない。でも、知ってしまったから。何も知らない、『子供』では、いられなくなってしまったから。
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