対立する2人
「…………」「…………」俺は今、睨まれていた。しかも、仄かに殺意すら感じる。俺の彼女は今、台所で夕飯を作ってくれている。つまり、助け舟は期待できない。俺は明日、無事に家に帰れるのだろうか………。
それは、俺が彼女であるこなたを含めたいつもの5人で昼食を食べていた時だった。ピロリロ~、ピロリロ~「あれ?携帯なってるよ」「あ、わりぃ。俺んだ」ピッ「誰からだったの?」「親からだな。なんだってんだろ?」とりあえず来たメールをチェックする。数秒後、俺は思わず「はぁっ!?」と声を上げてしまっていた。そんな俺を見て、みゆきさんが訪ねてきた。「なにかあったんですか?」「うん。出張してる親父のとこに行って一泊してくるってさ」事情を説明すると、かがみさんは、「それくらいであんな大声出さないでよ」と、少し呆れ気味に言った。まぁ、確かにちょいと大袈裟だったかもしれない。「ゆう君大丈夫なの?」つかささんが心配そうに聞いてくる。だから俺は、明るめに答えた。「だいじょぶだいじょぶっ!ガキじゃないんだしさ。鍵も持ってきてるし問題なしだよ。」そう言って、俺は鍵を見せる為に制服のポケットに手を入れ鍵を取り出し………ってあれ?ないぞ?席を立ちズボンのポケット、コート、鞄と調べていく。やっぱりない……。ヤバい、ヤバいぞ……。「鍵……忘れた」「えぇ~~っ!?」
俺を除いた4人が同時に声を上げた。「ちょっとっ!ゆう君どうするのよっ?」かがみさんが慌てながら聞いてくる。「あー……うん。どうすればいいかな?「私に聞くなっ!」「だよねぇ。うーん……野宿?」「ダメだよ~っ!今冬だよ?風邪引いちゃうよ~っ」「あの…ネットカフェとかはどうでしょう?」「ごめん、持ち合わせが全くないんだ…」俺たちがあーだこーだと話し合っていると、隣にいたこなたが爆弾発言をしてきた。「ねぇねぇゆー君。だったら家に泊まる?」………………「えぇ~~~っ!?」今度はこなたを除いた4人が声を上げた。こなたの……彼女の家に泊まる……。思わずイケナイ妄想が浮かびそうだ。……って、イカンっ!イカンぞっ!俺は頭に現れた狼さんを抑えつつ断ろうとした。「い、いやけどさ、家族の人に悪いって」
「心配しなくても平気だよ~。ゆーちゃんは今日みなみちゃんの家にお泊まりだし、おとうさんも担当さんと飲み会するから今日は帰れないって言ってたから。心配しなくてもだいじょ~ぶだよ」余計にマズいわっ!俺は、パワーの上がった煩悩という名のウルフに必死に抗った!だけど……「それにさ、彼氏が家に泊まりに来るなんでギャルゲ的なシチュエーションも体験してみたいしね」なんて少し頬を赤らめながら笑顔で言われたもんだから、最早こう答えるしかなかった。「ヨロシクお願いします…」放課後、俺とこなたは帰りがけに夕飯の買い物に寄った。その時も、「こうやってると新婚さんみたいだよね」なんて破壊力抜群な一撃をぶっ放し、その後も「あなた~」と、呼んできたり移動中はずっと腕組み密着状態だったりと、こなたは俺の理性という名の城塞にダメージを与え続けていた 。そして、ボロボロ(精神的な話だが)ながらもなんとかこなたの家に到着した。まずは、こなたが家に入ろうとする。すると、入る直前に何かを思いついたような顔で、「呼んだら入ってきてい~よ」と、言ってきた。
片づけとかかな?そう思って待とうとすると、ものの数秒で家の中から、「い~よ~」と、声が聞こえてきた。随分早かったなぁと思いつつ中に入る。「おじゃましま~っ…………っ!?!?」俺は声を失った。なんと、目の前には三つ指ついて頭を下げているこなたがいたのだ。そして、わけが分からずあたふたしていた俺に笑顔でこう言った。「お帰りなさいませ、旦那様(はぁと)。なんちゃって~。ねぇねぇ、萌えた?萌え上がっちゃった~?」もうやめて~、俺の理性がもたね~っ!思わず抱きしめたい衝動に駆られる。が、そこは(自称)紳士の俺。最後の理性を振り絞り、「ハ、HAHAHAッ!ソナコトアルワケナイアルヨッ!」と、わけの分からん軽口をなんとか返した。
それから俺をリビングに通した後、こなたは夕飯の支度をし始めた。待ってるだけじゃ悪いので手伝うよと言ったが「ま~ま~、私に任せといてよ」と断られてしまった。しばらくすると、いい匂いがしてきた。俺は台所に視線を向ける。こなたは味見をしているようだ。あ~、なんつーかホントに新婚気分。すると視線に気づいたのかこなたが振り向いた。「ん?ゆー君どしたの?」「ん~、ホントに新婚の気分だなってさ」「そだね~。……ね、もっと気分味わってみない?一旦廊下に出てくれない?んで、私が呼んだら入ってきてよ」なにするんだろうと思いつつ言うとおりにする。数秒後、呼ばれたので部屋に入ると、後ろを向いていたこなたはこちらへ振り返り言った。「あ、あなた。お帰りなさい。もうすぐ出来上がるけどご飯にしますか?それともお風呂にしますか?」くぁ……っ!なんて威力なんだっ!せっかく鎮静化してたウルフが押し寄せてきちまったじゃねぇか。そんな俺の心の中の戦いなど露知らず。こなたは続けてこう言ってきた。「それとも……わ・た・し?なんちゃって♪」その一言は俺の理性を粉微塵にするには充分すぎる一撃だった。
うん、俺よく頑張った。もういいよな。いけるとこまで行っていいよな?俺はこなたを抱き寄せた。「ちょっ!ちょっとゆー君!ど~したのさっ!?」突然の事に戸惑い離れようとするこなた。けど、俺は更に強く抱きしめた。「ゆー…くん……///」こなたの動きが止まる。顔を見ると赤く染まりぽ~っとした表情をしてる。こ、これはあれだなっ。GOサインと考えていいんだよなっ!父さん母さん、あなたの息子は今大人になりますっ!2人の顔が近づいていく。そして……
ガラララ「うわっ!」「ひゃあっ!」玄関の開く音。そして声が聞こえてきた。「こなた~。おとうさん帰って……って、誰だ~っ!」ドタドタと聞こえてくる足音。そしてリビングの扉が勢いよく開けられた。「こなた無事かぁ~っ!!」そう言って、扉を開けた人がこなたに抱きつく。「ちょっと、おと~さん!?急に抱きつかないでよっ!」「玄関開けたら見慣れない男物の靴があったからさ~。強盗かと思ったんだぞ~っ!」「落ちついてよっ。強盗が靴脱いで上がるわけないでしょ~?その人のだよ」そう言ってこっちに指をさすこなた。こなたのお父さんがこっちを向く。とりあえず、まずは挨拶をする。「はじめまして。真堂ゆうです」「私の彼氏だよ。おと~さん」「彼氏」の一言を聞いたこなたのお父さんは凍りついた。そしてしばらくして、「か、彼氏だって~~~っ!?!?」という叫びが部屋中に響き渡った。
あれから数分たった。こなたは夕飯の仕上げのために台所にいる。俺は出来上がりを座って待っている。そして目の前には、「…………」俺を睨み付けているこなたのお父さん。………き、気まずい。気まずすぎるっ!けど、このままでは埒があかないので決死の思いで話しかけた。「あ、あの。お父さ……」「おとうさんって呼ぶな~っ!」「は、はいっ!」コンタクト失敗、さらに気まずい空気になってしまった。すると、今度は向こうから話しかけてきた。「ゆう君、って言ったよね」「は、はい」「呼ぶときは名前で呼んでくれてかまわないよ」「は、はい。分かりました…そうじろうさん……」その後、「出来たよ~」って声がかかるまでの数分間、沈黙は続いた。そして夕飯。こなた手作りの料理はホント美味しかった。けれどそんな中、そうじろうさんの俺に対する妨害は始まっていた。
例えば、「ゆー君、おかず取り分けよっか?」「うん、お願い」「………はい。ど~ぞ」「ん、ありが」ヒュッ「美味いぞこなた。最近また腕があがったんじゃないか?」「おと~さん、それゆー君にとったおかずだよ~」とってもらったおかずを強奪されたり。そして、「ゆー君、おかわりいる?」「うん、ほしいかも」「じゃ~よそってあげるね。……はい、ど~ぞ」「ありが」ヒュオッ「うん。今日の炊き具合も絶妙だな、こなた」「……おと~さん、それゆー君によそったご飯なんだけど?」と、よそってもらったご飯を強奪されたり。そんな感じで夕飯は終了した。ちなみに妨害は合計9回。最後は怒ったこなたの、「おと~さん、いい加減ウザイよっ」で、そうじろうさんのTKOだった。
その後、そうじろうさんは半泣き状態で自室へ。俺とこなたは、夕飯の片づけの後にこなたの部屋に行った。そして、部屋に着くと、急にこなたが申し訳なさそうに言ってきた。「さっきはゴメンね」「ん?なんのこと?」「おと~さんのことだよ。なんかゆー君にずっとつっかかってきてたからさ」「そのことか。気にしてないから大丈夫だよ。」「けど…」「大事に育ててきた一人娘が彼氏連れてきたとなっちゃ、父親としたら黙ってはいられないんだろうしさ」「そっか…ありがとね」こなたはホッとしたような表情をした。それから、しばらく遊んでると下の階から「こなた~、風呂沸いたぞ~」と、そうじろうさんの声が聞こえてきた。
「それじゃ~お風呂入ってくるね」「うぃよ」「一緒に入る~?」「すっげえ魅力的な意見だけどそうじろうさんに殺されそうだからやめとく」「あははっ。それじゃ、ちょっと待っててよ」そう言ってこなたは部屋を出た。それから数分後、軽いノックと共に、「ちょっと話さないか?」と、そうじろうさんの声が聞こえた。俺はそうじろうさんの部屋に招かれた。「適当に座ってよ」「あ、はい」向かい合うように座ってしばしの沈黙。しばらくすると、そうじろうさんから話を切り出してきた。「さっきはすまなかったね」「あ、いえ。大丈夫ですから、気にしないでください」「そう言ってくれるとありがたいよ。それで、本題に入るんだけど…」急にそうじろうさんの顔が真剣になる。「こなたのどこに惚れたのかな?」そうじろうさんの射抜くような視線。俺はその眼を真っ直ぐに見返して答え始めた。
「初めは…なんだこいつって思いました。」いきなりの攻略宣言から始まる数々の行動が頭の中をよぎっていく。「けれど、劇の事で一緒にいることが多くなって、こなた…さんのいろんな事を知っていって…。そばにいるだけで楽しくて。もっと一緒にいたい、もっといろんな事を知りたいって思うようになって…」 「どこに惚れたか、と聞かれたら上手く答えられません…。俺はこなたの全てが好きですから」「笑顔も泣き顔も怒った顔も、ちっさいとこも胸がないとこも、何もかもをひっくるめて」俺はそうじろうさんに気持ちの全てを伝えるように言った。「俺は泉こなたを誰よりも愛してます」しばしの沈黙。すると、今まで真剣な表情をしていたそうじろうさんがすっと笑顔になった。家に来てから初めて見たその笑顔は、とても優しいものだった。「ありがとうな。こなたをそんなに好きになってくれて…これからもこなたの事、よろしく頼むよ」「…はいっ、お義父さん!」「だからって…お義父さんって言うのは認めんぞ~っ!」
あれから数年後、俺とこなたはめでたく結婚した。やっぱりそうじろうさんは駄目の一点張りだったけど、俺が出した提案によってなんとか了承をもらうことが出来た。その提案とは…「それでは泉ゆう、先生から原稿貰ってきますっ」俺が婿養子になることだった。そうじろうさんが結婚を認めなかったのはこなたが離れていってしまうことと、こなたが[泉]こなたではなくなることの2点だけだったのだ。 だったら、俺が[泉]ゆうになってこなたの家に住めばいいだけの話だと告げるとすんなりと了承してくれた。そうじろうさんは、「こなたがそばにいてくれるなら、他にはなんの問題もないよ。それに、相手はゆう君だしね」と、[結婚]自体には反対してなかったみたいだ。そんな事を思い出してたら、もう原稿をもらいにいく先生の家の前に着いた。ちなみに今、俺は出版社で仕事をしていて、つい最近担当の先生をもらったばかりだ。俺は持っている鍵で玄関をあけた。
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