無題(かがみ)3
陵桜を卒業して、俺は彼女と結婚した。相手の名前は、柊かがみ。俺の愛した、ただ一人の女性。これから彼女と、幸せな生活が送れると思っていた。いつまでも笑いあって、いつしか子供も出来て・・・そんな生活を想像していた。あの日までは・・・「・・・どうだった、かがみ?」「ううん、またダメだった・・・」不思議と二人の間には、子供に恵まれなかった。医者が言うには、原因はかがみの体にあるらしい。「・・・ごめんね」「いや、かがみが悪いんじゃないんだからさ」昔から言われているが、俺は人が良すぎるらしい。優しい過ぎることもあるらしい。昔の話になるが、かがみが風邪を引いたとき、俺はかがみの体調が良くなるまで会社を休んだことがある。「そのくせ自分の体調が悪い時は、無理してるのよねぇ・・・」「まぁ、そこに惚れたんでしょ・・・かがみんや」「う・・・うん///」
ある日、今までにないくらいの体調の悪さに病院へ行った。診察すると医者と看護士がザワザワしだし、その後は大学病院で精密検査。診断結果は・・・急性心膜炎。すぐに手術が必要との事だ。家に帰ると俺は、かがみに長期の出張に出かけると伝えた。もちろん、出張なんかではない。次の日、俺はかがみにいってきます!と言って、家を出る。行き先は・・・病院。再び精密検査を受ける。数日が経ち、明日がいよいよ手術の日。「本当に・・・いいんですか?言いにくいですが、成功する確率は低いです」「はい」「奥さんに・・・告げなくてもよかったんですか?」「えぇ・・・」次の日。全身麻酔が効いてきたらしい。頭がボーっとする・・・。闇に落ちる瞬間、かがみの顔が脳裏を過ぎる・・・。
気が付くと、病室のベッドの上だった。外を見てみると、雨。しかもどしゃ降りだ。気が滅入る。「どうですか、体調は?」俺の執刀医の先生と内科の先生が、手術の報告をしてくる。結果は・・・失敗。「もって・・・・・半年です」「先生、電話・・・してもいいですか?」そう言って俺は、かがみに電話で病院に来るように言う。30分後、かがみが病院に着く。そして、病室に入ってくる。かがみはただ、呆然としていた。そして病室は、俺とかがみだけになった・・・。「俺のこと忘れていい男みつけろよ」この言葉を言った瞬間、左のほほに痛みが走る。瞳に涙を浮かべながら、俺にビンタをするかがみ。
「なんでいつもそうなのよ!あたしの事を第一にして、自分の事は二の次にして!あげく俺の事わすれろ?忘れられるわけ無いじゃない!あんなに楽しい思い出たくさん作っておいて・・・こっちも気持ちは無視?あんたは・・・あんたって奴は!」その瞬間、かがみの左手が振りかぶった。が、ビンタは来なかった。我慢できなくなったかがみが、泣きながら俺に抱きつく。「あんたみたいなお人好しで優しい人に、また出会えるわけないでしょ?・・・嫌だよ・・・あたしは・・・あんたじゃなきゃ嫌なの!あんた以上に、好きになる男なんて居ないんだから!」まるで子供のように泣くかがみを抱きしめながら、俺は一言しか言葉をかけれなかった・・・。「・・・・・・ごめん」「・・・・・ってわけよ」「そうですか・・・あのゆうきさんが・・・」「じゃあかがみん、あの事は?」「言える訳ないじゃない」「お姉ちゃん・・・どうするの?」「こんなときに、子供が出来たなんて・・・言えないわよ」
翌日、かがみは俺に子供が出来た!と伝えた。「まじかよ・・・やったーーーーー!元気な子だといいな!」嬉しさのあまり、俺はいつもより強く抱きしめた。不意にかがみが言う。「なんで・・・この子が生まれる頃には、あんた居ないかもしれないのよ?」「んな事、わかんねぇだろ?半年より永く生きてみせるさ。子供の顔、見ないで死ねるか!」俺は病院で自慢しまくった。さらに姓名判断の本で、名前も考えた。かがみがお見舞いにくる時は、なるべく早く帰すようにしている。もう一人の体じゃないと言って帰している。4ヵ月過ぎても、体には何の変化もなかった。いつもの夜。明日はどんな朝を迎えるかな?でも、それは突然きた・・・。・・・胸が・・・・・苦しい・・・熱い・・・意識が・・・か・・が・み・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気が付くと、病室のベッドの上。かすかに聞こえる、医者の声。「残念ですが・・・もう永くはありません」そうか俺、もうすぐ死ぬんだ・・・子供の顔、見たかったなぁ・・。「ゆうき!!」かがみの声。もう返事が出来ない俺は、返事の代わりに手を握る。よく見るとこなたさん、つかささん、みゆきさん、日下部さん、峰岸さんもいる。ただ、みんな泣いている。俺が・・・死ぬから?みんな・・・優しいなぁ。「か・・が・・み・・・」振り絞って出した声は、弱弱しくて、自分でもおかしかった。何と言って、俺の手を強く握る。「俺・・みたいな奴と・・・一緒になって・・くれて・・・ありがとな」意識が遠のく。かがみの手、暖かいな。ありがとう、かがみ。俺、幸せだった・・・。ピ――――――――――――「ご臨終です・・・」
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