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「~つかさの優しさ~」(2009/02/09 (月) 00:34:05) の最新版変更点
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<dl><dd><font size="1">「うぅ~…、緊張するよぉ…」<br /><br />
ここは柊つかさの自室。その主であるつかさは、布団に潜りながらモゾモゾしていた。<br /><br />
「○○くん明日の大学受験の面接大丈夫かな…。はぅぅ~、考えると緊張してきちゃうよ~」<br /><br />
なぜつかさが緊張するのか少しおかしい気もするが、つかさは強張った顔をして布団の中にいる。<br /><br />
「メール送ってあげた方がいいかな…。でもでも、桜藤祭の時みたいに、<br />
それで失敗しちゃったら可哀相だし…。うぅ~…」<br /><br />
つかさは自分が送ったメールで、○○がキスシーンを意識してしまった事<br />
(それが直接の原因という訳ではないが)を思い出した。<br /><br />
「……あれ? でも劇はちゃんとお姉ちゃんがやってたよね?」<br />
「?????」<br /><br />
つかさは桜藤祭時の記憶が混同してしまっていた。時間が繰り返した事によるものだろう。<br /><br />
「…うん、やっぱりメールしよう! …何もしてあげられないのは嫌だもん…」<br /><br />
そう決意すると、つかさは携帯を取り出し文字を入力していく。<br /><br />
(私の時も○○くんが応援してくれたし…、今度は私の番だよね)<br /><br />
つかさは既に料理師の専門学校への入学が決まっている。<br />
その面接の日、○○から「落ち着いていこう」といった内容のメールを貰い、不思議と気持ちが落ち着いたのだ。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「送信っと…。出来た~!」<br /><br />
小一時間かかってメールを作成し、ようやく送信した。<br />
携帯を机に置き、やり遂げた顔をしながら改めて布団に入る。<br /><br />
(これで○○くんの支えになれたら嬉しいなぁ…)<br /><br />
寝返りをうち、頭の奥がぼやけていくのを感じる。<br />
眠りに落ちていく感覚を自覚しながら、つかさは○○の顔を思い返した。<br /><br />
桜藤祭から、5人はほぼ毎日一緒にいた。<br />
そして桜藤祭のループの中で、つかさは○○に対してほのかな想いを抱いていた。<br />
それが桜藤祭以後、ほぼ毎日一緒に居た事で、○○がかけがえのない存在になっていたのだ。<br /><br />
(…だけど…)<br /><br />
○○への想いを自覚しながら、つかさはそれを封じてきた。<br /><br />
(…きっと…、こなちゃんも…ゆきちゃんも…お姉ちゃんも…、○○くんが好きなんだよね…)<br /><br />
○○以上に一緒の時間を過ごしてきた皆の事だ。いくらつかさでも、3人の想いには気付いていた。<br /><br />
(私なんかより、3人の方がずっと幸せになれるよ…)<br />
(こなちゃんはゲーム上手だし、料理も出来るし…)<br />
(ゆきちゃんはスタイル良いし、綺麗だし…)<br />
(お姉ちゃんは頭も良いし…、ツンデレだし…)<br /></font></dd>
<dd><font size="1">正直、つかさは「ツンデレ」という事が良く分かっていなかったが、<br />
何となく魅力の一つなんだろうと思っていた。<br />
それに比べ、自分には何もない。そう結論付けてしまっていた。<br /><br />
(…受験も…、恋愛も…、私は○○くんの応援が出来れば良い…。<br />
○○くんが幸せになってくれればそれで良いよ…)<br /><br />
寝返りをうつ。それと同時に、涙が一筋流れた。<br /><br />
(泣いちゃダメだよ…。明日○○くんを応援しに行くのに…)<br />
(泣いたら目が腫れちゃうよ…)<br />
(泣いちゃダメ…。泣いちゃ…)<br /><br />
そう思えば思うほど、涙は止まらなかった。<br /><br />
(……好きだよ……、やっぱり私…○○くんが大好きだよぅ……)<br /><br />
つかさは布団の中で小さく身体を丸め、涙を流しながら眠りについていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">一方、○○も眠りにつけずにいた。<br /><br />
(明日は面接だもんな…。相対するのが紙とペンの筆記試験より、何倍も緊張するよ…)<br /><br />
眠らないと、間違なく明日へ影響する。だが、そう思えば思うほど眼は覚めてしまう。<br /><br />
(…ヤバいぞ…)<br /><br />
何度か寝返りをうっていると、携帯が鳴り出した。<br /><br />
♪ハァ~! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽ…♪<br /><br />
「白石やかましいっ!」<br /><br />
携帯を乱暴に取り、着信を確認してメールを開く。<br /><br />
「…つかささん?」<br /><br />
送り主はつかささんだった。<br /><br /><br />
『落ち着いていこうよ』<br />
『明日は面接だね。きっと○○くんなら大丈夫だよ。だって私信じてるもん。<br />
面接の人も○○くんの良さが分かってくれるって。だから大丈夫。<br /><br />
明日は皆で応援に行くから。頑張って!<br /><br />
つかさ』<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(つかささん…)<br /><br />
終始根拠のない内容だったが、それでも○○は嬉しかった。<br /><br />
(そうだよな…。自分を信じてやるしかないよな)<br /><br />
携帯を閉じると、さっきまでごちゃごちゃしていた心が、嘘のように静まっていた。<br /><br />
(…ありがとう、つかささん…)<br /><br />
夜も遅いので、返信はせずに心の中でお礼を言った。<br /><br />
(…眠ろう…、全ては明日頑張るしかないんだからな)<br /><br />
布団に入り目を閉じる。応援してくれたつかさの優しい笑顔を想いながら、○○は眠りへと落ちていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">翌日、○○が受験する大学の面接会場前に5人の姿があった。<br /><br />
「○○くんよく眠れた?」<br />
「うん、昨日は早めにベッドに入ったから、寝起きもスッキリだよ」<br />
「えぇ!? じゃあ昨日の深夜アニメ観てないの?」<br />
「観る訳ないだろ…」<br />
「○○くんをアンタと一緒にするな!」<br />
「むぅ~、昨日はあんなに萌える展開だったのに…」<br />
「でも、面接前日に夜更かしはよろしくないですし…。深夜アニメなら録画しておけますから…」<br /><br />
みゆきさんが控え目に正論をぶつける。<br /><br />
「旬なアニメはリアルタイムで観ないとダメなんだよ」<br />
「アンタはそんなに○○くんを落としたいの?」<br />
「うぐっ…」<br /><br />
かがみさんに突っ込まれ、返す言葉もなくこなたさんが押し黙る。<br /><br />
「あはは、大丈夫だよ。アニメ自体は録画してるからさ。面接後の楽しみにしとくよ」<br /><br />
3人の掛け合いを眺めていると、一人静かな人がいる事に気付いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…つかささん…?)<br /><br />
一人俯いて何も喋っていない。どうしたのかと声を掛けようとしたが、いつの間にか面接の時間が押し迫っていた。<br /><br />
「あ、もうこんな時間! ほら、○○くん早く行って!」<br />
「遅刻はマズいよ! 早く行きたまへ~!」<br />
「落ち着いて下さいね!」<br /><br />
皆が思い思いに声を掛けてくれる。<br />
つかささんはまだ押し黙ったままだった。時間が時間なので、急いで会場へ入ろうとした時。<br /><br />
「…○○くん!」<br />
「つかささん?」<br />
「…私…、ゆきちゃんやお姉ちゃんみたいに頭良くないから…、何言えばいいか分かんないけど…」<br />
「―――頑張って!」<br /><br />
まっすぐに俺を見つめながら応援してくれる。<br /><br />
「…うん! ありがとう!」<br /><br />
皆の応援を背に、○○は会場へと入って行った。</font></dd>
</dl><dl><dd><font size="1">「行ったわね」<br />
「そうだね、後は彼次第だよ」<br />
「はい、そうですね。…では、私達は行きましょうか」<br />
「そうね。つかさ、行くわよ」<br /><br />
かがみが声を掛けるが、つかさは動こうとしない。<br /><br />
「つかさ? 行くわよ?」<br />
「…ううん、ここで待ってる」<br />
「つかささん、流石にこの季節長時間外に居ると、風邪をひいてしまいますよ? せめてどこか屋内に…」<br />
「大丈夫だよ。カイロを20個持ってきたから」<br />
「アンタ家中のカイロを持ってきたの?」<br /><br />
つかさは会場をじっと見つめて、梃子でも動く気配はない。<br /><br />
「…行こう、皆」<br />
「そうね…。まったく…、つかさは乙女なんだから…」<br />
「…少し…羨ましいですけどね…」<br /><br />
3人はつかさをそのままに、それぞれの帰路に着いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">○○は会場の控え室で座っていた。ついさっき自分の前の人が呼ばれ、次はいよいよ自分だ。<br /><br />
(大丈夫…、大丈夫…)<br /><br />
上着を脱ぎ身体をほぐす。軽くストレッチして再び上着を着ると、ポケットに何か入っているのが分かった。<br /><br />
(…?)<br /><br />
取り出して見てみると、ポケットに入れたままの携帯だった。<br /><br />
(やばっ。電源切らないと)<br /><br />
慌てて切ろうとするが、その前にメールを開く。<br /><br />
(つかささん…)<br /><br />
昨日の夜に来たつかささんからのメールを見る。<br /><br />
(他にも応援のメールは貰ったけど…)<br />
(何でつかささんのメールが一番嬉しかったんだろう…)<br /><br />
そこまで考えて頭を振る。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…分かりきった事だろ…)<br />
(俺は…、つかささんが好きなんだ)<br />
(つかささんの優しさが…、つかささんの笑顔が…)<br />
(いや、どこが好きかなんて事じゃない…)<br />
(つかささんだから好きなんだ…)<br />
(同じ笑顔でも…、同じくらい優しくても…)<br />
(…きっと俺は、他の誰でもない、つかささんを選ぶから…)<br /><br />
携帯を閉じ、電源を切って前を見る。<br /><br />
(ありがとう…、つかささん。俺を応援してくれて…)<br /><br />
控え室のドアが開き、○○の名前が呼ばれる。<br /><br />
「はいっ」<br /><br />
上着を片手に立ち上がる。<br /><br />
(よし、行くか!)<br /><br />
心で気合いを入れて、○○は控え室を出て行った。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…………)<br /><br />
会場の外にいるつかさは手の平を合わせてじっとしていた。<br /><br />
「つかささん?」<br /><br />
名前を呼ばれハッと顔を上げると、自分の前に○○が立っていた。<br /><br />
「○○くん! 面接はどうしたの? 何でここにいるの?」<br />
「いや、今終わったんだよ。つかささんこそどうしてここに?」<br /><br />
そう聞かれたつかさは、鼻の頭を赤くしながら笑う。<br /><br />
「え? …えへへ、ここで○○くんを応援してたの。『頑張って~』って」<br />
「ここで? …ずっと!?」<br />
「…うん、…だって私…、これくらいしか…してあげられないから…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは鼻と手先を赤くして震えていた。<br /><br />
「それより、面接はどうだったの?大丈夫だった?」<br />
「もちろんバッチリだったよ! それより、この寒空の中ずっとここに居たの? 風邪ひいちゃうじゃないか!」<br />
「大丈夫だよ~。カイロ20個持って来たし」<br /><br />
得意そうに言いながら、ポケットからカイロを取り出す。<br /><br />
「一個しか開けてないの? 他も開けないとダメじゃないか!?」<br />
「あれ? …そっか、応援するのに夢中だったんだ。…どうりで寒いんだね」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">えへへ…、と頬を掻きながら笑うつかさを見ていると、○○は胸が苦しくなってくる。<br /><br />
「ゴメンよ、つかささん…。ほら、手を貸して」<br />
「? …背中でも痒いの?」<br /><br />
○○は困ったような笑顔をして、つかさの両手を包む様にギュッと握る。<br /><br />
「え? えぇ?」<br />
「手が凄く冷たくなってるよ…、こんなになるまでゴメンね…」<br />
「う…ううん、大丈夫だよ。それに…、私が出来るのは、やっぱりこれくらいだから…」<br />
「そんな事ないよ。だって、つかささんからのメールのおかげで落ち着いて面接出来たんだからさ」<br />
「本当…? えへへ、私でも支えになれたんだ…。嬉しいな…」<br />
「……違うよ」<br />
「え?」<br />
「つかささん『でも』支えになれたんじゃない」<br />
「つかささん『だから』支えになれたんだよ」<br />
「つかささんからのメールが無かったら…、きっと面接は失敗してたと思うから」<br /><br />
○○がそう言うと、つかささんは不思議そうな顔をしている。<br /><br />
「そんなに良い文章だった? 私あんまり現国の成績良くないよ」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">つかさの言葉を聞いて○○は苦笑いする。<br /><br />
(やっぱりつかささんだな…。あの時と同じく、鈍いと言うか何というか…)<br /><br />
ハッキリ言わないと伝わらない事が分かると、○○は覚悟を決める。<br /><br />
「つかささん。聞いてくれるかな? 今から大切な事を言うから」<br /><br />
そう○○が言うと、つかさの顔に緊張が走る。<br /><br />
「何? どうしたの?」<br />
「俺さ、好きな人がいるんだ」<br /><br />
握っていた手から、緊張が伝わる。だが、つかささんの顔を見ると笑顔のまま俺を見ていた。<br /><br />
「受験も…、まぁ合格した訳じゃないけど一段落したし、想いを伝えようと思うんだ」<br />
「そ、そうなんだー。私応援するよ!」<br />
「ホントに? 告白して上手くいくかな?」<br />
「…も、もちろん…だよ。だって…」<br /><br />
(…だって私なら…)<br /><br />
だが、つかさはそう言えなかった。<br /><br />
(…きっと3人の内の誰かかなんだよね…)<br />
(じゃあ、やっぱり応援しなきゃ)<br />
(…だって、皆私の大切な友達だもん…)<br /><br />
「きっと上手くいくよ! だって○○くんこんなに素敵なんだもん…」<br /><br />
語尾が震えそうになりながら、つかさは笑顔で答える。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「そう…かな。じゃあ告白するよ。…つかささん、俺は…、貴女が好きです」<br />
「…え? …つかさんって? 周りに誰もいないよ?」<br /><br />
(…わざとか…? わざとなのか?? …くそっ…こうなれば…っ!)<br /><br /><br /><br />
グイッ<br /><br />
つかさは突然前に引かれ、つんのめりながら○○の胸に鼻をぶつける。<br /><br />
「い、痛いよ…。どうしたの? ……あれ? 私抱き締められてる…」<br /><br />
慌てた様につかさは○○の顔を見る。<br /><br />
「はわわわわ! 私抱き締められてるよ!? ゴメンね、すぐ離れるから」<br />
「イヤだ、離さないよ。ってか俺が抱き締めてるからね。つかささんが謝る事じゃないよ」<br />
「だ、だって、○○くんの好きな『つかさん』に悪いよ…」<br /><br />
○○は抱き締める手を緩めずに、つかさの耳元に口を寄せる。<br /><br />
「よく聞いてね? …俺は、柊つかささんが好きなんだよ」<br />
「他の誰でもない、今俺の腕の中にいる人が、大好きなんだ」<br /><br /><br /><br /><br />
耳元で囁かれる言葉を、つかさはパニックになりながら聞いていた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(あれ? あれ?? え~っと、○○くんはこなちゃん達に好かれてて、<br />
その○○くんは『つかさん』が好きで、今は『つかささん』が好きで…)<br />
(……私が好き…?)<br /><br />
考える内に落ち着いてきた思考が、結論に至る事で再び沸騰した。<br /><br />
「えぇ!? 私ぃ~!?」<br /><br />
つかささんは目を見開きながら、驚きの声を上げる。<br /><br />
「ダ、ダメだよ! 私なんか。…だって、きっと他に○○くんを好きな娘が…」<br />
「…もしかして…、みゆきさんとか…?」<br /><br />
見開いていた目がさらに見開く。<br /><br />
「知ってたの!?」<br />
「…うん、あとこなたさんとかがみさんも…ね」<br />
「何で知ってるの? ○○くん心が読めるの?」<br />
「そんな訳ないよ…。しばらく前に告白されたんだ」<br /><br />
○○の話を聞くと、みゆき→こなた→かがみの順で告白されたようだ。<br /><br />
「何で○○くんは…付き合わなかったの? 皆○○くんの事が大好きなんだよ!」<br />
「…うん、告白された時に感じたよ。こんなに好かれてるんだ…って」<br />
「でもね、俺にはもう好きな人がいたから。それなのに告白を受け入れるなんて出来ないよ」<br />
「それが私なの…? だけど、私なんか何もないんだよ?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「胸だって小さいし、運動神経だって鈍いし…、ツンデレでもないんだよ?」<br />
「最後のが何で必要なのか分からないけど…、そんなのは人を好きになる理由にならないよ」<br />
「今のつかささんより、胸が大きかったり小さかったりしても、俺は何も変らない」<br />
「柊つかさって『人』が、…俺は好きなんだ」<br />
「…つかささんは、俺って『人』は嫌いかな…?」<br /><br /><br /><br /><br />
つかさは自分の心が満たされていくのを感じ、気がつくとボロボロと大粒の涙をこぼしていた。<br /><br />
「…大好き…、大好きだよぉ…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは○○にしがみつくように、手を背中に回す。<br /><br />
「で、でもぉ…、わ…私でいいのぉ…? 私…、私ぃ…」<br /><br />
泣きながら○○の顔を見つめる。○○は優しく涙を拭きながら、つかさに声を掛ける。<br /><br />
「つかささんが良いんだよ。他の誰よりも、つかささんが大好きなんだ」<br />
「…うん…、うん…。私も大好き…! 誰よりも…大好きだよ…」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">凍えた身体を温めるように、優しく、優しく抱き締める。<br /><br />
「うっ…、うぅ…」<br />
「つかささん…、もう泣かないで…?」<br />
「うん…、分かってるんだけど…。止まらないよぉ…」<br /><br />
頭を撫でていた○○は、そっとつかさの頬に手を添える。<br /><br />
「じゃあ、涙が止まるおまじないしてあげるよ。…目を閉じて…?」<br />
「…う…、うん…」<br /><br />
止まらない涙を拭いながら、つかささんは目を閉じる。<br /><br /><br /><br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇に柔らかい何かを感じた。それが何か分からずに、つかさはゆっくり目を開ける。<br /><br />
「…? 今のは何? ちょっと気持ち良かったけど…」<br />
「おまじないだよ。恥ずかしいから見られたくないおまじないだけどね」<br />
「気になるよぉ~。ちゃんと見せて。…私には見せるの嫌なの…?」<br /><br />
(…そんな目で見られたら…、ダメなんて言えないよ…)<br /><br />
「じゃあ、見せてあげるね…?」<br />
「うん、何?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">目に力を入れて、しっかりと○○を見る。<br />
○○は深呼吸を一つすると、突然彼の顔がドアップになる。<br />
暫くして、自分がキスされていると初めて分かった。<br /><br />
「ぅん…、ん…」<br /><br />
少し長めにキスをし、お互いの顔が離れる。<br />
二人の吐息が、白く混ざり合いながら消えていく。<br /><br />
「…キス…しちゃった…の?」<br />
「涙の止まるおまじないだよ。…止まったよね?」<br />
「う…、うん…。だけど…、嬉しくてまた泣きそうだよぅ…」<br />
「じゃあ…、もう一回する?」<br />
「えぇ!? …うん…、して欲しいな…」<br /><br />
目を閉じて○○に顔を向ける。想いが通じてから3回目のキス。<br />
初めてお互いが意識して望んだキスをした。<br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇から○○の想いが全身に広がる。<br /><br />
(こんなに愛してくれるんだ…。…○○くんを好きになって良かった…)<br /><br />
「…ねぇ、○○くん…」<br />
「うん?」<br />
「お願いがあるんだけどね…」<br />
「何かな?」<br />
「…つかさって、呼んで欲しいの…。『つかささん』だと…、他人行儀で嫌だから…」<br />
「うん、良いよ…。つかさ、…愛してるよ」<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">その言葉を聞き、つかさは嬉しそうに○○の胸にギュッと顔を埋める。<br />
それに合わせて、○○はつかさを強く抱き締める。<br />
小柄なつかさが、○○の腕の中にスッポリ入った。<br /><br />
「…私…、こうやってギュッてされるの好き…」<br />
「これからも…、たくさんギュッてしてね」<br />
「うん、もちろんだよ。…ずっと、いつでも抱き締めてあげる」<br /><br />
○○は言葉でないと伝わらない事を、つかさは温もりで想いが伝わる事を知り、二人は改めて想いを伝える大切さを感じる。<br /><br />
「つかさ…、ずっと…一緒にいてくれよ?」<br /><br />
それに答えるように、つかさは精一杯想いを込めて抱き締める。<br /><br /><br /><br />
この温もりは途絶える事はないだろう。つかさは○○に、○○はつかさに想いを抱いている限り。<br />
そして二人は離れる事はないだろう。二人が共に紡ぐ想いがある限り。<br /><br />
「○○くん…」<br /><br />
温もりで○○に想いを告げながら、顔を上げてつかさは言葉を告げる。今を繋げる想いを、未来へと紡ぐ想いを。<br /><br /><br /><br /><br />
「大好きだよ!」<br /><br />
FIN</font></dd>
</dl>
<dl><dd><font size="1">「うぅ~…、緊張するよぉ…」<br /><br />
ここは柊つかさの自室。その主であるつかさは、布団に潜りながらモゾモゾしていた。<br /><br />
「○○くん明日の大学受験の面接大丈夫かな…。はぅぅ~、考えると緊張してきちゃうよ~」<br /><br />
なぜつかさが緊張するのか少しおかしい気もするが、つかさは強張った顔をして布団の中にいる。<br /><br />
「メール送ってあげた方がいいかな…。でもでも、桜藤祭の時みたいに、<br />
それで失敗しちゃったら可哀相だし…。うぅ~…」<br /><br />
つかさは自分が送ったメールで、○○がキスシーンを意識してしまった事<br />
(それが直接の原因という訳ではないが)を思い出した。<br /><br />
「……あれ? でも劇はちゃんとお姉ちゃんがやってたよね?」<br />
「?????」<br /><br />
つかさは桜藤祭時の記憶が混同してしまっていた。時間が繰り返した事によるものだろう。<br /><br />
「…うん、やっぱりメールしよう! …何もしてあげられないのは嫌だもん…」<br /><br />
そう決意すると、つかさは携帯を取り出し文字を入力していく。<br /><br />
(私の時も○○くんが応援してくれたし…、今度は私の番だよね)<br /><br />
つかさは既に料理師の専門学校への入学が決まっている。<br />
その面接の日、○○から「落ち着いていこう」といった内容のメールを貰い、不思議と気持ちが落ち着いたのだ。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「送信っと…。出来た~!」<br /><br />
小一時間かかってメールを作成し、ようやく送信した。<br />
携帯を机に置き、やり遂げた顔をしながら改めて布団に入る。<br /><br />
(これで○○くんの支えになれたら嬉しいなぁ…)<br /><br />
寝返りをうち、頭の奥がぼやけていくのを感じる。<br />
眠りに落ちていく感覚を自覚しながら、つかさは○○の顔を思い返した。<br /><br />
桜藤祭から、5人はほぼ毎日一緒にいた。<br />
そして桜藤祭のループの中で、つかさは○○に対してほのかな想いを抱いていた。<br />
それが桜藤祭以後、ほぼ毎日一緒に居た事で、○○がかけがえのない存在になっていたのだ。<br /><br />
(…だけど…)<br /><br />
○○への想いを自覚しながら、つかさはそれを封じてきた。<br /><br />
(…きっと…、こなちゃんも…ゆきちゃんも…お姉ちゃんも…、○○くんが好きなんだよね…)<br /><br />
○○以上に一緒の時間を過ごしてきた皆の事だ。いくらつかさでも、3人の想いには気付いていた。<br /><br />
(私なんかより、3人の方がずっと幸せになれるよ…)<br />
(こなちゃんはゲーム上手だし、料理も出来るし…)<br />
(ゆきちゃんはスタイル良いし、綺麗だし…)<br />
(お姉ちゃんは頭も良いし…、ツンデレだし…)<br /></font></dd>
<dd><font size="1">正直、つかさは「ツンデレ」という事が良く分かっていなかったが、<br />
何となく魅力の一つなんだろうと思っていた。<br />
それに比べ、自分には何もない。そう結論付けてしまっていた。<br /><br />
(…受験も…、恋愛も…、私は○○くんの応援が出来れば良い…。<br />
○○くんが幸せになってくれればそれで良いよ…)<br /><br />
寝返りをうつ。それと同時に、涙が一筋流れた。<br /><br />
(泣いちゃダメだよ…。明日○○くんを応援しに行くのに…)<br />
(泣いたら目が腫れちゃうよ…)<br />
(泣いちゃダメ…。泣いちゃ…)<br /><br />
そう思えば思うほど、涙は止まらなかった。<br /><br />
(……好きだよ……、やっぱり私…○○くんが大好きだよぅ……)<br /><br />
つかさは布団の中で小さく身体を丸め、涙を流しながら眠りについていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">一方、○○も眠りにつけずにいた。<br /><br />
(明日は面接だもんな…。相対するのが紙とペンの筆記試験より、何倍も緊張するよ…)<br /><br />
眠らないと、間違なく明日へ影響する。だが、そう思えば思うほど眼は覚めてしまう。<br /><br />
(…ヤバいぞ…)<br /><br />
何度か寝返りをうっていると、携帯が鳴り出した。<br /><br />
♪ハァ~! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽんすっぽんすっぽん! すっぽ…♪<br /><br />
「白石やかましいっ!」<br /><br />
携帯を乱暴に取り、着信を確認してメールを開く。<br /><br />
「…つかささん?」<br /><br />
送り主はつかささんだった。<br /><br /><br />
『落ち着いていこうよ』<br />
『明日は面接だね。きっと○○くんなら大丈夫だよ。だって私信じてるもん。<br />
面接の人も○○くんの良さが分かってくれるって。だから大丈夫。<br /><br />
明日は皆で応援に行くから。頑張って!<br /><br />
つかさ』<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(つかささん…)<br /><br />
終始根拠のない内容だったが、それでも○○は嬉しかった。<br /><br />
(そうだよな…。自分を信じてやるしかないよな)<br /><br />
携帯を閉じると、さっきまでごちゃごちゃしていた心が、嘘のように静まっていた。<br /><br />
(…ありがとう、つかささん…)<br /><br />
夜も遅いので、返信はせずに心の中でお礼を言った。<br /><br />
(…眠ろう…、全ては明日頑張るしかないんだからな)<br /><br />
布団に入り目を閉じる。応援してくれたつかさの優しい笑顔を想いながら、○○は眠りへと落ちていった。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">翌日、○○が受験する大学の面接会場前に5人の姿があった。<br /><br />
「○○くんよく眠れた?」<br />
「うん、昨日は早めにベッドに入ったから、寝起きもスッキリだよ」<br />
「えぇ!? じゃあ昨日の深夜アニメ観てないの?」<br />
「観る訳ないだろ…」<br />
「○○くんをアンタと一緒にするな!」<br />
「むぅ~、昨日はあんなに萌える展開だったのに…」<br />
「でも、面接前日に夜更かしはよろしくないですし…。深夜アニメなら録画しておけますから…」<br /><br />
みゆきさんが控え目に正論をぶつける。<br /><br />
「旬なアニメはリアルタイムで観ないとダメなんだよ」<br />
「アンタはそんなに○○くんを落としたいの?」<br />
「うぐっ…」<br /><br />
かがみさんに突っ込まれ、返す言葉もなくこなたさんが押し黙る。<br /><br />
「あはは、大丈夫だよ。アニメ自体は録画してるからさ。面接後の楽しみにしとくよ」<br /><br />
3人の掛け合いを眺めていると、一人静かな人がいる事に気付いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…つかささん…?)<br /><br />
一人俯いて何も喋っていない。どうしたのかと声を掛けようとしたが、いつの間にか面接の時間が押し迫っていた。<br /><br />
「あ、もうこんな時間! ほら、○○くん早く行って!」<br />
「遅刻はマズいよ! 早く行きたまへ~!」<br />
「落ち着いて下さいね!」<br /><br />
皆が思い思いに声を掛けてくれる。<br />
つかささんはまだ押し黙ったままだった。時間が時間なので、急いで会場へ入ろうとした時。<br /><br />
「…○○くん!」<br />
「つかささん?」<br />
「…私…、ゆきちゃんやお姉ちゃんみたいに頭良くないから…、何言えばいいか分かんないけど…」<br />
「―――頑張って!」<br /><br />
まっすぐに俺を見つめながら応援してくれる。<br /><br />
「…うん! ありがとう!」<br /><br />
皆の応援を背に、○○は会場へと入って行った。</font></dd>
<dd><font size="1">「行ったわね」<br />
「そうだね、後は彼次第だよ」<br />
「はい、そうですね。…では、私達は行きましょうか」<br />
「そうね。つかさ、行くわよ」<br /><br />
かがみが声を掛けるが、つかさは動こうとしない。<br /><br />
「つかさ? 行くわよ?」<br />
「…ううん、ここで待ってる」<br />
「つかささん、流石にこの季節長時間外に居ると、風邪をひいてしまいますよ? せめてどこか屋内に…」<br />
「大丈夫だよ。カイロを20個持ってきたから」<br />
「アンタ家中のカイロを持ってきたの?」<br /><br />
つかさは会場をじっと見つめて、梃子でも動く気配はない。<br /><br />
「…行こう、皆」<br />
「そうね…。まったく…、つかさは乙女なんだから…」<br />
「…少し…羨ましいですけどね…」<br /><br />
3人はつかさをそのままに、それぞれの帰路に着いた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">○○は会場の控え室で座っていた。ついさっき自分の前の人が呼ばれ、次はいよいよ自分だ。<br /><br />
(大丈夫…、大丈夫…)<br /><br />
上着を脱ぎ身体をほぐす。軽くストレッチして再び上着を着ると、ポケットに何か入っているのが分かった。<br /><br />
(…?)<br /><br />
取り出して見てみると、ポケットに入れたままの携帯だった。<br /><br />
(やばっ。電源切らないと)<br /><br />
慌てて切ろうとするが、その前にメールを開く。<br /><br />
(つかささん…)<br /><br />
昨日の夜に来たつかささんからのメールを見る。<br /><br />
(他にも応援のメールは貰ったけど…)<br />
(何でつかささんのメールが一番嬉しかったんだろう…)<br /><br />
そこまで考えて頭を振る。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…分かりきった事だろ…)<br />
(俺は…、つかささんが好きなんだ)<br />
(つかささんの優しさが…、つかささんの笑顔が…)<br />
(いや、どこが好きかなんて事じゃない…)<br />
(つかささんだから好きなんだ…)<br />
(同じ笑顔でも…、同じくらい優しくても…)<br />
(…きっと俺は、他の誰でもない、つかささんを選ぶから…)<br /><br />
携帯を閉じ、電源を切って前を見る。<br /><br />
(ありがとう…、つかささん。俺を応援してくれて…)<br /><br />
控え室のドアが開き、○○の名前が呼ばれる。<br /><br />
「はいっ」<br /><br />
上着を片手に立ち上がる。<br /><br />
(よし、行くか!)<br /><br />
心で気合いを入れて、○○は控え室を出て行った。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(…………)<br /><br />
会場の外にいるつかさは手の平を合わせてじっとしていた。<br /><br />
「つかささん?」<br /><br />
名前を呼ばれハッと顔を上げると、自分の前に○○が立っていた。<br /><br />
「○○くん! 面接はどうしたの? 何でここにいるの?」<br />
「いや、今終わったんだよ。つかささんこそどうしてここに?」<br /><br />
そう聞かれたつかさは、鼻の頭を赤くしながら笑う。<br /><br />
「え? …えへへ、ここで○○くんを応援してたの。『頑張って~』って」<br />
「ここで? …ずっと!?」<br />
「…うん、…だって私…、これくらいしか…してあげられないから…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは鼻と手先を赤くして震えていた。<br /><br />
「それより、面接はどうだったの?大丈夫だった?」<br />
「もちろんバッチリだったよ! それより、この寒空の中ずっとここに居たの? 風邪ひいちゃうじゃないか!」<br />
「大丈夫だよ~。カイロ20個持って来たし」<br /><br />
得意そうに言いながら、ポケットからカイロを取り出す。<br /><br />
「一個しか開けてないの? 他も開けないとダメじゃないか!?」<br />
「あれ? …そっか、応援するのに夢中だったんだ。…どうりで寒いんだね」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">えへへ…、と頬を掻きながら笑うつかさを見ていると、○○は胸が苦しくなってくる。<br /><br />
「ゴメンよ、つかささん…。ほら、手を貸して」<br />
「? …背中でも痒いの?」<br /><br />
○○は困ったような笑顔をして、つかさの両手を包む様にギュッと握る。<br /><br />
「え? えぇ?」<br />
「手が凄く冷たくなってるよ…、こんなになるまでゴメンね…」<br />
「う…ううん、大丈夫だよ。それに…、私が出来るのは、やっぱりこれくらいだから…」<br />
「そんな事ないよ。だって、つかささんからのメールのおかげで落ち着いて面接出来たんだからさ」<br />
「本当…? えへへ、私でも支えになれたんだ…。嬉しいな…」<br />
「……違うよ」<br />
「え?」<br />
「つかささん『でも』支えになれたんじゃない」<br />
「つかささん『だから』支えになれたんだよ」<br />
「つかささんからのメールが無かったら…、きっと面接は失敗してたと思うから」<br /><br />
○○がそう言うと、つかささんは不思議そうな顔をしている。<br /><br />
「そんなに良い文章だった? 私あんまり現国の成績良くないよ」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">つかさの言葉を聞いて○○は苦笑いする。<br /><br />
(やっぱりつかささんだな…。あの時と同じく、鈍いと言うか何というか…)<br /><br />
ハッキリ言わないと伝わらない事が分かると、○○は覚悟を決める。<br /><br />
「つかささん。聞いてくれるかな? 今から大切な事を言うから」<br /><br />
そう○○が言うと、つかさの顔に緊張が走る。<br /><br />
「何? どうしたの?」<br />
「俺さ、好きな人がいるんだ」<br /><br />
握っていた手から、緊張が伝わる。だが、つかささんの顔を見ると笑顔のまま俺を見ていた。<br /><br />
「受験も…、まぁ合格した訳じゃないけど一段落したし、想いを伝えようと思うんだ」<br />
「そ、そうなんだー。私応援するよ!」<br />
「ホントに? 告白して上手くいくかな?」<br />
「…も、もちろん…だよ。だって…」<br /><br />
(…だって私なら…)<br /><br />
だが、つかさはそう言えなかった。<br /><br />
(…きっと3人の内の誰かかなんだよね…)<br />
(じゃあ、やっぱり応援しなきゃ)<br />
(…だって、皆私の大切な友達だもん…)<br /><br />
「きっと上手くいくよ! だって○○くんこんなに素敵なんだもん…」<br /><br />
語尾が震えそうになりながら、つかさは笑顔で答える。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「そう…かな。じゃあ告白するよ。…つかささん、俺は…、貴女が好きです」<br />
「…え? …つかさんって? 周りに誰もいないよ?」<br /><br />
(…わざとか…? わざとなのか?? …くそっ…こうなれば…っ!)<br /><br /><br /><br />
グイッ<br /><br />
つかさは突然前に引かれ、つんのめりながら○○の胸に鼻をぶつける。<br /><br />
「い、痛いよ…。どうしたの? ……あれ? 私抱き締められてる…」<br /><br />
慌てた様につかさは○○の顔を見る。<br /><br />
「はわわわわ! 私抱き締められてるよ!? ゴメンね、すぐ離れるから」<br />
「イヤだ、離さないよ。ってか俺が抱き締めてるからね。つかささんが謝る事じゃないよ」<br />
「だ、だって、○○くんの好きな『つかさん』に悪いよ…」<br /><br />
○○は抱き締める手を緩めずに、つかさの耳元に口を寄せる。<br /><br />
「よく聞いてね? …俺は、柊つかささんが好きなんだよ」<br />
「他の誰でもない、今俺の腕の中にいる人が、大好きなんだ」<br /><br /><br /><br /><br />
耳元で囁かれる言葉を、つかさはパニックになりながら聞いていた。<br /></font></dd>
<dd><font size="1">(あれ? あれ?? え~っと、○○くんはこなちゃん達に好かれてて、<br />
その○○くんは『つかさん』が好きで、今は『つかささん』が好きで…)<br />
(……私が好き…?)<br /><br />
考える内に落ち着いてきた思考が、結論に至る事で再び沸騰した。<br /><br />
「えぇ!? 私ぃ~!?」<br /><br />
つかささんは目を見開きながら、驚きの声を上げる。<br /><br />
「ダ、ダメだよ! 私なんか。…だって、きっと他に○○くんを好きな娘が…」<br />
「…もしかして…、みゆきさんとか…?」<br /><br />
見開いていた目がさらに見開く。<br /><br />
「知ってたの!?」<br />
「…うん、あとこなたさんとかがみさんも…ね」<br />
「何で知ってるの? ○○くん心が読めるの?」<br />
「そんな訳ないよ…。しばらく前に告白されたんだ」<br /><br />
○○の話を聞くと、みゆき→こなた→かがみの順で告白されたようだ。<br /><br />
「何で○○くんは…付き合わなかったの? 皆○○くんの事が大好きなんだよ!」<br />
「…うん、告白された時に感じたよ。こんなに好かれてるんだ…って」<br />
「でもね、俺にはもう好きな人がいたから。それなのに告白を受け入れるなんて出来ないよ」<br />
「それが私なの…? だけど、私なんか何もないんだよ?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">「胸だって小さいし、運動神経だって鈍いし…、ツンデレでもないんだよ?」<br />
「最後のが何で必要なのか分からないけど…、そんなのは人を好きになる理由にならないよ」<br />
「今のつかささんより、胸が大きかったり小さかったりしても、俺は何も変らない」<br />
「柊つかさって『人』が、…俺は好きなんだ」<br />
「…つかささんは、俺って『人』は嫌いかな…?」<br /><br /><br /><br /><br />
つかさは自分の心が満たされていくのを感じ、気がつくとボロボロと大粒の涙をこぼしていた。<br /><br />
「…大好き…、大好きだよぉ…」<br /><br />
そう言いながら、つかさは○○にしがみつくように、手を背中に回す。<br /><br />
「で、でもぉ…、わ…私でいいのぉ…? 私…、私ぃ…」<br /><br />
泣きながら○○の顔を見つめる。○○は優しく涙を拭きながら、つかさに声を掛ける。<br /><br />
「つかささんが良いんだよ。他の誰よりも、つかささんが大好きなんだ」<br />
「…うん…、うん…。私も大好き…! 誰よりも…大好きだよ…」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">凍えた身体を温めるように、優しく、優しく抱き締める。<br /><br />
「うっ…、うぅ…」<br />
「つかささん…、もう泣かないで…?」<br />
「うん…、分かってるんだけど…。止まらないよぉ…」<br /><br />
頭を撫でていた○○は、そっとつかさの頬に手を添える。<br /><br />
「じゃあ、涙が止まるおまじないしてあげるよ。…目を閉じて…?」<br />
「…う…、うん…」<br /><br />
止まらない涙を拭いながら、つかささんは目を閉じる。<br /><br /><br /><br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇に柔らかい何かを感じた。それが何か分からずに、つかさはゆっくり目を開ける。<br /><br />
「…? 今のは何? ちょっと気持ち良かったけど…」<br />
「おまじないだよ。恥ずかしいから見られたくないおまじないだけどね」<br />
「気になるよぉ~。ちゃんと見せて。…私には見せるの嫌なの…?」<br /><br />
(…そんな目で見られたら…、ダメなんて言えないよ…)<br /><br />
「じゃあ、見せてあげるね…?」<br />
「うん、何?」<br /></font></dd>
<dd><font size="1">目に力を入れて、しっかりと○○を見る。<br />
○○は深呼吸を一つすると、突然彼の顔がドアップになる。<br />
暫くして、自分がキスされていると初めて分かった。<br /><br />
「ぅん…、ん…」<br /><br />
少し長めにキスをし、お互いの顔が離れる。<br />
二人の吐息が、白く混ざり合いながら消えていく。<br /><br />
「…キス…しちゃった…の?」<br />
「涙の止まるおまじないだよ。…止まったよね?」<br />
「う…、うん…。だけど…、嬉しくてまた泣きそうだよぅ…」<br />
「じゃあ…、もう一回する?」<br />
「えぇ!? …うん…、して欲しいな…」<br /><br />
目を閉じて○○に顔を向ける。想いが通じてから3回目のキス。<br />
初めてお互いが意識して望んだキスをした。<br /><br />
…チュッ…<br /><br />
唇から○○の想いが全身に広がる。<br /><br />
(こんなに愛してくれるんだ…。…○○くんを好きになって良かった…)<br /><br />
「…ねぇ、○○くん…」<br />
「うん?」<br />
「お願いがあるんだけどね…」<br />
「何かな?」<br />
「…つかさって、呼んで欲しいの…。『つかささん』だと…、他人行儀で嫌だから…」<br />
「うん、良いよ…。つかさ、…愛してるよ」<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">その言葉を聞き、つかさは嬉しそうに○○の胸にギュッと顔を埋める。<br />
それに合わせて、○○はつかさを強く抱き締める。<br />
小柄なつかさが、○○の腕の中にスッポリ入った。<br /><br />
「…私…、こうやってギュッてされるの好き…」<br />
「これからも…、たくさんギュッてしてね」<br />
「うん、もちろんだよ。…ずっと、いつでも抱き締めてあげる」<br /><br />
○○は言葉でないと伝わらない事を、つかさは温もりで想いが伝わる事を知り、二人は改めて想いを伝える大切さを感じる。<br /><br />
「つかさ…、ずっと…一緒にいてくれよ?」<br /><br />
それに答えるように、つかさは精一杯想いを込めて抱き締める。<br /><br /><br /><br />
この温もりは途絶える事はないだろう。つかさは○○に、○○はつかさに想いを抱いている限り。<br />
そして二人は離れる事はないだろう。二人が共に紡ぐ想いがある限り。<br /><br />
「○○くん…」<br /><br />
温もりで○○に想いを告げながら、顔を上げてつかさは言葉を告げる。今を繋げる想いを、未来へと紡ぐ想いを。<br /><br /><br /><br /><br />
「大好きだよ!」<br /><br />
FIN</font></dd>
<dd><br /><font size="1">おまけ<br /><br /></font></dd>
<dd><font size="1">「大好きだよ!」<br /><br /><br />
一つの影となっている○○とつかさを、遠くから見つめる影があった。<br /><br />
「ネタキターーーーー(゚∀゚)ーーーーーーー! キタコレ! キタコレ!」<br />
「ひより落ち着くネ!」<br /><br />
学校帰りのパティとひよりだった。<br /><br />
「まさかネタ探しに彷徨っていたら、生告白シーンを見られるなんて…!」<br />
「遠出したカイがアリマシタネ!」<br />
「さっそく帰ってプロットを書くよ!」<br /><br />
そう言いながら振り向くと、異様な空気がそこにあった。<br /><br />
「…ご機嫌ね…、お二人とも…」<br />
「ホントにね~。…良いネタでもあった? …ひよりん…?」<br />
「うふふ…」<br /><br />
そこには、髪が自然では有り得ない揺らめき方をして、仁王立ちしたこなたとかがみとみゆきが立っていた。<br /><br />
「人の妹の…、それも告白シーンをネタにしようとは…ね」<br />
「ひよりん…、これはシャレにならないよ~?」<br />
「うふふ…、うふふふふ…」<br /><br />
3人は口調こそ軽い(かがみはマジだが)が、目がカケラも笑っていなかった。<br /><br />
「お、お三方! 居られたッスか…?」<br />
「ひ…、ひよりんマズいネ…」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">闘気とも殺気とも思えるオーラを放ちながら、3人はひより達を取り囲む。<br /><br />
「今メモったの…、渡しなさい?」<br />
「…な、何の事ッスか…?」<br />
「…遺書を書く方が宜しいですか?」<br />
「ひぃっ…。こ、これッス!」<br /><br />
渡されたメモをこなたは粉々に裂く。<br /><br />
「勘違いしないでよ!? ○○くんが書かれるのが嫌なんじゃないからね? つかさを書かれるのがイヤなんだから!」<br /><br />
聞いてもいない事を、かがみが弁解する。<br /><br />
「ツンデレ全開だねかがみん。だけど、本当にそうだからね」<br />
「はい、私達フラれちゃいましたからね」<br />
「そ…、そうなんッスか?」<br />
「…まぁ…、ね。○○くんが他の女の子を好きってなら諦めないけど…」<br />
「つかささんを好き…、という事なら仕方ありません」<br />
「そうそう。だって、二人とも大切な友達だからね」<br />
「たまにはアンタもまともな思考をするのね」 <br /></font><font size="1"> </font></dd>
<dd><font size="1">「愛人の座は諦めてないけどね」<br />
「オイ!」<br />
「い~じゃんかがみん~。私達ならつかさも許してくれるって」<br />
「いずれ正妻の座を奪い取るって訳ですね…」<br />
「みゆき、鬼気を出さない! 絶対ダメだからね! つかさが悲しむでしょ!」<br />
「分かってるって。冗談だよかがみん」<br /><br />
チッチッチ…、と口の前で指を振る。<br />
「…チッ…」<br /><br />
メガネの方から舌打ちが聞こえたが、全員スルーした。触れる勇気がない。<br /><br />
「だから、アンタ達も絶対同人誌なんか書いちゃダメよ! …もしどこかで見掛けたら…」<br /><br /><br />
「「「覚悟はいいでしょうね!?」」」<br /><br /><br />
「…はい…」<br />
「ワカリマシタ…」<br /><br /><br />
「さあ、帰るわよ」<br />
「あの二人はあのままにしておきましょう。…お邪魔したら悪いですから」<br /><br />
帰る道中で、3人はひよりの目が妖しく光ったのを知らなかった。<br /><br />
数日後、ひよりとパティが記憶を頼りに『Tの純愛』という18禁同人誌を創り、<br />
それを知った3人が即売会に乗り込んで全ての本を燃やしたのは、また別のお話。<br /><br />
FIN</font></dd>
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