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「八坂こうの場合 後編」(2008/10/28 (火) 22:57:06) の最新版変更点
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<p align="left"><font size="1">「こうのこと好きなんでしょ?」<br />
その日、カラオケから帰ってきた俺は、ずっとその言葉の答えを探していた。<br />
喉の痛みに耐えながら、八坂さんのことを考えていた。<br />
俺は、八坂さんのことをどう思っているのだろう?<br />
元気でノリの良い後輩? それとも――。<br />
その考えを遮るようにして、目覚まし時計が喧しく騒ぐ。<br />
「あ、あれ? もしかして、もう朝?」<br />
ベッドに横になっていたものの、まだ寝れてないんだけど……。<br />
結局、一睡もできずに月曜の朝を迎えてしまったようだ。<br />
なんだか、桜藤祭のときにもこんなことがあったような……。よくは思い出せないけど。<br />
けれど、答えは見つけた。<br />
そもそも、寝ることすら忘れて、その人のことを考えていられるのだから、答えは出ているようなものだ。<br />
そして、寝不足で体が重いけれど、今日は平日。睡眠を欲しがる体に鞭を打ち、俺はベッドから出るのだった。<br /><br />
「あっ、伊藤先輩。おはようございます」<br />
「ああ、田村さん。おはよう~」<br />
「何か……すごく眠そうっスね」<br />
「うん、色々あって一睡もできなかったんだ」<br />
「こうちゃん先輩とのデート、眠れなくなるほど楽しかったんスか?」<br />
「それとはまた違う理由なんだけど、って何で知ってるの?」<br />
「ちょっと買い物に出かけたら、デート中の先輩たちを見かけたんス。こうちゃん先輩と永森先輩に挟まれてニヤニヤしてたっスね」<br />
「そりゃかわいい女の子二人に挟まれたら、さすがに……ね。というか、田村さんは永森さんと面識があるんだ?」<br />
「前に、同人誌即売会で、こうちゃん先輩が売り子の助っ人として連れてきてくれたんス」<br />
「なるほど、それで面識があるのか」<br />
「そうっス。岩崎さんとはまた違う感じでクールっスよね、永森先輩」<br />
「八坂さんと話してるときは、クールとは違う気もするけどね」<br />
「あの二人の掛け合いは見てて楽しいっスよね! いいネタもらったっスよ!」<br />
「ネ、ネタ……。なんというか、さすが田村さんって感じだね」<br />
「こ、このことは他言無用っス」<br />
「大丈夫、言わないよ」<br />
「それを聞いて安心したっス……」<br /><br />
「それで、いつこうちゃん先輩に告白するっスか?」<br />
「へっ?!」<br />
突然の質問に目を丸くする。というか、もしかして俺バレバレ……?<br />
「な、何でそう思うの?」<br />
とりあえず、平静を装い聞いてみる。<br />
「何でって……、部員でもないのに、受験期にアニ研に通ってるんスよ。かな~り怪しくないっスか?」<br />
「なんか、そういう風に聞くと確かに怪しいね、俺って」<br />
「そうっスよ。それで、ちゃんと告白はするんスよね?」<br />
「もちろんそのつもりだけど、中々タイミングとかが……ね」<br />
そもそも、自分の気持ちを整理したのが今日だ。<br />
「そうなんスか。それじゃあ、そんな伊藤先輩に耳寄り情報っス! こうちゃん先輩は、最近恋愛ものばっかり書いてるっスよ!」<br />
「ええと、つまりどういうこと?」<br />
元々、創作って恋愛が絡むものが多い気もする。というか、八坂さんたちはそれがメインじゃ……。<br />
「つまり何が言いたいかっていうと、その小説の中身が純愛ものなんス! これはもう脈アリ間違いないっスよ!!」<br />
「うーん、あまり根拠がない気もするけど」<br />
「何言ってるっスか! 幅広く書いてるこうちゃん先輩が、純愛ばっかりっスよ!」<br />
「そうなんだ……、それは少し心強い情報……かな」<br />
「そう思ってもらえたなら、嬉しいっス。告白、がんばってくださいね!」<br />
「うん。ありがとう、田村さん」<br />
なんだか楽しそうだったな、田村さん。やっぱり、他人の恋愛話はおもしろいものなのだろうか?<br />
けれど、心強い耳寄り情報をもらい、背中を押してもらったような気がする。<br />
後はタイミングだけだ。<br /><br />
あっという間に授業が終わり、現在放課後。いつも通りアニ研にお邪魔させてもらっている。<br />
「まこと先輩、聞いたよ~。授業ほとんど寝てたらしいじゃないですか~」<br />
「いや、睡魔に耐え切れずつい……」<br />
「受験生がそんなんじゃダメですよ!」<br />
「八坂さん、心配してくれるの?」<br />
「そ、そりゃもちろんですよ! アニ研に行ってたら落ちた、な~んて言わせませんよ!」<br />
「アニ研に来てることを言い訳にはしないよ。それに、好きで来てるわけだしね」<br />
「前から思ってたけど、部員でもないのにアニ研来るなんて、物好きですよね」<br />
「それは前にも言っただろ? 八坂さんに会いに来てるって」<br />
ここぞとばかりに攻めてみる。<br />
「は、恥ずかしいセリフ禁止ー!!」<br />
両腕で大きくバツの字を作る八坂さんの姿に、思わず笑ってしまう。良いリアクションするなあ。<br />
「あっ、なにニヤニヤしてるんですかっ! さすがに怒りますよ!」<br />
「いや、なんかおかしくてつい……、てちょっと八坂さん、何構えてるんだよ!」<br />
八坂さんの顔が赤い。<br />
なんだかんだ言って、もう怒ってるんじゃないか。<br />
「問答無用! ロケットシューズ!!」<br />
「うわっ! あ、謝るからちょっと……ストップストップ!」<br /><br /><br />
「バカやってたら、すっかり遅くなっちゃいましたね」<br />
「いやあ、まさか八坂さんが怒るとは……」<br />
「はあ……、あんな風にからかうからですよ。てか、まこと先輩って実はS?」<br />
「う~ん、そうかもしれない。八坂さんが良いリアクションしてくれるからってのも、あるかもしれないけどね」<br />
「もうそれはいいですよ」<br />
辺りはもうすっかり暗くなっている。結構な時間の間、追いかけっこをしていたようだ。<br />
遅い時間までバカをやっていたので、今は八坂さんと二人っきり。<br />
絶好のチャンスと思われる状況だ。<br /><br />
廊下を二人で歩いていると、星桜の樹がちょうど目に入った。<br />
「なんだか、星桜もすっかり寂しくなっちゃったね」<br />
「そもそも、桜藤祭の時期に満開になってたのが、おかしいんですけどね~」<br />
何か理由があって満開になったハズなのだけれど、今はもう思い出せない。<br />
でも、星桜を見ると懐かしいと言うか、言葉にできない何かを感じる。<br />
「俺としては、転校してきて早々に、良いものが見れたけどね」<br />
「確かにそーですねぇ。中々にレアな体験ですよ、きっと!」<br />
う~ん、せっかく星桜の近くにいるのだから、星桜の下で告白するのはどうだろう?<br />
星桜自体は今は寂しい状況だけれど、星桜の下ならばきっと大丈夫な気がする。<br />
ここなら無敗のような、根拠と言えそうなこともあったと思う。……でも、なぜか思い出したらいけないという、強迫観念に駆られる。<br />
思い出したら、罪悪感と共に混沌とした状況になってしまいそうな予感が――。<br />
「まこと先輩、どーかしたんですか?」<br />
「え? あ、いや、なんでもないよ。っとそうだ、八坂さん、ちょっと星桜を見にいかない?」<br />
「構いませんけど、急にどーしたんですか?」<br />
「えーと、星桜に合格祈願でもしとこうかなってね」<br />
「なるほど、それじゃ私もまこと先輩の合格を祈ってあげますね!」<br />
「ありがとう、八坂さん」<br /><br />
「志望校に受かりますようにっと……」<br />
よし、合格祈願もしたし、後はタイミングだけだ。<br />
「八坂さん……」 「まこと先輩……」<br />
まったく同時に切り出してしまった! ……ここは、少し落ち着くために、まず八坂さんの話を聞くことにしよう。<br />
「えと、俺の話は八坂さんの後でいいよ」<br />
「そ、そーですか。それじゃお先に……」<br />
すると、なぜか大きく深呼吸を始める八坂さん。<br />
「八坂さん、どうしたの?」<br />
「えーとですね、なんかガラにもなく緊張しちゃってるんで、少し落ち着こうと思って」<br />
「そうなんだ……」<br />
八坂さんが緊張するなんて、余程大事な話なんだろうか。<br />
そう考えると、こちらもしっかり聞かないといけないな、なんて考えてしまう。<br />
「ふうぅ、よし、それじゃ本題に入りますね」<br />
「うん」<br />
「私……、まこと先輩のことが好きなんですよ」<br />
「うん。……え?」<br />
「転校してきたばっかなのに、みんなのために一生懸命になれたりとか、……やまとのときだって、ほとんど面識がないのに親身になって手伝ってくれたし、そんな姿を見て、……なんかいいなって」<br />
「…………」<br />
あ……、ありのまま今起こったことを話すぜ! 『告白をしようと思っていたら、いつのまにか告白されていた』<br />
な……、何を言っているのかわからねーと思うが(略)<br />
「まこと先輩は、私のこと……好きですか?」<br />
「……俺も八坂さんのこと好きだよ。ていうか、俺もここで告白しようと思ってたんだけどね」<br />
「あれ、そーだったんですか? 思わぬ形で、さっきの仕返しができちゃいましたね」<br />
「まあ、別に気にしてないけど」<br />
「良かった!」<br />
言うと同時に、八坂さんは俺の腕に抱きついてきた。<br />
「ちょっ、八坂さん!?」<br />
「何驚いてるんですか~。私のこと、好きって言ってくれましたよね?」<br />
「も、もちろん」<br />
イタズラっぽく笑う八坂さん。何か、凄く照れくさい状況だなあ……。<br /><br />
翌朝、珍しく早起きに成功する。普段の余裕の無い朝が、嘘のような余裕ある朝になるだろう。<br />
良いことは続かないとよく言うけれど、案外そんなことはないのかもしれない。そんなことを考えながら、俺は居間へと向かう。<br />
「母さん、おはよ……」<br />
しかし、その考えは居間の光景を見たとき、全て吹き飛ぶのだった。<br />
「あっ、おはよーございます、まこと先輩!」<br />
「おはよう、今日は早いのね。でも、女の子を待たせるのは関心しないわ」<br />
いや母さん、関心するしないより、こんな時間に女の子が家にやってくるという状況を、誰が想定できるのかと問い詰めたい。<br />
「や、八坂さん……なんでここに?」<br />
「えっ、そんなの、一緒に登校しようと思ったからに決まってるじゃないですか~」<br />
「そっか……。ていうか、それしかないか」<br />
「ほらほら、雑談はまた後にして、早く準備を済ませなさい」<br />
「わ、わかってるよ」<br /><br />
「はぁ~」<br />
賑やかな朝だった。というか、朝食を食べている間、母さんと八坂さんの俺トークを聞かされるって……どんな罰ゲームだよ。<br />
黒歴史は思い出すわ、色々恥ずかしいわで異常なほど疲れた。<br />
「そんなに疲れましたか?」<br />
「そりゃあね、拷問かと思ったよ……」<br />
「確かに黒歴史を掘り返されたらそうですよねぇ、私にとっては凄く楽しい時間だったけど」<br />
「そうだろうね……」<br />
「あっと、そうだ。先に言っておきますけど、今日は先約があるんで一緒には帰れないんですよ、すいません」<br />
「先約があるんじゃ仕方ないよ。ていうか、もしかしてそれで朝来たの?」<br />
「まあ、そういう訳です。迷惑だったかもしれないですけど」<br />
「迷惑ではなかったよ、楽しかったし。……疲れはしたけどね」<br />
「いやー、まこと先輩のそーいうところ、好きですよっ!」<br />
言うと同時に、俺の腕に抱きつく八坂さん。<br />
「おー、朝から路上でハレンチだねぇ」<br />
「まこと君て、八坂さんと付き合ってたんだね~」<br />
「だから、最近はよくアニ研に行ってたのね」<br />
「それにしても、見ている方も楽しくなるほど、楽しそうですね」<br />
もう声だけでわかる。というか、振り向くのが凄く怖いのはなぜだろう?<br />
今朝方考えたことは間違いだった。やはり、良いことばかりは続かない。<br /><br />
――その後、怒涛のいじりを受けたのは言うまでも無い。その様子はあまりに悲惨だったので、割愛させてもらう。<br /><br />
放課後、勉強を早めに切り上げ、一人帰路についていると、校門で永森さんに出会った。<br />
「あれ? 永森さん、久しぶり」<br />
「久しぶりね、今日はこうは一緒じゃないの?」<br />
「うん、八坂さんはまだ部活中だよ。ていうか、もしかして八坂さんが言ってた先約って、永森さんのこと?」<br />
「そうよ。だから、今日はこうを借りるわね」<br />
「借りるって……」<br />
「表現は間違ってないでしょ?」<br />
「まあね。……ってもしかして、もう知ってる?」<br />
「言われなくても、こうを見ていればなんとなくわかるわ」<br />
「さすが親友だね」<br />
「あんなに嬉しそうなこうを見れば、長い付き合いじゃなくてもわかると思うけど」<br />
「そうだったんだ……、なんか少し照れるな」<br />
あの後の八坂さんは、誰が見てもわかるほど嬉しそうだったようだ。<br />
表情が豊かなのは、八坂さんの良いところだと思う。見ていて飽きないというか、一緒にいて凄く楽しい。<br />
「わかってはいると思うけど、こうを悲しませないように。もし、悲しませたら……わかるわね?」<br />
永森さんは、冷ややかな目をこちらに向ける。綺麗なだけに、もの凄い威圧感だ……。<br />
「好きな人を悲しませるようなことなんて、俺はしないよ」<br />
「即答で臭いこと言えるなら、安心ね」<br />
「そ、そんなに臭かったかな」<br />
「かなり……」<br />
「そっか……」<br />
真面目に答えたから、臭いと言われるのは少しショックだ。安心だってフォローはあったけど……。<br />
「まあ問題ないとは思うけど、応援くらいはしてあげるわ」<br />
「うん、ありがとう、永森さん」<br />
永森さんに別れを告げ、再び帰路につく。<br />
八坂さんとの時間を作るために、勉強をしておかないと。<br /><br />
――時間は飛んで、卒業式。<br />
みんなとの別れの日……。と言っても同窓会があるし、たまに集まって会おうということにもなっている。<br />
だからか、なんかあっさり終わったような気がする。<br />
ただ、みゆきさんの言葉にはグッときた。短い間ではあったけど、このクラスのみんなにも、黒井先生にもお世話になったなあ。<br />
そんなことを考えていたら、見慣れた後姿を見つけた。<br />
「あっ、副委員長、一年間お疲れ様。……ってどうかしたの?」<br />
副委員長は、みゆきさんのことが好きらしく、みゆきさんと仲がいいからという理由で、俺によく相談を持ちかけてきた。<br />
俺としても友人を助けたかったけれど、みゆきさんはもの凄く忙しそうだったので、何もできず卒業を迎えてしまったワケだ。<br />
「はあ……、結局何の進展もなく卒業だよ、伊藤……」<br />
「そんな副委員長にこの言葉を送る。あきらめたらそこで試合終了ですよ」<br />
「……そうだよな、あきらめたら終わりだよな」<br />
「そうそう、同窓会とかもあるし、まだチャンスはあるよ」<br />
「ありがとう、伊藤。俺まだがんばるよ!」<br />
副委員長は元気よく去っていく。応援してるぞ副委員長、あきらめなければ、きっと報われるときが来る……ハズ。<br /><br />
「やーっと見つけた!!」<br />
声の方向に振り向くと、八坂さんがいた。<br />
「随分と探したんですからね!」<br />
「ごめん。ていうか、それなら電話してくれれば良かったのに」<br />
「簡単に見つかると思ってたんですよ」<br />
「学校とかって自分が思ってるより、案外広かったりするものだよ。それで、どうしたのさ。今日は学校で会うって話はしてなかったけど」<br />
「いやー、ぱっと思いついたことがあったんで」<br />
「思いついたこと?」<br />
「はい。えっと、その……第二ボタンもらえません?」<br />
そういえば、以前にこなたさんたちが話をしてたな、好きな人の第二ボタンがどーのって。<br />
「こんなもので良ければ、どうぞ」<br />
「こんなもの!? まこと先輩はベタの良さをわかってないな~」<br />
「ベタ?」<br />
確かありきたりみたいな意味だっけ。でも、八坂さんが言うからには違うのかな?<br />
「今日はその辺のことをご教授しますよ~」<br />
「お手柔らかにね」<br />
「わかってますよ。……あっ、遅くなりましたけど、卒業おめでとうございます!」<br />
「ありがとう」<br />
「後ちょっとしたら、しばらく簡単には会えませんね……」<br />
「そうだけど、土日とかには会えるから、心配しなくても大丈夫だよ」<br />
「……そうですね」<br />
「だから、八坂さんは受験勉強に集中しないと」<br />
「わかってますよ。同じ大学に受かってみせますから、待っててくださいね!」<br />
そう言って抱きついてくる八坂さん。<br />
「うん……、待ってるよ」<br />
俺は優しく抱き返す。<br />
一年の辛抱は少し長いけれど、その先に続く二人の時間に比べれば、あっという間だろう。<br />
だから、今はもう少しだけこの時間を大切にしよう。</font></p>
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