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30までは思春期(主人公編)」(2008/08/21 (木) 14:24:05) の最新版変更点

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最初に泣いたのはつかささん。でも、一番派手に泣いたのはかがみさんだった。 式典はとっくに終わってるけど、誰もまっすぐ帰ろうとはしない。みんな、思い思いに名残を惜しんでる。 俺も、色んな人と話した。感動的な卒業なんて内心諦めてたけど、大事な友達はたくさんできた。 みんな、本当にいい子だと思う。 ただ、本当に話したい人には、まだ会えていない。 さっきから姿は見えてるけど、生徒に囲まれてとても近づけないでいる。 順番が回ってくるまで、根気よく待つしかないか。 …お。空いてきたかな。もうちょっと囲まれててくれてよかったんだけど。 いやいや、及び腰になってどうする。台詞はちゃんと用意してるだろ。 …やっぱり、そんなのは全部捨てていくべきかな。まあ、半分くらいは持っていってもいいよな。 よし。行くぞ。頑張れよ、自分。 「黒井先生」 「おーっ、伊藤やないかい。探してたんやで?」 「俺からは、ずっと先生が見えてましたけど。なんだかモテモテでしたね」 「いや、ほんま参ったわ。涙で化粧が台無しや。 これで卒業や思うとみんなかわいなってもうてな、なかなか切り上げられんかったわ」 「生徒からあれだけ慕われるのって、難しいと思います」 「ん、まあ、教師冥利に尽きるっちゅうところかな。」 「私生活でもあのくらいだったらいいですね」 「そやなぁ。そらマジに問題やで…ってコラ、自分んなこと言うためにウチんとこ来たんかっ?」 「そんな、滅相もない。俺も、ちゃんとお別れを言いたいんです」 「お別れなんて、水臭いこと言いっこなしや。いつでも遊びに来たったらええ」 「いや。お別れです。今日で、俺は陵桜の学生じゃなくなりますから。教師である黒井先生とは、お別れです」 「…カタいやっちゃ。でも、人生はそうやって前向いとった方がええかもしれんな」 「黒井先生には、すごく感謝してます。先生が気さくだったから、転校初日も緊張せずにいられました。 俺ひとりだったら、変に気負ってみんなに溶け込めなかったと思います」 「大げさやな。すんなり友達ができたんは、伊藤自身の才能や。その厚かましさ、社会に出たら役立つで」 「…厚かましい?」 「自覚ないんか?泉らと喋っとるとき、なんや昔からの知り合いみたくしとったやん。初対面でアレは、中々なんぎやで」 「…それは多分、かなり後半の方だと思います」 「え?」 「…先生、桜藤祭のことを憶えてますか?」 「おう、当然憶えてるで。ステージが崩れるゆうて、成実さんにパトカーまで使わせたなぁ。 いや、教頭あたりにバレんでよかったわ」 「考えてみると、けっこう危ない橋でしたね」 「しっかし、なんであんだけ必死になったんやろか。よう思い出せんねんな」 「それでいいと思いますよ。ステージは無事だったし、先生も無理なダイエットをしなかった」 「そっ、それはまた別の話やろ!女にとっちゃ深刻な問題やねんっ」 「先生もかがみさんもみゆきさんも、どこがどう気になってるのかさっぱり分かりませんでしたよ」 「…伊藤、お前な。そんなジロジロウチらのカラダ見とったんか?」 「と、思う吉宗であった」 「誤魔化すなっ!このドスケベがっ」 「!いっ……ったいんですけど……っ」 「ウチからの最後の愛の鞭や。じっくり味わっときぃ。…あかん、もうこんな時間か」 「…なにかあるんですか?」 「ナニっちゅうんでもなくてな。来賓とか父兄の方にも挨拶せなあかんから、そろそろ動かなまずいかもしれへん」 「…じゃあ、先生。最後に1個だけ、お願いを聞いてくれませんか?」 「おう、ゆうてみぃ」 「俺があの校門をまたぐまで、見送ってほしいんです」 「なんやそれ。まあ、ええで。自分みたいなけったいな男は、とことんイヤミな顔で送ったるわ」 「…じゃあ、行きます」 「おう」 「…よし。行きますよ」 「さっさと行かんかい」  歩く。毎日していたように、門を出る。  よっしゃ。言うぞ。 「またいだな。きっちり見送ったで」 「はい。これでもう、俺たちは生徒と教師じゃありません」 「またそれかい。くどいやっちゃな。ウチと離れるんがそんなに嬉しいんか?」 「だから、ななこさん。俺と付き合ってください」 「…えっ?ん?…な、なんて?」 「付き合ってください。あなたが」  あー、詰まった。平気な顔で言える自信、あったんだけど。  でも、言わなきゃ。桜藤祭の日から、これを伝えることだけ考えてたんだから。 「俺は、ななこさんのことが」 「ちち、ちょい待ち!」 「…っ」 「そこまでやっ。えっと、あーっと……そら、自分は卒業したかもしれへんがな。 ウチはアレやねんて。ほら、まだ仕事中やねん」 「…はあ」 「せやから、その話はまた後日ってことで…な?」 「…ダメ、ってことですか?」 「ちゃうねん!ちゃうねんて。ウチが教師やってない時間なら、聞いてやれるっちゅうことや」 「…じゃあ、電話ください。番号教えますから」 「お、おう。ええで。ほな、明日にでも連絡するわ。それでええか?」 「待ってます」 「よし。そんじゃ、今日のところはここまでや。卒業おめっとさん」 「…ありがとうございます。それじゃあ」  …なんだろう、これ。大人の断り方ってやつ?電話がなければ諦めろって?  いや、深く考えるな。あんまネガティブになると、泣く。  けどなぁ。食い下がりたいな。俺は、別に大人じゃないし。そもそも、この気持ちが簡単になくなるとは思えない。 つーか、俺はふられたのかな。ふられたんだよなぁ。微妙な空気だったもんなぁ。 でも、まだ好きだとも言ってない。これだけは、どんだけ嫌がられてもぶつけたいな。  電話、待ってますからね。そっちにその気がなくても、待ち続けます。だって、あなたがそうしろって言ったから。

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