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踏み出す一歩」(2008/08/03 (日) 23:09:00) の最新版変更点

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「はぁ……」  桜藤祭当日、告白することなく失恋したまこと君は、峰岸の彼氏紹介という追い討ちもあったからか、未だに元気がな い。  ていうか、峰岸に悪気がないのはわかっているけれど、紹介のタイミングが最悪すぎたと思う。 「まこと君、まだ引きずってるみたいね」 「ま~、あんなことがあったからねぇ」 「そうだよね……」 「おや~? かがみはまこと君のことが気になるのかな?」 「ち、違う! 私がもっと早くに教えてあげてれば、傷はもう少し浅かったかなって思っただけよ!」  そう、私はこなたよりも早く、彼氏のことを教えてあげることができた。  けれど、桜藤祭後でいいだろうと考えたのがいけなかった。  私がそんなことを考えなければ、まこと君がここまで落ち込むことは、なかったかもしれないのだ。 「ふ~ん、そっか。でも、あんまり気にしない方がいいよ。だって、知るのが早いか遅いかの違いでしかないんだし」  私の考えていることがわかったのか、こなたがフォローしてくれた。  けれど、やはり私にも責任がある。 「わかってるわよ。でも、励ましてあげようとは思ってるわ。まぁ、その……大切な友達なんだしね」  大切な、という表現をしたからか、若干照れくさい。  私のこういったところを、こなたが面白がってからかうのだろう。今も、こなたがニヤニヤしている。 「はぁ……、空が青いな」 「何言ってるのよ」  まこと君は、授業が終わってどこに行ったのかと思っていたら、屋上でベタなことを言っていた。 「うわっ、かがみさん!?」 「な、何よ! 私がいたら変?」  なぜ、まこと君は私と急に会うと、いつもこんなに驚くのだろう?  以前に叫ばれたこともあったような気がする。  いつの話だったかは、不思議と思い出せないけれど。 「変じゃないけど、……どうしたのさ?」 「え? いや、その……励ましてあげようかなーって」 「俺、そんなに元気なかった?」 「誰がみてもわかるくらいに」 「そ、そんなに?」 「うん、みんな心配してるわよ」  もちろん、誰が見てもわかるのだから、峰岸も当然心配している。 「そうなんだ……。じゃあ、尚更早く立ち直らないとね」 「でも、中々立ち直れないと」 「う、うん。自分で勝手に先走ってただけってのが……、痛いよね、俺」 「それ気にしすぎ、私だって想像だけ先走って、バカみたいな思いをしたことが――」  あっ……、口が滑った。 「かがみさんも、似たようなことがあったの?」 「そ、それは……」  あまり、思い出したくないことだけれど、それで少しでも良くなるかもしれないのなら、仕方ないか。 「そんなことがあったんだ……」 「修学旅行で、思わせぶりな手紙もらったら、誰だって先走るわよ」  まこと君に、修学旅行でのあの出来事を教えた。  私の場合、こなたがフォローしてくれて、思ったより落ち込まなかったのだけれど。  ただ、ヤケ食いをしたせいで、別の理由で落ち込むことになったか。 「そうだね、きっと俺も勘違いして先走ると思う」 「まったく、修学旅行よりも前に、転校してきてくれれば良かったのに……」 「え? 何? よく聞こえなかったんだけど」 「な、なんでもない! 気にしないで!」 「そっか」  変な事を考えてしまった。あの場にまこと君がいたって、何も変わらないだろうに。  そもそも、何かがおかしい。  だって、会ってから一ヶ月程度しか経っていないのに、まこと君とは随分親しい気がする。  いや、親しいのではなく、気になってしまうのだ。恐らく、桜藤祭が終わった頃から。 「でもさ、俺だけみんなとの思い出が少ないよね」 「まあね、転校してきた時期が時期だもの。結果として、一年も一緒にいれないわよ」 「うーん、なんかそれって寂しいよね」 「……そうだね」  私も、まこと君との思い出は、もう少し欲しいと思う。もう一緒にいられる時間は、残り少ないけれど。 「行こっか? 卒業旅行」 「り、旅行!? そ、それは……」  嬉しいけれど、恥ずかしい。凄く、恥ずかしい。今、私の顔はきっと真っ赤だろう。 「うん、みんなで行こうよ。思い出を作りにさ」 「みん……な?」 「そうだよ。三月なら、きっとみんな大丈夫だよね?」 「え……っと、たぶん」  そうだよね、みんなとに決まってるよね。  私は、何を勘違いしていたのだろう。 「それじゃ、みんなで行こうか、卒業旅行。留学が終わっちゃう、パティさんたちも誘って」 「うん」  最後に、みんなとの思い出ができるのなら、それはそれでいいことだと思う。 「……」 「……」  話が終わり、私もまこと君も黙ってしまう。 「……」  大抵誰か回りにいるから、本当に二人っきりになれる機会は少ない。  私は、何か言うことはないのだろうか。  もしかしたら、二人っきりになれるのは、これで最後の可能性だってある。 「……」  そんなことを考えたら、余計にドキドキしてきてしまった。  何か話すことを必死に考えても、声が出てこない。  まるで、声を失ってしまったみたいだ。 「そろそろ戻ろうか? みんな心配してるかもしれないし」 「ぇ……」  このまま戻っていいのだろうか。  何も言えずに終わってしまったら、きっと後悔すると思う。  まこと君が転校してきてから、桜藤祭までの記憶はなぜか曖昧だけれど、何度も助けて、何度も助けられた、大切な人 だということだけは、なんとなく覚えている。  だから、その気持ちが本物なら、いつまでも待っているだけでなく、勇気を出さないといけない。 「ま、まこと君!」 「かがみさん?」 「そ、その……、前に貸したあのラノベなんだけど……」 「ああ、あれか! 続きが気になるよね」  桜藤祭後、私が何冊かラノベや小説を貸したら、好きになった作品が色々とあったようだ。  たまに、作品の話をするときは、とても楽しい。 「新刊が発売するから、今度の休みに……その……一緒に買いに行かない?」 「もちろん行くよ、続きが早く読みたいしね。日時は後で考えようか?」 「う、うん」  今さらだけれど、映画とか他にもっとあっただろうに……、私のばか。  でも、一歩踏み出せたのだから、今回はそれで良しとするべきか。 「あ~、ここにいたのか」  背後からこなたの声。 「こなたさん、探しにきてくれたの?」 「まあね」 「もしかして、つかさが探してた?」  一緒に帰る約束をしていたから、私を探しているかもしれない。 「それもあるかな」  それも? 他に何かあるのだろうか? 「それじゃ戻ろうか」 「かがみに用事があるから、まこと君は先に戻ってね~」 「わかったよ」 「それで、用事って何?」 「むふふ、それを聞くのかな? かがみ~」  ニヤニヤと笑うこなた。やっぱりそれか……。 「やっぱまこと君のことが気になってたんじゃん」 「う、うっさい! 別に私はまこと君のことなんて……」  一歩前進したといっても、やっぱり私は素直じゃないなと実感する。 「わかりやすい反応だね~。けど、かがみか……強敵だなぁ」 「は?」  こなたの突然の発言に、あいた口が塞がらない私。 「いやあ、だって、極東の最終兵器『ツンデレ』だよ? 強敵に決まってるじゃん」 「えっと、こなた? どういうこと?」 「何言ってんの、かがみ。まこと君攻略ルート終了、なんて私一言も言ってないよ」  頭が痛くなってきた。そして、戦局は厳しい。  私はこなたみたいに、積極的にはなれない。 「まさか、こなたとこういった状況で争うことになるなんて、考えもしなかったわ」 「それは、私もだよ。これからはライバルだね、かがみ」 「言っておくけど、負けるつもりはないわよ」 「おお、宣戦布告!? でも、素直になれないのが、仇にならないといいけどね~」 「うっ、それは否定できないかも」 「それじゃ、そろそろ戻ろうか?」 「そうね、つかさも待たせてるし」  これからは、恋に受験に忙しくなりそうだ。  春を笑って迎えられるように、がんばらないと。

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