「ゆたかの不安編」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ゆたかの不安編」(2008/06/17 (火) 23:43:06) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<div class="mes">「以前より……、安定してる」<br />
「みなみちゃん、ホント?」<br />
「本当……。けれど、決して油断はしないで」<br />
どんなに体調が安定しても、元々体は弱い。それは、どうしても変えることのできない事実だ。<br />
「うん、わかってる」<br /><br />
みなみちゃんは医学部へと進学し、内科医になった。<br />
理由を聞いたら、憧れている人が医師を目指しているし、何より、私が体調を崩した時に、すぐに助ける事が<br />
できるからだと言っていた。少し照れくさい。<br />
みなみちゃんは、いつも私を案じてくれる。<br />
いつも、その代わりに何もできない私が、悔しかった。<br />
せっかく、久しぶりに会ったのだから、感謝の気持ちをきちんと伝えておかないと。それくらいしか、私には<br />
できないのだから。</div>
<div class="mes">「みなみちゃん。いつもいつも、ありがとう」<br />
「……気にしないで。私は……、自分が正しいと思ったことを、しているだけ」<br />
みなみちゃんは、少し俯きながら答える。<br />
どうやら、照れているようだ。私の感謝の気持ちが、ちゃんと伝わったとわかる。<br />
「そんなことないよ。みなみちゃんがいるから、今の私があるんだよ。みなみちゃんに出会えて、ホントに良か<br />
ったって思ってる」<br />
「……私だけじゃない、伊藤先輩の事を忘れてる……」<br />
「お兄ちゃんとは、また違うところでってことだよ」<br />
「わかってる……」<br />
「あうー、みなみちゃん、ひどいよー」<br />
みなみちゃんは、柔らかく微笑む。医師として、色々な人と出会ったからか、イメージが変わった。<br />
以前は、優しいところがわかりにくかったようだけれど、今は、雰囲気から優しさが伝わるらしく、患者さん<br />
達から好かれているようだ。</div>
<div class="mes">「……最近、伊藤先輩とはどう?」<br />
「大丈夫、何も問題はないよ」<br />
「……もう八年になる。なのに……、今のままで満足?」<br />
「え?」<br />
「結婚願望は、ないの……?」<br />
「……あるよ。けど、これ以上なんて、望めないよ」<br />
「なぜ……?」<br />
「きっと、お兄ちゃんを不幸にする」<br />
私の体質は、私の大切な人に、負担をかけることしかできない。<br />
「もし、大切な人を、苦しめる事になるなら……」<br />
いっそ、自分から離れてしまえば、大切な人を、苦しめなくて、済むの、かも、し――。<br />
「ゆたか……」<br />
私を、優しさが包む。<br />
「大丈夫……。先輩なら、ゆたかを支えて歩いていける。だから、不安にならないで……。だから、泣かないで<br />
……」<br />
その言葉で、泣いていることに初めて気付く。<br />
「ご、ごめん、ね」<br />
「不安になるのもわかる。……けれど、伊藤先輩は、邪険にした私でも認めて……、優しく接してくれた」<br />
だから、大丈夫。先輩は、優しい人だから――と背中を摩ってくれる。不安が薄らいでゆく――。</div>
<div class="mes">「みなみちゃん。もう大丈夫だよ。変なとこ見せて、ごめんね」<br />
「気にしないで……。不安になることは、誰にでもあること」<br />
「そう……だよね。みなみちゃん、ありがとう」<br />
「不安は、抱え込まない方がいい……。また不安になったら、誰かに相談するべき……」<br />
「うん、わかった」<br />
「それじゃあ、お大事に――」<br /><br />
内科を後にする。どこか、少し心が軽くなった気がする。<br />
結婚なんて、実感がわかないし、未だ不安もある。けれど、望めるのなら、大切な人と共に歩きたい。<br />
私は、お兄ちゃんのことを、愛しているのだから。<br />
だから、私も支えてあげられるように、強くならないと。お互いに支え合わなければ、人という字は容作られ<br />
ないのだ。<br />
決意を胸に、私は歩き出した。</div>