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「へそ茶編」(2008/05/16 (金) 19:17:07) の最新版変更点
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<div class="mes"> 駆け出しの小説家という身分で、幼馴染を連れ故郷を離れ、結婚して子供を作る。<br />
自分の父親を悪く言うつもりはないが、まともな神経で出来ることではない。<br /><br />
物書きになりたい。幼馴染と結ばれたい。両方を愚直に求めた結果なのだろう。<br />
失敗したときのことなど、考えもしなかったはずだ。<br />
そして、最後にはそれを押し通してしまった。父はいま、小説によって十分に家族を養っている。<br /><br />
暢気に構えているようで、本当に欲しいもののためなら一片の努力も惜しまない。<br />
結局のところ、自分もそういう血を継いでいたのだ。<br /><br />
志望校の入試を終え、こなたは珍しく自分のことを振り返っていた。<br /><br />
「こなたさん」<br />
「あ、闇に降り立った天才ナンパ師まこと君だ。こんちゃ」<br />
「…引っ張るなあ。それって、3ヵ月も前の話じゃん」<br />
「うにゃ、そうだっけ」<br />
「勘弁してよ」<br />
「ほら、あれだよ。最近あんまり喋ってないから、キミに関する情報が更新されなくてさ」<br />
「こなたさん、午後になると自習室に直行だったからね。やっぱり、今日も行くの?」<br />
「むふふん。よくぞ訊いたね?なにを隠そう、炎の受験生こなたは、昨日をもって死んだのだよっ」<br />
「…そっか。入試、昨日だっけ」<br />
「そゆこと。しっかし、もうちょっと開放感あると思ってたけど、案外そうでもないね」<br />
「結果出るまでは、そんなもんじゃない?しかもこなたさん、本命一本なんでしょ?」<br />
「スタートが遅かったからねぇ。滑り止めとか、考える暇なかったよ」<br /><div class="mes"> 本当は、違った。第一志望を落としたら、もう大学に行く意味がないのだ。<br />
その大学でないと、駄目だった。そこにしか、かがみはいないのだから。<br /><br />
かがみと、同じ大学に行く。<br />
担任のななこにはたしなめられたが、それでもやると言い張った。既に、心は決まっていた。<br /><br />
理由は簡単だった。要するに、かがみと離れるのが寂しいのだ。<br />
ただ、その奥にある本当の気持ちは、かがみにしか話していない。<br />
最後までやめろと言いつづけたのも、かがみだった。すべてを伝えてからは、それもなくなった。<br /><br />
「ってことは、今日は報告?」<br />
「報告というか、お礼というかね。黒井先生にも、さすがに心配かけちゃったし」<br />
「なるほど。まあ、あえて手応えは訊かないけど」<br />
「まこと君は、来週だっけ」<br />
「そ。なんか、もう当日まで寝てたい気分だよ」<br />
「あー、わかる。私もさあ、煮詰まって煮詰まって、カラメルソースにでもなるかと思ったよ」<br />
「あと一息だし、踏ん張ってみるけどさ。ところで、かがみさんは?一緒じゃないの?」<br />
「かがみんは、昨日のうちに来たっぽいね。私はもう、帰ることしか頭になかったよ」<br />
「なるほど。こなたさんらしいかも」<br />
「おやおや。まこと君まで、そーゆーこと言っちゃう?」<br />
「…ごめん。えっと、嫌だった?」<br />
「いや、そんなんでもないけど。私が勉強してると、みんなしてらしくないって言うもんだからさ。<br />
まったく、失礼な話ザマスねぇ奥さん、って感じ?」<br /><div class="mes">「…こなたさん、あのさ」<br />
「なにザマスか、スネちゃま」<br />
「少しだけ、真剣な話するけど。こなたさんは、なんでかがみさんと同じ大学にしたの?」<br />
「…友達と同じがよかったから、ザマス」<br />
「茶化しきれてないよ」<br />
「…でも、ホントにそうだもん。私、精神年齢低いからさ。<br />
お軽い動機で、進路とか決めちゃうんだよね。陵桜受けたのも、PS2のためだったし」<br />
「あの大学って、そんな発想が通るレベルじゃなくない?」<br />
「そりゃ、かがみんは法学部だからね。大学が一緒ってだけで、私は底辺の人文学部なわけで」<br />
「だからって」<br />
「悔しいじゃん」<br />
「…え」<br />
「だって、悔しいじゃん」<br /><br />
口を突いた、という感じだった。話すつもりもない本心が、ころりと出てきてしまった。<br />
まことと話していると、たまにこういうことがある。彼が持つ、一種の才能だった。<br /><br />
「なんか、負けるみたいでさ」<br />
「負けるって、かがみさんに?」<br />
「違うよ。なんだろね。運命というか、時間の流れというか、そーゆーものに」<br />
「…でっかい話だ」<br />
「まこと君さ。卒業したら、私たちってどうなると思う?」<br />
「どうって、えっと。別々の道、みたいな」<br />
「みんな、それで当り前だと思ってない?」<br />
「そりゃ、当り前だから。むしろ、仕方ないことだし」<br />
「それがね、私は嫌なわけさ」<br /><div class="mes">「…嫌?」<br />
「寂しいね、とか、また会おうね、とか言うばっかりでさ。離れ離れになることは、誰も疑ってないんだよ?」<br />
「そこはそれ、みんな将来の目標とかあるわけで」<br />
「そんなの、わかってるよ。大事なことだと思うよ。<br />
でもね。みんなが決まりごとみたいにしんみりした顔してるのって、我慢できなくてさ。<br />
それって違くない?卒業したらお別れなんて、誰が決めたの?別にいいじゃん、ずっと一緒にいたって」<br />
「…あれもこれも、とはいかないでしょ」<br />
「だから、私がやってみるの。なんにも、諦める必要なんかないんだよ。<br />
卒業して、夢を追って、どんどん変わっていって、それでも絶対、友達でいられるはずなんだよ。<br />
かがみといれば、つかさとも会える。3人いるなら、みゆきさんもいないと穴が空いちゃう。<br />
そうやって、どこかで繋がっていられるでしょ。卒業して離れ離れになるのが運命なら、負けてたまるか、って思うんだ」<br />
「思い出にはしない、ってこと?」<br />
「あれも思い出。これも思い出。ヘソで茶ぁ沸かせだね」<br />
「…すごいな、こなたさんは」<br />
「別にすごかないよ。結局、他に目標がないからやれるわけで」<br />
「うーん。やっぱり、すごいよ」<br /><br />
喋りすぎた。いまの話を知っているのは、かがみだけだ。<br />
それを聞きだしてしまう辺りが、やはりまことの怖さだった。<br />
もっとも、受験というものが一段落ついて、溜まったものを一息に吐き散らしたい気持ちもあった。<br /><br />
「…まこと君が乗せるから、軽く演説しちゃったよ。てゆーか、なんでこんなこと訊いたの?」<br />
「こなたさんの頑張りがどっから来るのか、気になっちゃって」<br />
「…前から思ってたけど、乙女の本心を覗くのはちょっち悪趣味だよ」<br />
「前からって?」<br />
「おおっと、案の定天然ですかい」<br />
「ごめん、よくわかんない」<br /><div class="mes">「この際だから教えたげるけど。まこと君、無駄に素直だからさぁ。<br />
こっちも、つられて要らないこと喋っちゃうんだよね。多かれ少なかれ、みんなそう思ってるよ」<br />
「…そうなの?」<br />
「それ自体は、いいんだけど。問題は、変なツボにはまったときだね」<br />
「はあ」<br />
「ぶっちゃけ、もてるタイプなのだよ、君は。<br />
しかもタチの悪いことに、こっそりともてる。ギャルゲの主人公みたいな感じかな」<br />
「いくらなんでも、それは嘘でしょ?」<br />
「そう思ってるがいいさ」<br />
「でも、告白すらされたことないよ?いまも、周りに女の子いっぱいいるのに」<br />
「ノコギリフラグな発言ありがとう。ちなみにまこと君は、巨乳派?貧乳派?」<br />
「…なんでそうなるのさ」<br />
「いいからお答えなさいな」<br />
「…極めて深長なテーマだけど、とりあえずあるに越したことはないんじゃない?」<br />
「巨乳派、ってこと?」<br />
「どうしてもどちらかを選べと言われれば、そう答えざるを得ない」<br />
「なるほど。そりゃいいや」<br />
「なにが?」<br />
「さあね。じゃあ、私はもう行くからねん」<br />
「あ、うん。えっと、おつかれさま」<br />
「ありがと。まこと君も、しっかりね」<br />
まことはまだ突っ立っていたが、こなたは構わず歩き出した。ななこのいる学年室は、4階だ。<br /><br />
いつまでも付き纏うことで、かがみたちを縛ってしまうとは思わない。<br />
自分らは一緒にいるべきだという、妙な自信があった。<br /><br />
別れる運命など、認められるはずがなかった。そもそも、運命など大したものとは思っていない。<br />
大人になっても友達でいれば、それが運命だったと言い張ってしまえるのだ。<br /><br />
廊下を曲がるときも、まことはなにか考えている風だった。胸がどうの、という話の意味を考えているのだろう。<br />
こっそりともてる、というのも、あまり正しくない。まことに恋をした人。それが、たまたま慎み深い性格だったのだ。<br /><br />
せいぜい悩めばいいさ。いつまでも気付かないのが悪いんだ。分不相応にも、みゆきさんに好かれてるくせに。<br /><br />
そう思いながら、こなたは二段抜かしで階段を昇った。</div>
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