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~文化祭§旋律~

「じゃあ、各々練習、準備に入ってください」
 巴の一声で各班は一斉に仕事を始めた。



「でも…歌劇にする…なら台本…変えなきゃ…いけないんじゃ…ないの?」
「その辺は考慮するから台詞覚えて大丈夫、ってめぐが言ってたわぁ」
「じゃあ始めよう」
 蒼星石の一言でのりが見守る中、読み合せが始まった。

「ちょっと、金糸雀いい?」
 場面が魔女の登場シーンに差し掛かったとき、音響の一人から声がかかる。
「何かしら?」
「あのね、王子様とシンデレラのダンスの場面、生演奏お願いできない?」


「カ、カナがかしら?」
 突然の申し出に金糸雀は目を丸くした。
「うん、『美しき青きドナウ』っていう曲知ってる?」
「し、知ってるかしら…」
 有名なワルツの曲である。
「勿論後ろで小さくテープかけるけど、メロディラインだけ?無理?」
 後、たった三ヵ月の期間で完成できるのか、金糸雀に不安がよぎる。
 しかし、クラスメイトの頼みを無下にできない。
「できるかぎりやってみるかしら。楽譜はあるかしら?」
「金糸雀、ありがとう!楽譜はこれよ。よろしくね!」
 ――か、課題が一つ増えたかしら。でも、頑張るかしら!



「うん、とりあえずはいいと思う。後の細かい演技は、台詞を覚えてからにしましょ」
 のりの明るい声にみんなは、はーい、と明るく返した。

「翠星石、蒼星石、ちょっと来て?」
 と、二人を呼んだのは先程、金糸雀に生演奏を頼んだ生徒。
「何?」
「どうしたです?」
「見せ場としてワルツを踊ってもらおうと思ってね。経験者もいるし、難しいステップじゃないし、一つの見せ場として」
 こっちを見てにこにこ笑っている生徒がおそらくダンス経験者なんだろう。
「どう?」
 どの道、舞踏会を表現しなければならない。
 二つ返事でOKし、その日は、ダンスの練習にあてられた。


「はぁ…疲れたですぅ」
 家に帰り翠星石はベッドに寝転がった。
「翠星石はまだいいよ。僕なんか背筋を直されてばっかだったんだから。姿勢は良いつもりなのに」
 蒼星石はタイを外しながら苦笑した。
 二人は同じ部屋を使用していた。
「翠星石だって大変だったですぅ。ドレスの裾を踏んで転んだですぅ…」
 裾の翻し方を練習する為、簡易なドレスを着用して練習していた。
「それに、一回、蒼星石が踏んだです!あの時が一番痛かったですぅ!」
「だからごめん、って言ってるじゃない」
 ぶすっとしている翠星石の頭を優しく撫でる蒼星石。
 蒼星石はこれで翠星石の機嫌が直ることを知っているのです。


 ――分かってても嬉しいですぅ…
 こういうちょっとした触れ合いがすごく嬉しい。
「そうだ、ワルツの練習をしよう!」
 と、蒼星石が声を弾ませて言う。
「え…、でも曲は…」
「大丈夫、MDもらったんだ。今日習ったとこまで練習して、それから台詞を覚えよう」
 真面目というか、蒼星石はMDを持ち出した。
 ワルツの流れるような旋律が奏でられる。
 蒼星石は翠星石の方を振り替えると、真面目な顔になった。
『美しいお嬢さん、どうか僕と一曲踊ってくれませんか?』
 どきっ、と心臓が高鳴る。
 そして自分に言い聞かせる、演技なんだ、と。
『いけないです、王子様と私では身分が違いすぎますぅ…』
『美しい衣裳を身にまとい、それでいてなんて謙虚な君。ぜひ踊ってください』
『そこまでおっしゃるなら…』
 蒼星石の手に翠星石の手が置かれる。
 右足を引けば左足が出され、相手が左に動けば自分は右に。


 ――このまま、時が止まればいいですのに…
「…っと、ここまでだね。習ったのは」
「っ…そ、そうですね!では翠星石は夜ご飯の準備をしてくるです」
 現実に引き戻された翠星石は慌ててキッチンへむかった。





「難しいかしらー!」
 楽譜を目の前にして金糸雀が呟いた。

文化祭まで、後三ヵ月
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