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10時。
あれからまた1時間が経った。
本当に、どうなってしまうのか。
ここで、死んでしまうのだろうか・・・・。
あの赤黒く染まってしまっている少女のように?
嫌だ!! 嫌だ!!
どうすれば・・・・どうすれば・・・・!!!

・・・・どうすれば、ゲームに勝てるんだったっけ?
確か───

『目の前の相手を殺せ。』

だったはず。
そうだ。殺す。殺せば、私は生き残ることが出来る。
目の前の相手? 真紅だ。
あの真紅。
脱出方法を探していたときも、えらそうな物言いで私を威圧していた。
みすみす殺されるくらいなら私が─────
「ねぇ、そっちは何か無いの!?」
真紅の叱咤で我に返る。
ちょっと待って、私・・・・・・
今、私は・・・・・・・何を考えていた・・・・?
自分が生き残るために・・・・真紅を・・・・・・・・・・?
「な、なんてことです・・・・・」
怖い。
自分が変わっていく。
生き延びるために、人を殺す?
生きるってこんなにも怖いことだっただろうか。
真紅を見る。

不安な顔一つせず辺りをまだ物色している。
・・・・・・・・あやしい。
本当に彼女と私は同じ立場なのか?
私たちがこの部屋で目を覚ましたことを思い出す。
彼女が先に起きていた。
・・・・・・・・・偶然といえばそれだけだが、私に隠れて何かをしていた可能性も捨てきれない。
最悪、ジグソウとグルかもしれない。
私を此処に運び込んだ張本人なのかもしれないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もし、ジグソウとグルだったなら。
私をこんな目にあわせて、それでいてこんな芝居の出来る女だったら。
殺害・・・・・まではいかないが、それ相応の報いを受けるべきだ。
確証は無い。
ただ、どうにも真紅が怪しいと思えて仕方が無かった。

「ちょっと真紅。 おまえ何か隠していることはないですか!?」
思わず、聞いてしまう。
あぁ、私のバカ・・・・・。 こんな直球勝負で質問するなんて・・・・
真紅は眼を見開いて私を見る。
「・・・・・どういうこと? 翠星石。」

「お互い、知っていることは話し合ったほうがいいですぅ。」
なんとか友好的に話を進めていこう。
そう、自然に。 あくまでも、自然に・・・・・
「それも、そうね・・・・・・」
真紅も納得したのか、うんうんと頷いている。
「あなた、此処に連れてこられるまでの記憶はある?」
いきなりの質問だった。
「な、ないです・・・・・・・・・・最後に覚えているのは・・・・・」
記憶をたどる。

私はその時、学院の寮に戻ろうとしていた。
いつもの、寮へと続く遊歩道。
もう日は沈んでいた。
その先にあった、闇。

記憶は其処で終わっていた。
「思い出せない・・・・!! 其処で誰と会って何があったのか・・・」
「私も似たようなものよ。 自宅で紅茶を飲んでいて、
確か・・・・・誰かと喋っていたような気がするの・・・・・」
でも、それが誰だか思い出せない。
真紅はそう言った。

共通する記憶の欠如。
何か薬品でも飲まされたのだろうか・・・?

「じゃ、じゃあジグソウについて、何か知っていることはあるですか?」
そう聞いた私は、期待を込めた眼差しで真紅を見つめていた。
私は新聞で見たり、ニュースで見た程度のことしか知らない。
奴のゲームの攻略方法さえわかればすぐ此処から逃げ出せるのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
真紅は黙っている。
やはり、何か知っているような気がしてならない。
すると、真紅はおもむろに立ち上がった。
「な、なんです?!」
「思い出したの。 奴のことよ。」
彼女はその辺の大きめのつぶてを手にとって、言う。
「たぶん、あそこ!!!!」
おもむろに、壁に掛かった鏡に投げつけた。
ガシャン!!!

鏡の割れる音。
その向こうに、1台の小型カメラがあった。
「か、カメラ・・・・・・・・!?」
驚きを隠せない。 ということはつまり・・・・・
「アイツ、監視してやがるですか・・・・・!!!!」
「やっぱりね、あの鏡はマジックミラーだったのよ。」
真紅は判っていたかのように言った。
「見ているのよ・・・・。『最前列』で・・・・・!!!!」
はき捨てるように言う。
「どういうことです?」
「今も、見ているのよ。 私たちがゲームをする様を、『最前列』でね。
前の事件も、そうだったわ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
嫌悪感で胸がいっぱいになる。
私たちが殺しあうのを特等席で見ている、そう思うと吐きそうになった。
「・・・・・いかれてるです・・・・。」
私はカメラに向かって思い切り毒づいて見せた。
「このヘッポコポコの介!! こんなことして何が楽しいですか? お前はいかれてるです!!!!
早く此処から出すです!!!!!」
無駄と判っていても、叫ばずにはいられない。
腹が立って仕様がなかった。
「およしなさい。 疲れるだけなのだわ。」
ハァ・・・ハァ・・・・くそ・・・・・。
『ジグソウ』のいかれっぷりはよく伝わった。
だが、ふと疑問に思う。
そんなことをどうして、真紅が知っているのだろう。

「真紅、ちょっといいですか。」
「な、なによ?」
「真紅は何で『ジグソウ』が『最前列』で見るのを好むのを知っているですか・・・・?」
「・・・・・・・・!!!」
真紅はしまったというような苦い顔をしている。
間違いない、コイツ何か知ってる・・・・!!!
「ニュースではそんなことやってなかったです。 ・・・・・・・・どうして知ってるですか?」
「そ、それは私が・・・・・・・・ん・・・・・・・・」
「早く言うです!!! まさか、『ジグソウ』の奴とグルなんじゃねーです!?」
「そ、そんな筈あるわけないのだわ!!!!」
「じゃあ説明するです。何で知っているです?」
「・・・・・・・・・・・・。」
黙ってしまう真紅。すると、
「私、容疑者だったの。」
そう、告白した。
「何のです?」
「この一連の『ジグソウ』事件よ。」
・・・・・・・・・何だって? 容疑者!?
「じゃあ、やっぱりあんた・・・・
「違うわ!!! 濡れ衣だったのよ!!! アリバイだってあったわ!!!!」
真紅は説明する。
彼女のペンライトが現場に落ちていたこと。
それで、彼女が重要参考人として拘留されていたこと。
それを聞いて、ますます疑念が募る。
「他に何か隠していることはないですか?」
「な・・・・もう無いわ!!!」
信用できない。
だって彼女は『ジグソウ』事件の容疑者だ。
それはつまり、
彼女は『ジグソウ』かもしれないということなのだ・・・・!!!
「いーや、おまえは何か知ってるです!! 私は何も知らないですのに・・・・・!!!
一体何を隠してるですか!! 洗いざらい喋りやがれです!!!!」
真紅は毅然とした表情を見せていたが、みるみるそれが憤怒の形相にすりかわっていく。
「私は何も隠してなんかいないわ!!! だからこうして脱出方法を探しているんじゃない!!!」
「ふん・・・・・どーだか!! 上品ぶったその顔の下で一体何を溜め込んでいやがるかわかったもんじゃねーです!!」
「な・・・・・なななな・・・・・・」
真紅は肩を震わせて、私を凝視している。
逆鱗に触れてしまったのだろうか。
だが、疑惑を晴らすまでは・・・・
「な・・・・あなたって・・・・あなたって人は・・・・・・・・・!!!」
そのとき、
「!?」
真紅の表情が怒りから驚きへと変わる。
「・・・・・・・・・・?」
真紅の態度が急におかしくなる。 と思ったら、後ろを向いて彼女はそのまましゃがみこんでしまった。
「ちょっと真紅!! 一体何してるですか!!!!」
「うるさいわね!!! ちょっと黙っていなさい!!!!」







気づかなかった。こんなところにこんなものが・・・・
制服の裏ポケット。そこに手紙があった。
翠星石に謂れのない疑念の叱責を受け、
感情のタガが外れそうになったときに、胸の中の違和感に気づいたのだ。

・・・・・ペラッ
翠星石からは見えないように、その手紙を見る。
ワープロで打ったのだろう、冷たい字体。
其処にはこう書いてあった。



『真紅へ。

あなたはとても優しい人。
ジャンクであるあたしにもとても優しくしてくれた。

でも、同時にそれは途方もない邪悪さの表れでもあるの。
あなたは自身が善であることを、周囲に誇示しているのよ。

女学院生という立場を活用し、
あなたがさまざまな奉仕活動に出ているのは知っている。
それが功を奏して、今のあなたは学院、いえ世間にも高く評価されているわ。

でも、私は知っているの。
あなたのその薄皮の裏側。
擬態して隠している本当のあなた。

自分と周囲を偽るあなたの鉄面皮の笑顔の下。
私は知っているわ。

生を騙り、他人の苦痛を笑う、本当のあなた。
欠陥人間。そんなジャンクが本当のあなた。
不完全ほど恐ろしく、欠落ほど醜いものはないわ。
私のゲームに勝ちなさい。
生きることは、闘うことなのだから。

さぁ、生きるために血を流せ。』



─────私が××××・・・・・?!
この、私が・・・・・××人間ですって・・・・・・?

いつかの情景がフラッシュバックする。

言葉というものは銃弾と似ている。
放たれたが最後、二度と撤回することはできない。

「そんな××××、この学院に来る資格なんてないのだわ─────。」

いつか誰かに放った銃弾。
今、銃弾は跳弾となって、自分に還って来ていた。


「何してるですか!! こっちを向けです!!!」
翠星石の叫びなど、耳に入らない。

「真紅! 聞いてるですか!!??」
「───翠星石。 ポケットのなかをみてみなさい。」
「え?」
翠星石は怪訝な顔で真紅を見る。
「ポケットですか?」
「いいから早く!!」
「・・・・・・・なんだっていうですか・・・・。」
そう言いつつもポケットを物色する翠星石。

「あ・・・・!!!」
「やっぱり、あるのね。 あなたにも。」

翠星石は手紙を取り出すと、喰らいつくように手紙を見つめていた。
そして、
「な・・・・どうして・・・・・」
そう、呟いた。

「見せなさい。翠星石。」
「え・・・? ダ、ダメです!! 絶対ダ・・・」
「いいから見せなさい!!!!!」
叫ぶ。
翠星石はおどおどしつつも、
「し、真紅も、みせるべきです・・・・ 交換条件です・・・・・。」
そう言った。
「・・・・・・・・・」
私は無言で手紙を丸めて放り投げる。
代わりに、翠星石の手紙がこっちに投げ込まれてきた。

読む。



『翠星石へ。

あなたはとても怖い人。
あなたほど、周囲に人を集める人をあたしは知らないわ。

それだけに私は恐ろしいの。
あなたにとっては小遣い稼ぎ、慈善事業をやっている程度の感覚なのでしょうけど。

あなたは世間一般で言う麻薬の密売人。
薬の種類や軽重なんて関係ないの。 ただ、そうであるという事実が大切。

学院での広い交友関係を利用して、薬を売り歩く、という行為は
まぎれもなく密売人のそれよ。
薬を受け取って、その子がどうなるか考えたことはある?
考えたとして、あなたは罪悪感を感じることが出来る?
感じたとして、あなたは薬の密売をやめることができる?
もっとも、私の知ったことではないけど。

あなたがどれだけ自己を優先し、他人を置き去りにしようとも、
私の知ったことではないわ。

生を嘲り、他人の苦痛を見捨てる、本当のあなた。
欠陥人間。そんなジャンクが本当のあなた。
不完全ほど恐ろしく、欠落ほど醜いものはないわ。
私のゲームに勝ちなさい。
生きることは、闘うことなのだから。

さぁ、生きるために血を流せ。』



密売人───・・・?
麻薬───・・・?

「翠星石、あなたっ!!!」
「ち、ちちちがうです!!! 誤解です!!! 私は麻薬だなんて思ってなかったです!!!」
翠星石が慌てふためく。
「楽にダイエットができるっていう薬を、変なおっさんからもらって、それで、初めは何処かに捨ててしまおうって、そう思って・・・」
「それで、その薬をどうしたの。」
「友達に、ダイエットしたいっていう子がいて、それで・・・」
「・・・・売ったのね。」
翠星石は黙る。

「とんでもない女ね。 こっちに近づかないで頂戴。」
「な・・・・!! 真紅!! お前だって人のことは言えないです!!! 一体これはどういうことですか!?』
手紙をこっちに突きつけて翠星石は叫ぶ。
「そんな、その手紙と私は関係ない・・・・!!!」
無駄な抵抗。
なぜ、私はこんな荒唐無稽な手紙を気にしなくてはいけないのか。
そう、本当に荒唐無稽。
全部、嘘っぱちなのだわ・・・・
「ご丁寧に 『真紅へ』って書いてあるくせに、それでも関係がないというですか? ええ?」
全部、嘘っぱち・・・・
「優しい人だったならいいじゃないですか? 何をそんなに怯えてるです? それとも本当におまえは擬態をしているです?」
違う・・・・私は・・・

「この手紙が本当なら、私たちはお互い様ですよ、真紅ぅ。
私達はお互いジャンk・・・・・
「うるさいわねッッッ!!! 少しは黙ったらどうなの!!??」

これ以上無い程、息を限界まで吸い込んで叫んだ。
自分でもその声量に、驚く。
「・・・・・・はぁ、はぁ・・・・今はとにかく脱出することだけを考えていればいいのだわ。」
「・・・・・・・・ふん。」
翠星石はこれ見よがしに悪態をついてみせる。

・・・・・・・・・・・・・・・・。
必死に私は私を取り繕おうとしていた。
それでも、この不快感・・・!!!
癇に障る・・・!! 癇に障る癇に障る癇に障る癇に障る・・・・・!!!!
どうして犯罪者程度に私が××××なんて言われなければいけないのか。
どうしてクスリの密売人程度にこの私が××××なんて言われなければいけないのか。どうしてクスリの密売人程度がこの私にそんな態度を取れるのか
どうしてこの私がこんな目にどうしてこの私がこんな目にどうして私がどうして私が・・・・・・!!!!!!

プルルルルルルルル。
プルルルルルルルル。

電話が鳴る。
それで、私は現実へと引き戻された。
(落ち着こう。 そうだ、とりあえず今は生き延びることを考えればいい・・・・)
存在を忘れられていた携帯電話が、改めて自らの重要性を主張するように鳴り続ける。
「な・・・・・ちゃ、着信です・・・・・」
翠星石が落ちていた携帯電話を拾う。
「だ、だれです・・・・・?」

受話器の向こう。
こっち側にも聞こえるような大音量で聞こえてくる。

『誰かいるのか!? お願いだ!! 助けてくれ!!!』


この・・・・・声は・・・・・
聞き覚えがある。
確か、昨日も聞いた。
少し憎たらしいけど大好きな彼の声。
ずっと聞きたかった。 
この理不尽な地獄の中、彼の声を聞いて安心したかった。
確かに聞きたかった。
けど、
まさか、こんな形で・・・・・・・!?






Rozen Maiden ~saw~
中編2へ続く


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