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『ブツッ・・・・・・・・・・・』

もうスピーカーからジグソウの声は聞こえてこない。
それが、本当にゲームが始まったのだと気づかされた。

殺人ゲーム。 連続殺人犯ジグソウのゲームから逃れられたのは、4人のうち、1人だけ。

3度目の事件において2人が犠牲になったが、そのうちひとり。 
4人目の被害者は生還したのだ。

私は2度目の事件の遺留品から、重要参考人として警察に拘留されていた。
なぜ、私のペンライトがあんなところに放置されていたのか今でも理解できないのだが、
それでも、警察にとってはそれが「ジグソウ」への唯一の手がかりだった事に変わりはなかったのだ。

「ちょっと!! きいてるですか!!!」

・・・・・・・・はと気づく。
対角線上の先、少女が何やら喚いていた。
「その制服、あなたも・・・・・ローゼン女学院なんですね・・・・・・・・。」
「そうね、私は真紅。 ローゼン女学院の三年。 ああ、クラスは五組よ。」
「やっぱり・・・・・・・」
うなだれている。 
「ということは・・・・・あなたも?」
「そうです。 私服なんでわからねーとは思いますが、私も女学院生です。 三年三組。」
驚いた。 どうやら同学年らしい。
「へぇ・・・・・・お名前は?」
「翠星石と言うです。」
「変な名前ね。」
「ひ、ひとのこといえねーです!!!!」
やかましい女の子ね・・・・・・。
「はいはい、自己紹介はもういいわ。」
これ以上喋ることはないという風に会話を打ち切る。

「ねぇ、・・・・・・・えっと、翠星石。そこのノコギリでチェーンを切ることはできそう?」
翠星石のそばにあるノコギリを指差す。
「・・・・・やってみるです。」

翠星石はノコギリを手に取り、自分の足首から壁のパイプへと繋がれたチェーンに刃を押し当てる。
「うん・・しょ!!・・ふっ・・はっ・・・・・!!」
ギリ・・・・・ガチガチ・・・・・ガチン。
前後にノコギリを引く。
「は・・・・・・・は・・・・・・・・・うぅ・・・・・このっ・・・!!」
バキン。
鈍い音がしてノコギリが撥ねる。
「・・・・・・・・ダメです・・・・・・・到底歯が立たねーです・・・・・・・・」
「そう・・・・・・・」
気のない返事をして見せるが、実際かなり落胆していた。
つながれたままという状況はかなり辛い。
行動範囲がかなり制限されてしまう。
くそ・・・・・・・どうにかしてコレを外せないものか・・・・・・・・。
コレが外れない以上、満足のいく行動が出来ない。
ゲームを始めるにしても、これじゃああの子を殺せない。
一体ジグソウは何を考えて────

いや、怖いことを考えているのは私の方だ。
自分が恐ろしくなる。
今、私は誰を何しようと考えた───?
冷静になるのよ、真紅。
殺せる殺せないの問題ではない。
ゲームなんてしない。 人殺しなんてしない。
いえ、したくない。
ただ、私はここから脱出することだけを考えていればいいんだ。

「とりあえず、脱出しましょう。」
「え・・・・・・・?」
立ち上がった私を翠星石は不安げに見つめる。
「脱出方法を探しましょうって言ってるのよ。 私はこんなところで人殺しになるのも死体になるのも
 まっぴらごめんだわ。」
「真紅・・・・・・・・」
翠星石は申し訳なさそうに私を見る。
「すまんです、真紅。 私てっきり・・・・・・・・・・・・・」
「あなたを殺そうと思ったんじゃないかって? バカね。 こういう繋がれた状態でどうやってあなたを殺すのよ。」
「そ、それはそうですね・・・・あはははは・・・・」
乾いた笑いが空しい。 どうやら私は信用されていなかったようだ。無理もないが。
「さっきも言ったけど、人殺しなんて絶対にしないのだわ。安心なさい。」
「・・・・・わ、わかってるです!!」
翠星石もすくっと立ち上がる。
「そ、そういえば、鍵があるとかどうとか言ってたです!! どうにかこのチェーンを外して、そして鍵を見つけて此処を脱出するです。
こんな状況ですが、諦めたらそこで死んだも同然なのです!! 頑張るですよー!!」
パンパンと自分の頬を打つ翠星石。 
こんな密室に閉じ込められて、間には自殺死体。
不安にならないほうがどうかしている。
「とりあえず、何かを見つけたらお互いに報告すること。
一人で考えるよりは、二人のほうがきっといい方法も思いつくはずなのだわ。」
「わかってるですよ!!」

そうして、私たちは腐乱臭が立ちこめるバスルームの中、捜索活動を始めた。

きっと、この匂いには慣れない。







真紅と翠星石のゲームが始まる、1週間ほど前。
何処とも知れぬ暗い部屋。
そこで、ジグソウの3度目の犯行。
つまりは、ゲームが始まろうとしていた。



『おはよう、金糸雀。』
人形が喋りだす。

ジジジ・・・・・・・ジジ・・・・・・・・・・・・・・・
薄暗い部屋の中、彼女は目の前の薄気味悪い人形を睨み付ける。

彼女は椅子に座らされて、手足を縛らされ、頭に重い拘束具をつけられていた。
・・・・・・・・彼女は監禁されているのだ。

(一体どういうことなのかしらー!?)
彼女と同じように椅子に座っている人形にむかって叫ぼうとする。が、
「んんんんんんー!!! んー!!!」
拘束具のせいでまともに喋ることが出来ない。

人形がこっちを向いた。
「ん!!!?」
そして、暗い、とても人間とは思えないようなしわがれた声で、
『金糸雀。 お前は麻薬中毒者だ。』
そう、呟いた。
「・・・・・!!」

どうして・・・・それを・・・・?
今まで隠してきた彼女の裏の顔。
誰にも悟られないよう、今まで必死に隠してきたのに・・・
いや、それがなんだというのか。

『ローゼン女学院を通う身でありながら薬に溺れるお前に、生きる意味を教えてやる。これを見ろ。』

人形が左を向く。 その方向には一台のテレビがあった。
そして、何かの映像が始まった。

ジジジ・・・・・・・・ジジ・・・・・・・・

薄暗い部屋。 中央の椅子に縛られ、頭部に拘束具・・・・・ヘッドギアをつけた男が其処に居た。
見覚えのある部屋。 その暗さと雰囲気は此処にそっくりで───

『ウググ・・・・・・・・うぅうう・・・・・・・・んおおおおおおおおおおお!!!』
もがく男。 状況は彼女と同じ。 だが、酷く男は焦っていた。
『ウグググウグ・・・・・・・・ア・・・・・・・・・嗚呼、あああああああああああああああああ!!!!!!!』

ガチャン!!

鈍い音と同時。
ヘッドギアが、彼の頭を砕いていた。
バキバキバキ・・・・・・・・
鮮血と破砕音。
血と骨がそこらに飛び散って・・・・・
男は、沈黙した。

「んんんんんんんんんんんんーーーーー!!!!!!」
映像とはいえ、目の前で人が頭を砕かれて、
死んだ。
そのことが、彼女の理性を吹き飛ばしていた。
薄暗くてわからなかったが、よく注意して部屋を見ると赤黒い染みがそこら中にある。
彼女は気づく。
じゃあ、つまり、
此処で、
此処で彼は頭を砕かれたんだ・・・・!!!

『彼も麻薬中毒者だった。 ゲームに挑戦してもらったのだが、
彼は生きる才能にとぼしかったようだ。
制限時間内に脱出すること叶わず、こうして死体となった。』
人形が顔を動かす。 その先に血まみれのヘッドギアをつけた元人間が転がっていた。

「んんんんんんんんんんんんんー!!!!!!」
彼女は叫ぶ。
それでも、ヘッドギアがその断末魔に蓋をしていた。
助けて・・・!!! 助けて・・・!!!
嫌・・・・こんなところで、あんなふうに死ぬのは嫌・・・!!!

『男は、自身の腹の中にこの部屋から脱出する「鍵」があることに最後まで気づけず、死んだ。
これで、このゲームがいかに真剣であるかを理解してもらえただろう。』
彼女は思う。
真剣・・・?
それどころじゃない・・・・。 狂ってる・・・・!!!

『さて金糸雀。 
生に感謝せず、自身の苦痛を笑う。 そんな欠陥人間。 そんなジャンクがお前だ。
私のゲームに勝つがいい。
生きることは、闘うことなのだからな。
・・・・・・・・さぁ、ゲームの始まりだ。
鍵はあいつの腹の中。制限時間は1時間。

生きるために、血を流せ。』

ブツン・・・・・・・・!!!

それで終了。
金糸雀は転がっている男を見る。
先ほどの惨劇の被害者。
この拘束具をはずさねば、1時間後、私の頭は彼と同じようにグチャグチャになる。
つまりは死ぬのだ。
はずすには、鍵がいる。
鍵は、死体の腹の中。

「う・・・ううううう・・・・・う・・・・ううううう・・・・!!!!」
必死に手の拘束を解こうとする。
解けた。
人形を見る。
人形が握っていたのは小さなナイフ。
ナイフを取る。

「フーッ・・・フーッ・・・フーッ」
呼吸は荒く、姿勢は傾く。
彼女は、生き延びるために考える。
ナイフ・・・・ナイフでどうする?
決まってるかしら・・・・鍵を取り出すのよ・・・・・
どうやって・・・・?
決まってるかしら・・・・アイツの・・・・アイツの腸を掻き分けて、
身体の隅々まで切り開いて・・・
見つけてやる・・・見つけてやる・・・!!!

「んああああああああああああああああーーーーーーっ!!!!」
動揺と混乱の中、彼女はナイフを振り下ろした。







9時。
1時間が経った。
収穫はゼロ。
制限された移動範囲の中、役に立ちそうなものは何もなかった。

「真紅、そこの洗面台、なにか無いですか!!」
「・・・・・・・・んっ・・・・・くっ・・・・・届かないわ・・・・!!」
「そこの浴槽の中にも、何か無いですか!?」
「・・・・・・・・ないわ!!」
「本当にちゃんと見たですか!?」
「さっきから偉そうに命令ばっかりしてるけど、あなただってまだ何も見つけちゃいないじゃない!!!」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
互いに無言。
無為に時間が経ち、焦りの色が濃くなっていく。
チェーンを外す手段も見つからず、この部屋から脱出するための鍵なんてものも見つからない。
何一つ、進展していない。
このままだと・・・・本当にあの死体みたいに・・・・!!

その時、私は部屋の中央の死体がピストル以外にも、もう一つ何か握っていることに気づく。
直接的に見るのを避けていたから今まで気づけなかったのか。
アレは・・・・・携帯電話・・・・!!
「真紅!! 死体を見るです!! 電話、携帯電話を握っていますですよ!!!」
「・・・・・本当だわ・・・こんなことに今まで気づけなかったなんて・・・・」
真紅は死体へとにじり寄る。 が、
「くっ・・・・・あと少しなのに・・・・・」
足首に固定されたチェーンに邪魔され、ギリギリというところで届かない。
「私に任せるです。」
私は近くにあった鉄のこで、死体が握っていた携帯電話を自分のもとへと手繰り寄せる。
なんとかギリギリ届いた。
「はっ・・・・はっ・・・・これで、警察に連絡するです。 『ジグソウ』もバカな野郎ですね・・・・」
「1」「1」「0」
ボタンを押す。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
携帯は何一つ反応してくれない。
「・・・・なんでですか!! 電源は入ってるです!! 電池だって・・・・!!!」
「・・・・・・・・・・着信専用ということなのだわ。 こっちから相手へとかける事は出来ないのよ。」
「な・・・・!! く、そんな・・・そんなことは・・・・」
「甘かったわ。よく考えたら彼がそんな簡単に私達をここから外に出すはずがないのだわ・・・・」
「う・・・・・・・・畜生です!!!」
携帯をその辺に放り投げる。
このゲームから逃れられると思ったのに・・・・!!







数日ほど前。
真紅は、第二の事件の遺留品から警察に取調べを受けていた。
自分が失くしたと思っていたペンライトがなぜ、そんなところに・・・?
もしかして、こいつら、 私を 『ジグソウ』だと勘違いしてるんじゃないでしょうね・・・・
現に、警察は真紅がこの一連の事件に深く関わっていると考えていた。
いや、ひょっとすると実行犯とも考えていたかもしれない。

しかし、真紅にはアリバイがあった。
友人である、桜田ジュンの家に泊まっていたのだ。
取調べを終えた真紅は、署を出る途中、別の取調室でのある会話を覗き聞いた。

「・・・・・・・・・・のはきみだけなんだ。 金糸雀さん。」
「・・・・・・・・・・」
薄汚れた、ローゼン女学院の制服を着た少女は、警察官と机の反対側の席でうな垂れている。
「唯一、君だけが生還した。」
警官は続ける。
「『ジグソウ』について、何か教えてくれないか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばしの沈黙。
そして、金糸雀は口を開いた。
「『最前列』・・・・・・・・・」
「え?」
「彼は私のゲームをそこで見ていたのかしら!! 『最前列』で!!」
「顔を、見たんだね?」
「・・・・・・・・・顔はわからない。 ただ、目の前に人形があったかしら・・・・・。
そして人形は喋りだしたの。

生に感謝せず、自身の苦痛を笑う。 そんな欠陥人間。 そんなジャンクがお前だ。
私のゲームに勝つがいい。
生きることは、闘うことなのだから。

そう、言ったのかしら・・・・・・。」

事件の顛末を語り続ける金糸雀。
そして彼女は、最後にこう言った。

「私は、あのゲームに感謝しているかしら・・・・・・・
あのゲーム以来、私は薬をやっていないのかしら・・・・・・・。」






Rozen Maiden ~saw~
中編に続く

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