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あらすじ
 高校の同窓会の帰り。泥酔した蒼と翠は電車に乗って帰ろうとしたが……。
遥か離れた所まで寝過ごしてしまう。折り返しの電車も無く、仕方なくホテルを探すも、ビジホは全て満室で泊まれず。さらに探してみると空いているホ
テルを見つけるが、そこはラブホテル。
 躊躇う蒼をよそに、シャワーを浴びたい一身で、チェックインのボタンを押した翠だった――


 デザートをつまみ終えて、ふと時計を見るとすでに3時半を回っていた。
「ふぁああ……もう、眠いですぅ……」
 大きな欠伸をする翠星石。思い切り眠いらしく、目を時折こすっていた。
 僕も正直言って眠くなってきていた。
「そうだね。じゃあ寝ようか」
「そうするですぅ……」
 一緒にダブルベッドにもぐりこむ。
 何か気恥ずかしい。
 幼い頃はよく翠星石と一緒の布団で寝たことがあるが、さすがにこの歳になって一緒に寝るなんて事は無い。
「じゃあ、電気消すけど……スイッチはどこだっけ」
「多分これじゃねえですかぁ……」
 翠星石はベッドの脇にある数個のスイッチらしきボタンを指差す。
 そこには『シーンA』だの『シーンB』だのといった文字が記されているが、何のことだがよく分からない。
 説明らしきものがないかとその周囲を見回すが、あったのはベッドの脇に置かれていた小さな籠。
 中には……避妊具が2個……。
 目にした途端に再び顔が熱くなるのを感じた。

「何真っ赤になってじっと見てるですか」
 そんな僕の反応を不思議そうに見つめる翠星石。
 途端に僕は小さな籠から目をそむけた。
 このテの物を見てしまうと本当に恥ずかしくなってくる。
 なんというか……異性を意識してしまうのだ。
 現時点で僕には彼氏なんて人もないし、異性も正直あまり気にしていない……つもりだ。
 でも、本心ではやっぱり気になっているのかな……。

 物思いにふけっている僕をよそに翠星石はベッドの横にあったその籠に気付く。
 そして、僕の反応を見比べてしてやったりと言いたげに顔をにやつかせる。
「はは~ん。さてはこれ見て照れちまったですね?」
「うう……」
 図星だったので全く反論できない。
「まったく蒼星石はウブですぅ」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべる翠星石。
「じゃあ……翠星石は……こんなの見ても平気なわけ?」
「翠星石は別に何とも思わねえ……ですよ」
 誇らしげに言おうとした彼女の口調が急にトーンダウンする。そして、静かに首をうなだれる。
 僕は何か声を掛けようとしたが、それはためらわれた。
「でもね……これ使ってやったことはねえです。そこまでの段階まで到底いったことがないし……そこまでいってもいい信頼できる人にはめぐり合ってねえです……」
 下を俯きながらただ静かに話す翠星石。
「結構男の方から擦り寄ってきたけど……ほとんどが体目当ての奴ばかりでした……。
そんな奴らに自分の体を許せるわけねえですか……」
 翠星石の話す言葉に僕は驚きを隠せない。
 大学では彼女は付き合った男は多数いたが、いずれも1ヶ月もしないうちに振っている。
 その中には女子の憧れになっている人や良家の御曹司なんかもいたものの、結果は同じ。
 おかげで一部の女性から妬みの的にされ、男とやったら即捨てる『使い捨ての女王様』
なんて陰口まで叩かれているぐらいだ。
 でも彼女の話を聞く限り……そんな彼女の表情を見る限り……それはまったくのデマだ。
 そう思えてくる。
 体目当ての男や嫉妬する女ばかりに囲まれて心をすり減らし続けていたのだ、彼女は。
 そして、そんなデマを多少なりとも本当だと思ってしまっていた自分が情けない。
 実の姉のことなのにである。
「……頼りに出来る人とは本当にめぐりあえないものですね……。さすがにこんな人間ばかりに囲まれると疲れてくるですぅ……」
 ここで大きくため息をつく翠星石。


 昔こそ人間不信のケがあって露骨に示していたが、最近ではそんな兆候は示していない。
 むしろ、今では誰とでも訳隔てなく付き合っていて、他人に対する不信感なぞ全く無いようだった。
 でも内心ではここまで思いつめるほど……


 それを見て僕は心の底から言葉では表しきれないものが急にこみ上げてきた。
 最初はそれは何かわからなかったが……ふと何なのかがわかると衝動で口にした。


「僕じゃだめなの……」


 その言葉に目を大きく見開いてただじっと僕を見つめる翠星石。
「な……何言ってるですか。蒼星石は女だし……翠星石の妹じゃないですか」
「妹でも信用できないのかな」
「う……」
 言葉を詰まらせる翠星石。
 それに関わらず僕はさらに続ける。
「何も関係を持とうなんて言っている訳じゃない。ただ、僕でさえも信用されていないんじゃないかと思って……」
「何バカなこと言ってるですか!」
 翠星石は僕の両肩を強く掴む。今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
 そして……頬に一筋の涙を流す。
「そんなこと思ったことねえです!実の妹を信じられない姉がどこにいますか!
 もし……そんなことになったら死んじまいたいです……」
 そして僕の胸元に力なくうずくまり、嗚咽をあげる。
「……それとも、蒼星石は翠星石のことを信じてないのですか……」
 声を押し殺してひたすら泣き続ける姉に僕は何も言えず、ただ呆然とするだけだった。


 本当にバカだ、僕は。
 翠星石の気持ちを分かっているつもりだったが、実は全然分かっていなかったのだ。
 そのことを悔いる気持ちがじわじわと湧き上がってくる。

「ごめんよ。僕はただ……」
 翠星石に僕の本心を伝えようとするものの、途中から声にならない。
 目から自然に涙が出てくる。
 彼女に詫びたい気持ちと疑りに対する後悔の気持ちでいっぱいになって。
 そのまま、僕も彼女に倒れかかるようになり、そのまま泣き続けた。

 
「……いいです。翠星石が紛らわしいこと言ってしまったから、蒼星石が誤解してしまったみたいです。本当にすまないです」
「謝るのは僕の方だよ……。多少なりとも翠星石のことを信じられなくなっていたから……」
「いいです。ずっと信じてくれればそれでいいです」
「ありがとう。そして本当にごめんよ……」
 僕らはしばらくベッドで泣き続ける。
 でも、安心した。
 互いに本当の気持ちが分かって、すっきりした気分になれそうだ。

 どれくらい時間が経ったのだろうか分からない。
 僕らは泣き止み……ゆっくりとベッドに横になった。
「寝るですか……」
「そうだね」
 僕は枕もとにある照明のスイッチを適当に押した。
 灯りは一つを残して、全て消える。
 一つ残ったベッド脇のランプシエードの光が僕らをやさしく照らし出していた。
 ダブルベッドの一つの布団の中で僕らは横になりながら互いの顔を見詰め合う。


「こうして一緒になってると……小さい頃を思い出すです」
「あの時はずっと一緒になって寝てたっけ」
「小さい時もそうだったけど……今でもこうしていると心がやすらぐです」
「僕もだよ。ずっとこうしていたいって思うね」
「翠星石もです……これからもずっと一緒にいたいです」
「これからもよろしくね」
「はいですぅ……」
 瞼の下を真っ赤にしながらも、安らかな顔で眠りにつく翠星石。
 そんな彼女を見ながら僕は思った。
 これからも……いや一生彼女の心の支えになろう……と。
 いろいろ大変かもしれないけど、そんなのはどうだっていい。
 翠星石にとって僕は頼れる人だし……僕が頼れる人なのだから……。


 そして僕もゆっくりと眠りについた――。


                        - fin -

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